表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

第8話 魔法少女とミリオタと

 それからカウラは、路地に入っては対向車に押し返される、を三回繰り返した。意地だった。

 

 ようやく市民会館裏手の駐車場に滑り込む。

 

「カウラちゃんて……結構頑固よねえ……。あそこの道じゃなくても回り道したらもっと早く着いたのに……そんなだからいつもパチンコに大金つぎ込んで大変なことになるのよ。ランちゃんからも依存症外来でも言われてるんじゃないの?そんなこと」 


 助手席から降りたアメリアが例の『伝説の流し目』でカウラを見つめた。カウラはとりあえず咳払いをしてそのまま立ち去ろうとした。


「おい!鍵ぐらい閉めろよ。それとも何か?お前も今のアメリアの流し目でくらくらきたのか?アメリアもアメリアだ。こいつがパチンコ依存症を気にしていることは知ってるだろ?なんでそっちの話題に持っていくんだよ。まったく空気の読めねえ奴ばっかりだな」 


 後部座席からようやく体を引っ張り出したかなめが叫んだ。その言葉を口にしたのがかなめだったことがつぼだったようでアメリアは激しく腹を抱えて笑い出した。以前、かえでがこの流し目を見て頬を染め、それからはすっかりかなめと並ぶ身も心も捧げたいお姉さまの一人となっていることが彼女の流し目を『伝説』と呼ばせることになった。カウラはあわてて車のキーを取り出して鍵をかけた。


 そのまま造花とちょうちんに飾られたアーケードの下を四人は進んだ。いつもの司法局実働部隊のたまり場、小夏の実家の焼鳥屋『月島屋』とは逆方向の市民会館に向かって歩いた。そしてフリーマーケットの賑わいを通り過ぎた先にどう見ても怪しい集団が取り巻いている市民会館にたどり着いた。

挿絵(By みてみん)

 その市民会館の前にいる集団にはある特徴が有った。年は30歳前後が一番多いだろう。彼らは二種類に分類できた。


 客層は大きく二つ。迷彩ベストの筋肉集団と、アニメキャラプリントのコートに長髪の集団。圧倒的少数派の本来狙っていた客層の家族連れは、ぽつぽつと彼らに埋没するように点在しているだけだった。


「おい、アメリア。お前どういう宣伝をやったんだ?どう見てもミリオタとアニオタしか居ねえじゃねえか。ミリオタは分かる。アタシ等は05式なんていうマニア垂涎の機体を運用している銀河唯一の部隊だからな。でもあのアニオタはなんだ?今回の作品のテーマがアレだからか?やっぱりそうなのか?アレだからか?そんなだったらかえでの望み通りポルノでも流した方がまだマシだ!アタシは偏見の塊だからな!オタクは認めねえ!特にアメリア、オメエについてはその存在自体を認めてねえ!」 

挿絵(By みてみん)

 違和感のある観客を見てかなめはものすごく不機嫌そうな顔をした。……と言いながら、かなめの鎧の内ポケットには、いつもの携帯灰皿とかなめが好きな昭和を感じさせるフォークグループのピックが入っている。アメリアはただニヤニヤと笑うだけで答えるつもりは無い様だった。そのまま正面の集団に見つからないように裏口の関係者で入り口に向かった。そこにはすでに小夏が到着していた。小夏はいつも通り中学校の制服姿で、元気そうに市民会館を入った入場口の前を駆け回っていた。


「お前も相変わらずだなあ。元気なだけが取り柄って奴か。そのエネルギーを何か役に立つことに使おうとか思わねえのか?所詮は中学生だな」 


 呆れながら声をかけるかなめを見つけると小夏はそのまま中の通路に走り出した。受付脇の控室から、見覚えのある小さな影が飛び出してきた。

挿絵(By みてみん)

「おい!アメリア!これ!テメーは良いよな。これを掛けるだけだもんな。アタシはこんな格好だ……神前のデザイン。なんとかならねーのかなー……確かにアタシは『魔法少女』になりたいと常日頃つぶやいているのは事実だ。そしてこの格好はまさにその理想とする『魔法少女』そのものであるとはいえる。ただ……あー言うのは自分の運命でそーなっちまうもんだろ?神前の考え一つで姿かたちが変わるなんて言うのはアタシにはどーにも気に食わねー。ただ、それ以上に神前にそれを指示したアメリアが眼鏡一つでキャラを演じられるという事実自体がどーしても受け入れられねー!それとあの開場前から行列しているあの客層!握手券だのツーショットだの、そんな商売で釣ったんじゃねーだろうな?しかも了承なしに写真をネットに上げて……アメリア!そんなことはオメーの考えそうなことだ!」 


 そう言って、ゴスロリドレスに巨大な鎌という少女が、アメリアに眼鏡を突きつけた。怒っているのは見た目の話じゃない。『子どもに見せる約束』を破られるのが許せないのだ。


 誠が目をこすりながら見るとその少女はランだった。その鋭い目つきは明らかにこの格好をさせられていることが気に入らないのがまるわかりだった。特徴的なランの眼光はぎらぎらと輝きながら誠達を威圧した。


 さすがに上官をこれ以上苛立たせまいとアメリアがめがねをかけて息を整えた。それを見たランが怒りに任せるように爆発した感情に任せて、まくしたてた。


「それとアメリア!あの市民会館を取り巻いている異様な連中はなんだ?30前後の野郎しか来てねえじゃねーか!アタシは子供達が楽しむための子供向け映画だから出るって言ったんだぞ!『魔法少女』は全ての少女のあこがれになる存在なんだ!あんなおっさんの幼女愛玩願望を具現化するための道具じゃねーんだ!だからなんでおっさんの前でこんな格好して挨拶なんてしなきゃなんねーんだ?それになんでこの格好で舞台挨拶しろって……オメー!なんか企んでるんじゃねーのか?え?言ってみろ。その狙いとやらを言ってみろ?オメーは何がしてーんだ?怒らねーから正確に言ってみろ……どーせアタシ握手するにはいくらとか、あのきわどい衣装の西園寺や日野や渡辺なんかと一緒の写真を撮るにはいくらとかそう言う方法であのオタクを集めたんじゃねーのか?しかも西園寺たちの了承なしにその画像をオメーのサイトにアップして集客しようなんて……」 


 そう言って食って掛かろうとするランだが、アメリアは腰を落としてランの視線に自分の視線を合わせると頭を馬鹿にしたように撫ではじめた。列のあちこちで、軍靴の重い足音と、アニメ談義の早口が交互に弾んでいた。


「馬鹿野郎!アタシの頭を撫でるんじゃねー!アタシは大人だ!34歳だ!少女じゃねー!」 


 副隊長としてのプライドを傷つけられたランはそう言ってアメリアの手を振りほどいた。

挿絵(By みてみん)

「だってかわいいんだもの。ねえ!こうしてみるとどう見ても『魔法少女』そのもの!まあ、実際に地球では法術の事を『魔法』と呼んでるらしいから、リアルで魔法少女なんだけどね、ランちゃんは。誠ちゃんもランちゃんを見たらそう思うでしょ?」 


 そう言って今度は誠に話題を振ってきた。誠はランには頭が上がらないのでただ愛想笑いを浮かべるだけだった。


「まあ、ネットで人気投票行ったらクバルカ中佐が一番好評だったんで……まあ魔法少女モノですとライバルキャラが人気になるのはよくあることですから。それに実際、戦闘シーンとかをネットで上げたらクバルカ中佐のシーンが一番迫力があるんで……やはり実戦慣れしている人は違いますね」 


 と誠がフォローになっているのかよくわからないことを言った、その瞬間だった。ランの容赦のないパワハラ上司らしいみぞおちへの一撃がかまされた。そしてその事実に納得するとランは気が済んだように奥の関係者ルームへと消えていく。


「しかし、傑作だぜあの餓鬼。ああいった格好すると本当に餓鬼だな。まさに『魔法少女』だ。あの格好で舞台挨拶?たぶんいつも通りほとんどあの餓鬼がしゃべらされるんだぜ。あの格好で偉そうなことを市民様の前で言うわけだ。想像しただけで笑えて来るぜ」 


 かなめの笑いはそう簡単には止まりそうに無かった。そこに祭りの喧騒が苦手だからこそ、会場設営に逃げたパーラ・ラビロフ大尉が現れた。


「ちょっと!誠君達。遊んでないで手伝ってよ!あなた達、入場整理の係でしょ?色々準備とかあるんだから、そんなところで突っ立ってないで早くして!」 


 すぐさまきびすを返して音響用のコードを持って走り回る島田を追いかけた。


「入場整理ってあれか?あのオタク共の接待をするのか?冗談はやめてくれよ……なんでアタシがキモイ連中の相手をしなきゃなんねえんだよ。そんなの同類のアメリアと神前でやれよ……なんでアタシまで巻き込むんだよ……まったく最悪だぜ」 


 かなめは入り口にたむろした集団を思い出していた。


「確かにあまり係わり合いにはなりたくないな。あれならパチンコ屋でよく合う同じパチンコ依存症の生活保護受給者と有意義な新台攻略法に関する役に立つ情報交換の会話を楽しんだ方が百倍良い。同じ趣味に金をかけるなら金が増える確率のあるパチンコの方が夢が有る。少なくとも私にはそう思える」 


 歯に衣着せずにパチンコ依存症のカウラはそう言った。誠も中身は彼らと大差ないのでとりあえず愛想笑いを浮かべて立ち上がった。いまだに腹部に痛みが残り渋い笑みが自然とこぼれた。


「大丈夫か?クバルカ中佐は加減と言うものを知らないからな。自分は不老不死だからと言って神前まで同じようなつもりで攻撃していたら、そのうち神前は本当に死んでしまうぞ」 


「大丈夫ですよ……入った場所が場所だったんで堪えただけです。中佐も手加減してくれていますよ。たぶん手加減していなかったら僕のお腹には中佐のこぶし大の穴が開いているでしょうから」


 気遣うカウラを制してそのまま痛みに耐えながら誠は歩き始めた。


 今回の映画、『魔法戦隊マジカルなっちゃん』の服飾およびメカ、敵の機械魔人のデザインをしたのは誠である。とりあえず観衆の期待がそれなりに高いと言うことも分かって、誠はやる気を見せるべくそのままロビーへとたどり着いた。


 先頭の客は誠も何度かコミケで顔を合わせたことのある大手同人サークルの関係者だった。その前に立つアメリアと世間話をしていた。


「ずいぶん来てるな。結構入るんだろ?この劇場って。建物の大きさだけは立派だよな。市にも結構予算が有るんだな。少しはうちにも分けてくれると助かるんだがな」 


 かなめはタバコを手にしてそのまま喫煙コーナーへと向かうべく誠達に背を向けた。


「ええ、五百人弱は入ると思いますよ」 


 その言葉にかなめは絶句してタバコを落としそうになった。カウラはロビーに広がる独特な雰囲気にいつものように飲まれていた。かなめはそのまま足早に喫煙コーナーのついたての向こうに消えた。そんな光景を見ていた誠に近づいてきたのはパーラだった。


「それじゃあカウラちゃんと……かなめちゃんは居ないけど入り口でこの券を販売してね。それと誠ちゃんはクレーム対策でお願い。一応、剣道場の息子でしょ?腕力には私が太鼓判押すから。ミリオタのクレーマーなんか格闘戦で制圧しちゃって構わないし」


 そう言ってパーラが笑った。


「金を取るのか。去年は無料だったはずだぞ。全部アメリアの差し金だな……自分が作ったから何をしても許されると奴は考えているんだ。まったく困ったものだ」 


 そう言って迫るカウラに西は親指で客と談笑をしているアメリアを指差した。


「ああ、アメリアさんが『演芸会』の活動資金にするんだとか。それに確かにアメリアさんと例の『釣り部』の人が画像処理を外注したんでその実費に充てるそうです。ああ、アメリアさんはここに居ますが『釣り部』のあの人、今日はいませんよ。なんでも『ヘラブナ釣り』をするそうです。『ヘラブナ釣り』はこの辺りがメッカで専用の竿まで有る奥が深い釣りだと言って『釣りはへらに始まりへらに終わる』とか言いながら、さっきその専用の竿と道具を抱えて出て行きました」


 西は呆れ半分にそう言ってため息をついた。西としても作品の出来を知っているだけに金をとるに値するものなのか疑問に思っているように誠には見えた。 


「それにしても質はともかくあれだけの数の客をよく集めたな。入場料は五百円か。高いのか安いのか……俺ならやっぱり高いな。素人が作った映画で金取ろうなんておこがましいってもんだぜ。それに俺は車やバイクが出てこねえ映画は絶対見ねえ。俺のポリシーが許さねえ」 


 そう独り言を言うと島田は再び劇場の中に消えていった。


「何しにきたんだ?島田の奴。アイツ、ヤンキーが活躍する映画以外は出ねえって言って結局何にも協力しなかったじゃねえか。文句だけ言うなんて気楽なもんだ。実際に出て恥をかくこっちの身にもなれってんだ」 


 いつの間にかタバコを吸い終えて戻ってきたかなめは誠の隣で屈伸をしていた。


「まあ、整備班は日常業務が多くて撮影協力なんてできない状態だったからな。それに島田もうちの隊員だ。客の様子でも見に来たんだろ?じゃあ私達もいくぞ!」 


 こういう場所でも責任感を発揮するカウラはゆったりした歩き方でロビーへと歩き始めた。


「これか……これを使って入場業務を行えばいいんだな……」 


 カウラはそう言うとサラが用意したチケットの入った箱を見た。隣には釣り銭用の小銭、そして隣にはパンフレット。そしてその隣には……。唖然とする誠とカウラを見るとアメリアは手早く雑談をしていた客に挨拶をして誠達に近づいてきた。


「これを売るのか?アメリアの奴正気かよ……恥ずかしげも無くこんなもの親子連れも居る前で売れって言うのか?どうかしてるぞ」 


 かなめはそう言うと薄いオフセット印刷の雑誌を手に取る。表紙の絵はアメリア原作だった。金髪の男性とひげ面の男が半裸で絡み合っている絵にかなめは明らかに引いたように見えた。

挿絵(By みてみん)

「大丈夫よ。今日はあまり女性客にはアピールしていないから売れないと思うけど、一応それって不良在庫が隊の倉庫に一杯あるのよね。少しでも減れば大助かりじゃない」


 アメリアは開き直ってそう言って見せた。


「そういう問題じゃねえ!子供にこんなもの見せて良いかってところをアタシは聞きてえんだ!」 


 かなめはそう言うと上着を脱いで同人誌の山にかぶせた。それを見たアメリアはやり取りを興味深そうに眺めていた観客に向かって手を広げて見せた。ランの詰問にそれまで堂々と成人向けBL同人誌を売っていたパーラは机を移動させた。


「それ、奥でこっそり。年齢確認ね……まったくアメリアの計画性の無さは致命的だわね」


 なんやかんやアメリアの暴走の後始末をさせられることには慣れているパーラはそう言いながらアメリアの企画する同人誌の固定客らしい30代の女性客を誘導しながらそんなことをつぶやいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ