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忘れたはずの彼が、気になってしまう。 ―琥珀の瞳が、嘘をつく―  作者: HANABI
学園編②

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第30話:揺れる距離

 夏の熱が引き、風が少しだけ冷たくなり始めた頃。

 校舎の窓から見える木々は、ゆっくりと色づき始めていた。


「ねえ、もうそんな時期なんだね」


 ミアが窓の外を見ながら言う。


「進路の話とかさ、全然実感なかったけど」


「……確かに」


 リナも小さく頷く。

 ついこの前まで、目の前のことで精一杯だった。

 でも今は――“その先”を考えなければならない。


「呼ばれたんだろ、クロード先生に」


 キースが言う。


「俺もさっき話された」


「私も」


 ミアが手を挙げる。


 自然と視線がリナに集まる。


「……うん」


 静かに答える。

 そのとき、教室の扉が開いた。


「リナ、少しいいか」


 レオンだった。

 いつもより、少しだけ真剣な表情。


「……いいよ」


 リナは立ち上がる。


「行ってくるね」

 

 ミアがにやっと笑う。


「いってらっしゃい〜」


「ちょっとミア!」


 軽く背中を押される。

 教室を出ると、廊下には人が少なかった。


 校舎の裏は想像よりすごく静かだった。

 落ち葉が足元で乾いた音を立てる。


「ここでいいか」


「……うん」


 向かい合う。

 少しの沈黙。


「進路の話、されたか」


 レオンが口を開く。


「回収者のこと?」


「ああ」


 短く頷く。


「どう思った」


「……まだ、分からない」


 正直な気持ちだった。


「危ないっていうのは分かった。でも、それだけじゃない気もする」


「そうだな」


 レオンは少しだけ視線を落とす。


「俺は、受けるつもりだ」


「え……」


「迷いはない」


 はっきりと言い切る。


「誰かがやらなきゃならないことだ」


 その言葉には、重さがあった。


「……レオンらしい」


 リナは小さく笑う。


「リナはどうする」


「私は……」

 

言葉が続かない。

 そのとき。


「無理に決めなくていい」


 レオンが言った。


「まだ時間はある」


「……うん」


 一歩、踏み出す。

 距離が、少し縮まる。


「ただ」

 

「一つだけ、言っておく」


 まっすぐな視線。

 逃げない目。


「俺は、お前が好きだ」


 風が止まったような感覚。


「……え」


 言葉が追いつかない。


「急に、どうしたの」


「急じゃない」


 静かに首を振る。


「ずっと前からだ」


 淡々としている。

 でも、その奥は熱い。


「返事はいらない」


「え?」


「今すぐ決めろとは言わない」


 一歩、近づく。


「ただ――」


 言葉を選ぶように、少しだけ間を置く。


「覚えておいてほしい」


 真っ直ぐな声。


「俺は、お前を選ぶ」


 その言葉は、強かった。


「お前がどこに行こうと、何を選ぼうと」


 一瞬、だけど確かに優しくなる。


「隣にいる覚悟はある」


 沈黙。

 リナの胸が、大きく揺れる。


(……あったかい)


 安心する。

 まっすぐで、揺れない言葉。


「……ありがとう」


 やっとそれだけ言えた。


「嬉しい」


 嘘じゃない。


 でも。


(……違う)


 心の奥が、ざわつく。

 理由は分からない。

 ただ一つだけ、確かなこと。


(……あの人じゃない)


 その感覚に、自分で戸惑う。

 レオンはそれ以上何も言わなかった。


「戻るか」


「……うん」


 並んで歩き出す。

 その距離は、少しだけ近くなっていた。


 でも――

 どこか、決定的に違っていた。


 夜。


 部屋の中。

 ベッドに座りながら、ぼんやりと考える。


(……好き、か)


 レオンの言葉が、何度も頭の中で繰り返される。

 安心する言葉。

 優しい言葉。

 でも。


(……なんで、こんなに苦しいんだろ)


 胸に手を当てる。

 そのとき。

 窓の外に、気配。


「……来てるんでしょ」


 小さく呟く。


 でも――返事はない。

 窓は、静かなまま。


「……来ないんだ」

 

 ぽつりと漏れる。


 自分でも驚くくらい、残念そうな声だった。

 そのまま、横になる。


 視界に入るのは、天井と――

 胸元の琥珀。


 そっと触れる。

 ひんやりとしていた。


(……冷たい)


 あの夜は、少し温かかったのに。

 目を閉じる。


 浮かぶのは――

 触れるだけのキスと、

 琥珀色の瞳。

 そして。


「……なんなのよ、もう」


 小さく呟く。


 答えは、どこにもない。


 ただ、距離だけが――

 少しずつ、ずれていく。


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