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忘れたはずの彼が、気になってしまう。 ―琥珀の瞳が、嘘をつく―  作者: HANABI
学園編①

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第20話:見えない距離 第二章 学園編①最終話

森から戻ったあとも、胸のざわつきは消えなかった。

寮の部屋。

窓の外は、すっかり夜に沈んでいる。


リナはベッドに座ったまま、何度も首飾りに触れていた。

(……なんなの、これ)

落ち着かない。

でも、外したくはない。


今日の光景が、何度も頭に浮かぶ。

黒い影。

消えなかった“何か”。

そして――

カイの目。


「……知ってる気がする」

小さく呟く。

でも、思い出せない。

そのとき。


コン、と窓を叩く音。

「……ほんとに来るのね」

少しだけ呆れながら、窓を開ける。

そこにいるのは、やっぱりカイだった。


「来すぎじゃない?」

「そうでもないだろ」

「そうよ。ここ寮なんだから」

「知ってる」

「知ってて来てるのが問題なの」

「入るぞ」

「えっ!ちょっと待って、まだ許可――」

言い終わる前に、もう部屋の中にいる。

「……強引ね」

「今さらだろ」

軽く笑う。


でも今日は、どこか違う。

「……ねえ」

「ん?」

「今日のあれ、何だったの」


少し近づいてまっすぐ見る。

「普通の魔物じゃないでしょ」

少しの沈黙。

カイは視線を外した。


「さあな」

「またそうやってごまかす」

「ただの魔物だ」

「違う」

少しだけ、声が強くなる。

「あなた、知ってる顔してたわ」

カイは、何も言わない。


夜の空気が、ゆっくりと流れる。

「……どうして、守ったの」

ぽつりと、リナが言う。

「え?」

「危ないって分かってたのに、前に出た」

「別に、あれくらい――」

「違うでしょ」

言葉の途中で遮る。


「“巻き込みたくない”って言ってたわ」

一瞬だけ、カイの動きが止まる。

「……覚えてたか」

「ちゃんと聞いてるのよ」


カイは寮の小さな部屋の隅を見ながら

「……ああいうのはな」

ゆっくり、言葉を選ぶ。

「触れると、面倒なんだよ」

「面倒?」

「感情が残る。引っ張られる」

短く、でもいつもより踏み込んだ言葉。

「だから、慣れてるやつがやった方がいい」

「慣れてるって……」

そこまで言って、言葉が止まる。


カイは、それ以上言わない。

でも。

少しだけ視線を戻す。


「……おまえは、触るな」

静かに言う。

「そういうのは、まだ早い」

その言葉に、リナの胸がざわつく。


「……何それ」

「そのままだ」

「説明になってない」

「全部は言えない」

はっきりと言う。


「……でもな」

一歩だけカイが近づく。


「今日、おまえが言ったやつ」

「え?」

「“消えたくない”ってやつ」


視線が、まっすぐ重なる。

「あれ、間違ってない」

リナの息が止まる。

「……やっぱり」

「感情だ。ああいうのは」

「……じゃあ」

言葉を探す。

「消すって、どういうことなの」

静かな問い。


カイは少しだけ目を伏せた。

「残ってるもんごと、消すってことだ」

短い言葉。

でも、重い。

部屋の空気が、少しだけ沈む。


「……ひどいわね」

「そうだな」

否定しない。

「でも、それしかない」


その言い方が、妙に現実的で。

リナは、何も言えなくなる。

少しの沈黙。

夜風がカーテンを揺らす。


「……ねえ」

「ん?」

「あなたって、何なの」

素直な疑問。

カイは少しだけ笑った。


「ただの生徒だろ」

「嘘」

「バレたか」

 軽く肩をすくめる。

でも、それ以上は言わない。


距離がある。

手を伸ばせば届くのに、

その先には進めない。


(……遠い)

すぐ近くにいるのに。

どこか遠くにいるみたいな感覚。

そのとき。


ふいに、腕を引かれた。

「――え?」

気づいたときには、

体が引き寄せられていた。


強く、でも乱暴じゃない力で。

カイの腕の中。

「……無茶すんなよ」

すぐ近くで、低い声が落ちる。

一瞬、何が起きたのか分からなかった。

「今日は、正直ヒヤッとした」


鼓動が、跳ねる。

近い。

息がかかる距離。


「……な、なに……」

言葉がうまく出てこない。

でも――

嫌じゃない。

むしろ、離れたくないと思ってしまう自分がいる。


それと同時に、

(……なんで?)

分からない。

どうしてこんなことをするのか。

どうしてこんなに、優しいのか。

胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。


そのとき――

ふっと、何かがよぎった。

暗い森。

小さな手。

名前を呼ぶ声。

「……カイ……?」


思わず、口に出る。

自分でも理由は分からないのに。

一瞬だけ、腕の力がわずかに強くなった。


「……っ」

それが、答えみたいだった。

でも。

次の瞬間には、もう何も分からなくなる。


抱きしめられているのに、

心はどこか取り残されているような感覚。


(……ずるい)

こんなふうに触れてくるのに、

一番大事なところは、何も教えてくれない。

でも。

それでも――

離れたくないと思ってしまう。


「なんでなのか分からないけど……」

少しうつむきながらゆっくりと

「あなたのこと、放っておけない気がするの」


ふっと、腕の力が抜けた。

カイが距離を取る。


「……それはやめとけ」

カイが顔をそらして言う。

「どうして」

「面倒だから」

「またそれ」

「本当だ」


リナが見上げたその目は、言葉に反して辛そうに歪んでいた。


でも、さっきまでとは違う。

急に近づいた距離。

それでも、まだ足りない。

埋まらない何かがある。


(……それでもいい)

リナは小さく息を吐く。

この距離も、この時間も、

きっと無駄じゃない。

そう思えた。


窓の外。

夜は静かに続いている。


そして――


見えない何かも、確かに動き続けていた。


(第二章 完)

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