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忘れたはずの彼が、気になってしまう。 ―琥珀の瞳が、嘘をつく―  作者: HANABI
学園編②

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第31話:思い出した痛み

 冬の空気は、冷たく澄んでいた。

 吐く息が白く、街の石畳に静かに広がっていく。


「思ったより人、多いね」

 

 ミアが少し驚いたように言う。


「流行り病って聞いたから、もっと静かなのかと思ってた」


「表に出てるのは軽症ばかりらしい」


 レオンが答える。


「重い患者は、奥の施設に集められてる」


「……気配がおかしい」


 カイが低く呟く。

 その一言で、空気が変わる。


「やっぱり“影”?」


 リナが問う。


「ああ。しかも――数が多い」


 短い答え。


「分かれて動くぞ」


 レオンが言う。


「ミアとキースは外周の警戒。リナは――」


「私も行く」


 被せるように言う。


「治癒が必要なら、一緒にいた方がいい」


 一瞬の沈黙。


「……カイ」


 レオンが視線を向ける。


「任せる」


 短い言葉。

 それだけで、決まった。


「無茶するなよ」


 カイが小さく言う。


「誰に言ってるの?」


「お前に」


 即答だった。

 少しだけ、笑いそうになる。

 でもその奥に、わずかな不安が残る。


 街の重症者が集められてる施設の奥。

 空気が、重い。


「……いる」

 

 リナが足を止める。

 気配が濃い。

 嫌な感じが、肌にまとわりつく。


「下がれ」

 

 カイの声。

 その瞬間――

 影が、溢れた。


「っ……!」

 

 視界が一気に黒く染まる。

 数が多い。

 しかも、形が安定している。


「ちょっとこれ――多すぎでしょ!」

 

 ミアの声が遠くで響く。


「下がるぞ!」

 

 レオンの指示。

 でも――


「リナ!」


 遅れた。

 一体が、すぐ目の前に迫る。


(……避けきれない)


 そう思った瞬間。

 影の“内側”に、引き込まれた。


「――っ!?」


 音が消える。

 光が消える。

 残ったのは、闇。


(……ここ、どこ)


 体が重い。

 動かない。

 そのとき。

 声がした。


「……リナ」


 懐かしい声。

 振り向く。

 そこにいたのは――


「……お父さん?」


 優しく笑っている。


「もう、大丈夫だ」


 手を伸ばしてくる。


(……違う)


 分かっている。

 これは“本物じゃない”。


 でも――


(……触れたい)


 手が、勝手に伸びる。

 その瞬間。


「触るな!」


 鋭い声。

 視界が裂ける。


 光、音―――衝撃が広がる。

 誰かが、腕を掴む。


「戻れ、リナ!」

 

 カイの声。

 その目が――

 はっきりと、琥珀色に染まっている。


(……綺麗)


 胸元の琥珀が、強く熱を帯びる。

 その瞬間。


 記憶が、弾けるように頭の中に流れ込んでくる。


 森。

 小さな家。

 笑い声。

 カイ。

 一緒に過ごした日々。

 優しい時間。

 

 でも――

 血。

 崩れ落ちる男の人。

 消えていく少女。

 そして。


「……ごめん」

 

 カイの声。


「だから、切る」


 あのときの光。

 あのときの痛み。


「――っああああ!!」


 叫びが漏れる。

 頭が割れそうに痛い。

 でも、止まらない。


(……思い出した)


 全部。


(カイ……)


 目の前にいる少年と、

 あの頃の少年が、重なる。


「……なんで」


 震える声。


「なんで、黙ってたの」


 カイは答えない。

 ただ、前を向く。


「今は話してる場合じゃない」


 低い声。


 その奥に、感情を押し殺した気配。


「離れてろ」


 その瞬間。

 空気が変わる。


「カイ……?」


 圧が、違う。

 影が、ざわめく。


「全部まとめて、終わらせる」


 静かな声。

 でも――危うい。


「やめて!」


 リナが叫ぶ。


「それ以上使ったら――」


 言葉が出ない。

 でも分かる。

 “危ない”。

 それでもカイは止まらない。


「大丈夫だ」


 嘘だった。

 明らかに、限界に近い。

 光が強くなる。

 影が、悲鳴のように歪む。


「消えろ」


 一瞬。

 すべてが、白に染まった。


 静寂。


 気づけば、すべての影は消えていた。

 崩れ落ちるカイ。


「カイ!」


 リナが駆け寄る。


「……無事か」


 かすれた声。


「なんで、そんなこと聞くの!」


 思わず強くなる。


「こっちのセリフでしょ!」


 涙が滲む。


「……思い出したんだな」


 静かな声。

 リナは息を詰める。


「……うん」


 小さく頷く。


「全部」


 震える手で、カイの服を掴む。


「なんで、言ってくれなかったの」


「言う必要がなかった」


「あるでしょ!!」


 思わず叫ぶ。


「私だけ、何も知らなくて……!」


 言葉が詰まる。


「……ずっと一人だったみたいで」


 涙が落ちる。

 カイは目を閉じる。


「その方が安全だった」


「何それ……」


 理解できない。


「意味分かんないよ」


 震える声。


「……分からなくていい」


 静かな拒絶。

 その言葉に、胸が締め付けられる。

 でも――


(……違う)


 もう分かっている。


(この人は)


(ずっと、一人で背負ってきた)


 手に力を込める。


「……それでも」


涙を拭く。


「私は、知りたかった」


 一歩、近づく。


「知った上で、隣にいたいって思ったのに」


 その言葉に、

 カイの目がわずかに揺れる。


 でも――

 何も言わなかった。

 ただ、静かに視線を逸らした。


 その距離が、

 どうしようもなく遠く感じた。


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