表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七罪の色(仮)  作者:
PR
8/11

最上の怠惰との約束

「少しの間によくこれだけ汚くできるね、君は」

 この場所に最初に来た時もこうだった。これだけに広い集会所を埋め尽くす多種多様な物の山。

「久しぶりに顔を合わせて早速説教かよ──それに、少しの間でもなかった」

「……そうか、そうだな」

 こうして互いに軽口を叩きあい、僕が部屋を片付ける。久しぶりと言えるほどに馴染んだ習慣だった。

「お前、今一日何時間だ?」

「この場所に時間の概念なんて──」

 あぁ、とても彼女らしい。

 故に、今日だけはそうはいかないらしい……──やはり君もそうだったか。

「煩いっ、御託はいい。お前が伝えられる言葉でアタシに答えろ」

「正直……、分からない。それが何時からだったのか、一体何なのか──気付けば呆けているような時もあるし、朝何時もの時間に覚めたと思っても昼前と呼べる時間であったりもした」

 根は安閑と言える性格なのに、一度火がつくと止められないのも変わってない。

「嘘だな。確かに何時からかなんてのは分からないかもしれない、それでもそれが何なのかくらいは見当が付いてる筈だ」

「君には嘘がつけないな」

 全てが懐かしいと感じられるその思いに──僕の手は止まり、さらには彼女に嘆き縋りつきそうになる。

「はんっ、年季が違う。アタシはお前よりさらに先輩なんだ」

「そうだったな──……それは、きっと君と約束した辺りから始まって、僕の卒業を促すために起こっていると認識している」

「時期に関しては知らん。だが、卒業を促すってのは間違いない。本来はアタシのような、いつまでも卒業出来ない怠惰な奴に科せられる罰みたいなもんだ」

「天使様たちに、相談を、した方がいいのだろうか……」

 この場所を、聖域として疑がわない僕にとってその言葉は重い──だがそれでも、これはもう疑いようがないのだ。それは何時からか僕を襲う、確かな事象なのだから。

「馬鹿言うな、天使たちだってそれくらいは知っている。どうしようもない──罰、なんだよ」

「そんな……」

「それともう一つ、あまり天使たちを信頼しすぎるな」

「そんなことは、それだけは……ない」

 信じたくはない。

「そう言い切れるのか、今のお前が?」

「そんなことは、今は……いいっ。君は知っているのか、この罰から逃れる方法を?」

 彼女の言葉に嘘はない。彼女自身は間違いなくそうだと、そう信じていることが僕には理解出来る。ならば、この真綿で首を絞めるような──自覚さえも薄いこの事象を、天使様たちは見逃していると理解するしかない。

「卒業してしまえばいい」

「……それは出来ない」

 そんなことは──そんなことだけは、とうに分かっている。それが出来ないから、こうしてここにいる。

「なんでさ? まさかと思うが、あんな黴臭い約束がとか言い出すんじゃないだろうな」

「そうだ」

 あの色褪せない約束の為──

「お前のそういう所が嫌いなんだよ、変にいい子ちゃんぶりやがって。あんな約束──アタシはもう覚えてないっ」

「君は、どうやってこの罰と向き合っているんだ? それだけでもいい、教えてくれ」

 僕は何故だろう──君のそんな所に惹かれたよ。

「そうやって立ち直りが早い所もだ」

「ああ、そうだな」

「そうやってアタシを年下扱いする所もだ」

「すまない」

「…………ふぅ、相変わらずそうやって口ばっかり上手いときた──この際だ、はっきり言っておく。お前には無理だ」

「何故っ──」

「その前に一つだ──何故アタシの部屋に来なくなった?」

「それは……──君の前では、とても怠惰ではいられなかったから」

「ほらな、無理だ」

「何故だ? 少しでも怠惰にすごす。それが対処療法の筈だ」

 僕が身を持って得た、唯一つの答え──それが間違っていると?

「この罰は、怠惰な者に時間という掛け替えのないものの大切さを理解させる──そうした類のものだと思えばいい。そこでどうだ、お前の取った行動は? 時間に対して誠実であったと言えるか?」

「そんなもの──どうしようもないじゃないか」

 それならば、今まで以上に急ぐしかないのか。でも、どうやって……

「そういう訳だ。この罰から逃れたいと思うのなら、せっせと慈善活動をしてさっさと卒業するか、その怠惰を日常のものとするかだ。後者にも限界はあるけどな」

「そんな訳には…………」

 ならば、彼女はどうだ……この場所で長らくすごす彼女であれ、それ等の罰に無関係であれるとは思えない。

「考えたって無駄さ。この学園のシステムは本っ当に上手く出来てやがる、個人の都合なんてお構いなしだ」

「それを知っている君は、その限界を迎えたということかい? いや迎えていなくもいい──その限界を、限界までをどうにか引き延ばす方法を君は知っているんだと思う。それを教えてくれないか」

 僕が今見出せる希望はそこにしかない。

「なぁ──お前は久しぶりに来たっていうのに、相変わらずアタシの言葉なんて聞きもしない。あれは駄目、ここはこうだ、僕はこうする──……面倒になったか? その変わりが、あのタチって餓鬼なのか?」

「それは違うっ! 彼は……──タチ君は特別なんだ、僕よりさらにね。タチ君は自身の負う罪すら分からない、天使様たちですら分からなかった。そんな状態なんだ」

「そんなことが──」

「あったんだよ。だから探している、自分の罪を」

「だったら本当にあの餓鬼は、アタシに挨拶に来ただけなのか?」

「そうだよ。だから、『面倒になったか?』なんて言うな」

「そうか──そうだったのか。あの二人には悪いことをしたな」

「フン、二人なんてマシな方さ、僕なんて君に殴り飛ばされたんだからな──だから気にするな、二人とも気にしてないさ」

「だったらさ、このまま二人で……──何でもないっ、らしくないことを言った」

 このまま二人ずっと、この場所ですごせればいい。


「約束を、果たすよ」


 僕もそう思うよ。でも、それはらしくないから──何時かの約束を違えるから、今は言えない。

「そうだな、お前はそういう奴だ。アタシが知っているお前そのものだ──一つ、それをよく見てろ」

「これかい?」

 彼女が指したのは僕の七石。

「そうだ。月白の色が、空色に変わらない様に気をつけろ」

「そうか……」

 右手の袖口に収まるカフスボタンは、確かに月白色に輝いている──そうか、本当に手立てはないのか。

「ついでに言えば中身に変化があるようなら、いよいよだ」

「っ──」

 彼女が改まって言葉を発する時、そこに嘘偽りは一切ない。

「……二つ、だ。最後くらいはアタシに会いに来い、けじめは付けてやる」

「分かった──今日はこれで失礼しよう、またいずれ会いに来る」

 どうか嘘吐きな僕を許してほしい。

「あぁ、待ってる──……戻るなら、あのタチって餓鬼に伝えてくれ。詫びを入れたいから、明日にでも来てくれってな」

「了解した、伝えておく」

 最後は誰の目にも止まらない場所で──その日はきっと近い。


 熊の翁が狂い謳い月下に舞う────それはきっと、神事の如く祝福に溢れている。



「サラさん、本当に良かったんですか? 委員長も『サラ君については特に聞いていない』と言っていましたし、無理はしなくてもいいんですよ」

「いえ、大丈夫です──この件に関しては私、最後まで当事者でいたいと思っています」

 気丈に答えられていると、そこに疑いの余地はない。

「そうですか。では、こうしましょう──取り敢えずは僕が率先して彼女と話を進めて、可能であれば例の件について尋ねる。補足する部分等、必要と思われる場合は遠慮せず言葉にして下さい」

「……はい、ありがとうございます」

 正直に言えば、女性の部屋へ単身向かうことに抵抗がない訳ではないため、彼女を強く留めるような意思が持てない。

「それも、どこまで上手くいくか自信はありませんが、それでも宜しくお願いします」

「はい──ですが、タチくんであればきっと」

 招かれてのものとはいえ、尋ねるのは酷く個人的なもの──罵詈雑言を吐かれても不思議はない。それでもサラさんが、本人に詰め寄って聞き出せなかったんだから、後はもう一人の当事者に聞くしかない。

 委員長が抱える──事情というものを。


「タチです。失礼してもいいでしょうか?」


 サラさん曰く、委員長の様子がおかしいと思いだしたのは、部屋を出ていく方向の違いだったらしい。

「聞き取れなかったんでしょうか?」

「これは恐らくですが、眠っているのではないでしょうか。以前少し触れましたが、怠惰のクラスの生徒は委員長が訪ねてくることを見越して部屋の鍵を空けていることが多いです。そして、ウルスさんもその例外ではないと思われます。もしも、本当に入られたくない場合は鍵をしていると思われますので、もう一度声をかけて返事がないようなら入室してみればいいかと」

 サラさんの部屋は場所の都合上、委員長の朝の挨拶を、後ろから二番目に受ける。ある日、委員長を追う形で部屋を出た彼女はウルスさんの部屋に向かう筈の委員長が、ウルスさんを無視する形で移動するのを目撃したらしい。

「それは、色々と問題があるというか、委員長だから許されるのでしょう?」

「いえ、私たちは怠惰ですから。どこへ訪れることもなければ、誰も訪れることがない──それが基本なんです、私だって最近は鍵を閉め忘れちゃうことがありますから」

 委員長とウルスさん親交は深い、そんなことがある筈がないと──そうして彼女は、委員長の行動を意識するようになったらしい。

「分かりました、そうしてみましょう──ウルスさん、タチです。失礼してもいいでしょうか? ウルスさん……本当に失礼しますよ」


「──……ッスン」


 サラさんが言うように鍵は掛かっていなかった──電気は点いていないし、本当に眠っているのかもしれない。そもそも鍵をしないということが危険であると、なんて言うのは今更なんだろう。

「ウルス、さん……?」

 気持ちが後ろを向きかけた時に聞こえたのは──鼻を、啜る音だろうか?

「っ、…………──おお、タチか。もうそんな時間だったか、呼び出しておいてすまなかったな」

「いえ、僕は気にしません。それより勝手に入ってしまってすいません」

「それこそ構わない。そもそもここの連中は、皆そうでもしないと相手にもしてくれないだろうよ──それと、サラだったか、よく来てくれた。正直に言えば、ああして怒鳴ってしまったから、呼んでも来てくれないと思っていた。昨日はすまなかった」

「はい、あのそんな、私は気にしてませんから──あれ、私、名前」

「名前くらい知ってるさ、お前はそれなりに古株だ。そんなことより──まぁ、そこのソファにでも座ってくれ。少し暗いが、寝起きなもんで電気は勘弁してくれ。昨日、どっかの馬鹿がそれなりに片付けたから大丈夫だろ」

「あの……僕なんですが」

 目も慣れたし、確かに部屋も昨日より片付いているから問題はない。恐らく、昨日僕の横を吹き飛ばされていった、三人掛け程のソファに二人して身を収めることが出来ていた。

「ああ、事情は聞いているし理解もしている。お前たちばかりが素性を知られていては気持ち悪いだろうから、まずはアタシも自己紹介をしよう──アタシはウルス、この怠惰のクラスで最も怠惰な女だ。この部屋に移ってから一度も外に出ていないんだ、笑えるだろ? そんな訳でタチ、アタシはお前の問いに答えられるかもしれない。その代わりと言ってはなんだが、アタシの願いを一つ聞いてくれないか?」

「僕に出来そうなことであれば」

「ふん、即答か。では聞こうかお前の問いを」

「それは酷く個人的なものになりますがいいでしょうか?」

 あぁ、本当に個人的なものだ。こんな聞き方をすればここまでの会話を無にするのかもしれない。それでも──ウルスさんが願いがあると、そう言うのだから機会は今しかない。

「ああ、構わない」

「委員長──ユウシさんが抱える事情というものを教えて頂きたい」

「タチくんっ!?」

「はん、そうきたか。いいのか? 答えるのは、願い一つに一つだけだ。それは本当に、お前が聞きたいコトなのか?」

「はい、間違いなく」

「お前、ここに来て何日も経ってないだろ? なんでそんな奴が、あの馬鹿を気にする?」

「友人との約束のためです」

「……ふぅ、どうやら馬鹿っていうのはどいつもこいつも同じらしい」

「あの、」

 これは……許してもらえたのか?

「分かった、答えるさ──その答えがアタシの願いにも関わってくる、少し昔話をしようか」

 そう言った彼女は少し俯き、胡坐をかいてこちらを正面に捉える。手に開く絵本があったなら、その仕草は初めて買って貰った絵本を友達に読み聞かせようとする少女のソレだった。


『なんだってんだよっ! アレはっ!』

『人の罪とされるモノだ』

『あんなモノが──あんなのが、アタシの中にもあるっていうのかよっ!』


「昔、どうしようもなく怠惰な奴がいたんだ」


『アタシがあの部屋に──アタシが一番になったからなのか?』

『突然ことで悪かったと思っている。だが、この学園を護るために協力してくれ』

『アタシは……、理想の場所に辿り着いたんじゃなかったのか……』


「一人の人間が消えて、そいつは来て間もないというのに一番になった」


『気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い…………』

『失礼してるよ。僕はユウシという、よろしく頼む』

『……──お前も……なんだってんだよぉっ』


「一番ってのに意味なんてなかった──価値なんてなかった。唯そこに一番の孤独があったんだ」


『──お前、また来てたのか』

『久しぶりに口を聞いてくれたね。何かお望みはあるかい、怠惰の姫様?』

『……黙って、やってろ』


「どうしようもなかった孤独の中で、そいつは飛びっきりの馬鹿に逢うんだ」


『なぁ──この前の馬鹿げた目標ってのは本気か』

『勿論だ、どこまで出来るかは分からないけどね』

『そうか……』


「その馬鹿はさ、何も知らないんだ」


『ないよ、そんなもの。アタシは根っからズボラでさ、ここに来るまでと後で変わったことなんて何一つとしてないんだ……』

『そうか、それは良かった──こう言っては少し誤解を招くかな』

『はんっ、お前の言いたいことは分かる──まぁ、アタシ以外の前ではやめとけ』


「そして何も知らない癖に、無茶な夢を見るんだ」


『……ふぅ、決めたっ! おい、いつかはぶん殴って悪かった──詫びと言ったらなんだが、お前の目標に協力してやるよ』

『なんだ、突然に。規則正しい生活でも始めるのかい?』

『バーカ。約束だ──アタシがこの場所を守り、お前がここの生徒を守るんだよ』


「だから二人で約束したんだ。この場所ですごすクラスメイトを、よりよい形で卒業させる──そんな馬鹿みたいな約束を」


 なんだ、今のは? 言葉で発せられる以上の、その生の言葉が伝わってくる。

「タチ……くん?」

「サラ、お前はアタシの力の話、聞いたことないか?」

「あ、はいっ」

「とまぁ──こんな感じの力だ」

 どうやら絵本を読み聞かせてくれた少女は悪戯好きだったらしい。

 少女は指を一本、口元に立てる。恐らくサラさんにも先程のように何かを伝えているんだろう、サラさんは気付かない。

「分かりました」

「今伝えた通り、アタシの力は観察と伝達と傾聴だ。少しばかりの制限はあるが、それを化け物じみた精度で行える──今、あの馬鹿はそんな化け物じみた力に飲み込まれようとしている」

 その詳細は未だ僕にも分からない。それでも特に、あの前半部分──きっとサラさんにまで伝える必要はないと、そういうことだろう。

「そんな、委員長が……」

「驚くことじゃないさ。お前は卒業以外で消えていった奴を知らないか?」

 曰く、『化け物じみた力』と。それはさっきの話が関係してくる故の言葉──恐らく、彼女が孤独と称したモノの行き着いた先にあるナニカ。

「委員長が以前そういった生徒がいたと、だから、一人で抱え込むなと一度」

「簡単に言えば──落第ってやつだ。事情は個々様々だろうが、この場所で自分の罪と向き合い切れなかった奴がそうして消えていく」

「でも、委員長はっ」

「そうだな。あの馬鹿の場合、少なくともそんなことにはならない筈だった──約束を無理に果たそうとしなければな」

「そんな……だったら委員長は私たちのために」

 そこまで分かっているのにどうしようもないのか──。

「委員長はそのことを」

「伝えた、忠告もした。彼奴は馬鹿なんだ──アタシの言うことなんか一つも聞かない。だからアタシがけりをつける。タチ、アタシがお前に頼みたいのは一つだ。あの馬鹿を迷わせることなく、アタシの元に連れて来てくれ」

「──僕は一体何をすればいいのでしょう?」

「難しいことは何もないさ。まずは天使の奴にこのことを伝えて、事が起きた時の対応を願え。但し、あの馬鹿だけはアタシがけりをつけるからと一言添えろ──それで伝わる」

「分かりました。今日中、または明日の朝までには伝えます」

「上出来だ。後はアタシの指示を待て、アタシが力であの馬鹿を監視する。その時が来れば一番にお前に伝える、お前はそれを天使たちに伝えて、後は臨機応変にだ」

「臨機応変ですか?」 

「あー、そうやって難しく考えるな。彼奴は嘘吐き野郎だが、天使たちが対応したなら、嫌でもアタシの所に来る。お前が天使たちに伝えられたなら、願いは叶えられたも同然と言っていい。だが、出来るならでいい──彼奴を間違いなくアタシの元まで誘導してくれ、もしもであっても彼奴に間違いを起こさせたくない」

 彼女が発する声色は、これから起こることへの緊張を──母親の愛情が包んだようでどこか優しい。

「天使達の対応というのは、どういったものになるのでしょう?」

「彼奴がどうなったとしても、他の学園生に迷惑がかからないように学園生全員を隔離する。詳しくは天使の奴に聞け──お前にはその輪から外れて貰うことになるが、これ以上は危険だ、無理だと感じたなら何時でもいい、天使たちに助けを求めろ」

「……はい」

「いや、だから難しく考えるなって。昨日の様子じゃ、どうしようもないって程でもなかったし、アタシの方でも判断してやる。お前がそれ程の危険に晒される可能性は低い筈だ。昨日今日に会ったアタシを信じろってのは難しいかもしれないが、一つの取引だと思って引き受けてくれ」

「違います、そうじゃないんです。確かに聞きたいこと、考えるべきことが多くあります──でも、今僕が思いを巡らせていたのは事の顛末で、その先の委員長の姿です。どんなに想像しても、誰か一人でも願う結果にすらならない」

「それは、……仕方ないことだ」

 何故僕がそんな大役を任せられるのか、何故ウルスさんが今からでも行動を起こさないのか、天使さん達はこのことをどう捉えているのか──疑問は尽きない。それでもこれだけは分かってしまった。今の話を統括すれば、どんなに想像を膨らませても、委員長がこの学園で再び笑っていられる姿を思い描けない。

「そんなっ、委員長を助ける話をしていたんじゃないんですかっ!?」

「そんな話をした覚えはないし、そんな都合のいい話もない」

「だったら、何をどうやってけりをつけるんです? そんな悲しい顔をしてまでウルスさんがすべきことなんですか?」

「無理なんだよ……ああなっちまったら。抑え込んでアタシみたいな化け物になるか、完全に呑み込まれる前に天使たちに対応されるかだ。彼奴に抑え込むなんて真似出来ないし、アタシも望まない。天使たちに彼奴を任せるなんてのはさらに望まない──だから最後はアタシが」

 委員長を消すと、それが二人が望んだ結末だと、人外の力で彼女は伝えてくる。

「もう少し二人は、我が儘になってもいいんじゃないでしょうか?」

「煩い……、分かったようなことを言うな」

「そうかもしれません…………僕は、我が儘を言い続けてここに来たようなものです。委員長がその日を迎えるのに、どの程度の時間がありますか?」

「はん──……早ければ明日にでも、遅くとも七回も朝日を拝めば、その日が来るだろうよ」

「そうですか、少し僕の方で動いてみてもいいでしょうか?」

「勝手にしろ──ただし、これだけは頭に入れておけ。アタシたちの望みは、誰かに間違いを起こすことなく穏やかにその時を迎えることだ」

 それはきっと悲しいことだから、それはきっと間違っていると思うから──それはいつかと重ねてしまったから。

「はい、約束は守ります」


「一つ、ヒントをやろう。あの馬鹿の罪は完全に消化された訳じゃない。あと一歩の区切りがついていないんだ。詳しい事情は知らない──アタシは聞かなかったし、それでいいと思っていた。どうやら失敗だったらしいけどな」


 去り際に紡いだ彼女の言葉は、確実に事の核心部分だった。

「有難うございます、色々と考えてみます」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ