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忘れたはずの彼が、気になってしまう。 ―琥珀の瞳が、嘘をつく―  作者: HANABI
過去編

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第10話:別れの日 第一章 過去編 最終話

森の空気が、わずかに沈んでいた。

昨日とは違う。

音が少ない。


風は吹いているのに、葉の擦れる音が遠い。

まるで――森そのものが息を潜めているようだった。


リナは立ち止まる。

胸の奥に残る、あの感覚。

消したはずなのに、消えきらない何か。


「……カイ」

振り返らずに呼ぶ。

少し間を置いて、足音が近づいてきた。

「昨日のこと」

静かに言葉を続ける。

「あなた、知ってたのね」


「……ああ」

短い返事。

隠す気はないようだった。

「どうして教えてくれなかったの?」

責めるというより、確かめる声。


カイは少しだけ視線を落とした。

「教えたところで、変わらない」


そして、わずかに言葉を選ぶ。

「……あれは、“倒すもん”じゃないんだ」


リナがゆっくり振り返る。

「残ってる想いを――終わらせるだけだ」

その言葉は、静かに落ちた。

重く、深く。


リナはすぐには返せなかった。

ただ、自分の手を見る。

あのとき触れた、あたたかさと、消えていく感覚。


「……終わらせたのね、私」

「そうだ」

カイは否定しなかった。


風が吹く。

冷たい。

そのときだった。


「――見つけた」

声が、森の奥から響いた。

空気が変わる。

重さではない。

圧。

そこに“いるだけで支配される”ような気配。


リナの体が、無意識に強張る。

木々の間から、男が現れる。

足音はほとんどしない。

けれど、一歩ごとに空気が沈む。


「……カイ」

男は名を呼ぶ。

感情のない声で。

カイの表情が、わずかに硬くなる。


「迎えに来た」

「断る」

間髪入れずに返す。


リナが一歩前に出る。

「誰なの」

男の視線が初めてリナに向く。

その目は冷たく、どこまでも静かだった。


「関わるな」

それだけ言う。


「関わってるわ」

リナは引かなかった。

「カイはここにいるの」

一瞬。

ほんのわずかに空気が張り詰める。


「……そうか」

男が呟く。

次の瞬間。

消えた、と思った。


「っ――!」

気づいたときには、カイが剣で受けていた。

金属がぶつかる鈍い音。

速い。

目で追えない。

押される。

一撃ごとに、空気が揺れる。


「やめて!」

リナが叫ぶ。


男の動きは変わらない。

無駄がない。

感情がない。


「力が足りない」

淡々と告げる。


弾かれる。

カイの体が後ろに滑る。

地面を蹴る音。

踏みとどまる。


その瞬間――

カイの目が変わる。

暗い色だった瞳に、光が差す。

内側から灯るような、熱を帯びた色。

空気が歪む。

熱が滲む。


「……やめるんだ」

男の声が、わずかに低くなる。

カイは構えたまま、動かない。

ただ、リナを一度だけ振り返る。


視線が合う。

その中に、迷いはなかった。

「来るな」

短く、強く。


リナの足が止まる。

理由は分からない。

でも――動けなかった。


次の瞬間。

男が踏み込む。

速い。

さっきよりも。

衝撃。

鈍い音。

カイの体が崩れる。


「カイ!」

駆け寄ろうとした瞬間、

空気が、押し返した。

見えない壁のように。


「……動くな」

男の声。

足が動かない。

男がカイを持ち上げる。

抵抗する力は、もう残っていなかった。


「待って!」

リナが叫ぶ。

その声に、カイがわずかに目を開けた。

「……リナ」

かすれた声。


「行かないで……」

震える声だった。

カイは、ほんの少しだけ目を細める。


「……ごめん」

静かに言う。

そして――

「だから、切る」

「……え?」


その瞬間。

視界が揺れた。

音が消える。

感覚が、ひとつ抜け落ちる。

何かが、ほどける。

繋がっていたものが、

静かに、断ち切られる。


「……?」

目の前に、森がある。

風が吹いている。


でも――

胸の奥が、空いている。

何か大事なものがあったはずなのに、

そこだけが、ぽっかりと抜けている。


「……あれ?」

涙がこぼれる。

理由は分からない。


ただ、寂しい。

どうしようもなく。

風が通り過ぎる。


そこにはもう、誰もいなかった。


過去編 完

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