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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と魔法少女  作者: 橋本 直
第十九章 『特殊な部隊』と謝罪

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第66話 監督による謝罪

 あたりの景色が闇に沈みシーンの終わりを告げた。誠はすぐにバイザーとヘルメットを脱いでカプセルから出ようとして縁に頭をぶつけた。

挿絵(By みてみん)

「神前、何やってんだよ。これは現実だぞ。演技じゃ無いんだからボケなんて必要ねえんだよ」 


 かなめは呆れたような感じでそうつぶやいた。誠にはかなめが銃をちゃんといつものように脇のホルスターに仕舞っていて、倉庫内に発砲による硝煙の匂いが漂っていない事だけが救いだった。かなめはアメリアを怒りに任せて射殺しなかったのが唯一の救いだと崩壊した物語を演じながらその事ばかりが気になっていたのは事実だった。


 そして起き上がった誠は腕組みをして薄ら笑いを浮かべているアメリアを見つけた。こちらも額には穴が開いておらずただいつものように糸目が特徴のアルカイックスマイルが浮かんでいた。


「アメリアさん!ちょっとこの展開酷すぎません?もう少し何とかならなかったんですか?矛盾点多すぎですよ。これじゃあ子供だってどこかおかしいところが有るって分かりますよ。なんでいつものエロゲーム作る時みたいに緻密な設定をしなかったんですか?あれの原画を描くとき僕がどれほど苦労をしているか分かります?いい加減は止めてください!」


 魔法少女アニメには少しうるさい誠はアメリアにそうツッコんでいた。 


「ああ、何も言わなくても良いわよ!台本を書いたのは私。監督も私。責任は取るわ。じゃあ……」 


 そう言うとカプセルから顔を出す一同をアメリアはまんべんなく眺めた。


「典型的なやっつけ。全部私が悪かったです。ごめんなさい」 

挿絵(By みてみん)

 頭を下げるアメリアに全員が白い目を向けた。役に対する不満と言うより明らかにアメリアの趣味だけで構成された物語にかなめやカウラの視線は殺気までこもっているようにアメリアに突き刺さっていた。


「だってしょうがないじゃない!これ三日で書いたのよ!設定を作る時間も無かったし、一々チェックしている暇なんて無かったの!矛盾してるのも実際撮って見て気付いたのよ!放送作家をしている落語家時代の姉さんも『これが味なんだから良いんじゃない?』って言うからそのまま話を通しただけよ!プロのお墨付きがあるのよ!確かに姉さんのバラエティーは放送事故が多くてよくネットニュースで炎上しているのは事実だけど……おかげで視聴率も深夜帯なのに高い!スポンサーも数多く集まる!姉さんも言ってたわよ、いかに視聴者の脳裏に残る展開に持っていくかが大事だって!物語の整合性なんて私には興味は無いの!要するに面白ければそれで良いのよ!」


 明らかに本音丸出しのアメリアの言葉に撮影現場にいる人間は言葉が無かった。元映像作家である『釣り部』の新藤さえもアメリアの言葉には思わず舌打ちをしながら画像の細かい処理の作業を進めていた。 


「期間の問題じゃないと思うがな……多少の記憶力と思い入れが有ればあのようなミスは起きないはずだ。さては二日酔いか何かでぼんやりしている時に書いたな……まあ最近は月島屋に通い詰めでその度に貴様は潰れてたからな。帰ってから深夜に起きて書いたんだろ?その情熱だけは褒めてやる。だがこれは別に貴様を伝説の迷映画監督にする為の企画ではない。市の依頼での娯楽作品だ。その辺を貴様の台本は完全に無視している事だけは間違いない」 


 カウラはそう言ってあっさり切り捨てた。


「まあ……がんばれ!私も同じ立場ならそうなってたかもしれないから。でもまあ、好きな物を作れるんだから良いじゃない。これもみんなの嫉妬がもたらしてる悲劇だといつものアメリア調で乗り切ればいいのよ!」 


 サラは自分がその立場に無いので無責任な笑顔を向けた。彼女もオタク歴の長い人物である。設定の矛盾に気づいているのは確かだった。ただ、サラはよく深夜に寮に来て島田と一緒にそのアメリアの姉弟子が企画制作をしている放送事故頻発のバラエティー番組を見て大笑いするのがよくあることなので、彼女の意見はまったく参考にならないと誠は思っていた。

挿絵(By みてみん)

「私はこういうのは良く分からないから……でもちゃんと意味は通ってたじゃない。それに意外と誠君がかっこよかったり、カウラさんが素直だったりしたのは良いところなんじゃないかしら?」 


 春子はとぼけてみせた。三人の言葉にアメリアはさらに落ち込んだ。


「新藤さん、撮り直しは……」 


 ゆるゆると頭をもたげて画面を編集している新藤を見つめるアメリアだが、目で明らかにそんな面倒なことはしたくないと拒否している新藤の姿を見てがっくりと肩を落とした。


「そんなに落ち込まないでよ。私は楽しかったわよ。親子愛はきっちり描かれていたと思うから親子の客にはこれでも十分伝わると思うのよね」 


 春子はそう言って彼らがアメリアいじめをしている間に起き上がってお茶を入れていた。だが、彼女が先ほどアメリアの台本の致命的弱点を指摘しているだけに、自分の湯飲みを受け取っても答える気力も無いアメリアがそこにいた。


「意外とこう言うの叔父貴が得意なんだけどな。なんでも学生時代は文芸サークルに出入りしていたとか何とか」 


 そうぽつりと言ったかなめにアメリアは再び目を光らせた。


「ホント?」 


 完全に四面楚歌状態から一縷の光の筋を見つけたような顔でアメリアはものすごい勢いでかなめに歩み寄った。


 自分の吐いた何気ない一言に思いもかけない勢いで食いつくアメリアに気圧されながらかなめは少し慌てて口を開いた。


「嘘ついても仕方がねえだろ?甲武の先の大戦前に活躍して、冥王星で戦死した『鬼美濃』と呼ばれた武家貴族のエースパイロットの斎藤一学って言う新進気鋭の画家がいたんだ。あれが確か叔父貴と高等予科の同期でいろいろと付き合いがあって、斎藤が挿絵を描いた発表していない小説があるとか無いとか親父が言ってたような……」 


 かなめの言葉をそこまで聞くとアメリアは今度は嵯峨に助けを求めるためにそのまま部屋を出て行こうとするが、サラとパーラが身をもって止めた。長身のアメリアを必死で取り押さえるサラを置いてパーラは叫んだ。


「だめよ!どうせ隊長は断るに決まってるじゃない!隊長の性根がひねくれてることはみんなも十分承知してるでしょ?言うだけ無駄よ!」 

挿絵(By みてみん)

 サラはそう言ってかなめの提案にすがるように出て行こうとする体格に勝るアメリアを必死になって止めた。


「今からどう変えるのよ!あんたが書いたんでしょ!後は新藤さんに任せなさいよ!編集の妙って奴で矛盾点もなんとかしてくれると思うから!結局プロには勝てないんだって!あんたが落語家をしてたのはもう15年以上前の話しでしょ?現役の映像作家に任せて天命を待つ!覚悟を決めなさいよ!」 


 ひたすら自分の失点を揉み消そうと暴れるアメリアの胴にしがみつくパーラ。右足を引っ張るサラ。そのどたばたを察したかのように現れたのは嵯峨だった。


 誠が見ても嵯峨は役に立たないことは大概できるので、小説ぐらい一つも書けてもおかしくないと思った。事実、新聞の短歌の欄に年に一度は嵯峨の歌が載ることがあるらしいとランが言っていたことを誠は思い出していた。


「神前、何俺の顔見てるの?何かついてる?」


 噂の当人はこれまでの聞いていなかった話には関心が無いようで、誠のすがるような目つきにもいつもの間抜け面を晒していた。


「いいえ!なんでもないです!隊長に頼んでもろくなことになりませんから」


 とりあえず余計な人物を余計なことに巻き込んで騒動を大きくするのは得策では無いと考えた誠は嵯峨には何も言わないことにした。


「そう言えばみんな休みなんだね。撮影は一段落ついたんだ。もうそろそろ俺の出番だろうなあと思って自分から来てみたんだ。偉いでしょ?」 


 明らかに空気を無視した嵯峨の登場にアメリアは目を潤ませる。嵯峨はその尋常ならざる気配に思わず後ずさりをする。


「さっきの神前の俺を見る目に今のアメリアの目。俺のことなんか噂してた……ような雰囲気だな……駄目だよ、人の陰口なんて。人として最低だ。最低の人間である俺にこんなことを言われるようになったら人間お終いだよ」 


 頭を掻きながら目にしたのはアメリアの鋭い視線だった。さすがの嵯峨も焦ったように身を引いた。


「アメリア、ちょっとその目、怖いんだけど……俺何か気に障ることした?俺にはそんな自覚は無いんだけどなあ」 


 そう言う嵯峨の前まで早足で近づいたアメリアは嵯峨の両手を取って瞳を潤ませた。

挿絵(By みてみん)

「隊長!た・す・け・て・くださいー!昔、小説書いてたんでしょ?物語の一つや二つ簡単に作れるんでしょ?『悪内府』と甲武で呼ばれてる切れ者なんでしょ?お願いしますよー!」 


 泣きついて来るアメリアにしなだれかかられて鼻の下を伸ばす嵯峨だが、その視線の先に春子と小夏、そしてかなめがいるのを見てアメリアを引き剥がした。


「なんだよ、そんなにひどい出来には見えなかったけどな。俺が予定していた市の担当者を呆れさせるような作品よりは。まあ、かえでとリンは予想通り危ないシーンが連発してたからそこは編集でカットしてね。それとかなめ坊がマゾに目覚めちゃったのは計算外だな……まあいいか、これでかえでのストレスが少しでも減って第二小隊の本稼働の時にちゃんと仕事をしてくれるようになれば願ったりかなったりだ」 


 嵯峨は何も知らないふりをしていただけでここで何があったかを全部知っていることがその言葉で全員に知れ渡った。


「見てたんですね!隊長!ひどいですよ!あれでしょ?隊長は甲武の高等予科時代に書いた作品があったとか……」 


 アメリアの言葉に少し首をひねった後、嵯峨はかなめに困ったような顔を向けた。


「いいじゃねえか。知恵ぐらい貸してやれよ」 


 ニヤニヤ笑いながらそう言うかなめを見つめて嵯峨はさらに困惑した表情になった。


「ああ、学生時代の話ね。俺はどっちかというと散文は苦手でね。学生時代はずっと家に帰らずに女郎屋に住み込んで都都逸(どどいつ)や和歌なんかを作って遊んでたんだよ。韻文(いんぶん)はそれなりには新聞とかにも取り上げられたからそれなりに自信はあるんだけどね。俺って長い小説とか書くの苦手なんだ。書いても掌編程度。まあ、原稿用紙で二、三枚かな。ストーリーなんて無いよ。いわゆる私的な日常の感想を書いた私小説。俺って想像力はあまり無い方だから。俺は現実主義者なの。架空の物語なんて興味無いんだ。事実は小説より奇なりって昔から言うじゃん?ありのままの現実を言葉にするのが俺の作品の特徴」


 嵯峨はそう言い切るのを見てアメリアはがっくりとうなだれた。 


「インブン?サンブン?」 


 嵯峨の言葉に誠と同じ理系人間の小夏はいつものように一人でパニックに陥っているその肩を叩いたカウラが小夏に寄り添うように立った。


「韻文というのは詩だ。語彙のバリエーションや言葉の響きの美しさを求める文章だ。そして散文は小説や評論なんかだな。意味や内容、構築する技術が求められる」 


 そう言うカウラに小夏は分かったような分からないような表情で答える。誠はどちらかと言えば小夏は理解していないと踏んでいた。


「どっちでもいいけどよー。要するに隊長は多少は物語の良し悪しが分かるんだろ?じゃあなんで前もってこいつに教えてやんなかったんだよ。そりゃーちょっと上司として冷てーんじゃねーか?せっかく自分で仕事を振っといてそのままってのは人としてどーかと思うぞ」 


 嵯峨の後ろで腕組みをしながらランがそう言った。会議室の全員が嵯峨に視線を向けた。


「だってさあ、こいつがこう言うことに才能を開花させちゃったりしたら大変だろ?うちにはアメリアが必要だからな。うちは必要最低限の人材で回してるの。一人でも抜けたら部隊が立ちいかなくなるんだ。そんなもん副隊長やってるお前さんが一番良く分かってるじゃないか。だからアメリアには今回の映画では失敗作を作ってもらう。それが今回の俺の策。俺って策士だから当然そこまで読んでるんだ」 


 そう言って嵯峨は落ち込んでいるアメリアの肩を叩いた。


「あのー。私はこっちの分野は才能を開花させたいんですけど……そっちの方が華やかで素敵じゃないですか?」


 アメリアは同人エロゲーム原作者から映画監督へ上り詰めることを夢見ていた。 


「安心しろ!そうなったら俺が全力で潰してやる!こう言うのの権利関係は法律が結構しっかりしててね。いくらでも落とし穴が掘れるんだ。オマージュとかインスパイアとかいう言葉で過去の作品の引用が一か所でも見つかったらそこの権利関係の法律には俺も詳しいから『止め方』はいくらでもある。そして最終的にうん億円の使用権料をふんだくる訴訟をしてやろうと考えてるんだ。法的に面倒なことになる前に、全力で止めることくらいできるの。だからそれだけは阻止してやるから安心して撮影に集中してね」 


 嵯峨は満面の笑みを浮かべて窓際でいくつも並べたモニターを眺めている新藤に目をやった。監督はそれを察して了解したとでも言うように黙って手を上げた。


「ひどい!なんてひどいんでしょう!この上司は!夢見る乙女の夢を平然と踏みにじる!それでも人間?隊長には人の心は無いんですか?」 


 わざとらしくそう言うとアメリアは誠に向かって歩いてきた。


「ひどいと思わない?誠ちゃん。あの人鬼よ!せっかく人が努力して才能を伸ばそうとしてもそれを平然と摘み取る残酷な男だわ!人としてどうかしてると思わない?」 


 そう叫ばれても誠は何もできずに愛想笑いを浮かべていた。そのままじりじりと近づいてきて軽くアメリアの胸が誠の手に当たる。ちらりとかなめが反射的に足を上げる……『いつもの反応』だ。


「大丈夫だよ。新藤がどうせいろいろいじるんだろ?何とか見れるような作品にはなると思うぞ。それじゃあ続きを始めるんじゃないのか?その為に俺を呼んだんだろ?よくあるじゃん、映画でもアニメでも『大人の事情』ってやつ。それが今起きようとしているだけの話だから。アメリア……いい加減大人になれや」 


 そう言って嵯峨は笑顔でそのまま手前の空いていたカプセルに寝転がった。


「そうね、新藤さん!お願いね!新藤さんも色々コネが有るでしょうから、切るところは思い切り切ってもらっても大丈夫だから。全責任は監督である私が取るから」 


 アメリアが叫んでみるが、相変わらずモニターから目を離さずに新藤が再び手を上げた。


「それにしてもシーン変わりが多い映画だな。俺としては長回しの多い作品が好きでね。一時期小津映画にはまってたくらいだから『東京物語』……良い映画だったなあ……まあ、俺としては小津映画で一番好きなのは『秋刀魚の味』なんだけどね」


 嵯峨はそう言うとカプセルに横になったままタバコをふかすふりだけをしていた。


「隊長、ここは禁煙ですよ」


 アメリアは鋭い口調で嵯峨にそう言った。


「そのくらいの常識はあるよ俺にだって。でもさあ、昔の昭和の映画監督ってタバコを吸ってるイメージが有るじゃない。タバコくらい吸いたくなるよね。こんな状況に置かれると」


 嵯峨はアメリアにあれだけ言われてもタバコに未練があるようでタバコを吸うしぐさを続けていた。


「次は南條家のシーンだから!ルカ、お願い」 


 嵯峨のタバコへの執着に呆れ果てたアメリアは待機していたルカに向ってそう言った。


 明らかに嫌そうな顔をするとルカは滅多に外すことの無い口につけている医療用マスクを外した。


「はあ、仕方ないか。これも仕事だ。アメリアは自分が楽しい時だけは一生懸命になるんだ。それに『駄目人間』の後妻役ってなんで私なんだ?そんなの自分でやれば良い。一人二役にしても問題ないだろうが」 


 そう言うとルカは嫌々カプセルに身を横たえた。誠も出番があったのを思い出してまたカプセルの中に戻った。


 結局これはアメリアによる責任逃れの一部に過ぎないと察して誠は無言でヘルメットをかぶった。



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