第13話:軽い男と真面目な男
初夏の風が、開け放たれた窓から教室へと流れ込んでくる。
少しだけ湿り気を帯びた空気と、遠くで聞こえるざわめきが、季節の移り変わりを感じさせていた。
「ねえリナ、今日の実技どうだった?」
ミアが机に身を乗り出してくる。
「悪くはなかったと思うけど」
「いや“悪くない”ってレベルじゃなかったでしょ」
すぐ横からキースが口を挟む。
「普通に強かったぞ、おまえ」
「そうかしら」
「そうだよ」
ミアも頷く。
「レオンと同じくらい目立ってたし」
「……別に目立つつもりはない」
レオンが淡々と返す。
「はいはい出たよ、謙遜しちゃって」
キースが軽く笑う。
そんなやり取りの最中――
扉が、静かに開いた。
会話が、わずかに途切れる。
クロードが入ってくる。
その後ろに、もうひとり。
「転入生だ」
短く告げる。
視線が集まる。
後ろに立っていた少年が、軽く手を上げた。
「どうも〜」
気負いのない声。
黒い短髪。クロードと並ぶぐらいの身長。
少しだけ気だるそうな立ち方。
けれど、その立ち姿には妙な安定感があった。
「カイだ。よろしく」
ざわ、と空気が揺れる。
「え、また新しい子?」
「今年多くない?」
小さなざわめき。
「席は適当に座れ」
クロードはそれだけ言う。
「りょーかい」
軽く返す。
そのまま教室を見渡して――
「あ、そっち空いてる?」
女子の席の方へ自然に歩いていく。
「え、いいよ」
「どうぞどうぞ」
すぐに笑い声が広がる。
「助かる」
当たり前のようにその輪に入る。
距離が近い。
でも、不思議と嫌味がない。
「名前なんだっけ?」
「ユナだよ」
「よろしく、ユナ」
さらっと名前を呼ぶ。
そのやり取りを、少し離れた場所からリナは見ていた。
(……軽いのね)
率直な感想。
でも、それだけのはずだった。
そのとき。
ふと、カイが顔を上げる。
視線が、合う。
一瞬だけ。
――胸が、ざわついた。
「……?」
息が、わずかに止まる。
理由が分からない。
初めて見るはずの相手。
なのに――
どこか、知っている気がする。
ほんの一瞬の違和感。
でも、それは確かに存在していた。
カイは、何も言わない。
ただ一瞬だけ目を細めて、
すぐにいつもの軽い表情に戻る。
「なあ、授業ってこんな感じ?」
隣の女子に気軽に聞く。
「そうだよ、結構自由」
「へえ、いいじゃん」
もう完全に馴染んでいる。
「……あいつ」
キースが小さく呟く。
「早すぎない?」
「適応力が高いだけだ」
レオンが短く言う。
けれど、その視線は鋭かった。
「……それだけじゃない」
「え?」
「動きに無駄がない」
キースが目を細める。
「おまえ、もう見てんのかよ」
「分かるだろ」
レオンは視線を外さない。
「……強い」
その一言は、確信だった。
一方で。
リナはまだ、視線を外せずにいた。
さっきの感覚が、消えない。
(なんなの……今の)
分からない。
でも――
ただひとつだけ、確かなことがあった。
あの少年から目が離せない。




