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POL 終末のロボット警察官  作者: 如月いさみ


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高松交番の守り人 1

 警察官には高い志が必要だ。

 なんて言葉を聞いたが、親に対する反発の為に警察官になる人間だっているのだ。


 瀬野明里はフンッと鼻息も荒く

「ちゃんと仕事をこなしているんだ。文句ねぇだろ」

 と呟いて岡山西警察署高松交番の扉を開けた。


 岡山県の中でも高松交番のある場所は倉敷のように美観観光地区でもなければ岡山市のように栄えているわけでもない比較的ノンビリとした田畑と山が競合する鄙びた田舎の一角にあった。


 ただ且つて豊臣秀吉時代に水攻めにあった備中高松城の跡地があるのでポツリポツリだが観光にやってくる人間はいる。

 もちろん、昨今流行りのオーバーツーリズムのようなことにはなってはいないので犯罪件数やお困りごとが少ない地域ではあった。


 そんな少し長閑な担当の交番勤務をしている瀬野明里は交番の詰所に入ると一緒に勤務をしている2歳年上の去年配属になったばかりの後輩・三木竜次と臨時出勤をしている坂井進を見た。


 彼らの隣には二人の人物が立っている。

 一人は三木竜次の兄で岡山県警岡山西警察署刑事課捜査一係長の三木達樹警部で、もう一人は先日後輩の三木竜次の相棒として配属されたPOL033である。


 見た目は俳優の荒神静に似ているが言葉使いは丁寧で何処か慈愛の感じられる表情を浮かべるアンドロイドも極めりの『ロボット警察官』である。


 瀬野明里は息を吸い込んで敬礼をすると

「午前巡回から戻りました」

 と告げた。


 三木達樹は明里を見て

「よし、これで揃ったな。行こうか」

 と明里と三木竜次とPOL033に告げた。

 そして、臨時出勤をしている坂井進に

「坂井巡査長宜しく頼む」

 と付け加えた。


 坂井進は笑みを浮かべて立ち上がると

「はい!」

 と答え

「気張ってこいよ、瀬野に三木」

 と告げた。


 明里は複雑な表情を浮かべつつも

「はぁ……はい」

 と敬礼をして応えた。


 竜次も些か戸惑いながらも

「はい」

 と答えた。


 ロボット警察官のPOL033だけが何故か一番警察官らしく

「はい! 頑張ってまいります」

 としっかり答えたのである。


 このロボット警察官であるPOL033は明里にとっては何の関係もないロボットである。県警本部長が『三木竜次の相棒として配属する』と告げたからである。


 そう言う意味では今回の三木達樹警部が

「特別に実地訓練を行う」

 とPOL033を連れての鄙びた田舎の交番で勤務していて人間の坩堝と言われる都市圏の巡回を知らない自分たちを連れて行くのが分からなかった。


 明里にすれば

「いやいやいや、POL033のロボットちゃんと絆を深めてやがて刑事部とかで相棒として活躍するためと考えたら俺必要?? 三木だけで良いんじゃないのか?」

 と思うのである。


 別段、明里には上層部へ行きたいという野望はない。

 交番勤務でも人々を守ることが出来るからである。いや、一番身近で日々を見守ることが出来るのは駐在員だと知っているからである。


 だが、三階級上の三木達樹警部に逆らえないことは熟知しているので「何でだ?」と思いつつも三木達樹警部の特別訓練を後輩で人としての相棒である三木竜次と『彼』の相棒であるPOL033と共に受けているのである。


 三木竜次は明里と共に高松交番を出ると身体を伸ばしてほぐしながら

「俺は瀬野がいてくれて助かるけどな」

 と笑った。

「ほら、兄貴とPOL033だけだとやっぱりだれちゃうだろ?」


 三木竜次と三木達樹警部は正真正銘の兄弟で仲はかなり良い。二人とも仕事を終えると本当にべちゃべちゃと喋るのだ。


 明里はその様子を思い出しながら

「そうか? 俺は身内と一緒にいると緊張するし、肩肘が張ってしんどいかな」

 と答えた。


 明里自身も岡山県警に身内がいる。県警本部長が自身の父親である。厳格で県警本部長が父だと思うな、と言われた。

 まだ父親が交番勤務や刑事部で働いていた時は良く『明里は将来刑事になるか? 岡山の人々を守るんだ』などと言われて幼心に警察官になって岡山の人々を守るのが自分の役目だ、なんて思っていた。


 だが、高校3年の時にその父が県警本部長になった途端に『お前は警察官に向いてない。なるべきじゃない』と言い始めたのだ。

 挙句に警察官になるために大学で法学部に入ろうと思っていると告げると「俺に何か期待しても特別扱いはしないぞ。やめておけ。大学は他を選んで他の仕事をしろ」と大喧嘩をした末に家を飛び出して高校から直接警察官の試験を受けたのである。


 だから、あまり父親のお膝元近くの岡山駅周辺には行きたくはなかったのだ。


 そんな少し嫌な気分を感じつつも明里は竜次と共にパトカーの後部座席に座り走り出した途端に流れ出した車窓を見た。


 田畑と緑の稜線。

 そしてポツリポツリとある家々。


 しかしそれも走り出して20分ほどすれば家の数が増え合間にはマンションなどの高い建物も見えてくる。

 30分ほど走れば岡山県の中心となるJR岡山駅前へと到着するのだ。


 三木達樹は岡山駅近くの駐車場に止めてパトカーから降り立つと

「行くぞ」

 と告げた。

「瀬野巡査は学校卒業後高松交番で2年だったな。繁華街など密集地の巡回の経験が無くて戸惑っていたがかなり慣れてきたようだがもう少し付き合ってもらう」


 明里は「はい」と答えた。


 それは事実である。こういう都市圏の交番に勤務する人間の多くは出世する人間で国家公務員総合職試験を合格したり、とにかくそちら系の人間が付くと暗黙のルールのようなモノがあるのだ。

 まして自分は父親の反対を押し切って警察官になったので『余計』に都市圏から弾かれたということである。


 だが、何処にいても昔の父のように人々を守る仕事は出来るのだ。

「そんなことで俺がくじけると思ったら大間違いだ」

 明里は小さく呟き立ち並ぶビルやホテル、マンションなどの向こうにある岡山県警本部を睨むように見た。


 高卒のノンキャリアのペーペーは駐在所や片田舎の交番で年数と希望を出して漸く他の部署へ配属が叶うという形なのである。


 岡山駅周辺は何時もいる高松交番とは風景が全く違っていた。


 高いビルが立ち並び道路の両脇に立つのは個人の家と言うよりは商店ビルや雑居ビル、またホテルや一本筋が入った場所にはマンションなどが軒を連ねている。

 正に都会である。

 明里は達樹が歩き出すのに竜次とPOL033の後ろについて共に足を踏み出した。


 ビル。ビル。ビル。

 しかも派手な電飾看板も目に入る。


「本当に、あの風景が見慣れてるから戸惑うな」

 明里はそう呟きキョロキョロ見ながら足を進めた。高松交番が巡回する区域は殆どがポツンポツンの家がある住宅街である。

 派手な電飾看板も無ければ高層ビルもない。

 もちろんマンションもあるが精々7階くらいが高い方だろう。


「岡山駅の近くに来ると本当に都会って感じがするよな」

 隣を歩いていた竜次に言われ明里は小さく笑って

「確かに」

 と答えた。


 その瞬間であった。

 少し先の店から悲鳴とガラスの割れる音が響いた。


『強盗事件』である。

 達樹は足を踏み出すと

「急げ!」

 と明里と竜次とPOL033に呼びかけた。


 明里は「はい!」と敬礼すると慌てて達樹の後を追いかけるように足を踏み出した。

 事件に遭遇するのは初めてであった。もちろん、全く事件がなかったわけではないがこれまでは『起きたあと』に110番の緊急通報を受けて現場に駆け付けるという形だったからである。


 このように巡回中に遭遇することは初めてなのだ。


 明里は先の宝石店からガラスを割って飛び出してくる二人組の目ざし帽被った人物を見ると

「警察だ!!」

 と警棒を出すと一人に突進した。

 だが、宝石店強盗犯はナイフを手に真横に払いケリを入れた。


 それを明里は咄嗟に避けると警棒でナイフを持つ手を叩き

「逃げられると思うな!!」

 と腕を抑えた強盗犯の手を掴んだ。


 瞬間にもう一人がバールを振り上げて振り下ろした。

 達樹はそれに手を伸ばして明里を守りかけたが、一瞬早くPOL033がケリをその人物にかまして横へと吹っ飛ばした。


 竜次はその様子を見ると息を飲み込んだ。達樹は驚いてPOL033を見たが直ぐに後ろで蒼褪めて立っている弟の竜次に

「三木巡査! 倒れている犯人を逮捕しろ!」

 と強い口調で告げた。


 明里はそれに一瞬目を向けたが取り押さえている犯人の手首に手錠を嵌めて後ろ手に回してもう一方の手にも嵌めた。

「確保!」


 そう言って立ち上がるとPOL033を見て

「サンキュ、POL033」

 と笑顔を見せた。


 POL033は敬礼をすると

「いえ、警察官自身の身も守らなければなりません」

 と答えた。


 達樹はそれを見ると笑みを浮かべて視線をもう一人の犯人に手錠をする竜次に向けると近寄り

「よくやった」

 と告げた。


 竜次は首を振ると

「そんなことねぇよ」

 と言い立ち上がると店の通報を受けてやってきた岡山中央警察署の刑事課の刑事に引き渡しながら

「悪い、ビビった」

 と呟いた。


 竜次にも初めての経験だったのだ。ただ、一瞬動けなかったのだ。明里が走り込んでナイフを振り回されるのを見て心臓が跳ねるように恐怖を感じたのである。


 達樹はそれに

「初めての時は誰でもそうだ。まあ、瀬野巡査のように動けるタイプは少ない」

 と告げた。

「だが、何事も一人ではダメだ。今見ていてお前には分かっただろ? あの時にPOL033がいなかったら」

 

 竜次は小さく頷いた。

「瀬野は、大けがか下手をしたら死んでいた」


 達樹は冷静に

「その恐怖心も必要だ」

 と答えた。


 明里は岡山中央署の刑事に犯人を引き渡してPOL033と共に二人の元へと戻った。

 

 達樹は現場検証を始めた鑑識に軽く挨拶をすると三人を見て

「巡回の続きをするぞ」

 と告げた。


 そして、背後で「びっくりした」と言う明里と「俺はビビった」と言う竜次と彼らの後ろを歩くPOL033をチラリと一瞥して視線を僅かに下げた。


 ……結局、嘘で固めたところで当事者が一番真実を知っている……


 達樹はそう心で呟き更に足を進めた。

 明里は彼の後ろを歩きながら

「犯人を捕まえることが出来て良かった」

 と呟きつつも僅かに恐怖で震えている手を見つめた。


「でもやっぱり怖いモノは怖いな」


 ナイフが走った瞬間に死ぬかもしれないと思った。それでも彼らが逃げた後に更に岡山の町で犯罪が起きると思ったら逃がすわけにはいかないと思ったのである。


 明里は少し考えながら

「親父もこういう恐怖と戦ってきたのかな? だから反対しだしたのかな?」

 と心の中で呟いた。


 それでも。

 それでも。

「俺はあの頃の親父のようになりたいと思ってる」


 岡山の人々を守っていると誇らしく教えてくれていた父親。

 誰が知っていても、誰も知らなくても、それでも人々のために頑張ってくれているのだ。


 その姿が誇らしかったのだ。


 明里はスゥと息を吸い込むと吐き出し

「よし、頑張るぞ」

 と足を進めた。


 しかし、明里や竜次……そしてPOL033すらも戸惑う事件が彼らを待っていたのである。


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