表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
5/17

⑤一方その頃……

 真白な靄の中、銀の髪が揺れる――王華は独り野営の森を歩いていた。

 金烏(きんう)将軍率いる〝浄化部隊〟での初任務は、地神界へと赴き魍魎を浄化させるというものであった。その緊張が覚めやらぬせいか早朝に目が覚め、髪も解いたままでぼんやりと結界の中をそぞろ歩く。

 ひんやりとした空気、流れくる色々な匂いに鼻を澄ませ、琥珀色の目が細められる。

 熊威(ゆうい)を起こそうかな。

 幼馴染の寝顔を思い浮かべる。王華と同じく今日が初出仕であるが、物怖じしない性格のせいか、軍幕の中ぐっすりと眠っていたので声を掛けなかった。だが、余りにも心地良い朝を独り占めするのは勿体ない気がして、足を止める。

 踵を返そうとした時、空気が震えた……王華は、んん? と顔を上げ、それから少し目を見開く。

 遠くから物凄い速さで近付いてくる神気――それは王華の良く知るもので、しかも、怒気に満ちている。

 頭上に影が落ちた……刹那、容易くは破れない筈の結界が一瞬で引き裂かれ、赤い火の粉を残して燃え落ちる。大きく開いた穴から飛び込んで来たのは、一際大きな銀鼠(ぎんねず)色の毛皮持つ狼。

「父様!?」

 職務中は〝将軍〟と呼ぶと決めていた事などすっかり忘れ、王華は思わず声を上げた。狼は獣身化を解くと、黒髪に銀衣の大柄な男の姿となってにじり寄る。余程慌てていたのか、髪は金の冠で纏め上げられているが、その装いは軍衣ではなく普段着のままである。

「綾羅は!? 何処におる!!? お前なら知っておろう!!」

 怒りと焦りを露わにした父――オオノ神の勢いに戸惑いながらも、王華は何とか問いに応じる。

「へ、え? と、綾羅は……昨日、城で別れたきりで……帰りは父様にお願いすると言ってましたけ、ど……」

 そこまで口に出して王華は、はっとした。

 綾羅が長年、黄龍に想いを寄せていたのは嫌になるほど良く知っている。

 昨夜は唯一、主神様がお独りで祈りを捧げられる日……まさか?

 その表情を見て取り、オオノ神は王華の細い両肩を力強く掴んで迫った。

 痛っ、と思わず声を上げるが、焦りに駆られたオオノ神の耳には届かず、王華はそのまま木の幹へと押し付けられる。

「心当たりがあるんだな!!?」

 その腕を振り解こうと肩を捩らせる……が、全く力敵わず顔を歪める……と、不意に痛みから解放された。

「おイおイ、何してんだ!? 狼よォ!!」

 異変に気付き、駆け付けた金烏将軍――ヤタノ神がオオノ神の腕を掴み上げていた。大柄なオオノ神に比すれば細身であるにも関わらず、軽々と引き剥がして己の方にその巨躯をぐいと引っ張る。勢いそのままに跳躍すると、オオノ神の額に頭突きを一発、喰らわせた。

「オレの結界を侵犯すんじゃねェ!!」

 顰め面のオオノ神を睨み付けたままでヤタノ神は王華を背に庇う。肩口に赤と金の糸で豪奢な刺繍が成された黒衣を身に着け、腰帯には龍の意匠の金具、黒い髪は同じ意匠の金の冠で頭上高くに纏められている。

 オオノ神は一度、瞬きし、少し冷静になった琥珀色の目でスマンと言った。

「用があるならオレを通せ。任務中だ」

 居住まいを正して拱手をし、オオノ神は軽く腰を折る。

「火急の用だ、王華と話させてくれ」

 ヤタノ神は、解った、と王華を庇う背を退けた。

 オオノ神は改めて王華に向き合い、その両肩を分厚い手で撫でる。

「……スマン、王華」

「いえ、僕は大丈夫です、父様。昨日、綾羅は帰って来なかったのですか?」

形代(かたしろ)だ」

「形代?」

「帰って来たと思ったのは、綾羅に化けた形代でな……儂もサクヤもそうとは気付かず……朝になり、寝台に残されたこれを見つけて初めて気が付いたんだ」

 オオノ神は、襟元から小さな布製の人形を取り出した。王華の掌に乗せられたそれは、綾羅が子どもの頃から肌身離さず着けていた、龍を形取った手縫いの人形。未だ綾羅の神気を纏って小さく揺れている。

「これは……ああ……もしかして、綾羅が術を……?」

 うむ、とオオノ神は頷く。

「これに力を貯め込んで、術を発動させる種とした、らしい」

 綾羅の気持ちを思い、王華は俯く。

 誰にも内緒で、独りで悩んで考えて、策を弄する程に……ほんとうに主神様の事、好きだったんだ……

「コイツで探してやろうかァ?」

 横からの声に王華は顔を上げた。ヤタノ神の掌から黒い塊が湧き上がり、見る間に三本足の(からす)へと変化する。烏は愛嬌のある表情で一声鳴き、主人の肩へとぴょんと飛び乗った。

「いや、それには及ばん」

 オオノ神は王華の肩に置いた手に少し力を込め、真っ直ぐに見つめる。王華もまた視線を真面(まとも)に受け止めながら、考えを巡らせる。

 想いを伝えられた所で、主神様が綾羅を相手にする筈がない……今頃、諭されて泣いてるんじゃないかな……いや、叱られてるかも。牢に入れられたりしてないよね!?

「父様!!!」

 オオノ神は、ああ、と短く応じる。

「綾羅は主神様に想いを寄せています。いつか愛を告白したいと……僕には良く、話していました」

 その言を聞くや否や、一気にオオノ神の形相が恐ろしい物へと変化した。

「だから、綾羅はまだ雲上宮に……あっ、父様っ!」

 オオノ神は王華から離れると同時に狼へと変化し、止める間もなく地を蹴り空へと駆け上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ