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POL 終末のロボット警察官  作者: 如月いさみ


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ゼロ丁目駐在所のお巡りさん 4

 ロボットは使う人間のプログラムで天使にも悪魔にもなる。どんな残酷なことも残酷と感じることすらしない。


 ……心がないからである……


 榊翔也は腕を釣りながら相変わらず人の戻らない鳥取砂丘近隣の巡回を獅子河豊治と回り、砂丘前駐在所へ戻ると待っていた人物に目を向けた。


 鳥取県警本部長の織田達彦であった。細身で長身の人物であるが刑事時代はナイフの織田と言われるくらい鋭く武術にも優れた人物であったようである。

 しかし、こんな小さな砂丘前駐在所に、と翔也は驚きつつもパトカーから降りて詰所に入るなり敬礼をして

「お疲れ様です」

 と告げた。

 豊治もまた敬礼をして

「お疲れ様です」

 と告げた。


 織田達彦は翔也を見て敬礼をし

「先日はケガを負ったということで命に別条がなかったのは良かったと思っている」

 と言い、豊治……POL031に目を向けると

「POL031もこの分だと何があったとしても大丈夫のようだな。やはり駐在所に託して良かった」

 と笑みを浮かべた。


 豊治はそれに

「獅子河豊治です」

 と返した。


 翔也は慌てて

「獅子河巡査」

 と言葉を止めかけた。

 が、それに織田達彦は笑うと

「いや、それでいい」

 と言うと敬礼をすると

「獅子河巡査、失礼した」

 と答えた。


 翔也はヒタリと汗を浮かべ

「……マジか」

 と織田達彦を見て内心汗を搔きまくった。


 織田達彦は翔也を見ると

「これからも通常勤務のことを獅子河巡査に叩き込んでおいてもらいたい」

 と言い

「それから川路大警視の本を託してくれたことは感謝する」

 と告げると

「では」

 と敬礼すると立ち去った。


 翔也はそれを見送り

「……何しに来られたんだ??」

 と呟き豊治を見ると

「あ、報告書。今日は書いてくれ」

 と告げた。


 豊治は敬礼をすると

「はい」

 と机から白紙の報告書を出すと記入を始めた。


 その時、電話が入った。翔也は受話器を上げると

「砂丘前駐在所です。事件ですか? 事故ですか?」

 と聞いた。


 それに女性の声が返った。

「福部町湯山の松園です。泥棒が入り絵画や茶器が無くなってしまいました」


 翔也は目を見開くと

「美術品の泥棒!?」

 と言い、脳裏を先日の美術館を襲撃した強盗団を思い浮かべた。


 鳥取警察署からその後の報告がないところを見ると捕まっていないことが分かった。もし同じだったら足掛かりがあるかもしれない。


 翔也は詳しい住所を聞くと

「今から向かいます」

 と言い受話器を下ろした。


 豊治は立ち上がり

「福部町湯山の松園宅ですね」

 と告げた。

 翔也は彼と共に駐在所を出て助手席に座り

「そうだ、頼む」

 と答えた。


 福部町湯山の松園宅には87歳の松園百合子が介護ロボットのフィリシアと共に一人暮らしをしていた。電話をしてきたのはそのフィリシアであった。


 翔也は大きな屋敷のような家の門の前にパトカーを止めるとインターフォンを押した。若い女性の姿をした介護ロボットが現れて手帳を見せた二人を確認すると

「ありがとうございます。どうぞ」

 と中へと誘った。


 広々とした庭を抜けて大きな屋敷の中へと入り翔也は玄関から取次に登りそこにあった靴入れの上のツボに目を向けた。土の肌と釉薬が作り出す深い緑の色のコントラストが趣があって美しいモノであった。


 翔也はそれを一瞥して介護ロボットの後に付いて豊治と共に家の主である松園百合子の部屋へと入った。87歳のわりにしっかりと椅子に座り白髪ではあるがしっかりとした目力のある婦人であった。


「フィリシアがお電話をして」

 そう言って頭を下げた。


 豊治は手帳を出すと

「それで被害にあったのは」

 と聞いた。


 彼女は息を吐き出すと

「私が何処へやったか忘れただけで……取られたわけではないんです」

 と告げた。


 介護ロボットのフィリシアは表情を変えないまま

「奥さま、応接室の絵画と黒曜の茶器が無くなっております。探しましたが見当たりません」

 と告げた。


 豊治はフィリシアと松園百合子を交互に見て

「どちらが正解を言っているのですか?」

 と聞いた。


 翔也は息を吐き出すと

「フィリシアさん、あった場所へ連れて行ってください」

 と告げた。


 それに松園百合子は腰を上げると

「お待ちになってください」

 と告げた。

 翔也は老女を見て

「お話は後でお聞きします」

 と言い

「まだ鳥取警察署の方へは連絡していないので」

 と告げた。


 彼女は息を吐き出して椅子に座り直した。

 翔也と豊治はフィリシアの後に付いて隣の部屋に入り彼女が絵画が飾られていたという壁と茶器が置かれていたという場所を見た。


 翔也は豊治に

「写真を撮っておいてくれ」

 と告げた。

 豊治は写真を撮り

「確かに絵画があったと思われます。それからここにも茶器があったと」

 と告げた。


 そう絵画があった場所の壁の色が他と微妙に違っており長いこと日光が当たっていないことを伺わせた。また茶器があったとされる場所には煙草の吸殻が落ちていたのである。手袋でそれを開いビニールに煙草の吸殻を入れた。


 翔也はフィリシアに

「確認しましたので松園百合子さんから事情聴取を行います」

 と告げ

「松園百合子さんにはご家族は?」

 と聞いた。


 フィリシアは翔也と豊治を見て

「奥さまには今年54歳になられる一人息子の勝夫さんと妻の道子さんと孫の勝馬さんがおられます」

 と答えた。


 豊治は黙ったまま立っていた。

 翔也はメモを取りながら

「同居はされていなんですか?」

 と聞いた。


 彼女は「はい」と答え

「同居は嫌だということで奥さまは代わりに私をご購入されました」

 と答えた。


 翔也はフムフムと頷き

「息子の勝夫さんはこちらへは?」

 と聞いた。

 フィリシアは頷いて

「勝夫さんは一か月に一度様子を見るのに来られています。いつも奥さまの顔を見て一泊して翌日にご自宅に戻られます。最終日は一週間前です」

 端的に答えた。


 翔也はそれをメモリながら

「なるほど、煙草は?」

 と聞いた。


 フィリシアは首を振ると

「いえ、こちらで吸われているのを見たことはありません」

 と答えた。


 翔也は更に

「他に来られることがあるのは?」

 と聞いた。


 彼女は無表情で

「勝馬さんは不定期に来られます。奥さまにお金を貰って立ち去ります。最終日は二日前でした」

 と告げた。


 翔也は「なるほど」と言い

「煙草は?」

 と聞いた。


 彼女は「吸われますが奥さまの前で吸って灰皿に押し付けて変えられます」と答えた。


 翔也は笑みを浮かべると

「ご協力ありがとうございます」

 と答えた。


 フィリシアは頭を下げると松園百合子のいる部屋へと戻った。翔也は煙草の吸殻を見せて

「この吸殻を調べれば犯人が分かります。確かに壁の色と台の上にはモノがあった形跡があります」

 と告げた。

「被害届を出しますか? そうすればこの吸殻を元に指紋も採取し調べることになります」


 松園百合子は肩を落とすと

「全てお分かりだと思いますが身内の恥の話です」

 と答えた。


 翔也は息を吐き出し

「お孫さんとお金のことでトラブルが?」

 と聞いた。


 孫は不定期に来て金を貰って立ち去っていたのだ。何もなければ恐らくはモノを盗んだりはしないだろう。可能性として考えられるのは金を貰っていたがそれが断られたのでモノをとっていったというところだろう。


 フィリシアは介護ロボットである。家の中の家財の管理も入っているのだ。ならば、管理下の家財が無くなっていれば盗難と言うことで警察へ知らせることになる。


 もし、これが人間だったら『身内の恥』ということで警察沙汰にするかしないかを悩むところである。ロボットにはそういう感覚がないので今回の通報となったのだ。


 松園百合子は視線を下げて

「孫を甘やかせすぎたのは私のせいです。けれどモノを盗むということが身内であっても許されないことだということを教えなければならないとも考えています」

 例え断絶することになっても、と告げた。


 豊治はじっと言葉一つ発しなかった。翔也は豊治を一瞥して彼女に向き直ると

「わかりました。息子さんの家のご住所を教えていただけますか?」

 と告げた。


 松園百合子は頷いて教えると

「フィリシアはロボットですけどちゃんとしてくれて……感謝しているんです。今回はこのような形の通報をしてお手間をとらせてしまい申し訳ありません」

 と告げた。


 翔也は笑むと

「いえ」

 と答え、豊治を見ると

「行くぞ」

 と呼びかけて松園家を後にした。


 そして、翔也は豊治に

「今からいう場所へ向かってくれ」

 と告げた。


 松園百合子の息子の家であった。翔也は家にいた勝夫の妻の道子と同じく家にいた孫の勝馬に今回の盗難については松園百合子が被害届を出さないということと身内の話であるということで注意だけになるが次にすれば逮捕するということを告げて立ち去った。


 豊治はその帰りに

「介護ロボットフィリシアの証言の方が正しかったと思われますが」

 と告げた。


 翔也は頷いて

「確かに絵画と茶器を盗まれていた」

 と答えた。

「ただ、親族間の窃盗は相対的親告罪になるからな……それに松園百合子さん自身が通報するつもりもなかったのが分かったので注意勧告にしておいた」


 ……次はないけどな……

「彼女もそう言っていたからな」


 翔也は豊治を見ると

「獅子河には一番難しい心の襞の問題な」

 と告げた。


 豊治は運転しながら

「ココロ……ですか」

 と視線を一瞬自身の内ポケットに入れた本に向けた。


 警察官の心得として渡された本である。

 人々を慈しみ守ること。

 真実を追求すること。

 日本警察の父と言われた豊治が名前の基礎となった川路利良の本である。


 心を持たないロボット警察官であるPOL031……豊治自身が理解できるかどうか。

 豊治は前の緑の田畑の海を見つめ

「警察官になるには心を知らなければならない」

 と呟いた。


 翔也と豊治はそれから暫く松園家もルートに入れて見回りをして声掛けをして様子を見ていたが孫が来たという話はフィリシアから聞くことが無くなり、息子の勝夫はこれまで一か月に一回だったが週に一度姿を見せるようになったという話であった。


 人が減ったまま季節が変わろうとしたその日。

 日本全土に散らばっていた全てのロボット警察官が空を同時に仰ぎ見たのである。


 いつの世も……権力者たちは本当に重要なことは市民には伝えないモノなのである。


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