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⑬禍つ神

「話を聞けと何度言わせるのだ、御前は!!!」

 叫びながら、黄龍は(すんで)の所で槍の一撃を避けた。

 気を荒立たせたオオノ神は、溢れる憤怒を抑えきれぬ様子で力任せに攻め立てる。

 其処は森の開けた場――白い花の波は二神を運ぶと風に巻かれて散り、土の広場を囲う結界の壁へと姿を変えた。日は昇りつつあるとは言え、霧の森は薄暗闇に包まれている。

「聞かん!!! 帰れ!!!」

 牙を剥き青筋を立てて怒鳴るオオノ神の攻撃を躱しながら、言葉が通じているだけまだましか、と黄龍は考える。

 幾度か戦ってきた経験から、神身での、しかも感情任せの攻撃はそう恐れるものではないと解っている。誠に恐ろしいのは、真の姿でその牙を振るう時だが……それでも気を緩めて良い状況ではない。

 背後に結界の壁が迫ると見るや、黄龍は高く跳躍してオオノ神の頭上を飛び越える。何としても捕えようと幾度となく突き上げられる穂先を難なく躱し、地へと降り立つ。

 このまま防戦一方ではやがて戦況が悪くなると見切りをつけて、黄龍は己の身の内から武器を――黄金色の鞭を作り出した。突きが繰り出される機を見計らい、ヒュンと鞭を鳴らしながら(しか)と地を踏み背後へと跳ぶ。鋭く振り下ろされた鞭を槍へと絡ませ、全力を込めて引っ張る。

 オオノ神の(いわお)のような身体は微動だにせず、逆に黄龍の身が浮きそうになり、両足に神力を込め、踏ん張る。

 力比べとばかりに互いに引き合う力は拮抗し、しばし二神はそのまま睨み合う。

 歯を食いしばり、己の身を持って行かれまいと集中しつつも、黄龍は鞭に神力を注ぎ込む……槍に絡んだ鞭が蔓のように伸びてオオノ神の腕まで絡みつき、締め上げる。

 ギリギリと鞭の締まる音が立つ……と、オオノ神の神力が一気に膨張した。鞭は力を抑えきれずに嫌な音を立てて表面に無数のひび割れを走らせる。

 引き千切られる寸前で鞭は自ら拘束を解き、空を切る音と共に激しく(しな)って黄龍の手へと戻った。

 大きく膨れ上がった神力の、爆ぜる勢いそのままにオオノ神が鋭く槍を突いた。破敵の意志に満ち満ちた神力が剛腕から繰り出される豪槍と絡み合いながら合一し、凄まじいまでの破壊力を生み出す――神の一柱くらい容易に滅殺できるであろう、圧倒的な力の塊が襲い掛かる。

 巻き起こる風圧を涼しい顔で受け流し、黄龍は大きく両腕を振るう――衣の広袖がきらきらと輝きながら翻る――金属同士が激しくぶつかり合う音が甲高く響くとともに、槍の穂先は天へと跳ね上げられ、瞬時に上から叩き落とされた。凄まじい力の余波は暴風となって結界の壁へと吸い込まれ消える。

 む、と唸ってオオノ神の睨み付ける視線の先には、黄金色の槍――鞭から形を変えた槍が、黄龍の諸手に握られていた。

 只の一振りで気勢を削がれたオオノ神は槍を引き、構え直して口を開いた。

「儂と槍で()る気か?」

 無言でゆるりと身構えたかと思うと、黄龍は予備動作も無しに突きを放つ。

 思いもよらぬ攻撃にオオノ神は目を見張り、咄嗟に槍を払い上げた。弾き飛ばされる筈の槍は全く揺るぐ事なく、そのままオオノ神の肩口を貫く――寸前でぴたり、止まる。

「幸いにも私の側には槍の名手が二神もおってな。見よう見まねでもそこそこは戦える」

 すっと黄龍が槍を引くと、オオノ神は、むむ、と唸った。簡単に()なしてやろうという目論見は脆くも崩れ去る。

 少しは落ち着いたか、と黄龍は目を細めた。オオノ神の身体を包む神気は和らいで見える……が、そこに纏わりつく黒い輝きの勢いは衰えていない。

 琥珀色の瞳に赤黒い闇を宿し、オオノ神は槍を構えた。

「もう儂は何者にも儂の眷属を奪われる訳にはいかん」

 恐ろしい程に凪いだ声で語ると、オオノ神は寸の間に距離を詰め、剛腕で槍を払う。

 黄龍は慌てて身を引く――引かねば龍の鱗持つ身と云えども真っ二つに裂かれていたであろう程の強撃。

 言葉を差し挟む余裕のない程に激しい攻撃が次々と繰り出され、黄龍は一撃ごとに対応してみせながら、槍を払う――攻撃を防ぎ、繰り出し、そうしながら闇を祓う。

 やがてオオノ神の身に纏わりつく闇が勢いを弱め始めた時、黄龍は槍を納めた。それを好機とばかりにオオノ神は素早く槍を己の背側へと縦に半回転させ、反動を付けて黄龍の頭目掛けて振り下ろした。

 黄龍は両腕を上げオオノ神へと掌を向ける――槍はとぷんと音を立てて水に沈む。

 黄龍の召喚した水は槍の動きを鈍らせ、大きく膨れ上がってオオノ神の身を包み込む。巨大な水球にその身を封じられたオオノ神は手から槍を消し、藻掻いて手足をばたつかせた。

「……闇それ自体の浄化は出来ぬか……」

 小さく呟くと、黄龍は両の掌をぐっと握り込んだ。水球は闇を吸い込みながら小さく小さくなってゆき、果てにはオオノ神の肚の中へと吸収され消える。

 凍てつく寒さに襲われ、ずぶ濡れの身体を僅かに震わせながらもオオノ神は眼光鋭く睨み付ける。

 真正面からそれを受け止め、静かに黄龍は語りかけた。

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