終末のガディス 1
けたたましいサイレンの音が響き、赤いパトライトが袋小路となるビルの狭間の路地に追い詰めた犯人と共に周辺のビルの壁も血のように赤く染めていた。
「そこまでです。抵抗せずに投降してください」
茶色の長い髪を風に梳かしヒールの足音を響かせながら一歩また一歩ほっそりとした体躯の女性が壁に背を付けて銃を構える男の前へと進んだ。
「来るな!! 本当に撃つぞ!!」
叫ぶ男を前に彼女は綺麗な笑みを浮かべると
「撃ちなさい。私も貴方を撃ち抜きます」
とチャカッと銃を向けた。
「な、何を言ってる警察が!!」
男は『警告もせずに撃って良いのかよ!』とせせら笑いながら震える手で引き金にかけた指先に力を込めた。
発砲音が響き彼女は向かってくる銃弾を素早く左に避けると不敵な笑みを浮かべて左手で銃をぶっ放した。
躊躇も警告もない一発である。
男は目を見開くと「うひぇ」と声を漏らして、そのまま壁を背にズルズルと座り込んだ。白目をむいて空を仰ぐとそのままカクンと頭を前に垂れ意識を失った。
赤の光と闇の黒が交互に男を染め、パトカーの後ろから銃を構えていた岩国警察署刑事課捜査一係の狭間周次は弾が貫通して割れたパトカーのフロントガラスを横目で見て
「まじ、弾避けやがった」
と小さく呟き、壁に凭れて倒れている男の前に進むと女性に目を向け
「和久津、お前が手錠をしろ」
と告げた。
彼女は銃をホルダーに直しながら
「私が、ですか?」
と聞いた。
狭間周次は頷くと
「POL035……和久津雪。お前も警察官だ。逮捕しろ」
と告げた。
彼女は男の前に膝をつくと手錠を出して
「午後23時31分。強盗殺人罪で佐藤民男を確保」
とカシャンと音を立てながらヘタリと垂れている両腕に嵌めた。
全国47都道府県にロボット警察官が配属されて1週間。山口県警にやってきたのはPOL035と製造番号が付く女性型ロボット警察官であった。
白磁の肌に茶色の長い髪をした且つて流行った警察ドラマの悪役刑事に登場する皆月若葉の容姿をした綺麗な女性型ロボットである。
だが、その行動力と射撃能力は山口県警一の狙撃手と言われた狭間周次をもってしても
「適うかよ」
と言わせるほどのモノであった。
ただ何も問題がないというわけではない。
狭間周次は佐藤民男をフロントガラスに穴の開いたパトカーの後部座席に突っ込みながら一言だけ和久津雪に
「お前の腕は信用している。だが男の玉のギリギリを狙うのは止めろ」
精神的に死ぬ。と告げて運転席に座るとアクセルを踏み込んだ。
POL035こと和久津雪はニコリともせずに
「了解しました。狭間警部」
と答え、佐藤民男の頭に銃口を押し当てて
「次はここを狙います」
と告げた。
……ビックデータに敵は完膚なきまでに叩けとありました……
狭間周次は顔を顰めて鑑識班が規制線を張って遺留品採取をしている現場を背に所轄署へ向かいながら
「こいつには警察官としての教育が必要だな。警察庁は何てロボット警察官を送ってきやがったんだ! くそが!」
と心の中で怒涛のブーイングを雄叫んだ。
あり得ない。
あり得ない。
ふざけんな! テメー警察官ロボットじゃねぇだろ! 状態である。
狭間周次は目を細めてハンドルを握る手とは反対の手で煙草を出すと口に咥えた。
「止めろ、俺たちは警察官だ。善良な人々の生活を守ること。人々に尽くすこと。殺し屋じゃねぇんだ。人の命は奪うな。ったく、お前には先ず人間の基本を叩きこまねぇとだめだな」
……先ずビックデータは信じるな。そんなのはどこぞの誰かが無責任に好きかって言ってるだけのものだ。清濁混在の喚きに過ぎない……
和久津雪は銃をホルダーに収め
「わかりました。貴方は私のマスターです」
と答えた。
……私を存在意義のその先へ導いてください……
佐藤民男を連行して岩国警察署に戻った二人には思わぬ事件が待っていたのである。




