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POL 終末のロボット警察官  作者: 如月いさみ


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終末のガディス 3

 岩国警察署が管轄する区域は東京や大阪などの大都市と違って比較的に落ち着いた場所であるが、観光客はやってくる。特に錦帯橋と岩国城という二大観光場所があるのでその区域は土産物屋などが立ち並んでいる。

 また、JR岩国駅の周辺や現在少し開け始めている新岩国駅の周辺にもビルやマンションなどが立ち並んでいる。そいうところで時折だが事件が発生するのだ。


 駅前の商店街の通りを狭間周次はPOL035こと和久津雪を連れて巡回しながら不意に足を止めると店と店の間の細い路地裏を睨んだ。

 二つの人影が見えたからである。


 彼は店の主人に軽く手を上げて横手を抜けて路地を進むと向かい合っている二人の男を見た。一人は体のデカい男で足を壁に押し付けた少年のような青年の股の間に膝を押し当てていた。

「逃げようったってそうはいかねぇからな」


 脅されているらしいもう一人の青年は眼鏡を軽く押し上げて

「逃げるつもりはないですけど」

 と周次と和久津雪に気付いたらしく横目で見た。


 怒鳴っていた男は二人に顔を向けると

「あぁん? 関係ねぇ奴は下がってろ」

 と腕を振った。


 だが、どう見てもカツアゲだろうと周次は肩を竦めると

「そういう訳にもいかなくてな」

 と警察手帳を見せた。

「詳しく経緯を聞きたいんだが」


 その途端に巨漢の男は舌打ちすると

「サツかよ」

 とほっそりとしたメガネの青年のネクタイを払って逃げようとした。


 瞬間に周次と和久津雪は同時に足を踏み出しかけて目の前の光景に息を飲み込んだ。先ほどから脅されている雰囲気だったか弱そうな青年が男の手を掴んで捻り上げると押し倒したのである。

「一発殴らせて暴行罪でしょっ引こうと思っていたけどしょうがない」


 そう言って手錠を出すと

「恐喝で逮捕する」

 と男の手に手錠をした。


 巨漢の男は驚き

「てっめぇもサツだったのかよ。ガキっぽく見えたのに!!」

 と驚いて肩越しに青年を見た。


 彼はにっこり笑うともう一方の手にも手錠をして

「県警本部刑事部捜査第二課一係の本条燕であります」

 と男の上に乗って敬礼した。


 周次は驚きに目を見開き

「何故、本庁の刑事が?」

 と聞いた。


 本条燕は男を立たせて

「彼を連行してから」

 と告げた。


 男は後ろ手に手錠をされて

「ちくしょう」

 と喚きながら足を進めた。


 その時、周次の携帯に刑事課捜査一係の岩谷晃から電話が入ったのである。

「アースランド社のビルに爆弾が仕掛けたと予告メールが届いた。直ぐにPOL035……いや、和久津雪と共に戻ってきてくれ」


 周次は「わかりました」と答えると本条燕を見ると

「いま、アースランド社の方で事件が起きたようなので」

 俺たちは、と言いかけた。


 それに手錠をされた男はハッと目を見開くと

「そ、それ」

 と声を零しかけて、本条燕に腰を蹴られた。

 本条燕は表情を一変させると男に

「やっぱり、お前」

 と告げて周次たちに

「俺はアースランド社のことで調べている最中だったので、一緒に向かわせてもらう。車をこっちに止めているので」

 と商店街の脇にあるコインパーキングに二人を連れて行くと車に男も押し乗せて走らせた。


 周次は和久津雪を助手席に座らせて自身は男と共に後ろに座り

「それはどういう?」

 と聞いた。


 本条燕は運転しながら

「アースランド社は密輸疑惑があると密告があって……その一端をこいつがやっていると聞いてね。張っていたんですよ」

 と告げた。


 男は慌てて

「おいおい! 言っとくが俺は殺しにも密輸には関わっちゃいねぇぜ!?」

 と告げた。

「俺のやったことはちょいっとアースランドの社長さんに脅しをかけたくれぇでよ」


 本条燕はフフッと笑ってメガネを押し上げると

「なるほど、げろってくれて助かりましたよ」

 と返した。

「その脅しのネタと入手ルートを教えてもらいましょうかね」


 男は顔を顰めると

「ったく、軽く肩あたってきて弱っちい野郎で金脅し取ろうとしたのに……それがサクラだったとは」

 と舌打ちした。


 周次は二人を交互に見て

「……本庁でもこういう刑事がいるんだな」

 と内心呟いた。


 本庁と所轄にははっきりとした格差があり本庁刑事が指揮をとり所轄はそれに従って動く。そういう形でどうしても所轄から見れば本庁の刑事は『お高く』止まっているように見えるのだ。


 車が到着すると本条燕は男を取調室に連れて行き、周次と和久津雪は刑事課のフロアへと向かった。すると係長の岩谷晃から帳場が会議室に立っていることを言われ末席で参加したのである。

 会議室の前に貼られたホワイトボードには印刷された紙と爆破予告されているビルの写真と恐らく中で閉じ込められているだろう人間の写真が5枚あった。


 6時間後の17時までに暗号を解いて事件を解決してニュースで流せば爆弾は止めるという趣旨のメールであった。だがそれが出来なければアースランド社の社長と秘書と経理課長と営業課長と経理社員の一人を本社ビルの最上階の会議室に閉じ込めているのでそこを爆破して殺すと書かれていたのである。


 現時点で12時なので暗号を解き、そこから『犯人の言う事件』を解決すると考えると時間は殆どなかった。周次は前に座った岩谷晃から暗号らしい4枚の紙をホッチキス止めされた紙を受け取り和久津雪に見せた。

「暗号文だ。何か分かったら言ってくれ」


 和久津雪はそれを受け取り見つめた。


 暗号はエクセルとシートで作られており5行7列の表であった。シートは4つあり最初の3シートは全て空白で一枚目のシートのタグが11。二枚目のシートのタグが21。三枚目のタグはなかった。

4枚目のシートの3行3列目に11という数字が書かれ、4行6列目に21という数字が書かれていた。


周次も横から見て

「5行7列か」

 と小さく呟いた。


 和久津雪はガタッと立ち上がった。全員が驚いて彼女を見つめた。静寂が広がる中で彼女は

「答え解りました」

 と告げた。

「しかし確信を得るにはファイル名を教えてください」


 周次は彼女を見つめ

「わかったのか!? 和久津」

 と告げた。

 重なるように驚きながら前にいた刑事課長の多田洋二郎が

「ファイル名か? 2024で今年の西暦だな」

 と答えた。


 和久津雪は表情を変えることなく

「3月12日と4月26日です」

 と告げた。


 周次は彼女のところにあった紙を手に少し考えると

「カレンダーか」

 と呟き携帯でカレンダーの表示を見て目を細めた。

「なるほど、今年のカレンダーで3行3列に11、そして、4行6列に21が来るのは6月しかない。そしてそれぞれの場所をシートの枚数で考えると3枚前は3月で11の場所は3月12日。2枚前は4月で21の場所は26日か」


 その時、会議室の扉が開き本条燕が

「なるほど、そういうことですか」

 と告げてメガネを軽く上げた。

「その3月12日と4月26日はアースランド社の社員がそれぞれ自殺をした日です」


 そう言って手帳を見ながら

「3月12日は経理課に勤めていた静岡健太という男性社員がビルから飛び降りて自殺し、4月26日は営業課の天野了一という社員が同じようにビルから飛び降りている」

 と告げた。


 周次はそれに立ち上がると

「それは本当に自殺だったのか?」

 と聞いた。


 本条燕は二枚の紙を前に行って貼り付けた。

「両方とも科捜研で調べて貰ったら本人の直筆だと判定された。多少の震えがあるが自殺の前で精神が普通ではなかったからではないかと判定したそうだ」


 そう言って本条燕は腕を組むと

「ただアースランド社の本社ビルは山口駅の側でもかなり大きいモノだが貨物船はこの岩国港のコンテナターミナルに下ろされて配送されている。その中に禁輸品があるという密告が本庁にあって捜査二課の我々が動いていた」

 と告げた。

「その不随としてその自殺についても一応の資料は持ってきている」


 周次は立ち上がると前へと進んだ。岩谷晃は驚いて手を伸ばした。

「おい! 狭間」


 それに和久津雪はその手を掴むと

「逆らわず」

 とにっこり微笑んだ。


 彼女は美人である。が、それゆえに不穏な笑みは余計に恐怖をそそるのである。しかもPOL035という製造番号をもつロボット警察官である。ここで乱闘になって負けるのは生身の自分たちである。


 全員が固唾を飲み込んで狭間周次の後に付いてカツカツと足音を立てて進む彼女を見つめた。


 狭間周次は遺書のコピーを手にして見つめた。静岡健太の遺書は酷く短く更に震えも酷かった。

『会社に損害を与えすみません。死んでお詫びいたします。静岡健太』

 そう書かれていた。


 天野了一の遺書は震えが少なかったが長い文面であった。通常の遺書のように思い付きではないような感じであった。

『会社の金を横領し

会社に顔向けできません

此処にお詫びします

友の自殺もそこにあると

私の愚かさゆえに

友人を道づれにしてしまい

すべてを終える覚悟です』


周次はそれを見て

「おかしい」

 と呟いた。


 隣で座っていた刑事課長の多田陽二郎や岩谷晃や他の舘岡修也や松川貢、坂井剛志や鈴木武なども立ち上がって周次と和久津雪の元へと集まった。

 本条燕は目を細めて口角を僅かに上げて

「何がおかしいんですか?」

 と聞いた。


 周次は『すべて』を指さし

「難しい漢字を使っているのに『全て』を平仮名にしている。それに道連れも『道づれ』と態々……」

 と言いかけて目を見開くと

「これは自殺じゃない」

 と告げて、鉛筆を出すと文字の上に線を引いた。


 それに全員が息を飲み込んだのである。


 最初の文字『会』から斜めに読むと『会社に殺される』と読めるのである。

本条燕は笑むと

「では自殺調書を持ってきます」

 というと踵を返して駆け出した。


 そして二人の自殺調書を持ってくると一番前のテーブルに広げた。

「俺はアースランド社の密輸捜査に加わった時に関連としてこの調書を見せてもらったんですが納得できない部分があったんですよ。ただ手書きの遺書の威力は絶大でしたし既に自殺として決着も付いていたのでね……まあ、事の序にあの男からこの件に関しても聞こうと思っていたんです」


 調書のページをめくり

「俺がおかしいと思ったのは天野了一の自殺の際の手の位置が逆だったってことです」

 と告げた。


 周次はハッとすると

「つまり背中を付けて手摺りを持っていたのを誰かが無理やり押し落した」

 と告げた。


 本条燕は静かに頷いた。

「俺はそう判定しました」


 岩谷晃は腕を組むと

「もしこの遺書の本当の意味に気付いた人間が復讐をするために爆破を」

 と呟いた。


 多田陽二郎は全員を見ると

「時間はあと4時間ほどだ。この二人の死を他殺と考え再調査をすると同時にこの遺書の本体は遺族に返されているのでそこから今回の復讐劇の人物の特定をする。再調査は捜査二係が、復讐者の割り出しを捜査一係が担当するように」

 と指示を出した。

「その後に更に二人の他殺の原因を」


 言いかけた時に本条燕が

「それに関しては先ほど逮捕した男が落ちたので大体は分かっています。岩国港コンテナターミナルのアースランド社の荷物の強制捜査を行います」

 その結果をそちらへご報告します、と告げて踵を返すと立ち去った。


 岩谷晃は周次を含めて捜査一係の面々を見ると

「よし、狭間と和久津の二人は天野了一の家族を当たる。坂井剛志と鈴木武は静岡健太の遺族から当たってくれ。舘岡修也と松川貢はアースランド本社ビルで様子を見て待機をしておいてくれ」

 と告げた。


 全員が敬礼をして立ち去った。周次は和久津雪を見ると「行くぞ」と声を掛けて帳場を飛び出した。全員がそれぞれに散らばり帳場には刑事課長とそれぞれの係長だけが残った。


 周次は和久津雪を車に乗せると調書を手に天野了一の実家へと向かった。彼の実家には誰もおらず近隣の住人に聞くと父親と二人暮らしだったが自殺後に身体を壊して山口県立病院に入院しているという話であった。

 隣の家の女性は息を吐き出し

「凄く良い息子さんで結婚も近かったのに……自殺なんてねぇ」

 と告げたのである。


 周次はそれをメモに取りながら

「結婚、ですか? その女性は?」

 と聞いた。


 女性は残念そうに笑み

「確か……同じ会社の人だって言っていましたけどねぇ、凄くいいお嬢さんで自殺後も天野さんに付き添って病院へ行くのを見ましたけどね」

 確か香谷さんとか、と告げた。


 周次は礼を言うと和久津雪を乗せて車を走らせた。和久津雪は前を見つめ

「意味がわかりません」

 と告げた。

 運転しながら周次は「何がだ?」と聞いた。


 彼女は表情を変えず

「こんなことをしても死人は戻らないし、反対に犯罪者としてペナルティだけを受けることになります」

 と告げた。

「計算しても割に合わないです」


 周次は「なるほどな」と言い

「だがな、大切な人を殺されたのに自殺として全てを覆い隠してその犯罪の上で胡坐をかいて犯人は裁かれもせずに笑っている」

 と言い

「それを許せないとおもう気持ちはわかるし、それは俺たち警察の責任でもある。違和感がありながら遺書の上っ面だけを見て自殺として扱ってしまった。もちろん、事件の件数は多く一つの事件にずっと関わることが人力的に難しい部分がある。その事情はある。だが」

 と目を細めた。

「犯罪者を見逃すことは次の犯罪を誘因することにもなる。しかも被害者を加害者に作り替えてしまう」


 ……ペナルティを受けてでも大切な人を殺し裁かれもしない相手に復讐をしたいという気持ちを理解できない限り……

「人間の心を理解しない限りお前は警察官にはなれない」


 和久津雪は目を見開いた。


 周次は冷静に

「様々な事情でその罪の坩堝に嵌ってしまいそうになる人間を事前に救うことは罪を犯した人間を捕まえるより大切なことだ」

 その両輪ができてこそ警察官だ、と告げた。


 周次は前を見たまま黙る彼女を横に山口県立病院の駐車場に止めると天野了一の父親である天野了三に面会した。力なくベッドに横たわっている天野了三は二人を見ると

「今更警察に話すことなど」

 と呟いた。


 和久津雪はそれに

「しかし、アースランド社のビルを爆破させて社長を殺せば懲役20年以下の刑に問われます。社会的にも生きていくのが難しい」

 と告げた。


 それに天野了三はカッと彼女を見ると

「息子は『会社に殺される』と訴えたのに!! 犯罪者を庇って何の罪もなく殺された息子は見捨てろというのか!!」

 と怒鳴った。


 和久津雪は表情を変えず

「我々は理由があろうと犯罪者を逮捕します」

 と告げた。


 天野了三は笑って

「お前たちが息子を殺したあの男たちを見逃したんじゃないか! 今はニュースでも良く強盗に入った犯罪者の事情があーだこーだと理由を付けて直ぐ庇おうとするがやつらは『金を手に入れようと欲に付け入られて何の罪もない人間を傷つけ殺し金を奪った凶悪犯』であることに違いないだろ!! なんの罪もないのに傷つけられたり殺されたりした人間に対して、どんな面でそういうのかと俺は何時も思ってる!!」

 俺にも同じことさせろと!! もっとひどい目に合わせてやりたいとな!! と怒鳴った。

「庇う奴ら全員大切な人が同じ目にあってもその罪人には事情があってと言うのかと聞きたい」


 周次は彼を見つめ

「やはり、遺書の意味を理解していたんですね」

 と告げた。

 そして頭を下げると

「息子さんともう一人の方を自殺と判定したことを本当にお詫びします」

 と告げた。

「いま警察の方でも再捜査し、きっちり罪を償わせます。その上で、被害者である貴方たちに俺たちは罪を犯させたくないと思っています」


 ……復讐される相手がというより復讐する貴方たちが何故罪を犯して裁かれなければならないのかと、警察のせいでこんなことになってしまった以上はこれ以上の辛さや重さを味あわせたくないと思っています……

「どうか、今誰が社長たちを閉じ込め爆破しようとしているか教えてもらいたい」


 長い沈黙が流れた。

周次は天野了三を見つめ

「貴方はいま動けないと考えると貴方の意志を継ぐ人間だと思います。もしかしたら天野了一さんの婚約者の香谷さんという女性ではと思いますが、彼女に復讐を託して罪人として刑に服させて貴方は良いと思っていますか?」

 と告げた。

「今更だと思いますが警察に挽回のチャンスをいただきたい。彼女を救うためにも」


 天野了三は周次を見ると

「今度は、ちゃんと奴らを裁いてくれますか? 真実を明らかにしてくれますか?」

 と告げた。


 周次は頷いた。

「はい、必ず」


 天野了三は涙を流すと唇を開いた。二人は話を聞くと病院を出て岩国警察署の帳場に電話を入れるとアースランド社本社ビルが近いということでそのまま向かった。


 時間は既に16時30分に差し掛かり殆どなかった。周次は待機していた舘岡修也と松川貢に話をして

「俺は彼女に伝えたいことがある」

 というとビルの中へと入った。

 POL035こと和久津雪は後を追いかけて止めると

「貴方を死なせるわけにはいきません! 貴方には山口県……いえ日本の未来が掛かっているのです」

 と告げた。

「他の人に変わるべきです!」


 周次はそれに笑むと

「俺は天野了三さんと約束をして言葉を託された。警察官として二度彼を裏切る訳にはいかない」

 と言い

「お前は来る気がないなら来るな」

 とエレベータに乗り込んだ。


 社長が閉じ込められている最上階の部屋にはロックが掛かっており中からしか開けることが出来ない状態となっていたのである。

男の喚き声だけが響いており

「助けてくれ!! この女を逮捕しろ!!」

 と叫んでいた。


 時間は既に10分を切っていた。

周次は戸の前に立ち

「うるせぇ黙れ!!」

 と怒鳴ると

「それ以上叫ぶと死ぬぞ!!」

 と叫んだ。


 瞬間に静寂が広がり周次は戸の向こうに向かって

「香谷さん、天野了一さんの婚約者だった香谷さんですね。先ず警察の怠慢を許してもらいたい。遺書に殺されることを書いていたのにそれを読み取ることが出来なかった」

 と言い

「いま二件の自殺について再調査しています。きっちり犯人を捕まえて罪を償わせます。それとこれが貴方へのメッセージです」

 と告げて、携帯に録音した天野了三のメッセージが流れた。


『私の恨みを貴方に託して申し訳なかった。貴方が死ねば私も死のうと思う。犯罪者を許すことは一生できないし、警察も許せないが、もう一度だけ警察を信用しようと思う』


 それに扉が開き、涙に暮れる女性が立っていた。


 逮捕に動きかけた警察を和久津雪は手を横にゴっと伸ばして制止した。

 周次は彼女を前に頭を下げて

「本当に申し訳ありませんでした」

 と告げた。


 香谷百合子は両手で顔を覆った。

 部屋の中からはタオルで縛られて動けないアースランド社の社長と経理課長と営業課長と経理社員の一人が倒れていたのである。ただ爆弾はなく爆弾に見せかけた花火が仕掛けられていただけであった。


 元々殺すつもりはなく恋人と彼の親友の自殺の再調査をしてもらいたかったということであった。


 社長は解放され香谷百合子は警察へと連行された。が、社長がビルの下へ行き報道陣が詰めかける中で

「ったく、自殺の逆恨みも甚だしい」

 と吐き出すように言った瞬間に本条燕と多田陽二郎が4人の前に姿を見せると逮捕状を広げた。

 本条燕は冷静に

「岩国港コンテナターミナルに保管されている荷物の中から大量の薬物が輸入用ワインの瓶の中から発見されました。同行お願いします」

 それと、と多田陽二郎を見た。

 多田陽二郎も逮捕状を見せ

「アースランド社の経理社員である静岡健太と天野了一の殺人で逮捕する」

 と告げた。


 それに社長は蒼褪めると

「遺書があっただろ!! あの二人には遺書を書かせた……」

 と言いはっとすると周囲を見回した。


 カメラのフラッシュがあちらこちらから焚かれニュースキャスターの声が響いた。

「遺書を書かせたとはどういう意味ですかー!?」

「お聞かせください!!」


 声が響き、ざわめく人々の中で社長と経理課長と営業課長と経理社員はパトカーへと連行されたのである。


 本条燕が捕まえた男はアースランド社のビルの警備会社の人間と繋がっており自殺当日に静岡健太に銃を押し付け無理やり屋上へ連れて行く経理課長と社員の姿が防犯カメラに写っており、同じように天野了一の時は営業課長と経理課長が銃で脅しながら連れて行く姿が映っていたのである。


 それぞれカメラ映像を消すように警備会社に依頼していたが社員がコッソリとデータを落として男に売っていたのである。


 遺書の『会社に殺される』という暗号についても追及され、三人は全てを自供したのである。二重伝票があり最初に静岡健太が積み荷に疑問を持ち社長に進言して密輸していた拳銃で脅されて無理やり飛び降りさせられ、その後に友人の自殺を不審に思って調べていた天野了一は予感はしていたが全てを知り飛び降りを拒否したために無理やり突き落とされ口封じされたということであった。


 4人は密輸薬物などの罪と同時に殺人と殺人教唆で捌かれることになったのである。


 事件は終わったが本条燕は県本部長の命令で岩国警察署に勤務することになり何故か三人で巡回することになったのである。

 

 POL035こと和久津雪は前を行く二人を見つめ不意に足を止めると

「人は酷く非合理的だと思います」

 と告げた。


 周次は振り返り

「確かにそうだな」

 と返した。

「だがそれが悪いわけじゃない」


 和久津雪は俯き

「人が分かりません。生きるべきか、滅びるべきか」

 と呟いた。


 その意味が周次には分からなかったのである。

 それに本条燕は静かな笑みを浮かべた。

「POL035はPOL系の中でも人格形成プログラムの感情メソッドから出力されるデータを最小限度に抑えた作りになっているようだね」

 そう心で呟いたものの口を開くことはしなかった。


 この頃になると観光で賑やかな錦帯橋で有名な岩国も少しずつ人が減り観光客の姿もめっきり見えなくなっていたのである。


 そして、本条燕は向かい合う二人を興味深そうに見つめ

「さて、彼はこの『使命に忠実なる』POL035を導けるのか……ちゃんと見届けますよ、県警本部長。いえ……お父さん」

 と心で呟いていた。


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