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忘れたはずの彼が、気になってしまう。 ―琥珀の瞳が、嘘をつく―  作者: HANABI
学園編②

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第29話:触れた温度

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(*^^*)

 夏の陽射しが、じりじりと肌を照らしている。

 生徒達は次の授業の為に廊下を移動していた。

 

 学園の端にあるあまり使われない屋内訓練場のその中央に、生徒たちが集められていた。


「本日の実戦授業は、特別選抜訓練だ」


「内容は口外するな」


 クロードの低く通る声が、場の空気を引き締める。

 ざわめきが広がる。


「ただし、全員ではない」


 その言葉に、空気が変わる。


「リナ、レオン、カイ、前へ」


 名前が呼ばれた瞬間、視線が集まる。


(……やっぱり)


 リナは小さく息を吸う。


 隣ではレオンが静かに前に出ていた。

 そして――カイも、気だるそうに歩き出す。


「他の者は後方で見学しろ。無理に介入するな」


「先生、それって……」


 キースが手を上げる。


「3人だけですか?」


 クロードは一瞬だけ目を細めた。


「そうだ」


 曖昧な答え。


「安全は確保する。ただし――」


「甘く見るな」


 空気が、ぴんと張り詰める。

 その瞬間、地面に影が落ちた。

 歪む。

 膨らむ。


「来るぞ」


 カイが低く言う。

 次の瞬間、闇が弾けた。


 黒い影が地面から蠢くように浮かんでくる。

 三つ。

 それぞれ形が不安定で、揺らいでいる。


「散るぞ」


 レオンが短く言う。


「ええ」


 リナもすぐに頷く。


「好きにしろ」


 カイだけが、いつも通りの温度で答える。


「……相変わらずだな」


 レオンが小さく言う。


「合わせる気ないだろ」


「必要ない」


 即答。


「効率が悪いだけだ」


「それはどうかな」


 レオンの目が鋭くなる。


「一人で全部できるなら別だが」


「できる」


 間髪入れない返答。

 一瞬、空気が止まる。


「……ならやってみろ」


 レオンが踏み込む。


 そのまま影へ斬りかかる。


「リナ、合わせろ!」


「分かった!」


 水が走って、影の動きを縛る。

 そこへレオンの剣が入る。

 確実に削る。


「連携は悪くないな」


 後ろから、カイの声。


「見てるだけ?」


 リナが振り返る。


「いや」


 その瞬間。

 カイが消えた。


「――っ!?」


 気づいたときには、影の“内側”にいる。


「そこか」


 手を差し込む。

 影が大きく歪む。


「やめ――」


 誰かの声。

 でも遅い。


「消えろ」


 淡い光。

 一体が、一瞬で崩れた。


 静寂。


「……今の」


 ミアが息を呑む。


「速すぎ……」


 キースも言葉を失う。

 レオンは何も言わない。

 ただ、まっすぐカイを見ていた。


「……あれ、本当に模擬戦か?」


 見学していた他の生徒達からざわついた声が聞こえる。


「……なるほどな」


 小さく呟く。


「そういうやり方か」


「文句あるか」


「いや」


「合理的だ」


 認めた。

 次の瞬間、残りの影がじわりと動きだす。


「来るわ!」


 リナが叫ぶ。


 三人が再び動き出す。

 それぞれ違う動きなのに――

 どこかで噛み合っていた。


 その夜。


 寮の部屋。

 窓を、軽く叩く音がした。


「……また」


 小さく呆れながら呟いて、窓を開ける。

 そこにいるのは――


「カイ」


「起きてたか」


「寝てると思った?」


「さあな」


 いつもの調子。

 でも、どこか静かだった。


「……今日の、模擬戦」


 リナが言う。


「ねえ、あの声……誰かが何か言ってた」


 少しだけ踏み込む。


「影の核とか、消すとか……普通じゃないよね」


 一瞬、沈黙。

 カイは視線を外した。


「……琥珀って、知ってるか」


「え?」


 予想外の言葉。


「石の名前でしょ?」


「まあな」


 カイはゆっくりと続ける。


「閉じ込める性質がある」


「閉じ込める?」


「時間とか、感情とか」


 低い声。


「……何それ」


「さあな」


 曖昧に笑う。


「ただ――」


 一歩、近づく。


「お前、持ってるだろ」


 リナの胸元に視線が落ちる。


「……だから聞こえた?」


「たぶんな」


 あっさり言う。

 少しだけ、心臓が跳ねる。


「これ、何なの?」


 琥珀に触れる。

 わずかに、温かい気がした。


 カイは答えない。

 ゆっくり手が伸びてくる。


「え――」


 そっと、リナの頬に指先が触れる。


「……カイ?」


 距離が近い。


 呼吸が、かすかに重なる。


 そのまま――


 触れるだけの、キス。


 一瞬。


 本当に、一瞬。


(――っ)


 頭の奥で、何かが弾ける。


 光景。

 森。

 幼い声。

 でも――

 掴めない。


「……今の」


 言葉にならない。


「忘れろ」


 静かに言う。


「無理に決まってるでしょ」


 即答だった。


 一瞬だけ、カイが笑った気がした。


「……そうか」


 小さく呟く。


 そして、背を向ける。


「じゃあな」


「待って」


 思わず呼び止める。


「どうして、今の――」


 問いかける。


 でも。

 カイは振り返らない。


「……気まぐれだ」


 それだけ言って、

 夜の中に消えた。


 残されたのは――


 熱の残る唇と、

 わずかに温かい琥珀だけだった。


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