表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と魔法少女  作者: 橋本 直
第二十一章 『特殊な部隊』と宿命

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/77

第72話 力ある者の檻

「それよりこのことは叔父貴は知ってるのか?法術特捜がその後見人に隠し事なんて筋が通らねえぞ」 


 かなめはあごを引いて上目遣いに茜を見つめた。

挿絵(By みてみん)

「知っています。いつかは私から伝えろとは言われていますけど……かなめ姉さまの態度を見ているとその時は今では無かったようですね」 


 茜はかなめの目にうっすら涙が浮かんでみるのを見ると落ち着いた調子でそう言った。


 ハッとしたような顔をしたかなめは自分の目に浮かんでいる涙を拭って、いつもの茜と対峙する時の挑戦的な笑みを浮かべた。


「なるほどねえ、まあ一番ああなる可能性の高いのは自分だしな……いや、何度か経験したことがあるのかもしれねえな。叔父貴の法術制御能力はほとんど無いに等しいからな。強靭な意志で常に法術の発動を無理やり抑え込んでるのが叔父貴の日常だ。まあ、『不死人』の叔父貴にはちょっとした慢性の発作程度のものとしか思ってねえかもしれねえが」 


 かなめの言葉に誠は少し違和感を感じた。


「それってどういうことですか?隊長は能力制御が苦手だって自分で言ってましたけど、やっぱり米軍に無理やり封印を解除された副作用ですか?」 


 誠はようやく落ち着いてかなめの言葉に口を挟んだ。


「なあに、言ったまんまの意味だよ。暴走の起きる可能性は叔父貴が一番高い。そう言うこった。その原因も神前の言う通りだ。米軍は法術暴走の危険を冒してまで叔父貴の法術の封印を解除した。なにが自由?人の脳をいじる自由かよ。金と権威がなきゃ、生きてるだけで罪……百人前後の『超富裕層』による完全なる監視国家があの国の正体だ。それを『愛国無罪』の名のもとに他国の兵隊を見下して来る米帝の兵隊の面を見ると真っ先に撃ち殺したくなってくる!」 


 そう言ってかなめは再びひざの上に腕を乗せて起き上がった。


「そうなった経緯については……茜、オメエから話せよ。実の親父のことだろ?」 


 そう言って上体を上げて茜を見た後はかなめは目をつぶってソファーに体を落ち着ける。その声を聞くと茜は神妙な表情で誠を見つめながら語りだした。


「実はお父様は遼帝室の正統筋なんです」


 茜は初めから嵯峨の身の上を話すつもりでそう切り出した。 


「そこから話すか?ぱっぱと言えよ。アタシとしては必要事項だけ聞ければそれで良い」 


 天井を見上げてかなめが声を張り上げた。仕方が無いと言うような表情をして茜は再び口を開いた。


「でも苗字が遼帝家の出を表す『神前(しんぜん)』じゃなくて『嵯峨』ですよ……ああ、確か西園寺さんのお母さんの親戚なんでしたよね……だからですか?」


 誠の何気ない言葉にかなめはあいまいに頷いた。


「遼帝家で『神前』を名乗っているのは遼帝国が鎖国していたころに東和に亡命した一族だけだ。叔父貴は遼南内戦初期に自力でお袋を頼って甲武に来たんだ……だから苗字は本来は西園寺だ」


 かなめは関心なさそうにそう言った。


「遼南帝室にはこんな言い伝えがありますの。遼州の民の頂上に立つ人物、皇帝に即位する地位にある者が法術の素養に恵まれていれば国が乱れると。そのため当時の女帝、遼帝国の中興の祖と呼ばれ開国後の遼帝国の全盛期を築いたところから前漢の全盛期を支えた名君の名になぞらえて……追号は『武帝』と呼ばれるときの皇帝はお父様の力を封印されたんです」 


 話題の重さの割に落ち着いた様子で茜はそう話した。


「まあ先日のスポーツ選手の法術発動が不公平になるとか言うことで公開された法術封印技術と言う奴だ。急にいくら地球の親切な人達がいるからってそんな技術が急に見付かる方法じゃねえのはわかるだろ?臨床心理学的方法と生理学的方法を駆使して法術の発生の元である大脳旧皮質に刺激を与えて機能を低下させると言うあれだ」 


 そう言って胸のポケットのタバコに手をやったかなめを茜は非難する調子で見つめた。


「そしてそのような先進技術ではありませんが、能力の発動そのものを抑えてしまう外科的技術が遼南帝室には有るんですの」 


「外科的技術?」 


 茜の言葉にカウラが怪訝な顔をする。


「そう、脳内に何本か針を打ち込む方法です」 


 茜の言うことに誠は痛そうだなあと言う感想しか持てなかった。


「おい、大丈夫なのかよそんな旧式の術式……ってあの叔父貴がそんなもんで死ぬわけも無いか。あれは不死人だからな。でも東和のプロスポーツ選手で法術適性がある人間はこれをやんないと試合に出れねえのか……大変だねえ……プロの世界は」 


 やけになったようなかなめの声。無視して茜は話を続けた。


「本来はそれにより成長過程で次第に法術の発動が阻害されて力を使えないようになるはずだったのですが……」 


 茜が言葉を続けようとするのを気の短いかなめが遮った。


「普通の法術適正者だったらな。だが違った……叔父貴の力はあまりに強大過ぎた」 


 吐き捨てるようにかなめがそう言った。『普通』とは明らかに違う行動パターンの嵯峨を思い出し笑いそうになる誠だが、かなめと茜の顔には笑顔など無かった。


「ご存知ですよね、『不死人』の存在は?不老不死……例えばクバルカ中佐みたいに」 


 突然、茜の口から出た言葉、ランを指す言葉に誠は静かに頷いた。


「お父様も『不死人』なのは誠さんもご存じですわよね……と言うか見れば誰でも分かりますが。いかなる傷を受けようが再生してしまう。『同盟厚生局違法法術研究事件』で誠さんに最初に休んでいただいた不完全な『不死人』ではなく完全なる『不死人』それが、クバルカ中佐、島田班長、そしてお父様です」 


 その言葉に誠は一瞬思考が止まるのを感じた。


「再生?だったら法術の封印も……」 


 誠はそこで先回りして思考を巡らせた。針を刺すような外科的方法でも、再生してしまう体質ならばそれが抜ければ再生するというだけの話だということは誠にも分かった。

挿絵(By みてみん)

「不完全だったんですの。それで法術の多くは封印されましたがその封印は『削れた』……不完全なものだったのですの。一番封印したかった不死の再生の法術だけは封印できずに『元に戻して』しまう。結果、いちばん厄介な部分だけが歪に残った。つまり再生能力だけが突出して発動する体質になってしまったんです。その他にも本来は消してしまいたかった能力の一部が突出して強力な形で発動してしまう可能性がある。だから、基本的にはお父様は法術を使いたがらない」 


 茜の言葉が暗いことが誠に不審に思えた。


「でも、再生能力が早いってことは便利じゃないですか。怪我をしてもすぐに直るんですよね?しかもそれが他の『不死人』より早いなんて便利な話なんじゃないですか?」 


 そう言った誠の言葉にかなめと茜は目を合わせた。そして少し悲しげな面持ちで茜が話を続けた。


「その能力の制御ができればと言う前提がつきますわね、再生能力が役に立つ状況であるには……まあクバルカ中佐は完全に制御できていますけど。あの人の力は能力的には法術師ですが、正確には遼州人ではありません。遼州人がこの星に定着したのは1億年前。クバルカ中佐がこの星に来たのはそのはるか以前の4億年前です。ですので、クバルカ中佐は遼州人ではありません。そもそもクバルカ中佐が時々『地球でイクチオステガを食べた』とか言っているじゃないですか?イクチオステガが地球で生息していたのは3億6千万年前。その当時は遼州人はこの星に生息していませんから」 


 そしてラーナが運んできた紅茶がテーブルに置かれた。先ほど拒否したはずだと言うのにかなめはラーナからカップを受け取った。


「取りあえず叔父貴はそう簡単に怪我するほど鈍くは無いけどな。けどあのボケは、前の戦争の遼南戦線で法術について非常に高い関心を持っている組織に投降をするという失態を犯した。結果、不完全で制御ができないまま法術能力の増幅がその組織で行われたってわけだ」 


 静かに語るかなめ。誠もラーナが置いたカップを静かに手に取った。


「アメリカ陸軍第423実験大隊」 


 うつむき加減のカウラが吐いた言葉。その意味を誠は理解できなかった。そんな誠を仕方ないと言う顔をしたかなめが眺めていた。


「そんなこと言ってもこいつに分かるわけねえだろ?アメリカさんの法術関連の実験部隊の名称だ。生きたまま法術適正者を使って人体実験した人道と言うものを知らない悪魔の部隊。まあ科学万能主義の地球人らしい部隊じゃねえか。だからアメリカ軍は連中が『魔法』と呼んでいる法術についてアタシ等より多くの知見を持っている。アタシ等が二の足を踏むような実験もエイリアンを解剖する調子でやってのけたんだからな」


 かなめは皮肉を込めた調子でそう言うと苦笑いを浮かべた。 


「推測でものを言うのは感心できることではなくてよ。そのような部隊の存在は地球の国連も否定しているのですから。それにすべての地球人が悪いと言い出したらそれこそ『廃帝ハド』と言ってることが同じじゃないですか。支配する側になれば実験材料にされる危険は無くなる……そう言う理由で『廃帝』に協力している法術師が居るのも私は存じ上げています。遼州人にとっては地球圏もこの遼州圏を手に入れていずれは地球圏も手に入れたいと思っている『廃帝ハド』も受ける被害は同じですわ。つまりは全権を握るのが地球人同士の殺し合いの末に生き延びた統一国家の『超富裕層』の指導者なのか、遼州圏を支配下に治めた『廃帝ハド』かというだけの話……地球圏も遼州圏も絶対的に行動力のある反論を許さない英雄を望んでいる……それが今の時代なのかもしれませんわね」 


 紅茶を一口飲んで落ち着いたというように茜が口を開いた。


「ともかく言える事は遼帝国における捕虜虐待、民間人虐殺容疑で逮捕された嵯峨惟基憲兵中佐……その時は『三好大蔵中佐』と名乗ってましたね。いくら何でも甲武四大公家末席の当主が明らかな戦争犯罪をしているなんて言うことは甲武陸軍も発表できませんから。そのことがお父様を実験材料にしたいアメリカ陸軍にとっては好都合だった。どんなに実験材料として無茶な実験を行ってもそれを非難するはずの母国の甲武国は『三好大蔵と言う軍人は甲武陸軍には存在しない』と返してきて何の文句も言ってこないんですから。そしてアメリカ軍は捕らえた三好中佐をネバダ砂漠の実験施設内に収監していたと言うことは記録で残ってますわね……まあ、地球圏はその文書は捏造であると主張していますが、お父様が甲武に帰国される3か月前にネバタ州が完全封鎖されて現在もその封鎖が解けていない。その事実はアメリカも消しようがありませんし、その事象を引き起こした本人であるお父様がそうおっしゃるんですから間違いありませんわ」 


 茜は優雅に紅茶を口にしながら誠に目をやった。実際雛人形のように見える彼女に見られると誠はいつものようにただ頭を掻いて愛想笑いを浮かべるしかなかった。


「アメリカの州のひとつが封鎖?その事象って何なんです?アメリカの州って……クバルカ中佐に地球の地図を見せてもらったんですけど、ハワイ以外は一つの州が東和が丸々入るくらいの大きさなんじゃないですか?それが完全封鎖って……」 


 あまりに途方もない嵯峨の引き起こした約歳の規模に震えながら言葉をひねり出した誠にかなめと茜がうなずいた。隣に座っているカウラもあいまいな笑みを浮かべるだけだった。


「大規模なクバルカ中佐ですら『アタシにもアレは無理』と言う規模の空間破砕と空間干渉を繰り返し展開した結果、無数の次元断層がネバダ州の各所に発生しているそうだ。恐らく隊長が起こしたんだろうな、次元断層を連続的に生み出す規模の空間破砕を。隊長の法術師としての能力はアメリカ軍によって破壊されたが、それでもまだそれだけの力を隊長は持っている。つまりそう言うことだ」 


 カウラの一言に誠は唖然とした。誠がランとの法術白兵戦等訓練で展開された空間破砕はランが明らかに手加減していると言っても、手りゅう弾を爆発させた程度の威力で誠の干渉空間でも最初はそれなりにひよこのヒーリング能力が必要になる程度の怪我は負ったが、今では問題なく弾き返せる程度の威力しかないはずだった。


「そんなに凄いんですか……。アメリカの州って一つで東和一国より広いんでしょ?それが丸々隊長が作った次元断層に呑み込まれるなんて……僕の『光の(つるぎ)』の比じゃないですよ……地球人がお気に入りの核兵器の威力の比じゃないじゃないですか!」 


 誠は嵯峨は自分を『最弱の法術師』と呼ぶが、それが間違いであることを改めて確認した。


「そうね、それが制御できる力で、自由自在に威力を設定して行使できるならと言う限定がつきますけど。そしてようやく先ほどのミイラに話が戻るわけです」 


 紅茶のカップを置く茜。彼女はラーナから携帯端末を受け取った。


「これを見ていただけます?」 


 そう言って茜は3Dモニターを展開した。そこには鎖につながれ、頭に袋をかけられた半裸の男が立っていた。良く見ればその男の後頭部から太いコードが延びている。さらに体中に電極のようなものが部屋の四方へと伸びていた。


「一瞬ですから、見逃さないように」 


 緊張感のある茜の声。しばらくぐったりと吊り下げられていた男が痙攣を起こした。関節が逆に折れ、人体の形が崩れていく。次の瞬間、画面は赤黒く潰れた。

挿絵(By みてみん)

「人工的に法術暴走を起こさせたのか……私達『ラスト・バタリオン』を生み出したゲルパルト第四帝国を『人権に対する罪』で弾劾している国のやることではないな」 


 カウラの一言に誠は動くことができなかった。目の前にあるのは作り物だと思いたかった。だが、目の前の画像では顔を見れないように加工された白衣の人影が中央の何かを触りながらお互い手元の計測機器をいじっている様子が映った。


「こんな実験が……」 


 地球人は戦争好きで平気で核兵器を使って気に入らない国の国民を皆殺しにしても涙一つ流さない人で無しと言う認識を持っていた遼州人である誠はそれが噂やデマではなく事実なのだということをまざまざと目にしている自分を確認した。


「映像は東和陸軍技術部の提供ですが……」 


 怯えた顔の誠を安心させるためのように穏やかな口調で茜はそう切り出そうとした。


「馬鹿、これに映ってるのはオメエの親父じゃねえか!東和陸軍が秘密裏に米軍と取引して手に入れたんだろ?極秘事項中の極秘資料だ。米軍もまさかこんな非人道的なことを『自由と民主主義』を看板にしている国がやってるなんて言えねえからな。連中はゲルパルトのネオナチ政権を打倒した時に首脳部のほとんどを絞首刑にしたよな?だったらこの実験をやってた陸軍の偉いさんも全員絞首刑にしろよ。そうしないと不公平だな。反吐が出る!」 


 そのかなめの言葉に誠は呆然とした。目の前の3D画像の中の白衣の人々が何かに握られているとでも言うようにもがき始める。腕は不自然に曲がり、首がポロリと落ち、胴がちぎれて鮮血が画面を覆った。


 そしてそこには黒い煙を上げながら次第に立ち上がろうとする先ほどの男、その顔は嵯峨惟基以外の誰でもなかった。


「アメリカ陸軍の実験部隊のデータのコピーのコピーなんだろうな。ホワイトハウスの報道官はこれを見てもただ『捏造映像』と言い張って終わるような代物だ。でもまあそれを知った上でもこれを遼州圏のマスコミにでも見せたらそれなりに大変なことになりそうだな。特にネオベルリン裁判で国民の1割が禁固刑以上の刑を受けたゲルパルトのテレビにでもこの映像が流れたらあの国はまたネオナチの国に逆戻りするぞ」 


 停止した画像に映る嵯峨の表情にかなめは苦笑いを浮かべてつぶやいた。


「でもこれは人工的に暴走を引き起こしたわけで……」 


 誠はそう言いながら何時も平気で暮らしている嵯峨の緊張感のない笑顔を思い出してそう言った。


「同じ条件が日常生活や任務中などに発生しないと言う保障はおありになるの?」 


 茜の言葉に誠は黙り込んだ。


「おい、なにやってんの?」 

挿絵(By みてみん)

 誠が振り向くとそこにいつの間にか嵯峨がいた。


 完全に気配を消した父の登場に慌てた茜が厳しい視線をラーナに投げるが、きっちり鍵を閉めたと言うようにラーナが首を振る。そんなラーナの肩を叩くと嵯峨は歩み寄ってきた。鍵は閉めた。だが、嵯峨惟基には意味がない。甲武陸軍の諜報部員として前の大戦を経験してきた嵯峨にとってセキュリティシステムを手持ちの端末と接続して簡単に解除するのはその時に覚えた日常業務の一つと言えた。


「なんだこれ?コイツの入手元は地球圏に恨み満点の……東和陸軍か。あいつ等からの情報は証拠に使えねえよ。司法関係者にとっては証拠性の無い情報は単なるデマだ、騙され……」 


 まるでみるに値しないというように画面の中で切り落とされた首を持った実験担当者が胴体の上に乗せる画像が映し出されるのを一瞥すると嵯峨は吐き捨てるようにそう言い切ろうとした。


「でもお父様!」 


 目の前の自分のかつての姿に嵯峨は苦笑いを浮かべた。


「あの、法術暴走の……」 


 自分にも起きるかもしれない『法術暴走』と言う脅威を目にしても顔色一つ変えない嵯峨に誠はすがるようにしてそう叫ぼうとした。


「気にすんなよ。禿るぞ。それに俺等は司法官吏だ。証拠にならねえものはすべてデマ。そう考えるようにしておくもんだ。法術暴走なんて言うのは地球人で言えば癌と一緒だ。誰にでも起きる可能性がある病気みたいなもんだ。そんなものの心配をしていたら日常生活なんて送れもしないね」 


 誠に取り合うつもりも無いというようにそれだけ言い残すと、嵯峨はいつの間にか開いていたドアに向かった。そこにはアメリアの心配そうな顔があった。


「ああ、そうだ。茜よ。その報告書のことで秀美さんが重要な話があるんだそうな。第一会議室が空いてるからそこを使え」 


 第一会議室……隊舎でもっともセキュリティの固い部屋だ。そこを使うということは、機密会合だ。


「分かりましたわ。ラーナ、行きましょう」 


 そう言うと茜は目の前の画像を消して立ち上がった。


「ずいぶんと中途半端な話になっちまったな」 


 かなめの言葉に出口で立っていた嵯峨が目を向けた。


「要は気合だぜ。意識が勝ってれば暴走は起こらねえよ。実験台として何度も法術暴走を繰り返した俺の経験則だ、それなりに信用できるだろ?」 


 そう言ってそのまま嵯峨は隊長室へと向かった。


「ちょっと新藤さんが時間をくれってことだから今日の撮影はさっきので終わりよ」 

挿絵(By みてみん)

 入れ違いにアメリアが顔を出してきた。その顔を見てかなめは握りこぶしを固めた。


 アメリアには今までの深刻な状況をぶち壊すような満面の笑みが浮かんでいるのが、かなめのどこに怒りを向けて良いのか分からない不条理の連続を茜に突きつけられた後の怒りの対象としてあまりに適しているように誠には思えてきた。


「殴って良いか?カウラ、あいつ殴って良いか?」 


 アメリアをにらむかなめ。そして立ち上がろうとするかなめをカウラは目で制した。誠もなんだかいつもの日常に引き戻されたように苦笑いを浮かべた。


「カルビナ巡査!早くしろ」 


 アメリアを押しのけて顔を出した安城の言葉で茜が手を早めた。


「あのう、西園寺さん……」 


「分かったよ!とっとと寮に戻るぞ。あんなもん見たら飯食って寝酒飲んで寝るしかする事なんかねえだろ!」 


 そう言ってかなめは後頭部に手を当てながら立ち上がってそのままアメリア達のところへ向かった。


「隊長のお墨付きだ。さっきのことは気にするな」 


 自分の言葉が何の慰めにもなっていないことを分かりながらカウラは言葉の無い誠の肩を叩いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ