第23話:それぞれの強さ
午後の実技場
乾いた土の匂いと張り詰めた空気に包まれていた。
広い訓練場のあちこちで、魔法の光や剣戟の音が交差している。
「今日はチーム戦だ」
クロードの低い声が、場の空気を引き締める。
「三人一組。攻守の連携を見る。単独で突っ込むなよ。以上だ」
短く、無駄のない説明。
「はいはーい!質問いいですか!」
ミアが元気よく手を上げる。
「なんだ」
「勝ったら何かご褒美とかないんですか?」
「ない」
「えー!やる気半減!」
「最初から期待するな」
即答に、周囲から小さな笑いが漏れる。
そんな空気の中で、リナは軽く剣を握り直した。
「組み合わせは――」
クロードが視線を巡らせる。
「リナ、レオン、キース」
「よし来た!」
キースが拳を握る。
「よろしく、リナ」
「ええ、よろしく」
横で、レオンが静かに頷いた。
「……無理はするな」
「レオンこそ」
短いやり取り。
でも、以前よりもずっと自然だった。
「ミアは、あっちか」
少し離れた場所で、別の班に入っているのが見える。
「あとで見ててよ!私すごいから!」
「はいはい」
キースが軽く手を振る。
「始め」
その合図と同時に、空気が変わった。
相手チームが一気に距離を詰めてくる。
「来るぞ」
レオンが低く言う。
「分かってる」
リナは一歩前に出た。
剣を構える。
呼吸を整える。
「キース、右を見て」
「任せろ!」
軽い返事と同時に、キースが素早く動く。
その隙を突くように、リナが前へ。
踏み込み。
剣を振る。
相手の一撃を受け流し、そのまま体勢を崩す。
「今!」
短く叫ぶ。
レオンが一歩踏み込んだ。
無駄のない動き。
一瞬で間合いに入り、的確に仕留める。
「……一人」
淡々とした声。
「いいじゃん、今の!」
キースが笑う。
「まだ、終わってないわよ」
リナが視線を動かす。
背後から、魔法の気配。
「来る!」
振り返ると同時に、光が弾ける。
反射的に剣を構え、防いだ。
衝撃が腕に伝わる。
「っ……!」
勢いに押される。
その瞬間。
「下がれ」
低い声。
レオンが前に出る。
魔法を切り裂くように、剣が走る。
「……大丈夫か」
「ええ、助かった」
「ならいい」
それだけ言って、すぐ次の動きへ。
(……ちゃんと見てる)
少しだけ、安心する。
「リナ、左!」
キースの声。
考えるより先に、体が動く。
踏み込み、回り込み、斬る。
連携が、自然に繋がっていた。
気づけば、最後の一人。
「これで終わりね」
静かに間合いを詰める。
相手が構えた瞬間。
ふっと、視界が広がる感覚。
動きが、見える。
わずかな隙。
(……ここ)
迷わず踏み込む。
剣を振り抜く。
その一撃で、勝負が決まった。
「そこまで」
クロードの声が響く。
「勝者、リナの班」
「よっしゃあ!」
キースが大きくガッツポーズをする。
「やったわね」
リナも少しだけ笑う。
その横で、レオンが小さく息を吐いた。
「……いい動きだった」
「レオンもよかったわ」
視線が合う。
ほんの一瞬。
でも、その空気は前よりずっと柔らかくなっていた。
少し離れた場所。
カイがその様子を見ていた。
「へえ」
小さく呟く。
「ちゃんとやれてんじゃん」
その視線は、リナに向けられていた。
まっすぐで、迷いのない動き。
昔とは違う。
でも――
(……近づきすぎだろ)
ほんの一瞬だけ、表情が変わる。
次の瞬間には、いつもの軽い顔に戻る。
「次、俺な」
そう言って、前に出る。
ざわ、と空気が揺れた。
カイの動きは、別格だった。
速い。
迷いがない。
相手が反応する前に、勝負が終わる。
「……すごい」
思わず声が漏れる。
圧倒的だった。
でも。
(……なんか)
違和感。
強い。
間違いなく強い。
なのに。
どこか、余裕がない。
戦っているというより――
(……終わらせてる?)
そんな感覚。
「終わり」
カイが軽く手を振る。
周囲がざわつく。
「相変わらずだな……」
キースが苦笑する。
「……ああ」
レオンは、じっとその姿を見ていた。
何かを測るように。
リナもまた、視線を外せなかった。
強さの違い。
でも、それだけじゃない。
どこか――
(……遠い)
同じ場所にいるはずなのに、
手の届かない場所にいるような感覚。
胸の奥が、わずかにざわつく。
その理由を、まだ言葉にできないまま。




