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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と魔法少女  作者: 橋本 直
第二十二章 『特殊な部隊』とクランクアップ

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第74話 甘酒のあとで

 その時高らかな靴音が撮影上に響いた。


 このような場所でいかにも現れそうな人物は誠は一人しか想像できなかったのでこれから起きるであろう空間崩壊に耐えるように誠は脳のエロ関係の回路を一部遮断した。

挿絵(By みてみん)

「お姉さま。また喧嘩ですか?東和に来てから荒れてばかりじゃないですか。やはりこの国には愛が無い、恋が無い。なんともむなしい世界だ」


 突然乱入してきたかえではいつものように性愛こそ人生のすべてという人生観で一人語りを始めたので、そのきっかけである調教主のかなめと『許婚』である誠はいかにもうんざりした表情で見つめあった。


 それでもかえでは気にせず美貌を見せびらかすように前髪をかき上げて前歯を光らせながら演説を続けた。


「そう思うと甲武に居た頃が懐かしいよ。甲武に居た頃は僕の周りは恋に満ちていた。誰もが僕を愛してくれていた……神前曹長……『許婚』の君が僕を愛さないのは不自然だとは思わないのかい?まず男が女を見て声をかけることが絶対にありえないというこの国の常識が僕には理解できないんだ。あの東和に比べて圧倒的に貧しい甲武の平民達も惹かれるような魅力を持った女性なら必ず声をかけるのが当然だと思っている」


 誠は先日西がひよこを飲みに誘っていたことを思い出し、あれが甲武では普通のことなのだと理解したが、東和の遼州人では絶対あり得ない事なのでいまいち納得できないでいた。そんなかえでの視線は急に誠の股間に注がれた。


「僕は男の価値は股間のモノにしか認めないからね。男という存在は子種を作ることと女性を満足させる大きさと持続力を持っていない限り生きている意味がないと僕は考えている。まあ、そんな貧相な持ち物しか持たない男達のことなどいくら声をかけてきたところで無視していたがね」


 その歪んだ男性観に誠は自分がかえでの基準では生きるに値する男であると認められても素直に喜ぶことはできなかった。


「まあ、そんな男性が根拠もない粗末なものを頼りに恋愛の主導権を握っている甲武でも僕のような完璧な美貌を持ち、そしてその女性を完全に性的に満足させる自信がある人間には甲武で女性に声をかける時は良い印象を持ってくれていた。それに対して、東和では僕に声を掛けられた時点でまず驚きに満たされた表情を見せる。僕のような王子様のようにしか見えない女性に声を掛けられることに少し卑下しているように感じられて僕は少し罪悪感にかられるんだ」


 誠とかなめはかえでのナルシストぶりに呆れ果てたように顔を見合わせた。その空気をぶち壊してかえではまだ演説を続けた。


「普段、テレビカメラに視線を浴びることになれている有名女優やアイドルたちでさえそうなんだ。彼女達も僕が声をかけるとまず驚きで僕を迎える。そして僕の美貌に惹かれてようやく自分の美しさ、人をひきつけてやまない要素に気がつくんだ。そこで僕は彼女達が元地球人の男なら誰もが魅了されて当たり前の美貌の持主であるという事実を肯定してあげるとそれは彼女達の自信にもなり、僕もそんな女性に自信を持ってもらうことで満足を得られるんだ」


 誠は週末になると必ず東都に出かけて女をひっかけてると姉のかなめが嫌な顔をしているのでそのようなことをかえでがしていても少しも不思議だとは思わなかった。


「ああ、彼女達と僕との関係かい?それから先は……いや、これは『許婚』である誠君の前で言うべきことではないかもしれないかな?僕はいつも彼女が僕に与えられる快楽を誠君に与えられることを望んでいるよ……君は『許婚』なんだから遠慮をする事は一つも無いんだよ」 


 奥の席でモニターをのぞきながら第二小隊小隊長日野かえで少佐が声をかけてきた。誠もかえでが東都に試写会やパーティーなどに出かけて行ってその度に女性をお持ち帰りしていることはかなめの告げ口で十分知っていた。その事実を武勇伝のように語るかえでには正直呆れ果てていた。


「うるせえな!そんなにエロい事がしてえならとっとと甲武に帰れ!愛だの恋だの言ってる暇が有ったら仕事しろ!今は仕事中だ!恋愛講義の時間じゃねえ!それにその為に神前のアレを模した自分と相手に使える大人のおもちゃをそう言う目的でオメエがリンに持ち歩かさせていることも知ってるんだよ!それで出る神前の白い液体を相手の女の中にぶちまけてるのもすべてお見通しだ!神前が童貞にして『未婚の父』になったらどうするつもりだ!オメエの性欲の話しなんて聞きたくもねえや!」 


 そう言うとかなめは淫蕩な趣味に浸る妹に呆れ果てて目を閉じた。


「ここ、置いておきますから。飲んでくださいね。日野少佐はそう言う趣味の人だって僕も理解していますから。西園寺さん、落ち着いてください」 


 誠はそう言ってかなめの分の甘酒を机の端に置いた。


「いいですね、甘酒ですか。僕の国でも時々飲むんですよ……ほとんど水ばかりで味のしない甘酒ですが、それでも寒い戦場では力になりました。戦況が優位になった証拠がその甘酒……その度に酔った上官に呼び出されて相手をさせられました。快感に震える僕を見て上官たちも支配欲に満たされていたことでしょう。でも、今は僕には彼氏と……そして信じられないくらい大きいものを持っている神前先輩がいます。神前先輩のモノが入るように日々訓練を続けていますので期待してください」 


 第二小隊三番機担当のアン・ナン・パク軍曹が甘えた声を出して誠の手の中の甘酒を見ていた。


「ベルルカンにもあるのか。かえで様、私達も休憩と行きましょう。この国の女に愛が無いのはこれまで何十人もなくかえで様の愛を受けた女達を見れば分かるではないですか?あの女達にはこの上なく美しいかえで様に与えられる快楽以外の価値は何も意味がないのです。愛なら私が存分にかえで様に与えて差し上げます。どうか、かえで様も私を愛してくださいませ」 


 いかにも飲みたそうな調子で第二小隊二番機担当の渡辺リン大尉がそう言った。そう言われたかえではキーボードを打つ手を止めた。


「そうだな。少し休憩と行くか。風情がある甘酒を飲みながら恋について語るのも悪い事ではない。その中で誠君と僕がより近しい関係になれれば僕にはこれ以上の幸せはない。僕を真の意味で陶酔させることができる男は神前曹長しかいないのだから。そして、共に成長していこう。僕は君に性的満足を与え、その上で君をより高みへと導くことができる。『許婚』と康子お母様が定めていただいたのもそんな運命なのかもしれない」 


 そんなかえでの声を聴くとかなめは横を向いてしまった。


「西園寺さん……」 


 誠はかなめの正面の自分の席に座った。


「神前。『許婚』だろ?かえで達と一緒にいろよ。アタシが言うのも何だがオメエは本当に色恋沙汰とみると逃げて回るところが有るからな……アタシなんかほっといてかえでと愛し合ってろ。お袋の命令だろ?あの化け物に勝てるのはアタシが知ってる限りランの姐御だけだ。アタシじゃどうしようもねえ。ただ……」 


「お姉さま、誠君に当たるのは違います!僕だってそんな言い方をされたら怒りますよ!愛はそんなに軽いものではありません!お母様は誠君にふさわしいのは僕だけだと見込んだから『許婚』に選んだんです!僕は男との浮気は『許婚』と決まった時からしていませんよ!まあ、僕は女性でも寄って来る女性が多いので断り切れないのが悩みなんですが……それでも誠君と結婚した暁にはその関係も清算するつもりです!ただ、誠君が法術師である限り僕と関係を持った女性達には子をなして藤原道長や後に平清盛が形成したような平安貴族にふさわしい日野家臣団を形成してもらうつもりですが」 


 いじけたような調子のかなめにかえでが声を荒げた。目を開けてかえでの顔を見ると、すこしばつが悪そうにアメリアが『変形おかっぱ』と呼ぶ耳にかかるまで伸びたこめかみのところが一番長くなっている髪をかなめはかきあげた。


「飲む。飲めばいいんだろ?そうすればオメエ等も満足するんだろ?じゃあ飲むよ。なんでもオメエは神前から摂取した精液をプラントで大量生産して毎朝飲んでるらしいじゃねえか。まったく変態のすることは理解できねえな」 

挿絵(By みてみん)

 そう言ってかなめは手を伸ばした。誠はようやく笑顔を浮かべて甘酒をかなめに手渡した。かえでは安心したように誠を見て頷くとアンと渡辺を連れて出て行った。誠とかなめ。二人は詰め所の中に取り残された。


「ごめん。アタシは自分勝手なのは自覚してる。神前にばかり頼りきってる自分が嫌いになってそれでテメエに当たってた……本当にごめん……正直オメエがかえでの毒牙にかかるのは見てられねえんだ。いっそのことアタシのものになるか?」 


 ぶっきらぼうに手を伸ばして軽くコップを包み込むようにして手に取った。そしてゆっくりと香りを嗅いだ後、一口啜ってかなめがそう言った。


「別に謝る必要は無いですよ。ただ西園寺さんにも楽しく飲んで欲しくて。おいしいものは楽しく飲んだ方がおいしいですよ。いつも西園寺さんも月島屋でラム酒をおいしそうに飲んでるじゃないですか。それと同じですよ。それと人をモノ扱いするのはいい加減止めてください」


 誠は嘘も無く自然にそう言っていた。 


「あのさあ、そんなこと言われるとアタシは複雑な気分になるな。オメエにはかえでと言う『許婚』が居るんだ。アタシの事はもっと軽く考えろ……ただ、アタシはかえでの変態が『許婚』ってことは認められねえ。オメエはもっと自由に生きて良い。まあ、アタシとしてはアタシのM男として鞭うたれて喜ぶさまを見るのが最高の展開なんだがな」 


 かえで達が甘酒を求めて出て行って二人きりの部屋。少し照れながらかなめは両手で紙コップの中の甘酒を見つめていた。


「ふう、良いな。ひよこもポエム以外に特技があるじゃねえか」 


 ようやく気が晴れたのか少し明るい調子で再び甘酒を含んだかなめがため息をついた。酒豪と言う言葉では足りないほどの酒好きなかなめだと言うのに、湯気のせいかなぜか頬が赤く染まっていた。

挿絵(By みてみん)

「なんか顔が赤いですよ?」 


 誠の言葉にかなめは机から足を下ろした。そして素早くコップを置くとひきつけられるように誠を見た。そして突然何かに気づいたように頭を掻いた。


「き、気のせいだ!気のせい」 


 そう言って慌てたかなめがつい甘酒のコップを振って中身を机にこぼした。


「大丈夫ですか!」 


 誠はハンカチを取り出してかなめの机に手を伸ばした。その手にかなめの手が触れた。


「うっ……」 

 

 かなめは大げさに飛びのいた。奇妙な彼女の行動に誠は違和感を感じていた。


「どうしたんですか?」 


「うん……」 


 黙り込んでいたかなめだが、誠の目を見るとすぐに視線をそらしてしまった。


「ああ、ちょっとトイレ行ってくるわ。たぶんアイツ等が来るころには戻るから……マゾに目覚めたらサービスしてやってもいいが今はまだ早えか」 

挿絵(By みてみん)

 そう言うとかなめは早足で部屋を出て行った。誠はかなめの半分ほど甘酒の残ったコップと取り残された。


「ねえ……」


「うわっ」


 突然背中から声をかけられ仰け反る誠。明らかに慌てている誠をアメリアはからかうような調子で見つめていた。


「なにかやましいことでもあるのかしら?さっきのかなめちゃんの様子……いつものかなめちゃんと違うような気がするんだけど……誠ちゃん、かなめちゃんに何かした?」


「別に……何もしてないですよ。おいしいものはおいしいって言っただけです。それって変なことですか?」


 アメリアに妙な勘繰りをされるのも癪なので誠はムキになってそう言った。 


「まあ、いいわ。それならその端末しまって頂戴。ラストの撮影の準備、かなめちゃんが戻ったらすぐできるようにしておきましょう!それとかえでちゃんの変態に染まることは誠ちゃんは無いし、かなめちゃんの望むようなマゾに誠ちゃんはなれない。だから、私を選びなさい!そうすれば幸せな生活が待ってるわよ♪」 


 意味ありげに笑うとアメリアはそのまま部屋を出て行った。あっけに取られる誠も部屋の外を歩いているラン達の姿を見て端末を終了させた。


 スキップでもはじめそうなアメリアの後に誠は続いて進んだ。


「楽しそうですね。映画を撮るのってそんなに楽しいですか?いつもゲーム作りの時はもっと難しい顔してるのに」 


「そう?でも映画作りは楽しいわよ。ゲーム作りは売り上げが絡むからどうしても本気になっちゃって楽しめないのよ。それに規制とかあるでしょ?あんまりエロ過ぎると警察から文句言われるし。今回は私としては全年齢向けを目指したんだけどかえでちゃんとリンちゃんと……何しろかなめちゃんが暴走するから大変だったわよ。まあ、新藤さんの編集でそのあたりは全部カットするけど」 


 軽快な足取りでアメリアはパーラの背後に回り胸に手を回した。そして両手でパーラの胸に手を回した。


「何すんのよ!この変態女!アンタもかえでちゃんのことを言えないわね!」 


 アメリアなりのスキンシップにパーラのチョップが加わった。パーラには叩かれてもアメリアは気にする様子も無くパーラの胸を揉みながらそのまま会議室に入った。


「よう、ラストは俺に任せろよ」 


 そう言いながら新藤は冊子をアメリアに渡した。そこでアメリアが明らかに不機嫌そうな顔になるのを誠は見つめていた。


「何よ、これ」 


「台本だろ?他に何に見えるんだ?」 


 新藤はあっさりそう言うと誠とパーラにもそれを渡していつものモニターの並ぶところに腰掛けた。

挿絵(By みてみん)

「アメリアのを没にして新藤さんのを使う訳か。素人とプロ。比べてみれば違いは一目瞭然だから当然だな。これでかなりまともになる。アメリアや演者の暴走を新藤さんも見ていられないと判断したんだろ?アメリアの台本は私も読んだが要するに滅茶苦茶だ。それに演者の日野や渡辺なんかの暴走を見ていれば関係していない私でもこれは全年齢向けにならないことは想像がつく。しかも西園寺がマゾに目覚めたとなればなおさらだ。当然の話じゃないのか?」 


 そのカウラの言葉にランまでもがうなずいていた。アメリアの台本を没にする。確かに思い出してみれば小夏とランのキスシーンを入れると言うラストの案はさすがに無理があった。


「ちょっと!私の立場は!この原案は私のよ!これから先というか全編新藤さんが編集するつもりでしょ!そんなの私は認めないわ!」 


 突然自分の台本を没にされたアメリアは怒りに駆られてそう叫んでいた。


「今まで好き勝手やったんだ。十分楽しめただろ?ハチャメチャな作品になるとは思ってはいたが、アメリアに好き勝手やらせるとここまでひどくなるとは正直思わなかった。アタシの見通しが甘かった。ここまで好き勝手やれたんだ。十分に満足しろ」 


 冊子を開いて視線も向けずにランがそう言い切った。アメリアはがっくりと肩を落とした。



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