第29話:触れた温度
よろしければ、ブクマお願いします。
作者の励みになります。
コメントも面白ければ、お願い致します
(*^^*)
夏の陽射しが、じりじりと肌を照らしている。
生徒達は次の授業の為に廊下を移動していた。
学園の端にあるあまり使われない屋内訓練場のその中央に、生徒たちが集められていた。
「本日の実戦授業は、特別選抜訓練だ」
「内容は口外するな」
クロードの低く通る声が、場の空気を引き締める。
ざわめきが広がる。
「ただし、全員ではない」
その言葉に、空気が変わる。
「リナ、レオン、カイ、前へ」
名前が呼ばれた瞬間、視線が集まる。
(……やっぱり)
リナは小さく息を吸う。
隣ではレオンが静かに前に出ていた。
そして――カイも、気だるそうに歩き出す。
「他の者は後方で見学しろ。無理に介入するな」
「先生、それって……」
キースが手を上げる。
「3人だけですか?」
クロードは一瞬だけ目を細めた。
「そうだ」
曖昧な答え。
「安全は確保する。ただし――」
「甘く見るな」
空気が、ぴんと張り詰める。
その瞬間、地面に影が落ちた。
歪む。
膨らむ。
「来るぞ」
カイが低く言う。
次の瞬間、闇が弾けた。
黒い影が地面から蠢くように浮かんでくる。
三つ。
それぞれ形が不安定で、揺らいでいる。
「散るぞ」
レオンが短く言う。
「ええ」
リナもすぐに頷く。
「好きにしろ」
カイだけが、いつも通りの温度で答える。
「……相変わらずだな」
レオンが小さく言う。
「合わせる気ないだろ」
「必要ない」
即答。
「効率が悪いだけだ」
「それはどうかな」
レオンの目が鋭くなる。
「一人で全部できるなら別だが」
「できる」
間髪入れない返答。
一瞬、空気が止まる。
「……ならやってみろ」
レオンが踏み込む。
そのまま影へ斬りかかる。
「リナ、合わせろ!」
「分かった!」
水が走って、影の動きを縛る。
そこへレオンの剣が入る。
確実に削る。
「連携は悪くないな」
後ろから、カイの声。
「見てるだけ?」
リナが振り返る。
「いや」
その瞬間。
カイが消えた。
「――っ!?」
気づいたときには、影の“内側”にいる。
「そこか」
手を差し込む。
影が大きく歪む。
「やめ――」
誰かの声。
でも遅い。
「消えろ」
淡い光。
一体が、一瞬で崩れた。
静寂。
「……今の」
ミアが息を呑む。
「速すぎ……」
キースも言葉を失う。
レオンは何も言わない。
ただ、まっすぐカイを見ていた。
「……あれ、本当に模擬戦か?」
見学していた他の生徒達からざわついた声が聞こえる。
「……なるほどな」
小さく呟く。
「そういうやり方か」
「文句あるか」
「いや」
「合理的だ」
認めた。
次の瞬間、残りの影がじわりと動きだす。
「来るわ!」
リナが叫ぶ。
三人が再び動き出す。
それぞれ違う動きなのに――
どこかで噛み合っていた。
その夜。
寮の部屋。
窓を、軽く叩く音がした。
「……また」
小さく呆れながら呟いて、窓を開ける。
そこにいるのは――
「カイ」
「起きてたか」
「寝てると思った?」
「さあな」
いつもの調子。
でも、どこか静かだった。
「……今日の、模擬戦」
リナが言う。
「ねえ、あの声……誰かが何か言ってた」
少しだけ踏み込む。
「影の核とか、消すとか……普通じゃないよね」
一瞬、沈黙。
カイは視線を外した。
「……琥珀って、知ってるか」
「え?」
予想外の言葉。
「石の名前でしょ?」
「まあな」
カイはゆっくりと続ける。
「閉じ込める性質がある」
「閉じ込める?」
「時間とか、感情とか」
低い声。
「……何それ」
「さあな」
曖昧に笑う。
「ただ――」
一歩、近づく。
「お前、持ってるだろ」
リナの胸元に視線が落ちる。
「……だから聞こえた?」
「たぶんな」
あっさり言う。
少しだけ、心臓が跳ねる。
「これ、何なの?」
琥珀に触れる。
わずかに、温かい気がした。
カイは答えない。
ゆっくり手が伸びてくる。
「え――」
そっと、リナの頬に指先が触れる。
「……カイ?」
距離が近い。
呼吸が、かすかに重なる。
そのまま――
触れるだけの、キス。
一瞬。
本当に、一瞬。
(――っ)
頭の奥で、何かが弾ける。
光景。
森。
幼い声。
でも――
掴めない。
「……今の」
言葉にならない。
「忘れろ」
静かに言う。
「無理に決まってるでしょ」
即答だった。
一瞬だけ、カイが笑った気がした。
「……そうか」
小さく呟く。
そして、背を向ける。
「じゃあな」
「待って」
思わず呼び止める。
「どうして、今の――」
問いかける。
でも。
カイは振り返らない。
「……気まぐれだ」
それだけ言って、
夜の中に消えた。
残されたのは――
熱の残る唇と、
わずかに温かい琥珀だけだった。




