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POL 終末のロボット警察官  作者: 如月いさみ


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終末のガディス 5

「どういうことだ!?」

 岩国警察署内自体がざわめいた。


 もちろん、狭間周次がいる刑事課フロアでも誰もが顔を見合わせて机に置かれているニュースをじっと見つめていた。その中で二人だけ全ての事情を飲み込み冷静に観察している人物が存在していたのである。


 POL035こと和久津雪と本条燕であった。


 周次は二人と共に捜査一係の面々が集まる係長の岩谷晃の元へ足を進めると

「係長、核戦争時のシェルターでこんなデモを起こすなんて何か他に目的があるんですかね?」

 と告げた。


 確かに欧州や東南アジアなどで現在抗争が続いているが核弾頭を使えばどうなるかくらいわかっていることで現実味が薄すぎたのである。

 まして、そんなシェルターが作られていることすら情報として入ってきてはいないのだ。


 岩谷晃は冷静に

「例えどんな状況になろうと我々は警察官として最期まで任務を果たすだけだ」

 と告げた。


 万が一の時に人々を誘導して安全を確保する。

 しかし。

 しかし。

 岩谷晃はチラリと課長の多田陽二郎に視線を向けた。同じように捜査二係長の弓削功も彼に視線を向けたのである。


 ……誰がシェルターの話をリークしたのか? ……

 そう考えていたのである。


 県警本部では門を閉めてガンガンと叩くデモ隊の人々を見下ろし県警本部長の中山和彦は眼鏡を軽く押し上げて

「恐らく県庁の人間だろうな」

 と呟いた。


 警察関係者でシェルターのことを知っているのは県本部長の自身と後ろの副県本部長と岩国警察署署長と各課長と係長……そして、岩国警察署へ送り込んだ本条燕だけである。


 後ろに立っていた多々羅修一副県本部長は息を吐き出すと

「中山本部長……就任早々こんな騒ぎになり申し訳ありません」

 と告げた。


 中山和彦はそれに笑みを浮かべると

「たいしたことではない」

 と言い、鳴り響いた電話に目を向けると

「逆波公安課長か」

 と受話器を取ると

「それで今周辺で騒いでいる団体の裏に誰がいるかわかったのか?」

と聞いた。


それに少し離れた路地裏で山口県警刑事部公安課長の逆波水樹と第一係の神野江祭が一人の男を両挟みにしながら立っていた。

逆波水樹は携帯を耳に

「はい、先導者の一人を捕獲しました。西川公男代議士の支援団体でNPO法人暮らしの泉という福祉団体の幹部が西川公男から騒ぎを起こすようにと言われたそうです」

 と告げた。

「どうやら県知事の秘書が扉越しに聞いた話を漏らしたそうです。それに関しては既に県知事に知らせていますので今からこの男と一緒に確保して戻ります」

 男は項垂れるように俯きチロリと左右に立つ二人を見ていた。


 中山和彦は苦く笑むと

「わかった。そうと分かればこちらも手加減の必要はなさそうだな」

 と言い、受話器を下ろすと

「出処は県知事の秘書だそうだ。先導していたのは西川公男代議士らしいが……恐らくシェルターを極秘に巨額の金を使って作っていることを知らせて次の選挙を有利にしようとしているのかもしれんが」

 と目を細めた。

「愚かな男だ」


 それに多々羅修一も小さく息を吐き出した。

「本当の現状を知らないというのは……ある意味幸せなのかもしれませんね」


 中山和彦は小さく「そうだな」と言い

「いま本部と県庁を囲んでいる市民団体の人間を騒乱罪で逮捕だ。それと西川代議士も逮捕する」


 ……報道機関の人間も側にいれば逮捕すると言え……

「強硬手段でもしょうがあるまい」


 それに多々羅修一は敬礼をすると

「はい!」

 と答えると駆け出した。


 西川公男はその様子をテレビで見ながらニヤニヤと笑みを浮かべていた。

「これで巨額の資金が動いていると分かれば不要なものに金を投入し税を無駄使いしていることで奴の次の当選は無くなる」


 ……もし俺を逮捕してみろ、奴らが不正権力で我々を押さえつけようとしていると訴えてやる……


 西川公男は自宅のソファに座り紅茶を口に運んでいた。岩国警察署の方ではそんな騒ぎが起きておらず静かであった。警察署内も騒然としたものの県警本部の方から『首謀者は判明したので心配なし』との連絡が入ったので通常業務へと戻っていたのである。


 周次も立ち上がるとPOL035こと和久津雪と本条燕を連れて

「では巡回に行ってきます」

 と岩谷晃に声を掛けてフロアを出ようとして携帯を手にした。


 兄の周一からの電話であった。山口県庁の近くで個人医院を開業しているのだ。周次は目を見開くと

「兄貴か、珍しい」

 と呟くと応答に出た。

「すっげ珍しいけど、どうかしたのか?」


 それに周次の兄の狭間周一は自宅前の騒ぎを目に

「悪いが、今からお前の家に三日ほど泊めてもらえないか? いや、岩国は落ち着いているか?」

 と聞いた。


 背後から聞こえる騒ぎの声やガシャンっというガラスの割れる音に周次は

「おお、大丈夫か? 家。県庁前だったからな……全員で来いよ。こっちは安全だからさ」

 と返した。


 周一は息を吐き出しながら準備をしている妻の静子と杏を見て

「迷惑かけるな。すまない。もう、窓ガラスが割られたり……ちょっと危なくてな。俺は騒ぎが収まったら戻るが二人は一応心配だから家の修復が済むまで泊めてやってくれ」

 と告げた。


 周次は笑って

「兄貴も落ち着くまで泊っていけよ。どうせあのニュースの状態じゃぁ開けてられねぇもんな」

 と告げた。


 周一は「わるい」と言うと受話器を下ろして騒ぐ人々を横手に家の戸締りをすると三人で新山口駅へと向かった。実はデモが少し暴走気味になり垣根が壊されたり窓ガラスを割られたりして、患者も危ないということで早々に閉めたのである。


 まして、娘の杏は9歳で何かあってはと岩国の周次のところへ一時避難しようとなったのである。兄弟仲は良いのだ。


 周次が携帯を切ると全員が顔を向けていた。

岩谷晃が心配そうに

「狭間、家族に何かあったのか?」

 と聞いた。


 周次は困ったように笑むと

「いや実家の病院が県庁前なんであの騒ぎで暴徒化しているらしくて俺のマンションに一時避難を小学生の姪っ子もいるので危ないので」

 と告げた。


 未だに騒いでいる県庁前のニュースを見て誰もが「ああ」と納得した。


 周次は一息つくと和久津雪と本条燕を見て

「待たせた、行こうか」

 とフロアを出た。


 その日の午後に周次は半休を急遽貰って新岩国駅で兄家族と合流すると車でマンションまで送った。

 2LDKのマンションで4人が住むには狭いが数日の話と思えば問題はなかった。県庁と県警本部の騒ぎも夕方には収まり西川公男は連行されながらテレビのニュースキャスターを前に

「我々の税金を使いもしないシェルターなどと言うモノに何兆円もつぎ込む現在の県知事やそれを訴えている私を逮捕する警察に私は最後まで抵抗する!!」

 と叫んでいた。


 周次は周一と兄の妻である静子が作った料理を前にテレビを見て

「……完全な売名行為みたいだな」

 と呟いた。


 姪っ子の杏は鶏のから揚げを食べながら

「明日、お父さんとお母さんとおじちゃんとで錦帯橋行っていい?」

 とニコッと笑って告げた。


 周次はそれに笑むと

「おお、明日はオフだからな」

 と答え

「いま錦帯橋は観光客がいないからゆっくり渡れるぞ」

 と告げた。


 空は茜色に燃え、久しぶりの団欒であった。兄の周一はそれを見て

「考えれば、俺も静子も病院で忙しくて杏をあまり旅行に連れて行ってやれなかったからな」

 と笑った。

「これからちょっと色々連れて行くか」


 杏はそれに抱き着いて

「わーい」

 と笑顔でじゃれついた。


 穏やかな時間であった。

 周次も家を出てからずっと一人暮らしだったのでこういう時間は何処かホッとして嫌いではなかった。家を出る前の家族との光景を思い出すからである。


 周一は周次の顔を見ると手を伸ばして

「お前も刑事は暇なしだが偶には遊びに来い」

 と告げた。

「互いに暇なしだがな」


 周次はそれに笑うと

「確かにだ」

 と告げて、ぱくりと唐揚げを食べて

「しかし、シェルターなんて本当にあんのか?」

 と告げた。

 

 それに兄の周一は笑って

「お前が知らんのに一介の医者の俺が知る訳がないだろ。反対に本当にあるのか?」

 と聞いた。


 次の瞬間であった。

 ドンッと扉が蹴りあけられて吹っ飛ぶ扉に全員が腰を上げた。


「Jアラートが日本国中に響いてます」

 ……核弾頭が20分後に着弾します……


 POL035こと和久津雪が周次の手を掴むと

「シェルターへの避難を」

 と言い足を踏み出しかけた。


 周次は慌てて

「待て!!」

 と言うと警察署からのサイレンに目を向けた。

 驚く兄家族を見ると

「兄さんと姉さんと杏を先に連れて行ってくれ」

 とPOL035こと和久津雪に告げた。

「俺は警察官だ。他の人々を誘導する」


 そう告げた時に和久津雪に少し遅れてやってきた本条燕が

「それは出来ない。狭間警部、貴方をシェルターへ連れて行くように俺は県警本部長から指示を貰っている」

 と言い、周一たちを見ると

「皆さんは俺の車でシェルターへ送ります」

 と告げた。


 そして、周次に

「いま、全警察官が出動して人々を誘導している。山口県のシェルターはPOL035が管理をしている。彼女がいないと誰も助からない。今は俺の指示に従ってもらう」

 と言い

「早く!!」

 と告げた。


 周一は杏を抱き上げて

「静子」

 と呼びかけた。


 彼女は頷き本条燕について足を踏み出した。

 本条燕は車にパトライトを乗せて

『緊急事態が発生しました。岩国ロープウェイ乗り場へ避難してください』

 と放送を掛けながら車を走らせた。


 後に付いてくる車や走る人々の姿があった。それを誘導する岩谷晃の姿があり、周次は和久津雪に止めさせると車を降りて

「係長!」

 と駆け寄った。

 が、岩谷晃は「何をしている!! お前はいけ!!」と怒鳴った。

「……AIがお前を選んだんだ。いいか、POL035を未来に連れて行け」


 ……お前の役目は重いぞ……


 周次は唇を噛み締めると敬礼して車に戻ると

「出してくれ」

 と告げた。


 本条燕も車を走らせながら中山和彦の姿を思い浮かべ

「……あの人も……広島に留まってくれていたら……それが無理なら俺も貴方の死と共に壊れることが出来たら」

 良かったのに、と呟きシェルターの入口のある岩国ロープウェイ乗り場へと車を到着させた。


 本条燕は先に周一たち家族をシェルターへと向かわせ、先を走ってる人々を誘導した。周次も和久津雪を見ると

「あと何分だ?」

 と聞いた。


 和久津雪は冷静に

「11分23秒です」

 と答え

「9分後に閉鎖を始めます」

 と告げた。


 周次は頷くと大声で

「後9分だ!! 走れ!!」

 と腕を回した。


 人々は駆け込み、誘導を受けた人々も中へと入っていった。

 和久津雪は周次と本条燕を見ると

「後1分で中へ移動を」

 と告げた。


 その時、少し手前に妊婦の女性が必死で歩いているのが見えたのである。

 周次が足を踏み出しかけたが、本条燕が手で止めると走り出して彼女を抱き上げると走って戻ってきた。


 その後ろに人の姿は見えなかった。

 最後の一人である。


 周次も本条燕と並走し

「和久津!」

 と名を呼んだ。


 彼女は頷くと

「閉鎖を開始します!」

 と閉まりかけた扉の中に4人は駆け込んだ。


 県本部の最上階からは尾を引くそれを中山和彦は見つめ

「燕……お前は翼を連れて未来へ飛べ。俺の愛する息子たち。頼むぞ」

 と笑みを浮かべた。


 他の人々も空を見上げた。西川公男もまた県知事の部屋の中で全てを知り蒼褪めていたのである。


 シェルターの中は酷く静かで誰もがろう人形のように固まっている状態であった。

 周次も動けない状態で冷静に立って上を見上げている和久津雪を見つめた。


 彼女は感情のない声で

「西へ51K佐波川に核弾頭が着弾しました」

 と告げた。


 シェルターの中で声を出す人はなく。

 誰も想定していなかった出来事に誰もがまんじりともせずに時間が過ぎゆくのをただただ見つめているだけであった。


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