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POL 終末のロボット警察官  作者: 如月いさみ


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終末のガディス 4

 岩国昭和工機株式会社本社ビルの経理部のフロアの山南圭介の机の上に一枚の付箋が貼り付けられていた。

『10時に決算報告書を持ってきてくれ 山内』

 それが事件の始まりであった。


 当の山南圭介は9時に出社するとそれを見てクシャリと握りしめて自身の机の前に置いているゴミ箱に捨てると決算書類を慌てて印刷した。

 そして、後ろの島に座る磯村佐代子に顔を向けると肩を竦めて印刷した決算書類をクリアファイルに挟んでカバンに入れると慌てて出て行きかけた。

 ちょうど入れ替わりに入ってきた同じ経理部の溝口優一郎とぶつかりかけて

「悪い」

 と言うとそのままフロアを後にした。


 溝口優一郎は「いえ」と答えて足を進めると自身の席へと向かった。それは何処にでもよくある会社風景であった。

 しかし、それから数十分後の午前10時に山南圭介は警察へと連行されたのである。


 岩国昭和工機株式会社の経理部長である山内嘉男が自宅で死んでいるのが見つかり、第一発見者の山南圭介が管理人に連絡をして警察を呼んだのが鍵は合鍵を作れないものでその鍵が死んだ山内嘉男の死んでいるテーブルの上にあった。


 死んで時間が経っておらず防犯カメラにも出入りしているのが映っていたのが彼一人だったということであった。


 狭間周次とPOL035こと和久津雪は本庁から新しくやってきた上条燕と共に巡回をしていた。

 上条燕は岩国の有名観光地となる錦帯橋の上を歩きながら周囲を見回し

「いつもこんな感じなのですかね?」

 とメガネを上げながら周次に聞いた。


 思いった以上に人がいないということである。今も下の河原にも橋の上にも人の姿は無く三人がポツンと歩いている状態であった。通常は見回しただけでも数十人の観光客がいるのにだ。

 異常な少なさと言えた。


 巡回の為に乗ってきた車を止めるにも全く苦労がなかった。つまり駐車場もガラガラと言うことである。


 周次はう~んと唸りながら

「いや、普段でももっと多いんだがな」

 と答えて、上条燕の携帯と同時に音を奏でた自身の携帯を手に取った。


 捜査一係長の岩谷晃から緊急連絡であった。

「上条警部と和久津と三人で直ぐに岩国駅近くにあるザ・レジデント岩国マンション502号室へ向かってくれ。そこで殺人事件が起きた」


 同じ連絡を上条燕は刑事課長の多田陽二郎から受けており二人は顔を見合わせると頷いた。POL035こと和久津雪は二人を見ると

「ご案内します。ここからなら歩いていけます」

 と告げた。


 彼女の中にはマップデータが呼び出されており場所を特定できていたのである。周次と上条燕は彼女の後に付いて足を進め、10分ほどで現場へと到着した。


 7階建てのマンションで既に規制線が張られて鑑識が遺留品採取をしている最中であった。三人は規制線を潜ってマンションに入ると問題の502号室へと向かった。岩国昭和工機株式会社の経理部長である山内嘉男の部屋であった。


 周次は玄関からそのまま廊下を進みリビングへと入った。リビングにはテーブルがありその上に二つの中身の入ったワイングラスが置かれていた。

 その横に遺体があり、三人は両手を合わせてから遺体を調べた。血を吐いているところから死因が毒殺であることは直ぐに判断できた。


 周次は鑑識のリーダーである河野和也に

「河野さん、ガイシャの死亡原因は毒か?」

 と聞いた。

 河野和也は指紋採取をしているメンバーに

「そこ丁寧にとってくれ」

 と指示を出すと足を踏み出して周次と和久津雪と本条燕の前にやってきた。

「ああ、毒物だ。こっちのガイシャの方のグラスにだけ入っていたな」


 本条燕は手袋をすると毒が入っているグラスのステイ部分を持ってグラスを光に向けた。

「狭間警部、これを見てもらえますか?」

 そう言ってグラスについている唇の指で示した。


 周次は覗き込み目を細めると

「飲んだ後だが」

 と呟いて

「和久津」

 と和久津雪を呼んだ。


 和久津雪は周次の隣に立つとグラスを受け取りじっと見つめると

「唇の部分……乾いていますね」

 と告げた。

「恐らく1時間以上は経っていると思われます」


 周次は河野和也を見ると

「河野さん、ワイングラスの唇の痕なんだが」

 と告げた。


 河野和也は「ああ」と言うと

「先ず唇の痕の乾き具合から恐らく1時間以上であることは間違いないが……遺体は死亡して直ぐの状態だった。死後硬直もしていなかったからな」

 と言い

「ああ、それからワイングラスのこの中の液体からだけ毒物反応が出た。違和感があるがな」

 と告げた。


 本条燕はそれに

「遺体の解剖は」

 と聞いた。


 河野和也は冷静に

「もちろん、する」

 と答えた。


 そこへ捜査一係の坂井剛志と鈴木武が姿を見せて三人の元へ寄ると坂井剛志が

「いま容疑者の取り調べをしているんだが……やっていないの一点張りでな。とにかく容疑者は捕まっているし帳場に戻って来いという話だ」

 と告げた。


 周次は頷くと

「容疑者が捕まったっていうのは?」

 と聞いた。


 鈴木武が手帳を見ながら

「岩国昭和工機株式会社の経理部にいる山南圭介が管理人に遺体発見の連絡をしたんだが……鍵はテーブルの上にあってな。このマンションの防犯カメラには第一発見者の山南圭介以外に前後2時間いなくて」

 と告げた。

「連行して取り調べをしている。本人は遣ってないと言って、朝出社したら机の上に『10時に決算報告書を持ってきてくれ 山内』と書かれた付箋があってそれを捨ててやってきたと言っている」


 周次は鈴木武に

「その付箋は?」

 と聞いた。

 鈴木武は肩を竦めると

「そんなものはなかった」

 と答えた。


 だが。

 だが。

 犯行は否定し続けているのだ。


 周次は和久津雪を見ると

「お前ならどうする? 和久津雪」

 と聞いた。


 彼女は表情を変えることなく思案し

「調べる? でしょうか」

 と聞いた。


 周次は笑むと

「ああ、そうだ」

 と答え、本条燕を見ると

「岩国昭和工機株式会社にその痕跡が本当にないかどうか調べようと思うが」

 と告げた。


 本条燕は眼鏡を軽く押し上げて

「それがセオリーですね」

 と笑みを浮かべて答えた。


 周次と和久津雪と本条燕の三人はいったん車を止めていた駐車場に戻り、そこから岩国昭和工機株式会社本社ビルへと向かった。本社ビルは錦帯橋からは離れた岩国駅の近くにあり工場は更に離れた新岩国との間にある少し閑散とした農業地帯を拓いて作られていた。


 三人は本社ビルに着くと受付の女性に手帳を見せて

「経理課のフロアに」

 と告げた。


 既に連絡が回っていたようで女性は緊張した面持ちで立ち上がると三人を

「こちらです」

 と三階にある経理課のフロアへと案内した。


 そこには二つほどの机の島があり、一番奥に今回殺害された山内嘉男の経理課長の席があった。周次は一番手前の島の端に座っている女性に

「すみませんが山南圭介さんの机はどちらに?」

 と聞いた。


 女性は立ち上がると足を進めて隣の島の端から2番目の席へと案内し

「こちらです」

 と告げた。


 全員が手を動かしながらもジッと三人の動向を見つめているのが分かり、周次にしても上条燕にしても

「「まあ、気持ちはわかる」」

 と心で呟いた。


 上条燕は手前にあったゴミ箱を見ると

「ここは調べているみたいですね」

 と告げた。

 中がぐちゃぐちゃと言うことである。


 周次もパッと見て

「そうだな」

 と答え手袋をすると机の上を調べ始めた。


 和久津雪はそれを見つめ

「信じるのですか?」

 と聞いた。

「被疑者が犯罪者の場合ウソの確率はかなり高くなります」


 周次はそれに

「だが嘘じゃない確率はゼロじゃないだろ? それに被疑者は被疑者でまだホシじゃねぇ」

 と告げた。

「信じることも場合によっては警察官の仕事だ。お前は周辺の聞き込みをしろ。朝に山南圭介が付箋らしいものをみていたかどうか、とかな」


 和久津雪は敬礼すると

「はい」

 と告げ、隣に座っている男性に

「こちらの机に付箋などが貼られていたのを今朝見られたことはありますか?」

 と聞いた。


 男性は首を振ると

「いや、俺は気付かなかったです」

 と答えた。

 和久津雪は頭を下げると

「ありがとうございます」

 と答えた。


 更に奥へと順々に聞き始めた。

 男性はそれを横目で見て立ち上がると足を踏み出した。上条燕はそれを一瞥して周次を見た。

 周次は頷くと作業を止めて和久津雪の元へ行くと

「あの男の後を追って様子を見ろ。何もしなくていいが怪しい動きがあったら奴の動きを止めておけ」


 和久津雪は「はい」と答え男性が出て行った後に付いて足を進めた。上条燕はゴミ箱を置いて

「じゃあ続きは俺が聞きます」

 と周次にいうと隣の島の先の女性に声を掛けた。

「すみませんが、今日、山南さんを見られましたか?」

 そう問いかけた。

 女性は頷くと

「ええ、出社したらちょうど山南さんも来られていて机の上の付箋だと思いますけど握って捨てているのを見ました。恐らく山内課長の呼び出しだと思います。偶にそういうことがあって彼は軽く肩を竦めるんです」

 と言い

「それで印刷してそれを持って出て行かれました」

 と告げた。


 上条燕は目を細めると

「なるほど」

 と呟き

「その後ゴミ箱の中身を掃除の方が集めたりは?」

 と聞いた。


 女性は首を振ると

「いいえ、自分の足元のごみは自分で捨てることになっているので」

 と言い、すっと男性が出て行った扉を一瞥して直ぐに視線を戻すと

「関係ないかもしれないんですけど……隣に座っていた溝口くんが山南さんのゴミ箱に手を入れていたんです」

 時々間違って捨てることあるから気にしすぎかもしれませんけど、と告げた。


 それに隣に座っていた女性は笑って

「そうそう、彼も山南さんと一緒で山内課長から付箋で呼び出しされるから時々間違って山南さんのゴミ箱にぽいしてることあるわね」

 と言い

「でも溝口くんは付箋は一日は残しているのよ。席を開けていたことを言われた時に付箋を見せて『これで呼び出されました』っていうために、その後でびりびりに破いてすてるのよね」

 と告げた。


 本条燕はにっこり笑うと

「ありがとうございます」

 と言い、直ぐに溝口優一郎の机に行き

「狭間警部、今話を聞くとこの席の溝口と言う男性社員が今日そのゴミ箱に手を入れていたそうです」

 と告げた。


 その意味。


 周次はすぐに

「わかった」

 と言うと駆け出した。


 本条燕は溝口優一郎の机を探った。周次はその探索を彼に任せて背に向けるとフロアを走って出た。もしかしたら付箋を手に入れて捨てに行ったのかもしれないと思ったのである。


 その時、ドーンと激しい音が響いた。慌てて音の方に目を向けると男性トイレがガッと開きPOL035こと和久津雪が溝口優一郎を担いで姿を見せた。


 ……。

 ……。

「おいおい、男子トイレまで付いて行ったのか?」と周次は心に冷や汗を流した。

 和久津雪は表情を変えないまま

「男子トイレまで付いて行ったわけではありません」

 と答え

「男子トイレの扉を開けて監視しようとしたら腕を掴んで引き入れられて殴り掛かってきたので制止しました」

 と告げた。


 周次は上を見ると

「俺が追跡すべきだった」

 と心で叫んだ。


 和久津雪は千切れた黄色の紙を数枚前に出し

「これを彼が捨てようとしました」

 と手袋をした周次の手の上に乗せた。


 ペンで何かが書かれていた付箋であった。


 周次はそれをビニール袋に入れて救急車を呼び警察病院へ行くように救急隊員に告げた。本条燕が救急車に乗り込み

「俺が付き添います」

 と立ち去った。


 周次は和久津雪と共に岩国警察署へと戻り科捜研に指紋採取をすると三人の指紋が検出された。山内嘉男と山南圭介と溝口優一郎のモノであった。内容は『10時に』『山内』と書かれていたので恐らく山南が言っていた付箋だと分かった。


 その事を溝口優一郎に追求すると自白したのである。山内嘉男に経理不正をして横領していたことがバレて注意受けて会社にばらされると思い殺すことを思い立ち、自分と山南圭介が何時も同じ付箋に呼び出されていることを利用しようと思ったということであった。


 山内嘉男の検死からは睡眠薬成分と溶けかけのカプセルの欠片が検出され、溝口優一郎は睡眠薬で眠らせカプセルに入れた毒物を飲ませてワインに同じ毒を入れて帰り、毒が回る頃に付箋で山南圭介を呼び出したということであった。

 鍵はかけずに山南圭介が入れるようにしていたのである。


 事件が解決し和久津雪は岩国警察署の自身の机に座り隣に座る周次を見つめた。


 ……私の存在意義のその向こうに意味があるのか……


 欲に溺れた犯罪。

 己の愚かな行動の先に起こす犯罪。

 非合理的な復讐と言う名の犯罪。


「人類に未来を与える意味があるのか」

 判断回路の中でループを起こしている状態であった。


 周次は彼女を見て

「やはり心だな。それを理解しない限りこいつは警察官にはなれない」

 と心で呟き

「それでも命は大切なんだと教えねぇとな」

 と息を吐き出した。


 その様子を見て本条燕は目を細め

「本部長、俺にこの二人を未来に導くフォローが出来るかどうか」

 と苦く笑むしかできなかったのである。


 三人がそれぞれ沈黙を守っていた時、扉が激しく開き刑事の一人が飛び込んできたのである。


「いま、県庁と県警本部を取り囲んでデモが起きている!! ニュースを!!」

 

 全員が驚いて目を見開き、多田陽二郎刑事課長が慌ててフロアにあるテレビをつけた。

 そこには大混乱を起こしている県警本部と県庁の姿が映っていた。


 本条燕は静かにそれを見つめ

「……お父さん、きっとお父さんなら大丈夫ですよね。俺も判定反転してやり切りますよ。貴方の望みですから」

 と目を細めていた。


 一人の男がマイクを持って訴えていたのである。


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