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忘れたはずの彼が、気になってしまう。 ―琥珀の瞳が、嘘をつく―  作者: HANABI
学園編②

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第24話:揺れる感情

昼時の空気は、ザワザワと賑やかに人が移動していた。


午前の授業を終えた解放感と、午後の明るい日差しの中、学園全体を自由な雰囲気が纏っている。


リナとミア達も昼食を取ろうと木陰で場所を探していると――

「ねえねえリナ、ちょっと静かにして」

ミアがやけに小声で腕を引いてくる。

「なに?どうしたの?」

「いいから、あそこ見て」


指差された先。

校舎裏の木陰に、見覚えのある後ろ姿があった。


「……カイ?」

「そう、それそれ」

その向かいに立っているのは、一人の女子生徒。

たしか隣のクラスだった気がする。

緊張しているのが、遠くからでも分かる。


「これ絶対、あれだよね」

「……あれって?」

「告白に決まってるでしょ!」

ミアがこそこそと興奮気味に囁く。


「ちょっと声大きいって」

「だって気になるじゃん!カイだよ!?あのカイ!」

キースも気づいたように笑う。


「またかよ、あいつ。何人目だ?」

「数えてるの?」

「何度か見たんだ、でも数えてはない」

軽口が飛ぶ中で、

レオンは黙ってその様子を見ていた。


リナも――

なぜか、視線を外せなかった。


「……あの、カイくん」

女子生徒の声が、かすかに震えている。

「前から……その、ずっと気になってて」


言葉を探しながら、

それでも必死に想いを伝えようとしている。

少しの沈黙。


カイは逃げるでもなく、

ただその言葉を受け止めていた。

「……ごめん」


短く、はっきりと。

でも、それだけじゃ終わらない。

「そういうの、向いてないんだ」

淡々とした声。

「誰かとどうこうなる気もないし、期待させるのも面倒だから」

はっきり線を引く言い方。

女子生徒の表情が、一瞬強張ったように固まった。


「……そっか」

無理に笑って、

小さく頭を下げた。

「ごめんね、急に」

「謝る必要ないだろ」

「でも――」

「言いたいこと言えたなら、それでいい」


カイは少しだけ視線を逸らして言う。

「中途半端に残す方が、後で面倒になる」

優しさなのか、突き放しなのか。

分からない言い方だった。


女子生徒は、それ以上何も言わずに走って去っていった。

その背中を見ながら――


(……なんで)

リナの胸が、少しだけざわついた。

あの言い方。

あの距離の取り方。


「うわー……ドライね」

ミアがぽつりと呟く。

「でもまあ、あいつらしいよな」

キースが苦笑する。

「……ああ」

レオンが短く返す。


リナは何も言えずに視線はカイに向けられたままだった。

カイはもう、いつもの調子に戻っていた。

何事もなかったかのように、その場から離れていった。


(……ほんとに、なんとも思ってないの?)

分からない。

でも――少しだけ、引っかかる。


「はいはい、見物終わり!移動するよ!」

ミアが軽くぱん、と手を叩く。

「お昼ご飯食べ損ねちゃう」

「次は外実習だっわね?」

「そうだったな」

「……」

レオンはリナをチラッと見ながら何も言わなかった。

リナはミアに促されるように、そして何かから逃げるように早足で歩き出した。


昼食後に向かうのは、学園の外れの訓練区域。

自然に近い環境での実戦訓練だ。


しばらくして、クロードの声が響く。

「今日は簡易討伐訓練だ」

「魔物は実際に出るぞ。チームに分かれて分散しろ。

油断するなよ」

「え、ほんとに出るんですか!?」

ミアが慌てる。

「今さら何言ってるのよ」

「だって心の準備が!」

「準備してから来なさい」

「リナ冷たい!」

そんなやり取りの中、

空気がふっと変わる。


「……来たぞ」

 レオンの低い声。

茂みの奥から、低い唸り声が響いた。


「うわ、ほんとに来た……!」

現れたのは、狼型の魔物。

鋭い牙と濁った瞳。


「散開!」

リナは自身も剣を構えながら指示を出していく。

「キース、足止め!」

「任せろ!」

地面に手をつく。

土が盛り上がり、魔物の動きを止める。


「ミア、右から援護!」

「了解!」

鋭い風が魔物に切りつけた。


「レオン!」

「行く」

踏み込み、剣に水を纏わせ一閃する。

だが、その瞬間。


「まだいる!」

リナから少し離れた位置から新たに二体現れる。

レオンに向かって飛びかかっていく。

「っ――!」

一体はレオンが受け止めるが、

もう一体の爪が肩をかすめた。


「……っ」

「レオン!怪我してる!」

「問題ない、深くない」

「血が出てるじゃない!」

「動ける」

無理に踏み込もうとする。


(……無茶する気だ)

「一瞬だけ止めて!」

「キース!ミア!」

「「分かってる!」」

土で魔物の動きを封じる。

ミアも風と炎で壁を作り、動きを牽制した。


その隙に――

リナがレオンの傷口を確認する。

「じっとして」

「今は――」

「いいから」

少し強い声。

手のひらに光が集まる。


「……治癒魔法?」

キースが驚く。

淡い光が傷口を包む。

じんわりと、痛みが引いていく。


「……」

レオンが目を細める。

「どう?」

「……問題ない」

「だから無茶しないでって言ってるの」

「……善処する」

「約束して」

「……分かった」

短く、でも確かに頷いた。


獣がドサリと倒れる音がした。


「終わりだ。」

上から声がする。


顔をあげると――

魔物はもう倒れていた。

「……え?」

「今の、いつ……?」

キースが呆然とする。


そこに立っていたのは、カイ。

「遅いんだよ、お前ら」

軽く言う。

「今の連携、悪くないけどな。とどめを刺せてない。」

「お前な……」

キースが苦笑する。

「助けてもらっといてなんだけど、言い方あるだろ」

「事実だろ」

あっさり返す。


そして、リナを見る。

「治癒魔法が使えるんだな。いい指示だった。」

「え?」

「判断も早いし、無駄がない」

少しだけ間を置いて。

「……ちゃんと成長してるんだな」

ぽつりと呟くように言う。


「なにそれ」

「別に」

すぐに視線を逸らす。


でもその言葉が、妙に残る。

(……今の、どういう意味)

聞こうとした瞬間、


カイはもう別の方を向いていた。

「ほら、もう終わりだろ。戻るぞ」

まるで興味がないみたいに。


でも――

(……さっきと同じ)

距離を取っているのに、

どこか近い。

掴めそうで、掴めない。


放課後、生徒達がザワザワと帰り道についている時。

さっきの女子生徒が、人影の無い道を一人で歩いていた。


俯いたまま、虚ろな目をしていた。

静かに。

その足元。

夕陽に伸びた影が、

わずかに揺れる。


まるで……

生きているみたいに。


でも。

誰も、それに気づかない。


ただひとつ。

小さな違和感だけが、

静かに残っていた。


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