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忘れたはずの彼が、気になってしまう。 ―琥珀の瞳が、嘘をつく―  作者: HANABI
学園編①

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第15話:穏やかな日々

放課後の鐘が鳴ると、教室の空気は一気にほどけた。


「ねえリナ、今日ちょっと付き合って!」

ミアが机に身を乗り出してくる。

「いいけど、どこへ?」

「新しいスイーツのお店できたの!絶対美味しいから!」

「それ、この間も言ってなかったか?」

キースが笑いながら口を挟む。

「それはまた違うお店!」

「はいはい」


「レオンも来るでしょ?」

「……行く」

短く答える。

「ほら、決まり!」


そのまま流れるように四人で街へ出る。

夕方の通りは賑やかで、甘い匂いや人の声があちこちに広がっていた。

「ここここ!」

ミアが迷いなく店へ入っていく。

小さな店内には、色とりどりのケーキやクッキーが並んでいた。


「わあ……」

リナは思わず声を漏らす。

「でしょ?かわいいよね」

少し並んで席に座ると、すぐに注文が決まる。

「リナは?」

「じゃあ、これを」

と言いながらつやつやの果物が色とりどりに飾られたケーキの絵を指さした。

「いいね、それ当たりだと思う」

ミアが楽しそうに笑う。

運ばれてきたケーキは、絵に描かれたものより見た目も美しく華やかで甘い香りがした。

「……美味しい」

「でしょ!!」

ミアが満足そうに頷く。


その様子に、リナも自然と笑みを浮かべた。

(……楽しい)

こんな時間は、知らなかった。

店を出たあと、通りを歩いていると――


「ねえ見て!」

ミアが立ち止まる。

小さな装飾品の店だった。

「これ可愛くない?」


手に取ったのは、淡い黄色の髪飾り。

「似合いそうだな」

キースがすぐに言う。

「ほんと?」

「うん」

あっさりと頷く。

「じゃあ、それ買ってやるよ」

「え、いいの?」

「いいよ、そのくらい」

自然な流れでキースが支払う。

「……ありがと」

ミアが少し照れながら笑う。

その様子を見ていたリナに、ふとレオンが視線を向ける。


「リナも何か見れば?」

「そうね……」

並ぶ品の中で、ひとつだけ目に留まるものがあった。

琥珀の石を使った、小さなペンダント。

光を受けて、やわらかく揺れる色。

(……)

自然と手が伸びる。

指先が触れた、その瞬間――

ざわ、と胸の奥が揺れた。

「……っ」

一瞬、息が止まる。

懐かしいような、でも思い出せない感覚。

胸の奥がざわつく。

怖い。

理由も分からないのに、触れてはいけない気がした。


「どうした?」

レオンの声。

「……ううん、大丈夫」

リナはそっと手を離した。

「やめておくわ」

「そうか」

 

レオンは静かに店の中を眺めて、水色の髪飾りを手に取る。

「これはどうだ」

「……え?」


「似合うと思う」

少しだけ視線を逸らしながら言う。

不器用で、でもまっすぐな言葉。

「……ありがとう」

リナは少しだけ笑った。

レオンからプレゼントされたそれを受け取った。


夕暮れの街は、少しずつ色を深くしていく。

穏やかな時間は、そのまま静かに過ぎていった。


 ――そして、夜。


寮の部屋。

窓の外に、静かな闇が広がっている。

机の上には水色のガラスが、小さく飾られた髪飾りがそっと置かれていた。


リナは、昼間のことを思い出していた。

(あの首飾り……)

理由は分からない。

でも、あの感覚だけは、はっきりと残っている。

胸の奥が、落ち着かない。

そのとき――


コン、と小さな音がした。

「……?」

窓の方を見る。


もう一度。

コン、と軽く叩く音。

恐る恐る近づき、窓を開ける。


「――っ」

そこにいたのは、カイだった。


「……なにしてるの?」

「ちょっとな」

軽く言う。

「びっくりするでしょ、普通」

「悪い」

全然悪びれていない。


少しだけ沈黙が落ちる。

夜の空気が、静かに流れる。

「……何か用?」


「これ」

カイが差し出したのは――

あの首飾りだった。


「……どうして」

思わず言葉がこぼれる。

「昼、見てただろ」

あっさりとした声。


でも、その一言で――

胸がまた、ざわつく。

「……でも、買わなかったわ」

「だからだろ」


軽く言う。

「似合いそうだったし」

何でもないように。

でも、その言葉はどこか静かで。


「……どうして」

自分でも分からないまま、問いがこぼれる。

カイは少しだけ目を細めた。


「さあな」

そのとき――

一瞬だけ。

カイの瞳の色が、揺れた。

暗い茶色が、光を帯びる。

琥珀のような色に、変わる。

「――っ」

頭の奥で、何かが弾けた。

断片的な景色。

森。

剣。

声。

 ――“カイ”


「……っ……」

息が乱れる。

心臓が早くなる。

理由が分からないのに、


ただ――

目の前の存在から、目が離せない。

カイは何も言わない。


ただ静かに、首飾りを差し出したまま。

「……いらないなら、いいけど」

「……いらないなんて、言ってない」


「ありがと…」

リナはゆっくりと、それを受け取った。

触れた瞬間、ほんの少しだけ温かい。

鼓動が、重なるような感覚。

静かな夜の中で。


ふたりだけの時間が、流れていた。


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