⑫.5 母の懸念
⑫と⑬の幕間です。
綾羅の魂が彼を求めている事は、母は誰よりも解っていた。
その、憧れて止まぬ貴種——龍の中でも至上の存在である黄龍が、壮麗な龍体を惜しげも無く顕しながら降臨した——しかも、綾羅の為だけに。
なのに。
それを許せぬ父が、有ろう事か、丸腰の黄龍を相手に武器持て急襲し、己の結界へと攫ってしまった。
愛しい存在に、後少しで手が届く所だったのに。
呆然と虚空を見詰める綾羅の肩を、サクヤはそっと抱いた。
「綾羅、大丈夫ですよ。時々、あの二神は喧嘩を……」
「……った……」
ぽつりと零れた言葉が聞き取れず、サクヤは耳を傾ける。
「あいしてる、って、言ったぁ……」
瞳を潤ませ、綾羅は紅潮した頬を両手のひらで軽く押さえる。
黄龍の身を案じているのかと思い、綾羅を気遣ったサクヤであったが、そうではないと気付いて安堵する。
実際は別の言葉を紡いでいたのだが、意味する所は同じであると感じ、サクヤは、そうですね、と頷いた。
「ね、母様っ、綾羅は黄龍様の所へ行きたいの」
「では……二神の移動した先で待ちましょう」
サクヤ様、と大柄な狐が遠慮気味に声を掛ける。気付けば小柄な狐の姿が無い。
「我が主の力がオオノ神様の御力に呑み込まれましてございます。故にあいつは主を心配して……」
「ええ。すぐに飛んで行ったのは分かっています。貴方も行って良いのですよ?」
「いえ。サクヤ様に付き従うよう命を受けておりますれば」
「そう……では、着いてきて下さい」
言うなりサクヤは綾羅の手を取り、連れ立って目の前の崖から下へと飛び降りた。
狐が慌てて崖下を覗き込むと、二神は手を取り合ったまま、ゆっくりと浮遊しながら落ちて行く。
ふうっと安堵の息を吐いて、狐は鳥へと変化して、雲海の波へと向かい羽を広げた。




