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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と魔法少女  作者: 橋本 直
第十七章 『特殊な部隊』と定時

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第60話 完全に傍観者を気取る人

 次なる戦いに覚悟を決めたような小夏の顔のアップが消えると画面は黒く染まった。


『青春だねえ。若いってのは良いことだよ。俺は不老不死だから体は若いが心までは若くはなれないんだ。馬鹿をやれるには年を取って分別がつきすぎた。辛いもんだよ』 

挿絵(By みてみん)

 通信ウィンドウに、嵯峨の顔がぬっと割り込んだ。突然抜けたような声が響いたので誠は驚いた。いつの間にかこの場に紛れ込んでいた嵯峨がウィンドウ越しに割り込んできた。


『嵯峨さん。良いんですか?お仕事は』 


 春子の言葉に誠もいくつか付け足したい気分だった。


『いやあ、仕事が面倒になってきちゃってね。ちょっとくらい匿ってくれてたっていいじゃないですか』 


 どうやら嵯峨は、また誰かから逃げてきたらしかった。小遣い3万円、唯一の楽しみのタバコまで娘に制限される嵯峨の暮らしは、誠から見ても過酷だった。


『しかし、格闘戦とは……よく見てろよ、神前。シュツルム・パンツァーもその本質は格闘戦にあることはこの前の厚生局の事件で分かったわけだから神前達も参考にしろよ』


 嵯峨は激しく鍔ぜりあうランと小夏の姿を見て思わずそう口にしていた。


『これをどう参考にしろって言うんですか?それに操縦の下手な僕にこんな細かい動きを再現しろなんて無理な話ですよ』


 無責任に画像を面白がっている嵯峨に誠は呆れながらそう言った。


『しかし、こんな一瞬で傷だらけになるって、どういう剣術なんだろうね?不思議だね』


 嵯峨は心底不思議そうに誠に尋ねてきた。 


『それは尺の都合って奴じゃないですか?それに子供もあまり戦いが長く続くと飽きちゃうでしょうし』


 とりあえず仕事をしたくないらしい嵯峨に誠は付き合ってそう答えた。


『嵯峨さん!いい加減にサボるんじゃありません!』 


 女性としてはハスキーな張りのある声が響いた。その声の主が、遼州同盟司法局公安機動隊隊長の安城秀美少佐であることは、誠にもすぐ分かった。昨日、同盟本部に法務司法執行機関および治安関係団体幹部会議を『頭が痛い』と言って欠席して隊長室で愛刀『粟田口国綱』を研いでいたところは誠も目撃していた。 


 『嵯峨さん!』の瞬間、ウィンドウの嵯峨が反射的に小さくなった……逃走モードだ。自由人を気どる嵯峨を唯一制御できる存在が安城だということは司法局の上層部も十分知っていた。


『失礼しますね、春子さん。嵯峨特務大佐はお借りしますから』 


 安城の非情な一言で嵯峨が落ち込んでいるのが誠には目に見える様だった。

挿絵(By みてみん)

『どうぞご自由にお使いください。好きなだけこき使っても構いませんから。新さんなら死なないんでどんなにこき使っても使いべりしないでしょうから』 


 春子に見放されて落ち込んでいるだろう嵯峨の顔を想像して誠は思わず笑いそうになる。再び誠が画像に意識を向けるとすでに逃げ去ったランを見送る小夏の姿があった。


「小夏!なんで私に助けを求めなかったの?せっかく捕まえられるチャンスだったのに!」 


 すでに戦いは引き分けに終わりランが逃げ去った後だった。サラは小夏のところまで降下すると責め立てた。でも口を真一文字に結んだ小夏は謝るつもりはないというようにサラをにらみつけた。


「良いじゃねえか!このくらいの気迫が無けりゃあ戦いなんてできないもんだ。それにアレとの戦いはこれからのこいつの魔法少女としての成長には必要不可欠なものだ。再び相まみえる事が有ればこいつも後れを取らないだろう」 


 相変わらずどう見ても敵の魔女と言うか機械人間のように見えるかなめが良い顔で小夏の頭を撫でた。


「そんなスポーツじゃないんだよ!いつかは決着をつけなきゃいけない……」 


 そう叫ぶグリンの口にかなめは手をやった。


「それよりこのままにしておくつもりか?機械帝国は決して貴様を許すことは無いだろうよ」 

挿絵(By みてみん)

 かなめはそう言うと下の光景を見下ろした。グリンだけでなく小夏もサラも眼下の光景を眺めた。神社と中学校の木々の頭の部分が焼け焦げ煙を揚げていた。一方ランが突風を吹かせた影響で小学校のガラスがすべて砕けて無残な姿を晒していた。


「分かりましたよ!後で明石司令に報告します!」 


 そう言うとグリンは両手を広げた。彼の手からあふれ出た光の粒が中学校と隣の鎮守の森を包む。木々は再び生き生きと茂り始め、中学校の砕けた窓ガラスが元に戻っていった。

挿絵(By みてみん)

 そこで背後から、感心したようなカウラの声が割り込んだ。


『これは凄いな。法術でもこんなことは出来ない。これを魔法と言うのだな。私も読んでいるファンタジー小説では『修復魔法』とかが出てくるのだが、こうして画像にしてみるとイメージ出来て良いな』


 背後でドアが開き、カウラの声がした。カウラは本気で感心したようにきらきら光りながら修復されていく学校の姿を眺めていた。光が収まると、グリンは肩で息をした。魔法少女アニメに詳しい誠はおそらくこういった修復がグリンが出来る回数に制限があることを理解した。 


『カウラさん。これは魔法ですから。法術はそんなに便利な物じゃあありませんよ。それにファンタジーなら何でもありですから。どんなこともできるからファンタジーなんですから……というかそのファンタジーの最強魔法すら『へ?これで最強?アタシの立場が無くなるじゃねーのか?』の一言で済ませてしまうクバルカ中佐って……本当はどのくらい強いんですか?僕にはそっちの方が気になりますよ』 


 突然後ろから掛けられたカウラの声に少しばかり誠は驚いた。しかし、いつまでたってもかなめを迎えに行ったまま戻らない誠の様子を見に来ることはカウラの性格からすれば十分あり得る話だった。


 画面では中学校の屋上に舞い降りてもとの制服姿に戻る小夏が映されていた。


『しかし、ころころ場面が展開するんだな。アメリアの見せてくれたアニメはそんなに場面転換は無かったぞ』


 カウラはそう言ってアメリアの台本の欠点を指摘した。


『あの人はゲームもそうですけど、あまり長い場面を作りたがらないんですよ。同じ場面が続くと自分が退屈するからみんな退屈だろうって言う理屈らしいんですが、僕としてはもっと長尺のシーンが有った方が興奮……いや!なんでもないです!』


 誠はアメリアの同人エロゲームの原画を担当させられていたので何度となくその手の話はアメリアとはした事が有った。そして自分が説明しているのがカウラのあまり好きではないエロゲームの話だったことを思い出して口を濁した。


『そうなのか?私は戦いが延々と続く方が楽しいと思うのだが。実戦でもそうだが、長い戦いは体力と精神力が試される。そのギリギリを見るのが楽しいと思うのだが』


 カウラはそう言いながら不思議そうにしていた。誠はそれは『ラスト・バタリオン』の本能として戦闘を欲しているからなのだろうと思いながら、それだけは黙っておこうと沈黙を守った。


『おい、アメリア。ちょっといろいろといじりたい場面があるんだが……少し休憩ってことにならないかな』 


 映像担当の新藤の声が響いた。誠から見てもアメリアの監督ぶりには疑問点が多々あった。視聴者としてプロとして手が加えたくなる新藤の気持ちも痛いほど良く分かった。


『そうですか、じゃあしばらく休憩しましょう』 


 アメリアの責任者としての一声で、バイザーの中に映っていた画面が消えた。誠はヘルメットを外し、ようやくカプセルから身を起こした。


「あー疲れた……あっ!おはぎ取っておいたのに食べちゃったんだ!ずるいんだ!」 


 いち早く飛び上がるようにして起きていた小夏が入り口に置かれたおはぎが入っていた重箱が空になったのを指して膨れっ面をしていた。


「だって硬くなったらもったいないじゃない!それにここにあったほとんどを食べたのは明石中佐よ。あの人の食べる量が尋常じゃないのは月島屋にあの人が来るたびに散々見てたじゃない」 


 そう言ってサラは重箱に蓋をしていた。


「よし、それじゃあ仕事に戻るぞ」 


 そう言うとカウラは誠の襟首をつかんだ。小夏とサラ達がにらみ合っている状況を見物していた誠はかなめの手を引っ張って会議室から廊下へと歩き出した。


「なんだよ神前。アタシは仕事は終わってるんだよ!」 


 そう言って逃げ出そうとするかなめに誠は泣きついた。


「そうじゃなくって!僕は演技をするためにここに来たんじゃないんです!それより西園寺さん!僕の端末の画面をどうにかしてくださいよ!西園寺さんが僕の端末をここの映像しか映らないような設定にしてったじゃないですか!あれじゃあ僕の仕事が出来ませんよ!」 


 廊下に出た誠の言葉にかなめは頭を掻いた。そして思い出したようにかなめが手を打ったところから彼女が自分のしたことを忘れていることに誠はただ呆然としていた。


「分かったよ。しかし、オメエ等は仕事が遅いねえ。まあ生身の限界って奴か?便利だろ、機械の身体も」 


 かなめは得意げに右腕を晒して人工皮膚の継ぎ目を見せて自分がサイボーグであることを自慢して見せた。


「電子戦対応装備のサイボーグを基準で判断されてはたまらないな。人間にはそれぞれ向き不向きと言うものがある。貴様には端末を使った仕事や戦闘は向いているが絵を描いたりすることは苦手だろ?いわゆるそう言うことだ」 


 そう言ってカウラはかなめを余裕の表情で一瞥するとそのまま実働部隊の部屋へと向かった。部隊長の余裕を見せられたかなめは明らかに含むところがあると言う表情でカウラについて歩いた。


「まあ、しゃあねえかな。隣の怖い警部殿の面目を潰すわけにもいかねえだろう……しな!」 


 そう言うとかなめは法術特捜の間借りしている部屋のドアを開けた。ドアには茜が張り付いていたが、誠と目が会うと空々しい笑顔を浮かべて茜は奥へと消えていった。


「信用ねえな、神前は」 


「……それ、今言います?西園寺さんの演技も『大正ロマンの国』で無声映画が普通の甲武ではどうか知りませんけど東和じゃ『臭い』の一言で処理されますよ」 


 不満そうな誠の声を聞くとかなめはいかにもうれしそうな笑顔を浮かべて早足で詰め所に向かった。さっさと部屋に入ったカウラに二人は顔を見合わせてドアを開いた。


 かなめの言葉に誠も部屋の中をのぞき込んだ。


「まあいいや、神前ちょっと待ってろ」 


 誠のモニターは相変わらず映画の画面が映し出されていた。


 すぐさま画像が切り替わり、茜に指示されたプロファイリング資料が映し出された。


「ああ、西園寺さんありがとうございます。これでようやく仕事ができそうですよ」 

挿絵(By みてみん)

 誠はそう言うとかなめに代わって自分の席について早速資料の画像をいじり始めた。


「そうか。それなら今隊長室に呼び出された奴の分までがんばれや」 


 かなめはそう言うと自分の席に戻った。


「呼び出された?」 


 そう言ってカウラの顔を見ると彼女はすぐにドアの外を指差した。隊長室をノックしているアメリアの姿が見えた。


「ああ、安城さんが来るのが分かってれば対策も立ていれたのにねえ。カウラの奴、知ったんだろうな」 


 連続放火事件のファイルをモニターで眺めながらコメントをくわえる作業を続けているかなめが画面を見たままそう言った。嵯峨がどうしても下手に出なければならない真面目に仕事をすることを要求する相手、それが安城秀美少佐だった。司法局の特殊部隊でも一番精鋭とされる公安機動隊の指揮官の来訪で嵯峨が形式的なお小言をアメリアにしなければならなくなった様子を見ながら誠は大きくため息をついた。


 おそらく第一小隊の出動実績の資料をカウラは小隊長として嵯峨から提出を求められたのだろう。いい加減にデータを渡せば終了と言う嵯峨ではなく、そこに細かな説明とその際の現場状況についての質問までしてくるであろう安城の対応をさせられるカウラに誠は同情した。


「カウラさんも大変ですね。やっぱり下士官で良かったかもしれない」 


 誠は入隊直後に降格を食らったことを少しだけ感謝した。かなめは机に足を投げ出してそのまま天井を見ながら人の悪そうな笑みを浮かべていた。誠はようやく連続放火事件の資料の整理を終えて最後の車上荒らしの事件の資料を探すために画面をスクロールさせていた。


「でもこれでしばらくはアメリアに付き合う必要もなくなるな」 


 そう言ってかなめは笑った。それに誠は愛想笑いを浮かべるしかなかった。


「じゃあ仕事がんばれよ」


 かなめに言われて誠は苦笑いを浮かべた。誠はようやく仕事を再開した。かなめは笑って、椅子を倒さない程度に雑に立ち上がった。……完全に他人事の顔だった。要するにかなめにとっては仕事については自分の職責は既に終わっており、映画に関しては自分の価値観にあう演技さえできればそれでいいということを誠はその言葉で確信した。


 そんな誠が一瞬画面から視線を外してかなめを見るとかなめは完全にいつも通り銃を取り出して分解調整と言う暇な時にかなめがやるいつものことをやっているのが目に入った。



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