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忘れたはずの彼が、気になってしまう。 ―琥珀の瞳が、嘘をつく―  作者: HANABI
学園編②

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第32話:それでも、追いかける 第三章 学園編② 最終話

 静かな教室と、消えた気配

 冬の朝。

 白い息が、ゆっくりと空に溶けていく。


 いつもと同じ時間。

 いつもと同じ教室。

 でも――


(……いない)


 席を見た瞬間、それが分かった。

 カイの姿が、どこにもない。


「……あれ、カイは?」


 ミアが軽く首をかしげる。


「朝から見てないな」


 キースも周りを見渡す。

 レオンだけは、何も言わなかった。


「先生は?」


 リナが問う。


「まだ来てない」


 そのとき、扉が開く。

 クロードが入ってきた。

 いつも通りの表情。


 でも――ほんの少しだけ、静かだった。


「……一つ、伝えることがある」


 教室が静まる。


「カイは、本日をもって学園を離れる」


 一瞬、時間が止まる。


「……え?」


 誰かの声。

 でも、リナの耳にはほとんど届いていなかった。


(……なに、それ)


 理解が、追いつかない。


「進路の変更だ。詳細は――」


「どこにいるんですか」


 被せるように、声が出た。

 教室の視線が一斉に集まる。


「……リナ」


「どこにいるんですか」


 もう一度、はっきりと言う。

 クロードは一瞬だけ目を細めた。


「……今は、もうここにはいない」


 その一言で、足が動いた。


「リナ!」


 ミアの声も、レオンの声も聞こえない。

 ただ、走る。


 校門。

 冷たい風が吹き抜ける。


「……っ、は……」


 息が乱れる。

 でも止まらない。

 その先に――


「……カイ!」


 いた。

 背を向けて歩く、その姿。


「待って!!」


 声が、冬の空気に響く。

 カイの足が止まる。


 ゆっくりと、振り返る。


「……なんで」


 息を整える間もなく、言葉が溢れる。


「なんで、何も言わずに行こうとするの」


 胸が苦しい。


「昨日、あんなことしておいて」


 涙が滲む。


「全部思い出させておいて」


 一歩、近づく。


「……また、一人で決めるの?」


 カイは何も言わない。

 ただ、静かに見ている。


「……お前が壊れる」


 やっと、言葉が落ちる。


「……え」


「俺がそばにいると、お前は巻き込まれる」


 低い声。


「昨日見ただろ」


 一歩、距離を取る。


「あれが限界だ」


「そんなの――」


「次は守りきれないかもしれない」


 言い切る。

 その言葉に、息が詰まる。


「だから、そばにいない方がいい」


 静かな決断。


「……ふざけないで」


 思わず言葉がこぼれる。


「何それ」


 涙が溢れる。


「全部、一人で決めて」


 一歩、さらに踏み込む。


「私の気持ちはどうなるのよ」


 震える声。


「守るとか、壊れるとか」


 強く睨む。


「そんなの、私が決めることじゃないの?」


 一瞬、カイの表情が揺れる。


「……分かってないな」


 小さく呟く。


「分かってないのはそっちでしょ!」


 声がぶつかる。


「怖いよ!」


 初めて、本音が溢れる。


「危ないのも、分かってる!」


 でも、止まらない。


「でも、それでも!」


 胸に手を当てる。


「それでも、一緒にいたいって思ったの!」


 風が吹く。

 沈黙。

 カイは目を閉じる。


「……だからだよ」


 低く、かすれた声。


「それが、一番危ないんだ」


 その言葉に、

 胸が強く締め付けられる。

 でも。


(……それでも)


 一歩、踏み出す。


「逃げるの?」


 静かに問う。

 カイは答えない。

 ただ、視線を逸らす。


「……そう」


 小さく息を吐く。

 胸元の琥珀に触れる。

 冷たい。


(……あったかかったのに)


 あのときは、確かに。

 視線を上げる。

 まっすぐに、カイを見る。


「……逃げるなら」


 一拍。

 声は、もう震えていなかった。


「どこまでも逃げなさいよ」


 カイの目が、わずかに見開かれる。


「――絶対、捕まえるから」


 はっきりと言い切る。

 その言葉に、風が止まった気がした。

 カイは、少しだけ目を細める。


「……無茶言うな」


 でも。

 ほんの一瞬だけ。

 優しく、笑った。


「お前らしいな」


 それだけ言って、

 背を向ける。


「カイ――」


 呼び止める。

 でも、もう振り返らない。

 そのまま、

 冬の光の中へ消えていった。


 静寂がリナの周りを覆う。

 その場に、立ち尽くす。

 手の中の琥珀は、冷たいまま。

 でも。


(……いい)


 ゆっくりと息を吸う。


(今度は、私が行く)


 もう、迷いはなかった。


 振り返ると、

 そこにレオンとミアとキースがいた。


「……行ったか」


 レオンが静かに言う。


「うん」


 短く答える。


「追いかけるんだろ」


 その問いに、迷いはなかった。


「うん」


 まっすぐに頷く。


「卒業したら、行く」


 ミアが小さく笑う。


「リナらしいね」


「止めないの?」


「止めても無駄でしょ」


 軽く肩をすくめる。


「それに――」


 少しだけ優しくなる。


「応援したいし」


 キースも頷く。


「無茶すんなよ」


「するに決まってるでしょ」


 少しだけ笑う。


 レオンは、静かに息を吐く。


「……そうか」


 一歩、前に出る。


「なら、俺も決めた」


 視線が交差する。


「回収者になる」


 はっきりと言う。


「……そっか」


 リナは少しだけ驚いて、

 でもすぐに笑った。


「じゃあ、また一緒だね」


「……ああ、そうだな」


 短く頷く。

 その表情は、どこかすっきりしていた。


 それぞれの道。

 それぞれの選択。


 でも――

 繋がっている。

 空を見上げる。

 冬の空は、高くて、澄んでいた。


(待っててよ、カイ)


 心の中で、そっと呟く。


(今度は、私が見つける)


 冷たい風の中で、

 確かに、前に進んでいた。


(第三章 完)

やっと三章を完結まで書くことが出来ました。

勢いのまま、一気に書いたので読み返してみると未熟だなぁと思う部分が沢山あります。

でも、その時の勢いを大切にしてあまり修正せずに投稿しています。

良ければ、感想などありましたら作者喜びます。

ブックマークもいただけましたら、番外編も含めて今後も投稿予定ですので遊びに来てください。

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