番外短編:選んだ理由(レオン視点・15話前後)
放課後の鐘が鳴る。
教室の空気が、一気に軽くなる。
「ねえリナ、今日ちょっと付き合って!」
ミアの声。
いつもの流れ。
(……またか)
内心で小さく思う。
だが、嫌ではない。
「レオンも来るでしょ?」
「……行く」
短く答える。
本当は、迷う理由もあった。
やることはあるし、時間も限られている。
でも。
(……まあ、いいか)
それ以上は考えない。
四人で街へ出る。
賑やかな通り。
甘い匂い。
人の声。
その中で、
リナの声がよく通る。
「わあ……」
店に入った瞬間の、その反応。
飾られているケーキより、
そっちの方が目に入る。
(……わかりやすいな)
自然と、口元が緩む。
席について、注文を決めて。
ケーキが運ばれてくる。
「……美味しい」
小さく呟いて、
少しだけ目を細める。
その表情に、視線が止まる。
(……なんだろうな)
さっきから、妙に目に入る。
意識してるわけじゃないのに。
(……いや)
一度、視線を外す。
(意識してるのか)
自覚した瞬間、少しだけ落ち着かなくなる。
店を出て、通りを歩く。
ミアとキースは、いつも通り。
軽くて、楽しそうで。
その横で、リナは少しだけ静かに笑っている。
(……この感じ、嫌いじゃない)
むしろ。
(……いい)
自然と、そう思う。
装飾品の店で足が止まる。
ミアとキースのやり取り。
それを横目で見ながら、
ふとリナを見る。
何かを探しているような顔。
「リナも何か見れば?」
自然に声が出る。
「そうね……」
並ぶ品の中で、
一つに手を伸ばす。――琥珀。
光を受けて、揺れる色。
(……それか)
なんとなく、目に残る。
次の瞬間。
「……っ」
リナの動きが止まる。
明らかに、さっきまでと違う。
「どうした?」
すぐに声をかける。
「……ううん、大丈夫」
そう言うけど、
どこか無理をしている。
(……違うな)
ただの“似合うかどうか”じゃない。
何か、引っかかってる。
でも、それ以上は聞かない。
踏み込みすぎるのは違う。
だから、代わりに。
視線をずらす。
別の棚へ。
(水色……か)
柔らかい色。
派手じゃない。
でも。
(あいつには、こっちの方がいい)
理由は、うまく説明できない。
ただ、そう思った。
それを手に取る。
ふと、目に止まった色。
淡くて、静かで――
どこか見慣れている。
(……同じか)
一瞬だけ、自分の瞳を意識する。
意図したわけじゃない。
ただ、手に取った理由を探すように。
(……似合うと思っただけだ)
そう結論づける。
けれど。
指先は、迷わずそれを選んでいた。
「これはどうだ」
「……え?」
少し驚いた顔。
その反応に、ほんの少しだけ安心する。
「似合うと思う」
短く言う。
視線は、少しだけ逸らす。
(……柄じゃないな)
自分でもわかる。
でも、引かない。
リナが笑う。
「……ありがとう」
その一言で、
胸の奥が少しだけ軽くなる。
受け取る仕草。
嬉しそうな表情。
(……ああ)
そこで、はっきりする。
(……そういうことか)
これは。
ただの“親切”じゃない。
ただの“気まぐれ”でもない。
(……そういうことか)
小さく息を吐く。
でも、嫌じゃない。
むしろ――
(……悪くない)
夕暮れの光が、街を染めていく。
リナの髪に、水色が少しだけ揺れる。
さっきの琥珀よりも、ずっと自然に見えた。
(……これでいい)
そう思った理由は、
まだ言葉にできない。
でも確かに、何かを選んだ。
その感覚だけは、はっきりと残っていた。
番外短編① 完




