大社広域交番 4
シェルター生活が一年近く経つと、終末戦争のショックで混乱し何も考えられなかった人々もそれまでの思考が舞い戻ってくる。
且つて農会の会長であった妹尾牧夫は部下だった加賀信二と山川育雄を住宅用のテントに呼び寄せるとテーブルを囲んで椅子に座り
「ずっと、不満だった」
と告げた。
山川育雄は顔を顰め
「何がですか? 会長」
と聞いた。
妹尾牧夫はむんっと口をへの字にして
「考えても見ろ、何故、シェルターの中の全てを警察が取り仕切っているのかということを」
と告げた。
山川育雄は不思議そうに
「それは、公平に我々のシェルター内の生活を守るためだと」
と呟いた。
が、加賀信二は肩を竦めると
「いや、そういう建前で結局は一党独裁していると思います。妹尾さん」
と告げた。
妹尾牧夫は頷いて
「このまま警察に牛耳られ続けてなるものか」
と言い
「村長を立てて、警察の上に立つ」
とドンッとテーブルを叩いた。
「村長は俺がなるんだがな」
そう心で呟き
「選挙を行うことを明日から周知するぞ」
と告げた。
山川育雄はそれに
「しかし、警察が黙っていますか?」
と告げた。
妹尾牧夫は笑むと
「こっちには奥の手がある」
とにやりと笑った。
シェルターには15名の警察官とその家族がプラス5名。そして、30名以上の人々が暮らしており、現在は生活に関することはほぼ警察が一手に担っている状態であった。
ロボット警察官POL032こと速水隆二が翌日の朝6時の時報をアナウンスすると大社広域交番のテントの側に住宅用テントを構えた署長の神ノ宮尊は制服を着て朝食を準備している川坂仙花を見た。
学校は8時からなので少し早い。
尊は小さく欠伸をした彼女に
「仙花ちゃんはまだ寝ていていいよ」
と告げた。
が、彼女は首を振るとにこっと笑って
「署長さんと一緒に食べたい」
と告げた。
シェルターに彼女が避難したとき彼女の両親はいなかった。とにかくその頃は警察も人々も自分を立て直すのに必死で10歳の彼女がポツンと一人であることに全く気が回らなかったのだ。
少しして経って彼女が小さな事件を起こして漸く子供や老人などがそういう孤独で生活に窮していないのかに気を回すことが出来るようになったのである。
巡回もその頃から始め、今は声掛けをして人々の状態を掌握できるようにまでなっていた。
尊は彼女と向かい合いながら両手を合わせて共に
「「いただきます」」
と食事を始めた。
出勤は6時30分。
ロボット警察官の隆二は常駐し、他に宮前青子と門野相馬、そして、富健吾と多田安男が何かあった時のために詰めていた。
尊は食事を終えて食器などを片すと徒歩1分の大社広域交番へと姿を見せた。が、そこに数名の男性が姿を見せていたのである。
妹尾牧夫に加賀信二、そして、山川育雄や他にも町内会の太田幸村、海野始、藤原昌吾も姿を見せていた。
一番嫌々オーラを出していた宮前青子はテントに入ってきた尊に
「署長、これから警察を楽にしてくれるそうです」
と告げた。
「巡回や配給をこの方たちがしてくれると仰ってくれています」
それに富健吾は笑って
「ったく、宮前もいうねぇ」
と言い
「おはようございます、署長」
と敬礼した。
「農会の妹尾さんたちと町内会の太田さんたちが選挙を行って村長を決めてシェルター内の運営を行いたいと仰ってます」
妹尾牧夫は頷き
「そうだ、これまで全て警察の指示で何もかもを行ってきたのでな。運営はシェルターの中の人間が選んだ人物が行うことにしたい」
と言い
「警察は警察らしく、警察の仕事をしてもらいたい」
と告げた。
尊は息を吸い込み吐き出すと
「そのご意見はもっともです」
と答え
「我々は警察官として人々が犯罪に巻き込まれたり犯罪に走らないように見守っていくことにいたします。ご協力感謝いたします」
とあっさり応え敬礼した。
妹尾牧夫は顔を顰めて
「んん?」
と尊をみた。
加賀信二や他の面々も妹尾牧夫を見て
「あっさりしているが……警察が俺たちを支配しようとしているんじゃなかったのか??」
と内心呟いた。
尊は富健吾をはじめとした他の警察官を見て
「選挙を行ってシェルター内の新しい運営が回るまでは我々はこれまで通り巡回と配給などの業務を行う。その後、新しい村長と体制が決定したら警察として独立した組織としての本来の業務に戻ることとする」
と告げた。
富健吾は笑顔で敬礼し
「へい!」
と答えた。
尊は妹尾牧夫の方を向くと敬礼し
「では選挙日と投票場所の設定等のご報告をお待ちしております」
と告げた。
妹尾牧夫は舌打ちすると
「行くぞ」
と踵を返して、6人で去っていった。
尊は不思議そうに他の面々を見て
「何故?」
と呟いた。
彼らの思う通りにするというのに歓迎されなかったようである。
富健吾は苦く笑むと
「まあ、あの人は農会の会長でずっと人の上に立ってきた人だからな。シェルター生活になって我々警察が全てを仕切ってやってきたことが気に食わなかったんじゃないのかね」
と言い
「だから反対にその役割をとられたら俺たちが悔しがって反対するとでも思ったんじゃねぇんですかね」
と肩を竦めた。
宮前青子は嫌味を兼ねて
「権力が欲しくて、権力があると見える私たちから奪ったら私が悔しがると思い込んでいたんだわ。反対にこっちは大助かりよ」
と言い
「さあ、報告書を纏めましょ」
と紙を出すと報告書を書き始めた。
尊は苦笑すると
「そういうモノなんだ」
と呟き
「とにかく俺たちは通常業務を今は行うことを優先する。配給が滞ればシェルターの中の人々の死活問題になる。それから巡回をしてこれまで通りに困っている人がいないかに目を配っていく」
と呼びかけて配給の準備を始めた富健吾と多田安男の手伝いを始めた。
妹尾牧夫は大社広域交番を離れると
「どうせこのシェルターの中を纏められるのは俺だけだ」
と言い
「町内会の太田さんは他の候補が出ないように言ってくれ」
と告げた。
それに太田幸村は腕を組むと
「いや、それじゃあ、農会に有利なように何でも決めるだろう。ここは町内を纏めていた町内会の人間の方がバランスよく政策を決められる」
と告げ、同じ町内会の海野始と藤原昌吾を見た。
妹尾牧夫は立ち止まり振り替えると
「何を言ってる! お前は小さな町内会の役員だっただけだろう。俺は島根の農業を仕切る農会の会長だったんだぞ」
と胸を張って告げた。
太田幸村は肩を竦めると
「だったら猶更だ。シェルターの中で農業を行っているわけじゃないだろ」
と答えた。
「シェルターの中は村や町みたいなもんだ、町内会を運営していた俺たちの方が向いている」
山川育雄は困ったように
「その、腰を落ち着けて穏便に話を」
と言いかけた。
が、海野始が妹尾牧夫を指さすと
「知ってるぜ、あんたが農会の会長だって言って農会の金をくすねていたのをな」
と笑った。
妹尾牧夫は「黙れ!」と怒鳴ると
「侮辱するな! 加賀! 山川! 力を見せてやれ!」
と顎を動かした。
それに太田幸村が
「シェルターの中の運営に町内会も大切だって誘っておきながら……てめーが上に立ちたいだけだったんじゃねぇか!」
と妹尾牧夫の方に足を踏み出した。
山川育雄と藤原昌吾は取っ組み合いの喧嘩になった4人を前に顔を見合わせた。
山川育雄は両手を伸ばして
「とにかく、落ち着いて話し合えばわかるじゃないですか」
と叫び、藤原昌吾もまた
「まあ、妹尾さんも太田さんも……みんな落ち着いて。喧嘩は良くない」
と遠巻きに呼び掛けた。
だが、殴り合いは激しさを増し、朝っぱらからの騒ぎに近くに住宅用のテントを構えていた畑重雄が弟の畑双也に娘の博美を託して飛び出してくると
「何をしているんだ!?」
と叫んだ。
それに藤原昌吾が頭を下げながら
「す、すみません……農会と町内会で少し話が」
と告げた。
激しさを増す状況に畑重雄は出入り口に立つ弟と娘に
「お前たちは家に避難していろ」
というと駆け出した。
「署長さん!! 農会と町内会が取っ組み合いの喧嘩だ!!」
大社広域交番のテントで響いた第一声がこれであった。
尊は立ち上がると
「富さん達はこのまま配給準備を続けて時間通りに配給をしてください。速水は本田と中村以外が出勤して来たら通常業務を行うように指示を出してくれ。宮前と門野は俺と一緒に」
と告げて、畑重雄の案内に駆け出した。
宮前青子は肩を竦めて
「今度は仲間内で権力闘争!? ったく小さなコミュティーでも欲深い奴は何でも起こすのね」
とぼやき、尊の後ろについて走った。
門野相馬はひぇーと宮前青子の言葉に
「うっわ、きっつ」
と言いながら続いた。
尊が駆け付けると既に他の山田竜一や佐藤翔太が止めようとしていた。宮前青子は尊を見ると
「署長は周辺の野次馬をどうにかしてください!」
というと
「門野くん!」
と言い、中に入った。
尊は戸惑いつつウロウロしていた山川育雄と藤原昌吾や弾き飛ばされた山田竜一や佐藤翔太を起こしながら
「ここは下がっていてください」
と呼びかけ
「危険なので離れるように!!」
と叫んだ。
全員が少し離れた中央で宮前青子は尚も妹尾牧夫を殴ろうとして腕を引いた太田幸村の手を掴むと
「騒乱罪で逮捕します!」
というとぐっと後ろ手に回して手錠をして地に伏せさせた。
門野相馬も海野始を殴り続けようとした加賀信二の手を掴み床に抑えると
「騒乱罪で逮捕する!」
と手錠をした。
その段に至って全員が動きを止めて静寂が広がった。
妹尾牧夫は肩で息をしながら顔を歪め
「農会である俺たちが言い出したことなのにこいつ等が横入りして上になろうって言いだしたのが悪いんだ!」
と言い、尊を見ると指をさし
「それになぁ、お前達警察だって騙されているんだぞ!! そいつにな!」
とにやりと笑うと
「そいつはあの署長の神ノ宮命じゃない! 署長の弟で警察官ですらない偽者だ!」
と叫んだ。
……警察も全員を騙して……
更に言いかけた妹尾牧夫に宮前青子は
「はぁ!? そんなこと警察は知っているわよ!」
と言い、立ち上がらせると
「あんたも連行よ」
とざわつく人々を前に尊を見ると
「署長、行きましょう」
と遅れて駆け付けてきた小宮繭美に太田幸村を渡して歩き出した。
門野相馬は驚いたまま尊と宮前青子を見て
「と、と……とにかく……」
と小宮繭美と共に駆け付けた佐々木光男に加賀信二を引き渡し倒れたままの海野始に手を伸ばして顔を顰めた。
「海野さん! ……海野さん!!」
全員が彼に目を向けて動きを止めた。
尊は足を踏み出すと海野始の肩を軽く叩き
「海野さん、聞こえていたら返事してください」
と呼びかけ、反応がないのを確認すると脈と呼吸と瞳孔を調べた。
「呼吸が止まっている」
そう言うと呆然と立っている門野相馬に
「門野、直ぐに戻って松村と原田に担架を持ってくるように伝える。救急車に積んでいる酸素ボンベと包帯などももってきてくれ!」
と服を脱がせると喉の腫れに目を向け
「まさか」
と呟き、口から息を吹き入れ胸の動きを見て応急処置を始めたのである。
門野相馬は宮前青子が「門野!」というとハッとして敬礼し
「はい!」
と答えて駆け出した。
尊は呆然としている人々に
「この近くでカッター、ストロー、毛布とクッションが用意できる人は持ってきてください」
と呼びかけた。
畑重雄が慌てて家に飛び込むと
「クッションはないが、枕……それから毛布、それからカッターと……ストローはない!」
と娘の畑博美が使っていた道具箱と布団や枕などを弟の畑双也と共に持って戻り尊に渡した。
他にも山田竜一もストローや台所にあった色々なモノを手当たり次第に箱に入れて姿を見せた。
尊は海野始の身体を横にして負担が掛からないように枕と毛布を挟み身体を丹念に触り触診し、喉の損傷が呼吸を妨げていることを確信するとカッターを手にした。
こういうことは臨床実習や研修医の時に勉強も実践学習もしてきた。
尊は喉を切開し胸が動き出すのを見ると小さく安堵の息を発揮出して、到着した担架に乗せると
「このまま救急車の方に運んでくれ」
と告げた。
事態を知った富健吾は配給を多田安男に任せて姿を見せると呆然と騒めく人々に
「海野さんの手当てはこっちでする。警察医がいるから安心してくれ」
と呼びかけ
「関係のない人は配給を受け取りに来てくれ」
と告げた。
そして、畑重雄と山田竜一を見ると
「その借りたモノは新しいモノに代えて警察から後で届けるので申し訳ないがお願いする」
と告げた。
畑重雄も山田竜一も顔を見合わせて頷くと
「「いや、とにかく事態の収拾に頑張ってください」」
と告げ不意に山田竜一が
「署長さんが、偽者だと言っていましたが……」
と言い笑むと
「きっと事情を話せばみんな分かってくれると俺は思いますよ。先の署長さんを見ているとね」
と手を振って立ち去った。
幸いなことに輸血までの必要はなく何とか最小限の手術で終わり、暫く海野始には救急車で入院をしてもらうことになった。
駆け付けた妻の海野世津子は頭を下げながら
「本当に……ありがとうございました」
あの人ったら本当にバカで、と言いつつも助かったことに安堵して涙ながらに告げた。
手術も終わった後は経過観察で何とかなると安心して尊は救急車から出て大社広域交番のテントへと戻った。そこには休暇だったはずの本田顕も中村裕助も姿を見せており誰もが顔を見合わせていた。
尊が大社広域交番の署長であった兄の神ノ宮命を演じていたことが分かったからである。
富健吾は息を吐き出すと
「俺は最初から全てわかった上で弟の尊さんを署長にした」
と告げた。
「尊さんは最初に断ったが状況が状況だったしな。これで何か責めるというなら俺は身体を張って署長を守る」
ガンとして告げた。
隆二は冷静に
「元々俺は初期命令で神ノ宮尊警察医の護衛として指示を受けたんでね。その任務を現在も果たしているってことだな」
とにやりと笑いつつ敬礼した。
門野相馬は宮前青子を見ると
「宮前は何時どうして気付いたんだ?」
と聞いた。
彼女は肩を竦めると
「初めからおかしいと思っていたわよ」
とさっぱり答え
「だって、最初に挨拶する時に足は震えていたし敬礼だって手がふるえていたもの」
と言い
「あの署長がどんな状況になろうとそんなことないもの」
と笑みを浮かべた。
「でも、私は神ノ宮命署長も今の神ノ宮尊署長も好きだけどね」
……あの状況から私たちやシェルターに逃げてきた人たちを素人の署長さんが引っ張ってきてくれたのは事実だわ……
それに松村加代子が笑顔で
「そーねー、私もそういう意味で同罪だわね」
と腰に手を当てて
「都市伝説のキーパッドの指紋……署長のだったのよー」
と言い両手を軽く広げると
「でも、署長が弟さんを残したのならきっと深い意味があったんだと思ったわけ」
と告げた。
「それで今、それが証明されたってことね」
原田樹が彼女を見て
「それは?」
と聞いた。
彼女は全員を見て
「署長がいなかったら、シェルターで最初の死人が出ていたわね」
と告げた。
「それにきっとシェルターが閉じた数時間以内に秩序を失って食料や水、他にもテントなども取り合いで大半の人間が死んでいたかも」
全員が顔を見合わせて沈黙した。
尊は彼らを見ると
「俺は……ずっと兄にコンプレックスを持っていた。兄のように人を引っ張る力もないし、国家試験なんか受けられるほど頭も良くなかった。だから、業と兄と違う道を選んだ」
と告げた。
「こんな俺が兄の代わりになんてなれるわけがない。だから、この状況を作り出したのは俺じゃなくて皆が支えて頑張ってくれたおかげだと思っている。兄もきっとそれが分かっていたから俺に生き残った人々の未来を託せると思ってくれたんだと今ならわかる」
……全員に話をする。その上で、全員で決めてもらいたい……
「解任するならそれでいいと思う」
尊はそう笑みを浮かべて
「勿論、俺は医者だ。本来の医者としての責務は果たそうと思っている」
と告げた。
ふっと笑って小宮繭美が
「村長を決める前に署長の存続か解任かね」
と言い
「準備しましょ」
と告げた。
佐々木光男が「そうだな」と答え
「紙と鉛筆だな」
と言い
「場所はいっそここの前が良いか」
と冷静に告げた。
車両係の八重庄也が
「なら、俺たちが投票箱の設置をするか。車両点検は済んでいるしな」
と告げた。
宮前青子が笑むと
「じゃあ、私と門野が巡回のついでに周知した方が効率的ね」
と告げ
「何時にしますか? 署長」
と聞いた。
尊は頷くと
「海野さんの様子から一週間したら彼も話を聞いて文字はかけると思うので一週間後に」
と告げた。
「迷惑をかけるが宜しくお願いする」
それに全員が敬礼した。
富健吾は笑むと
「もう、すっかり署長じゃないか」
と心で呟いた。
妹尾牧夫や太田幸村など騒ぎを起こした面々は騒乱罪と傷害罪となったが、留置所すらないのでシェルター内の学校の清掃など公共の場への奉仕とその報告を警察に届ける罰にとどまった。
これが殺しなどの犯罪であれば尊は地下二階を利用して拘置所代わりにすることも考えてはいたが、喧嘩の行き過ぎということで死人まで出なかったことは幸いであった。
一週間後、朝6時の時報と共にシェルター内の全員が大社広域交番のテント前に集まった。山川奈緒も浦野玉代も子供たちを連れて姿を見せていた。
川坂仙花は心配そうに尊を見ると
「署長さんはいい人だよ。私の家族になってくれたの」
と山川奈緒に告げた。
山川奈緒は微笑むと
「わかってるわ、私はちゃんとわかってる」
と彼女を優しく抱きしめた。
尊は全員を見回すとゆっくりと唇を開いた。
「これまで皆さんを騙してきました」
そう言い
「俺は大社広域交番の署長である神ノ宮命の弟の尊で警察医をしていた医師です」
と告げた。
全員が顔を見合わせた。
尊は息を吐き出し
「あの日、兄はシェルターの人々が混乱するだろうと警察がしっかり人々を守り導くために仮の署長として俺を残しました。自身は一人でも多くの人をシェルターに誘導するために駆けまわり……」
と言葉を切った。
山田竜一は立ち上がり
「……俺達夫婦の家に知らせに来てくれたのは、本物の署長さんだったんですね」
と告げた。
「知らなかった俺達に声を掛けてトンネルへいくように言ってくれました。てっきり俺たちの後に辿り着かれていたのだと思っていました」
そういう人が何人かいたのである。
尊は彼らを見つめ
「確かに騙していたのは事実です。皆さんの判断に従います」
と告げた。
「それにもう大社広域交番の面々は全員このシェルターの皆さんを守り尽くす力を持っているので安心してもらいたい」
妹尾牧夫は立ち上がると
「まあ警察の署長もいなくなるんだ。代わりに村長を決めても良いかもしれないな」
と言い
「俺が明らかにしなければ警察は騙したままずっと俺たちを支配しようとしていたんだからな」
と告げた。
宮前青子は思わず心で「チッ」と舌打ちしたものの表情には出さず全員に他の警察官と共に紙と鉛筆を配った。
全員が書き終えて投函するとそのまま全員の前で開票された。
署長をそのまま存続が48票で解任が2票。何故か村長指名の内容も数名追記されており『妹尾牧夫』が3票と『村長についてはシェルターから出て本当に落ち着いた後が良い』という票が20票ほどあった。
尊はそれを見て
「皆さんには本当にご迷惑をおかけいたしましたが、これからは今まで以上に皆さんに尽くすために尽力しようと思います」
と敬礼した。
「それと村長についてはシェルター解放後に改めて投票するという形にいたします。それまではこの大社広域交番の方で配給と巡回を行い皆さんが安心して生活できるように努めていく所存です」
富健吾を始め警察の面々全員が敬礼をした。
富健吾は笑むと
「もう震えちゃぁいねぇな」
と心で呟き視線の先に浮かぶ神ノ宮命に笑みを向けた。
「署長、あんたは本当にどこまで行っても本物の署長でしたよ。素晴らしい署長をありがとうございます」
この日から神ノ宮尊大社広域交番署長となり、日常が再び始まったのである。
ただ少しずつ人々の生活は変わり始めていたのである。
シェルターの外では灼熱と汚染された風が作る荒らしが少しずつ収まり始め人々がシェルターから解放される日が近付いていた。




