第11話:新しい出会い 第二章 学園編①
春の風が、街の通りをやわらかく抜けていく。
石畳の道には朝の光が差し込み、行き交う人々の足音が軽やかに重なっていた。
その中を、ひとりの少女がゆっくりと歩いている。
リナは、少しだけ足を止めた。
視線の先には、白い石造りの大きな建物――魔法学園の門がある。
「……ここが」
小さく呟く。
森での生活とは、まるで違う景色だった。
静かな木々のざわめきも、土の匂いもない。代わりにあるのは、人の気配と、整えられた空間。
どこか落ち着かない。
けれど――不思議と嫌ではなかった。
今回の入学は、両親の勧めだった。
“もう十分に力はある。外で学べ”
そう言われたとき、少し迷いはあった。
森の外に出る理由を、これまで考えたことがなかったからだ。
それでも、頷いたのは――
どこかで、自分の力を試してみたいと思っていたからかもしれない。
飛び級での編入。
しかも二年生から。
普通ではないことは分かっている。
だからこそ――
「やってみるしかないわね」
少し顔を上げて、でも浮き足立つような気持ちを感じながら門をくぐった。
案内された教室の前で、リナは一度だけ深呼吸をする。
中からは、すでに人の気配とざわめきが漏れていた。
扉が開く。
一斉に視線が向いた。
「今日からこのクラスに入る」
低く落ち着いた声が、教室に響く。
教壇に立つ男――クロードが、淡々と言葉を続ける。
「飛び級での編入だ。実技評価は上位だ」
ざわ、と空気が揺れる。
「……へえ」
「ほんとに?」
「二年からってやばくない?」
遠慮のない視線。
興味と好奇心。
「入れ」
短く促される。
リナは教室へと足を踏み入れた。
視線が集まる中でも、歩みは乱れない。
「リナ・アルセイドです」
静かに名乗る。
一瞬の沈黙。
そして――
「よろしくお願いします」
ほんの少しだけ、柔らかく言葉を添えた。
その空気が、わずかに緩む。
「席は空いているところを使え」
クロードはそれだけ言って、話を終えた。
無駄がない。
その様子を見て、ひとりの少女が小さく身を乗り出す。
「……ねえ、あれがクロード先生よね」
隣の子に小声で話す。
「うん、そう。あの人」
「思ってたより怖くないかも」
「いや普通に怖いって」
ひそひそとしたやり取り。
リナは空いている席に向かおうとして――
「ね、こっち空いてるよ!」
明るい声に呼び止められる。
振り向くと、小柄な少女が手を振っていた。
柔らかいボブヘアに、ぱっと明るい表情。
「ここ、座って」
にこっと笑う。
「ええ、ありがとう」
リナも小さく笑った。
「よかった〜!無視されたらどうしようかと思った」
「そんなことしないわ」
「だよね、見た感じ優しそうだし」
くすっと笑う。
「ミアよ。よろしくね」
「リナよ」
「うん、知ってる」
いたずらっぽく目を細める。
「さっき先生がめっちゃ注目してたし」
「そうかな」
少しだけ肩の力が抜ける。
「飛び級ってすごいね。やっぱりめちゃくちゃ強いの?」
「どうかしら」
少し考えてから、ふっと笑う。
「期待に応えられるくらいには、頑張ってみるわね」
「かっこいい〜!」
ミアがぱっと表情を明るくする。
その様子に、自然と空気が和らいでいく。
少し離れた席から、静かにこちらを見ている少年がいた。
「……あれがリナ・アルセイドか」
小さく呟く。
長い髪をひとつに束ねた、落ち着いた雰囲気の少年――レオン。
「気になるのか?」
隣の友人キースが軽く肘でつつく。
「別に」
短く返す。
「でも見てただろ」
「実力がどの程度か、興味はある」
「素直じゃねえなあ」
レオンは答えず、視線を戻す。
教室の中は、少しずついつもの空気に戻り始めていた。
新しい学期。
新しい出会い。
その中で――
リナはまだ知らない。
この場所で、もう一度“出会う”ことになる存在を。




