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POL 終末のロボット警察官  作者: 如月いさみ


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大社広域交番 7

 シェルターで生活していた2年の間に一度は話題となった地下二階。

 『都市伝説・開かずの扉』と称された扉は以前に暗証ワードを解き明かして現在は開いたままであった。

 が、当時はシェルター内の生活を落ち着かせることが必至だったことと必要なものは全て居住区とB区域と地下一階にあったので地下二階に一度は下りたものの一番手前にあったシンチレーション式放射線量測定器を持って上がるだけしかしていなかった。

 

 その為、地下二階の構造も地下二階に何があるのかもシェルターの外で生活を始めた今もわかっていない状況である。


 署長室で神ノ宮尊はPOL032こと速水隆二と二人で構造図を作りながら

「開かずの扉はもう完全に問題はないが一階からの踊り場と地下二階へ続く階段との間に距離があるのがな」

 と呟いた。

「直線だから荷物の運び出しには問題ないと思うがちょっと歩く距離はしんどいな」


 問題は地下二階の構造が全く分かっていないということである。

「二階に降りた時に真っ暗だったが右手に広い空間があった」


 隆二も腕を組みながら

「せめて俺のデータバンクに構内図だけでも残しておいてくれていたら良かったんだが……地下二階は入ってねぇな」

 とぼやき

「生活の為の電力は必要なくなったんだ。地下全体に電気を回して地下全ての電灯を使うか?」

 と告げた。


 尊は頷いて

「ああ、それは勿論考えているが野菜プランタンの電灯や空調調整は最初からずっと使って今も利用しているから問題ないが、他の部分……地下二階は当初からこの2年近く全く利用していないから使えるかどうかも怪しい」

 と告げた。


 地下一階に現在配給に利用している食料や水が保管されており、一応水耕栽培設備で野菜が作られている。それは元々の汚染されていない水を巡回させて使っているからだ。

 外の水とは違うということである。

 しかし、備蓄されている食料が空になった後を考えるとそれでは足りないことは明白であった。


 農耕は何れ絶対にしなければならない。

 その為の土地を作るために除染された水と土が必要だったのである。表土を払いのけて何とかなった。何とかなるだろう。


 最大の問題は『水』である。


 尊は地下二階が真っ白の構内図を作り上げて

「電灯を全て付けることと、万が一真っ暗になった時の為の懐中電灯を用意することと道に迷わないようにするためのロープだな」

 と告げた。

「命綱だ」


 隆二は頷いて

「明日は配給以外の人員全員をシェルターにつかせる」

 と告げた。

「上で監視する人間と探索する人間とを割り振らないとな」


 二人の作業は夜まで続き、目処が着くと空には星がキラキラと瞬いていた。その時、一人の女性が大社広域交番に姿を見せた。それを交番の警備についていた小宮繭美が知らせに来たのである。


「失礼します」

 彼女はそう言うと椅子に座って一息つく尊に

「山川さんが来られています」

 と告げた。


 尊にとっては何かと世話になっている女性である。尊が引き取った川坂仙花の通っている学校の先生であり、シェルター生活当初から何かと警察に協力をしてくれていた。

 また、時々仙花と尊の為に手料理を持ってきてくれているのだ。


 尊はそれでもこんな時間に面接にくることに首を傾げつつも

「わかった、小会議室の方へ案内してくれ、今から向かう」

 と告げた。


 隆二は彼を見るとニッと笑って

「頑張れ」

 と告げた。


 尊は頬を染めつつも

「何が頑張れだ?」

 とぼやきながら部屋を出て階段を下りた。


 こうしていると速水隆二がロボット警察官であることを忘れてしまいそうになる。


 尊は朝に全員が準備を行う会議室の一つ部屋を開けた階段の直ぐ隣にある小さな会議室に入り、小宮繭美が案内してきた山川奈緒を見ると笑みを浮かべた。


 山川奈緒は一礼して中に入ると

「夜分遅くに、それに忙しいときにすみません」

 と告げた。


 尊は首を振ると

「いえ」

 と笑みを浮かべてテーブルを挟んだ正面の席に

「どうぞ」

 と進めた。


 そして

「その何かありましたか? 仙花ちゃんのこととか?」

 と話を切り出した。


 山川奈緒は首を振るとキュッと唇を結んで息を吐き出すと

「妹尾さんと加賀さんに気を付けてください!!」

 と言うと

「先日のデモの時は兄も参加して申し訳ありませんでした。兄は妹尾さんに恩があって断り切れないんです」

 と息を吐き出して話を進めた。

「私の家族は私と兄と母の三人だったんです。母は……仕事で松江へ行っていたので一緒には」


 そう呟き心を落ち着かせると

「兄はその母を助けるために高校卒業して直ぐに仕事を探していて妹尾の奥さまと母が知り合いでその縁で妹尾会長の口利きで農会に就職が出来たんです」

 と告げた。

「今も妹尾会長に逆らえなくてデモで皆さんにご迷惑をおかけしたり……初めの頃は喧嘩して大変なことをして」


 そう言って目を潤ませて

「兄はいま妹尾会長に呼ばれて家から出掛けています。もしかしたらまた何か良くないことを考えているのかもしれなくて……十分注意してください」

 と告げた。


 尊は笑むと

「そうですか、明日のことかもしれないですね」

 と呟いた。


 彼女は小さく頷いた。


 尊は頭を下げると

「言ってくださり助かりました。感謝します」

 と言い

「我々も至らないところがありますが全力を尽くすつもりです」

 と告げた。


 山川奈緒は微笑み

「仙花ちゃんは本当に明るくなりました。それに子供たちは皆さんに憧れています。だから……私も、その……感謝しています。署長さんは十分頑張っていらっしゃると思います」

 ありがとうございます」と微笑んで頭を下げて立ち上がった。


 尊は「いや、そんなことは」と照れ隠しに言いつつ

「あ、俺こそ何時も料理をありがとうございます。美味しくいただいています」

 と告げた。


 彼女は頬を染めながら

「いえ、お口にあって良かったです」

 と答えた。


 そんな二人のやりとりをこっそり廊下で聞き耳を立てながら小宮繭美は

「若いっていいわねぇ~」

 とぼやいていた。


 翌日、配給係をすることを申し出てくれた鑑識班の松村加代子と原田樹が行うことで他の面々はシェルターの入口に集まっていた。


 少し長いトンネルを潜り今は配給の時以外は開けていない扉を開けてそこに本田顕と中村裕助が見張りにつき、他の面々が中へと入った。

 扉の開閉はPOL032こと速水隆二が行っているが、万が一のために10桁の暗証番号でも開閉を操作できるようになっている。但し、その番号を知っている人間はごく少数であった。

 警察の人間と農会の瀬尾野牧夫と町内会の役員だった太田幸村と現在学校の責任者をしている浦野玉代だけであった。


 シェルターの内部はガランとしたドーム空間が広がり、その中央を突っ切って両開きの大きな扉の前に立ち開けた。

 その向こうがB区域と呼ばれ救急車や電動式自動車と配給に使う車も数台あった。それを利用して警察は地域で食べ物と水の配給を現在行っているのである。

 そして、全員中に入り尊は地下へ入る小宮繭美と多田安男、そして、門野相馬を見た。


 農会の加賀信二と町内会の藤原昌吾に目を向け

「中に入るのは我々で彼らは上で待機させます」

 と告げた。


 隆二は頷いた。残るのは隆二と富健吾と佐々木光男と宮前青子の4人であった。

 隆二は尊を見ると

「じゃあ、地下の電灯を全て点灯するぞ」

 と告げた。

 

 佐々木光男がロープの端を身体に括り反対を小宮繭美に渡した。

「頼むぞ、小宮」

 

 小宮繭美は頷き

「頼むのはこっちよ、お願いするわね」

 私を放さないでね、と洒落を入れて告げた。


 全員が顔を見合わせて苦笑すると尊は隆二を見て頷き、加賀信二と藤原昌吾を含めて地下探索組を引き連れて階段を下りた。


 地下一階は問題がそれほどない。それは配給用食料をここから上の車に運んでいるからである。

 天井は高い。これまで50人を支えてきた食料がここに保管されてきたからである。そしてこれからの3年も支えてもらわなければならないのだ。


 消費した食料の分だけ広々とした何もない空間がありその奥にこれからの食料と更には簡易ろ過装置を付けた水耕栽培で育っている野菜がある。

 一応、野菜の栽培はされているのだ。しかし、葉物と豆類だけである。根菜や米は作られていない。広さの問題もあるからだ。


 そして反対側に飲料水と長いパイプがある。配給用の水である。これは汚染されていない水でそれも3分の1ほどは減っている状態である。

 それでも50人をこれまで2年のあいだ問題なく生かしてきたのだ。先人は良く考えて備蓄していたということである。


 尊はそれらを見て持ってきた地下の地図に書き込んだ。せっかく調べに来たのだ出来るだけ情報は持って帰った方が良いのだ。小宮繭美と多田安男は尊と門野相馬がチェックをしているのを階段の下から見つめていた。

 二人には加賀信二と藤原昌吾の行動を見守る役目があるのだ。農会と町内会は警察にとってあまり良い関係の相手というわけではない。

 所謂、下手をすると寝首を掻かれる可能性がある相手と行った方が良い。


 加賀信二は目を細めて全体をじーと見つめていた。藤原昌吾も落ち着かない雰囲気だが周囲を見ていた。今のところ二人に変な動きはなかった。


 地下一階のチェックが終わると尊は

「地下二階に行こうか」

 と呼びかけた。


 一瞬、全員に緊張が走った。


 地下二階こそ彼らにとって魔境であった。ゆっくりと階段を下りた。地下二階にはほぼ下りたことが無い。と言うのも必要性がなかった事とこれまで電力の無駄使いが出来なかったので地下二階の電灯を利用するわけにはいかなかったからである。


 地上に出てシェルター内の電力がある程度自由に使えるようになったので地下二階に何があるのか調べられるようになったということである。

 そして、除染道具がないかを調べる必要性にかられたからである。


 2年近く使われていなかった電灯が問題なく使える状態であるかどうか。尊は固唾を飲み込んで階段を下りて息を吐き出した。


 心配に反して電灯が付き明るく照らされていた。ただ地下一階と違って幾つかの部屋に区切られている状態であった。一部屋一部屋調べていく必要があるということである。


 尊はロープを出すと小宮繭美に端を渡して

「流石にこれ以上は進めないからな」

 と言い

「小宮と多田はここで待機、俺と門野と」

 と加賀信二と藤原昌吾を見た。

「お二人はどうしますか?」


 加賀信二が「もちろん付いて行くに決まってるだろ」と告げた。

 藤原昌吾も頷いて

「お、俺も付いて行かせてもらいます」

 と答えた。


 尊は自身がロープの端を持ち

「俺が先頭で加賀さんと藤原さんは中央で殿を門野、頼む」

 と告げた。


 門野相馬は敬礼すると

「はい」

 と答えた。


 加賀信二はそれに息を吐き出し

「それでいいさ」

 と呟いた。


 小宮繭美と多田安男は苦く笑って4人を見送った。一部屋一部屋はそれなりの広さがあり、整理されて置かれていることが分かった。

 尊は白い構造図を広げ簡易に書き留めていく作業をした。一番手前の部屋は万一用の生活必需品であった。ガスボンベとそれを使うコンロ、また、洗剤やラップ、皿などナプキンや紙おむつまであった。

 居住区の奥のフロアにもあったので恐らくは予備として準備されていたのだろう。

 他の部屋には病気やケガなどの治療用薬剤や包帯などもあり、医師の尊はそれを見ると

「こんなものまであったんだ」

 と呟いた。

 いざとなれば本格的な全身麻酔の手術も出来るだけのものは揃っていたようである。正にシェルター内にもっと多くの人々を収容できるだけの準備がされていたことが分かった。


 そして奥から二番目の部屋に入り尊は目を見開いた。それまでのこまごまとした日常品や医療品や医療器具とは違って大きな部品が置かれていた。

 尊は折り畳み式のコンテナのようなものとその横に積まれているフィルターケースを見て

「これか?」

 と呟いた。

 その横にはファイルが置かれており尊はロープを殿の門野相馬に渡してそれを手にパラパラと捲った。

「間違いない、やはり、飲み水や農業用水のろ過装置が用意されていたんだ」


 門野相馬と藤原昌吾は目を見開くと

「「ということは!」」

 と告げた。


 尊は肩越しに振り向き笑みを浮かべると

「これで農業が再開できる」

 と告げた。


 ファイルを手に尊は

「あと一部屋だな」

 と言い構内図に書き込んで部屋を出ると一番奥の部屋に入った。


 そこには全員が息を飲み込んだ。出雲市が所有していた美術工芸品が保存されていたのである。

 加賀信二は中に入ると

「すげぇ、これを売ればどれだけの金が手に入るか」

 と呟いた。


 尊は息を吐き出すと

「これは出雲市のモノで我々個人のものではない」

 と言い

「それに売る場所などどこにもないだろう」

 と忠告した。

「他の地域がどうなっているか分からないからな」


 藤原昌吾も一瞬目を見開いたが尊の言葉に視線を下げると冷静に判断した。


 ただ、加賀信二は顔を顰めながら拳を握りしめた。

 確かに他の地域がどうなっているか分からない。だが反対に被害にあったのは自分たちだけで他に行けば経済が回り以前の光景が広がっているかもしれないのだ。


 その時に必要なのは金なのだ。


 尊は黙って立ち尽くす藤原昌吾と美術品に魅入られている加賀信二に

「今は農業を復活させることが優先される。それにこれらの美術品は出雲市としてふさわしい場所に飾るべきだと思っている」

 と告げた。


 加賀信二は尊の前に進むと

「そんなことを言ってテメーの懐にいれるんじゃねぇのか」

 と言うと

「まあいいさ。ここで喧嘩して口封じされちゃぁ困るからな」

 と皮肉を告げてロープを手にした。


 門野相馬は顔を顰めるとぐっと拳を握りしめて怒りを抑えた。ただ警察官と言うだけでどれだけ働いているか、それをただ当たり前と受け取って何かにつけて反抗する彼らが腹立たしかったのだ。

 しかも盗みをするような言われ方をするなんて……だったらお前らが一から全てやってみろよ! と言いたくなったのである。


 尊はチラリと彼の顔を一瞥したものの何も言わず

「では、明日から本格的にここのろ過装置を地上に運んで作業を開始するか」

 と言い、部屋を出た。


 長い通路を戻り階段下の小宮繭美と多田安男と合流すると階段を上って一階で待っていた隆二と佐々木光男に声を掛けた。

「色々見つかったが……やはり水を除染するためのろ過装置があった」


 それに隆二も佐々木光男も宮前青子や富健吾も笑みを浮かべた。これで上手くいけば2年後以降の食糧問題がクリアになるかもしれないのだ。

 

 尊は明日からの作業の打ち合わせをするためにシェルターから撤収すると加賀信二と藤原昌吾に

「水の除染の作業も手伝う気があるなら申し出てもらいたい」

 と言い、二人がそれについては考えさせてもらうと告げて立ち去るのを見送った。


 問題は折りたたまれているがそれなりの重さと大きさがあるコンテナを地上へ運び出す作業である。あの部屋に入れることが出来たので運び出すことは可能なのだ。その為に扉が通常よりも広く作られていたのだろうことが理解できた。


 大社広域交番の二階にある会議室に配給をしている鑑識班の松村加代子と原田樹以外の全員が集まり尊の書いた構内図と持ってきたファイルを見つめていた。


 時刻は既に夕方の5時である。空は茜色に染まり風が流れている。


 隆二は腕を組むと

「二回に分けて準備するのが良いと思うが」

 と告げた。


 全員が隆二を見た。

 彼はシェルターの構内図を指さし

「この部屋のモノを今は使っていない居住区に全て移動させて検品し、その後に外へ出す」

 と告げた。

「ファイルに組み立て方と設置方法が書かれているが運び出すだけでそれなりの時間がかかるし夜に組み立てて万一途中で放置することになると部品を盗まれる可能性もある」


 門野相馬は息を吐き出し

「確かに」

 と相槌を打った。


 尊は苦笑すると

「門野、お前の気持ちは分かる。ここにいる全員が人間だ。色々考えるところもある。だが、我々警察官の仕事は人々に尽くし善良な人たちが安心して暮らすことのできるように努力することだ」

 と言い

「何れ彼らも現実を思い知るだろう」

 と告げた。


 全員がそれに口を噤んだ。


 ここだけがこの状態だということなどありえない。と言うのは全員が感じていることである。もっと酷いところがあるかもしれない。いや、最悪の場合は自分たち以外に生存者がいない可能性もあるのだ。


 宮前青子は冷静に

「経済だ、金だ、と言っている甘い状況ではないってことをね」

 と告げた。


 尊は頷いて

「確かに夜に作業は避けた方が良いな」

 と答え

「速水の言う通りに明日はシェルターの居住区に除染用の道具を全て移動させる」

 と告げた。


 それに富健吾が

「あとその水のコンテナをどこに置くかですな」

 と告げた。

「それで農地も決まるので重要じゃねぇのかな」


 全員が顔を見合わせた。それこそ揉め事になる第一歩である。

 尊は息を吐き出すと

「農地はこの大社広域交番の正面を使う」

 と告げた。

「道路の向こうの倒木を退ければある程度の広さがあるし我々の監視も利くので誰かが独占することも出来ないだろう」


 門野相馬は困ったように

「でも農会と町内会の人間が」

 と告げた。

「デモ騒ぎが起きる」


 尊は笑むと

「わかっている。最初はここでコンテナは一つじゃなかったので誰の目にも止まる公共の場所に設置していく」

 と告げた。

「公平にな」


 ……その機材の振り分けも明日居住区内で行う……

 全員が頷いた。


 しかし、その日の夜にシェルターでは異変が起きたのである。加賀信二が妹尾牧夫に地下二階の美術品の話をしたのである。どれも出雲市が誇る一級品である。

 加賀信二は妹尾牧夫の住宅テントの中で

「明日から水の除染道具を運び出して作業をすると言っていたから、今日しかないですけど」

 と告げた。


 妹尾牧夫は目を細めると

「山川を呼んで高価なものを数点こっそり盗み出して売りに行くか」

 と告げた。

「奴等も除染作業で目が届いていない今ならいけるだろう。その金で食料やここで手に入らないものを買って帰れば我々は救世主だ。町内会の奴等も警察も出し抜ける」


 加賀信二は頷くと

「そうしたら警察の奴等も大きな顔はできない」

 と笑み

「あいつらは警察なのに今や政治家まがいの顔をして俺たちの上に立っている気分なんだろうぜ」

 と舌打ちした。

「妹尾さん、あんたのお陰で俺は仕事にもありつけた。やれ、反則切符だ、やれ、喧嘩をしたら逮捕だって警察なんかより俺にとってはあんたの方が救いの神だ」


 妹尾牧夫は笑むと

「当然だ、どれだけ農会が町の奴らの世話をしてきたか。それで儲けた金を少し俺が使ったからとぐちぐちと」

 と呟いた。


 妹尾牧夫は立ち上がると隣の部屋で眠っている妻を横目に家を出た。そして、山川育雄と奈緒の住宅テントへ行くと山川育雄を呼び出し先の話をしたのである。


 しかし、山川育雄は首を振ると

「俺は……完全な盗みになることは出来ないです」

 と言い

「妹尾さんには恩がありますし農業を復活させたい気持ちも分かったので協力しましたが……流石に盗みをすると奈緒に顔向けができない」

 と告げた。


 妹尾牧夫は顔を歪めると

「わかった、お前とは縁を切る」

 と言い

「俺たちがどれほど地位を築いて金を手に入れてもお前にはもう何も与えん」

 と加賀信二と顔を見合わせると立ち去ったのである。

「後で吠え面かいてもしらんぞ!」


 二人はシェルターまで行くと暗証番号を入れて扉を開け懐中電灯で中へと足を進めたのである。


 山川育雄は息を吐き出すと住宅用テントに戻った。山川奈緒は心配そうに入口に立ち

「兄さん」

 と呼びかけた。


 山川育雄は苦く笑むと

「何でもない」

 と言い

「ただお前に恥じる選択はしていない」

 と告げた。


 彼女は笑むと

「わかったわ」

 と答え

「兄さんを信じるわ」

 と兄の手を取って中へと誘った。


 翌朝から鑑識班は配給に回り、尊を始めとして他の面々は地下二階の除染装置の部品を居住区に移動させる作業に入った。先日の事件からデモが起きることはなく地域の治安が安定していたから集中できたのである。

 また、山川育雄と藤原昌吾や太田幸村も数名の男性がシェルターに姿を見せると運び出しの手伝いをしたいと告げたのである。


 太田幸村は鼻息を出すと

「そりゃあ、町内会の役員だからな! 農業再開の手伝いくらいはする。村の皆に宣伝しておいてくれ」

 そういうことであった。


 それには尊も誰もが苦笑するしかなかったのである。


 農業復活は死活問題であり、人々の強い願いである。多くの人々が今は揉め事を起こしている状況ではないと分かっていたのである。


 山川奈緒は兄が手伝いに行ってくると言って出て行ったことに安堵して『仮設学校』で浦野玉代と共に勉強を教えておりいつになく穏やかに過ごしていた。

 少しでも。そう、少しでも終末戦争前の状況を保とうと誰もが必死であった。


 だが、次の日の早朝。

 正確にはほぼ午前様と言う夜明け前の真っ暗な時間に二人の女性が大社広域交番の門をガシャガシャと叩いたのである。家に帰っているメンバーもいるがろ過装置の作成のために今夜は殆どの警察官がとどまっていたのである。


 一階で警備当番についていた宮前青子と門野相馬は交番の出入り口から飛び出すと懸命に門を叩いている二人の女性に駆け寄った。


 宮前青子は薄闇の中で目を細め

「何かありましたか?」

 と聞いた。


 それに年若い女性の方が

「妹尾……妹尾さんが戻ってこなくて」

 と告げた。

 隣で泣きながら年配の女性が

「そうなんです! 夫が……加賀くんと出て行ってこんな時間になっても戻ってきていなくて」

 と両手で顔を覆って号泣した。


 山川奈緒と妹尾牧夫の妻の律子であった。


 崩れ落ちかけた妹尾律子を門野相馬は支え

「とにかくこちらでお話をしてください」

 と門を開けると二人を交番の中へと連れて行った。


 下の騒ぎに屋根が吹き飛んだ署長室で今夜は仮眠をとっていた尊は身体を起こして隣で座っていた隆二を見た。

「何かあったようだな」


 隆二は頷き

「ああ、事件でないことを祈りたいが」

 と答えた。


 二人が階段を下りると他の面々が仮眠をとっている会議室の隣にある小さな部屋の前に門野相馬が立っており

「今から呼びに行こうと思っていたんですけど」

 と言いコソッと耳打ちするように

「実はあの農会の妹尾牧夫と加賀信二が連れ立って何処かへ行ったまま戻っていないそうです」

 と告げた。


 隆二は肩を竦めて

「『あの』二人か」

 と呟いた。


 同じ様に報告にやってきていた宮前青子が呆れたように

「もう放っておきます?」

 とぼやいた。


 尊は苦く笑んで冷静に

「そういう訳にはいかないだろ。助けを求めてきているんだからな」

 と言い中に入り目を見開いた。

「…山川さん」


 山川奈緒と妹尾牧夫の妻の律子が立って深く頭を下げたのである。

 妹尾律子は泣きながら

「本当に申し訳ありません。奈緒ちゃんにどうしたらいいか相談したら、警察の皆さんが本当に私たちのことを思ってくださっているから相談した方が良いと……デモしたり、本当にどうしようもない人ですけど……私には夫で……身内はあの人だけなんです」

 と頭を下げた。

「どうか、どうか、勝手だと思いますがあの人を探してください」


 宮前青子と門野相馬は同時に内心溜息を零したが隆二は

「署長」

 と呼びかけるにとどまった。


 助けないわけにはいかない、と言うことだ。

 言葉は『あの二人』などと言ったり、かなり人間らしく見えるが警察官としてのモラルはきっちりプログラムされているのだ。


 尊は頷いて山川奈緒と妹尾律子の二人と向き合うように椅子に座り

「先ず我々も闇雲に探すわけにはいきません。出来ればいなくなる前に何かなかったか情報をいただきたい」

 と告げた。


 妹尾律子は頷くと

「昨日の夕方に加賀くんがシェルターの中を探索した報告に来て夫と話をしていたんです。私は元々そういう話には疎くて……そうすると出掛けてくると言って出て行ってそのまま未だに帰ってきていないんです」

 と告げた。

「奈緒ちゃんと山川君と三人で周辺は探したんですけど……山川くんはもしかしたら……と呟いて『ダメだったらきっと戻ってくると思います』と言ってはいたんですけどやっぱり心配で……」


 山川奈緒も頷いて

「恐らく兄のところにも話に来たみたいなんです。兄は自分は今回は断ったと言って……内容を聞いたんですけど……それは言えないと」

 と俯いた。


 隆二は尊を見た。

 尊は先日の美術品の部屋に入った時の加賀信二の表情を思い出すと息を吐き出し

「何となく想像は出来るが……確かに公になると妹尾さんと加賀さんは居辛くなるだろう」

 と言い

「宮前、お前は富さんとここで二人を頼む。門野と速水は俺についてきてくれ」

 と告げて、山川奈緒と妹尾律子に

「今から調べに行ってきますが、お二人も何が分かっても他の人には言わないようにしてください」

 と告げた。


 山川奈緒と妹尾律子は真剣な表情を浮かべると頷いた。

 尊は隆二と門野相馬を連れて大社広域交番を出るとシェルターに向かいながら

「恐らく、地下二階にあった美術品を盗んで他の地域に売りにいったんだと思うが先にシェルターの中の車と美術品の確認をする」

 と告げた。

「電灯は大丈夫だったから速水は電源管理を頼む。門野はついてきてくれ」


 三人はシェルターの中に入り先ず車を確認した。電車など線路からしてない状態である。移動は電気自動車しかない。


 自動車は想定通りに一台足らなかったのである。間違いなく地域から外へと行ったのだ。


 尊は小さく

「不味いな」

 というと

「とにかく美術品を確認する」

 と隆二を見た。


 隆二は頷き

「電源をオンにした」

 と答えた。


 尊と門野相馬は頷いて階段を下りた。地下二階の電灯は問題なく点いており尊は門野相馬を連れて

「行くぞ」

 と足を進めた。


 一番奥の扉を開けて目を細めた。門野相馬はあの時同じように見ていたので判断がつく。

 スーと見まわして

「無くなっているのか?」

 と呟いた。


 尊は頷くと背丈くらいある銅像の前に立ち屈むと丸い埃の被っていない部分を指さすと

「ここに花瓶があった」

 と告げた。


 門野相馬はハッとすると

「あ、確かにありました」

 と言い、周囲を見回し幾つかの埃がない部分を見て

「この辺りにも絵が」

 と告げた。


 二人は暫く部屋の中を見回ってなくなっているものがそれほど大きいモノではないことに気付いた。


 尊は立ち上がり

「二人で運び出して車に乗せるなら大きいモノは無理だったってことだな。それに、今回一回で終わらせるつもりがなく試しだったからかもしれないな。上手くいけばきっと放出して売って金に換えて食べ物とかに変えて生活を豊かにする方が良いと言ってくる予定だったのかもしれない」

 と告げた。


 門野相馬は呆然と

「この状態でそんな夢を見るなんて……お花畑じゃないか」

 と皮肉って告げた。


 尊も流石に苦く口元を歪めると

「どちらにしても車が途中で電気切れを起こしていたら厄介だ」

 と言い

「発電機器を乗せて車で探すしかないな」

 と告げた。


 門野相馬は両手を広げて

「どこへ行ったかもわからないのにですか?」

 と告げた。


 尊は部屋を出て階段へ向かうと一階に向かって登りながら

「最悪でも三か所だが、俺は鳥取に向かっていると思う」

 と告げた。


 門野相馬は後ろについて階段を上がりながら

「その心は?」

 と聞いた。


 尊は一階に着くと振り返り

「山口、広島、岡山……そして鳥取。隣接する県だがシェルターがあるかもしれないと想定できる県庁所在地を考えて一番安全だと思われるルートは鳥取県だけだ」

 と告げた。

「他の三県は内陸ルートを選ばなければならない」


 ……妹尾も内陸の方がより迷いやすく危険だと判断は出来る……


 門野相馬は息を吐きだして

「確かに鳥取はほぼ海岸沿いを走るだけで良いので迷うことはありませんね」

 と答えた。


 尊は頷いて近付いてきた隆二に頷いて門野相馬を見ると

「門野、俺と隆二はこれから電動自動車に発電機を乗せて鳥取に向かう。その事を交番で待機している面々に伝えてくれ」

 と告げた。


 門野相馬は敬礼すると

「その、大丈夫ですか?」

 と聞いた。


 尊は笑むと

「ああ、水も発電機も食料も入れていく。美術品は無いから十分乗る」

 と告げた。


 門野相馬は頷くと

「お気をつけて、署長と副署長!」

 と言い、駆け出した。


 尊と隆二は車に発電機と飲み物や万一用の食料や医療品を乗せて車を走らせシェルターの外へと出て止めた。その後、シェルターの扉を閉めると一路鳥取に向かって走らせた。


 水が無ければ二人は渇水することになる。無いとは思うが海水を口にすればそれこそ反対に喉が渇く。まして汚染されているのだ。二人の寿命が短くなることは言わずもがなである。


 日本海沿岸の道を東に向かって尊と隆二は進んだ。鳥取を目指したのである。且つて国道と言われていた道は砂地に塗れ、周囲の木々は薙ぎ倒され水分を失ったように茶色に染まって木の肌がボロボロであった。


 ただ、尊の想定通りに道にかかっている倒木が僅かにずらされ、車が通れるくらいの幅が確保されている部分があった。

 

 尊は目を細めると

「やはり、鳥取だ」

 と呟いた。


 隆二も本来なら車を走らせるのに支障があるはずなのにスムーズに走ることが出来ている状態に

「そうだな」

 と肯定した。


 距離を走っているのに車を止める必要がない時点で前に誰かが走ったということが判断できたからである。太陽はまだ南天には辿り着いていない。

 だが、先を行く妹尾牧夫と加賀信二がどの辺りまで進んでいるか分からないだけに安易に考えることは出来なかった。もし鳥取の人々も無事であったなら心配ないだろう。

 いや、電気が持てば問題がないだろう。


 だが。

 だが。


 尊は運転している隆二に

「残り何パーセントだ?」

 と聞いた。


 隆二はメーターを見て

「40パーセントだな」

 と答えた。


 尊は助手席で地図を広げ

「恐らく辿り着く前に電池切れだな」

 と呟いた。


 二人が今走っているのは松江である。鳥取まではこの距離の倍以上ある。そもそも出雲から鳥取まで150Km近くあるのだ。シェルターの場所が鳥取でなくもっと島根寄りであれば辿り着く可能性はあるが……正に生死を賭けた逃避行だ。


 一刻も早く見つけなければ。


 尊も隆二も口にこそ出さなかったものの海岸沿いの道を走った。人がいる場所に辿り着いてくれればいい、と思いながら更に1時間ほど走り、尊は急に

「ブレーキ!!」

 と叫んだ。

 隆二は思いっきりブレーキを踏み車が止まるとハンドルに頭を付けて

「轢いてない」

 と呟いた。


 尊は苦く笑って

「ああ、大丈夫だ」

 と慌てて車から降りて倒れている人影に駆け寄り

「おい!」

 と頬を叩いた。


 加賀信二であった。加賀信二は薄眼を開けると指を先に向けると

「向こう、妹尾、さんが」

 というとクッタリと倒れた。


 尊は抱き上げて車に連れて行くと乗せてきていた水を出してタオルに水をかけると加賀信二の唇に当てて濡らした。

 飲む力がなかった場合の水分補給法である。

 尊は後部座席で加賀信二の手当てをしながら

「隆二、注意しながら先に進んでくれ。妹尾さんが心配だ」

 と告げた。


 隆二は頷いた。

「わかった」


 太陽は南天に登り、更に10分ほど進むと妹尾牧夫が倒れていた。尊は彼を倒した助手席に寝かせると加賀信二と同じ様にタオルに水を含ませて唇を濡らしながら水分補給をさせた。

 二人とも呼吸と脈はあった。

 

 隆二は前を見ると

「車はこの先だな」

 と言い

「発電機と水はあるから車二台に分けて帰るか」

 と告げた。


 尊は頷いて

「そうだな」

 と答えた。


 車で更に15分ほど進むと電池切れの車が乗り捨てられており、水が入っていただろう水筒も空の状態で置かれていた。尊は妹尾牧夫を後部座席に移し、発電機で車の充電をするとペットボトルを半分乗せて、出雲に向かって走らせた。

 隆二もちょうど充電が無くなったので発電機で充電を行った後に加賀信二を後部座席に乗せたまま尊の運転する車の後ろについて走った。


 ときおり妹尾牧夫と加賀信二に水分補給をさせながら、彼らが大社広域交番に戻ったのは更に2時間後で太陽は既に南天を超えて西に傾き始めていた。


 大社広域交番では待っていた妹尾牧夫の妻と山川奈緒が出迎え礼を言うと彼らを連れて帰った。

 妹尾牧夫と加賀信二には翌日もう一度交番に来て詳しく話を聞くことにしたのである。


 ただ。盗んだ骨とう品と絵画については回収が終わっているので事情聴取と言うことであった。

 妹尾牧夫も加賀信二も状況を甘く見過ぎていたことに車で町を出たことで気付き

『本当の状況を聞きたい』

 ということであった。


 終末戦争の被害が……世界をどうしたのか。

 

 尊は川坂仙花の待つ家に戻り身体を休め、住宅用テントで身体を横になりながら今後のことを考えずにはいられなかったのである。


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