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忘れたはずの彼が、気になってしまう。 ―琥珀の瞳が、嘘をつく―  作者: HANABI
学園編②

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第26話:気づかない距離

朝の教室は、いつも通りの賑やかさに包まれていた。


窓から差し込む光、ざわざわとした会話、椅子の音。

何も変わらないはずなのに――


「ねえ、あの子……」

ミアが小さく呟く。

「隣のクラスの子じゃない?」

「え?」


視線を向ける。

廊下の向こう、開いた扉の先。

別クラスの教室に、その姿が見えた。


「昨日、カイに告白してた子」

「……ああ」

確かに見覚えがある。

同じ学年だから、顔くらいは知っている。

でも――


(……なんか、おかしい)

様子が明らかに違った。

席に座ったまま、ぼんやりと前を見ている。

周りの声にも、ほとんど反応していない。


「ちょっと様子見てくる」

「え、リナ?」

ミアが止める前に、立ち上がる。


廊下に出て、向かいの教室に入っていく。

「ねえ、大丈夫?」

声をかける。

ゆっくりと顔が向く。


「……あ」

目が合う。

でもそこに、感情がない。

「昨日……」

言いかけて、止まる。

「……誰だっけ」

一瞬、空気が止まった。


「え?」

「ごめん、分かんない」

悪びれもなく、そう言う。

その言葉に、背筋が冷たくなる。

「昨日のこと、覚えてないの?」

「昨日?」

首を傾げる。

「……何もないけど」


その瞬間。

(……消えてる)

確信に近い違和感。


「リナ、戻ってきて」

レオンの低い声。

振り向くと、廊下から鋭い目でこちらを見ている。


リナは女の子のそばをゆっくり離れた。

「今の、明らかにおかしい」

「ええ……」

「関わりすぎるな」


その言葉に、少しだけ引っかかる。

「でも――」

「まだ確定じゃない」

言い切る。

「様子を見よう」


その冷静さに、少しだけ安心する。

でも同時に――

(……本当に、それでいいの?)

胸の奥に、小さな違和感が残った。


昼休み。

中庭はいつも通り賑やかだった。

「はい、これ新作のパン!」

「また買ってきたの!?」

「だって気になるじゃん!」

ミアが楽しそうに笑う。

「キース、食べる?」

「もらう」


そんな中。

リナの視線は、無意識に一人へ向いていた。

木陰に寄りかかっている、カイ。

何もしていないのに、

そこだけ少し空気が違う。


(……昨日のこと)

思い出す。

距離。

声。

あの瞬間。


「リナ?」

「え?」

「ぼーっとしてる」

ミアが覗き込む。

「そうかな?……なんでもないよ」

「ほんとに?」


そのとき。

「今朝の子の事だろ」

横から声。

レオンだった。


「……そうね、よく分かるのね」

少し誤魔化すように答えた。

「なんとなくな」

短く答える。


「で、どうする」

「どうするって?」

「あの子の件」

少しだけ空気が締まる。


「記憶が飛んでる可能性がある」

「……やっぱりそう思う?」

「可能性の話だ」

慎重な言い方。


「でも放っておけないでしょ」

リナが言う。

レオンは少しだけ考えてから、

「俺もそう思う」

と答えた。


「ただし、無理はするな」

「分かってる」

そう言った瞬間。


「無理しそうな顔してるぞ」

後ろから声。

振り仰ぐと、カイがいた。


「……いつからいたの」

「さっきから」

クスって笑って適当に答える。


「で?」

「で、って?」

「あの子の話だろ」

あっさり核心を突く。


「聞いてたの?」

「聞こえてた」

面倒くさそうに言う。

「関わるな」

即答だった。


「どうして」

「面倒だから」

「それだけ?」

「それで十分だろ」

淡々とした声。


「でも――」

「リナ」

名前を呼ばれる。

少しだけ、低い声で。

「やめとけ」

それは、命令じゃない。

でも――

無視しづらい響きだった。

「……理由は?」

「言えない」

即答。


「じゃあ納得できない」

一歩も引かない。

カイは一瞬だけ黙る。

そして、少しだけため息をついた。

「……じゃあ好きにしろ」

投げるように言う。


「ただし」

一歩近づく。

「危なくなったら、絶対に引け」


その目は、冗談じゃなかった。

リナは、少しだけ息を飲む。

「……分かった」

小さく頷く。

そのやり取りを、

レオンは静かに見ていた。


放課後。

校舎の裏。

人の気配が少ない場所に例の女子生徒を連れ出していた。

レオン達もリナを心配して付いてきてくれる。


「……ここでいいかしら?」

リナが声をかける。

目は虚ろでぼんやりと付いてくる。

「うん……」

どこか、覇気がない。

「ねえ、本当に覚えてないの?」

「うん……何も」


そのとき。

風が止まった。

空気が、変わる。

「……え?」


夕日に照らされた女子生徒の影が、

ゆっくりと揺れた。

「なに、これ……」

足元の影が、

形を変えていく。

黒く、濃く、

輪郭を持ち始める。


「やめて……」

女子生徒が怯えるに震える。

「出てこないで……」

その声に呼応するように、

影が“持ち上がった”。


「っ……!」

リナが一歩下がる。

人の形をした“何か”。

歪んだ感情の塊。


「これが……」

言葉にした瞬間。


「下がれ!」

声が走る。

同時に、影がリナの方に伸びてきて弾けた。

黒い衝撃。


「きゃっ!」

リナがよろめく。

その腕を、誰かが引いた。

「だから言っただろ」

カイだった。


「関わるなって」

「……ここに来ると思ってたの?」

「分かる」

短く答える。


その目が、一瞬だけ――

琥珀色に揺れた。

(……また)

心臓が跳ねる。


「レオン!」

「分かってる!」

すでに構えている。

「キース、ミア!」

「「いつでもいいよ!」」

全員、揃っていた。


影が、ゆっくりとこちらを見たような気がした。

女子生徒の顔は俯いて見えない。

でも確かに――

“何かを求めている”。


「……始まるぞ」

カイが小さく言った。


その声には、

ほんの少しだけ――


迷いが混ざっていた。


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