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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と魔法少女  作者: 橋本 直
第十六章 『特殊な部隊』と『人外魔法少女』

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第59話 リアル『魔法少女』の余裕

 明らかに手加減しなければならない不満そうな表情を一瞬浮かべた後、教室の床に突き立った鎌を引き抜くと再び演技に戻ったランは余裕の笑みを浮かべて小夏をにらみつけた。


「なるほど少しはできるようだな!ならば名乗ってやろう!ありがたく思えよ!所詮実力の違うアタシとオメーじゃ勝負にならねーんだから!」 

挿絵(By みてみん)

 そう言うと再びつむじ風が教室に吹きつけた。生徒達は次々と砕けていく窓ガラスから逃げるようにして廊下へと飛び出していった。部屋に残っているのは小夏とアメリアだけだった。泣き叫ぶ声まで妙に揃っているあたり、新藤の気配りなのだろう。残ったアメリアも、強風にあおられて見事なくらい狼狽していた。その演技がこれまで見た前隊員の演技の中で一番真に迫った見事なものだったのでさすが玄人は違うと誠も感心していた。


 その目の前でちっちゃなランは小夏を見上げながら胸を張って自信ありげにその前に立つ。そのしぐさは、誠には演技ではなくいつものランそのものにしか見えなかった。


「アタシは機械帝国に忠誠を尽くす者!すべてを血に染め、向かうものすべてを切り裂く定めを持つもの!ブラッディー・ラン!」 


 ランは鎌を小夏に突きつけて叫んだ。この態度も白兵戦等訓練で時に自分の才能に酔ってランに模擬戦を申し込んで来たかえでを完膚なきまでに叩きのめした時のランそのものでこれは演技ではなく地だと誠は確信した。


『それにしてもいつもよりよっぽど大人に見えるな。いつも『人類最強』とか子供みたいなことを抜かしてるからそう見えるのか?というかランの姐御が本気ならもうすでに勝負はついてるんだけどな。まあ、アメリアに『デチューンしてね♪』とか言われてるから設定どおりの強さで演じるんだろうけど……登場キャラが役の中では演じる本人より弱いってどういうことだ?意味わかんねえよ。それとあの口調。いつものだれた口調と違って緊張感が有るな。いつもこういう風にしゃべればいいのに』 


 かなめのつぶやきにようやく役から解放されて監督の位置に戻ったアメリアが思わず噴出した。誠はただ苦笑いを浮かべて二人の戦いを見つめていた。周りに人の気配が消えたのを知って、小夏のかばんから飛び出したのは小さなグリンだった。


「今だ!変身するんだ!そうしなければこの学校も機械帝国に侵略されてしまう!」 


 小夏のカバンから飛び出したグリンの声に小夏はうなずくと右手を掲げた。すぐさま手にしていた杖が元のサイズに戻り淡いピンク色の光を放った。


「天空と地と海を統べる世界よ!アタシに力を!」 


 その変身の呪文が前回とまるで違うことに気づいた誠達の前で、小夏の制服がはじけるように消えた。やわらかい桃色の光に包まれた小夏の体に靴やソックスや手袋などが次々と現れて前回と同じ魔法少女の姿が見え始めた。

挿絵(By みてみん)

 そして桃色の光がはじけ飛んだときに表れたのは、魔法少女『キャラットなっちゃん』の姿だった。


『なあ、神前。あいつの呪文ってなんか意味あるのか?アタシは変身モノと言うと忍者物しか甲武の無声映画で見ただけなんだが、アレには変身のセリフなんかなかったぞ。弁士が色々喋ってたけど。それに前回とかなり違う割には出来上がった姿が同じなんだが。だったら一々叫ばないと変身できねえなんて合理的とは言えねえんじゃねえのか?』


 かなめは不思議そうにそう言って納得がいっていないようだった。


『まあ、普通の魔法少女モノだと決まった台詞が有るんでしょうけど、この作品の監督はあのアメリアさんですよ?あの人が普通の魔法少女モノなんか作るわけが無いからそんな台詞は小夏ちゃんに『アドリブでお願い♪』とか適当に言ってるんじゃないですか?それに小夏ちゃんもただ前のを覚えてなかっただけじゃないですか?小夏ちゃんは理系であまり演技とかには興味ないみたいですから』 


 誠は言い訳がましくそう言った。アメリアが何の反応も示さないところから見て誠の憶測はどうやら図星らしかった。


 明らかに違う呪文を唱える小夏を前にして、ランもあえて突っ込みをいれずにシリアスモードで変身した小夏に鎌を構えて立った。


「所詮は素人。戦いを知らないものには、死!あるのみ!」 


 そう言って切りかかるランだが、小夏は桃色の光を放ちながら宙に舞ってその鎌を避ける。振り下ろされたランの鎌はまるで豆腐でも切るようにあっさりと机を両断していた。

挿絵(By みてみん)

 そこで場外から、のんびりしたカウラの声が割り込んだ。


『凄い切れ味だな……神前。鎌とはあれほど切れるものなのか?』


 多分次のシーンの為に呼ばれてきたらしいカウラの質問がここで突然入ってきた。


 カウラは鎌に慣れていないので誠に素直にそう聞いてきた。カウラにはやはりこの物語は実際の戦闘と区別がついていないらしい。パチンコ以外には全く興味のないカウラの質問に誠は苦笑いを浮かべるしかなかった。


『使う人次第ですね……まあ、僕も一応、できますけど……』


 誠は小声で『光の(つるぎ)』の法術のおかげで、竹刀で大木を切り倒すこともできてしまうので剣道をやめさせられた経験からそう言った。鎌でも同じことくらいは出来るだろうくらいのことは想像がつく。


『神前、オメエ結構凄い腕なんだな……ああ、オメエは『光の剣』が子供のころから使えたとか言ってたな。斬れて当然か』


 かなめは誠の鎌術の腕を舐めていたことを思い知ってそう言っていた。


「小夏!距離を取るんだ!あの魔法武具、接近戦には強いが距離を取ればなんとかなりそうだ!」 


 そう言うとグリンはランの周りに結界を張った。


「分かった!そうするよ!」 


 小夏はそう言うと割れた窓ガラスをすり抜けて校庭へと脱出した。


「この程度の結界など!」 


 そう叫ぶとランは全身から赤い光を放射してグリンの結界をあっさりと破壊した。


「え!この力!」 


 その赤い炎のように見える力に驚いたグリンはそのまま宙に浮いて小夏の隣に並んだ。


「こんな小細工なんか、アタシには通じねーんだよ!」 


 そう叫ぶと一気に小夏に飛翔してランは鎌を振るった。再び小夏は魔方陣を展開してそれを受け止めた。


『熱くなってるな、姐御。素に戻ってるじゃん。でも手加減しねえと物語が破綻するんだろ?確かにこの状態じゃどう考えても姐御の勝ちだ。そしたら姐御がヒロインになるのか?おいアメリア!答えろ!この状況はオメエは予想していたのか!姐御はマジで勝つつもりだぞ!』 


 そう言うかなめだが、明らかにバトル展開を楽しんでいるように言葉が弾んでいるのが誠にも良く分かった。そしてランが本気になってこの映画の企画そのものを破綻させることを望んでいることも明らかだった。


 ただ、そんなかなめの挑発にもアメリアは答えず黙り込んでいる。


 誠もランはそう言うところは大人なのでアメリアの指示通りここは負ける演技をするだろうとかすかな期待を持っていた。


「小夏!どいて!」 


 叫び声と共に火炎が小夏とランを襲った。二人は飛びのいてその技が繰り出された上空を見上げた。そこには青い魔法少女のドレスをまとったサラが手に魔法の鎌を身構えていた。


「お姉ちゃん駄目!これは私とランちゃんの戦いなの!これは正々堂々一対一の対決なんだよ!手を出しちゃ駄目!」 


 そう叫ぶと小夏は杖を構えてランを見つめた。


「そう言うこった!これは女の意地を賭けた戦いだ!邪魔ものの出る幕はねえ!貴様の命はアタシがもらう!」 


 ランは一瞬で距離をつめた。だがすでにそこには小夏の姿は無かった。


「なに!」 


 驚愕するランだが、背中を杖で殴られて吹き飛ばされそのまま隣の神社まで吹き飛ばされた。何とか体勢を立て直すと、その鋭い視線を小夏に飛ばす。そして杖をかざして何かを詠唱している小夏に鎌を向けた。


「そうでなきゃつまらねーな!見せてみろよ!テメーの本気を!」 


 ランは完全にノリノリで鎌を振るって小夏に襲い掛かった。


 だがすぐさま小夏が三つに増えた……残像だ。


 ランは数の増えた小夏に包囲される形となった。


「なんだ?なんなんだ?」 


 焦ってランは周りの小夏達を見回した。だが、すぐに下から発せられた稲妻に巻き込まれて吹き飛ばされた。


「下がガラ空きだよ!ランちゃん」 


 そう言ってそのまま空中で体勢を崩したままのランに小夏は杖を振り上げた。


「そーはいかねーよ!」 


 ランは上半身だけで小夏の一撃を受け止めると、そのまま後退して距離を稼ごうとした。小夏は再び距離をつめようとするが、動物的勘の持ち主と言えども飛ぶことに慣れていない小夏にランを捕らえることは難しかった。直線的飛行と直角の変化ではランの流れるような軌道にはついていけなくなり、じりじりと間合いを広げられた。


「それじゃあ!」 


 グリンはそう言って小夏を援護するために魔法を使おうとした。だが、その前には先ほど喫茶店で別れたかなめ、この物語の名前で言えばキャプテンシルバーが立ちはだかった。


 機械的な上半身から炎のような魔力をたぎらせるかなめににらまれてもグリンはひるまなかった。


「邪魔だよ!キャプテンシルバー!今、小夏を助けないでいつ助けるんだ!この相手は危険すぎる!助けなきゃ!」


 必死に懇願するグリンにかなめは笑みを浮かべて首を横に振った。 

挿絵(By みてみん)

「おい、これは女と女の信念をかけた戦いなんだ。あのランとか言う餓鬼にも背負っている世界が有る。野暮なことはよしにしようや!……助けたら、小夏が折れる。折れたら終わりだ!機械帝国を倒すなんて言う目的を達成することは出来はしねえ!」 


 再びわけのわからないベクトルでの自己陶酔モードに入ったかなめがやけに良い笑顔でグリンを見つめた。そこに妙に色気があるところがかなめの演技というものをまるで理解していない方向性の間違った行動なのだと誠は苦笑いを浮かべていた。


「そうだよ!これはアタシとランちゃんの戦い!誰にも邪魔はさせないよ!」 


 そう言うと小夏はランに向けて一直線に飛んでいった。


『まあ、魔法少女モノじゃ、マスコットはどこまで行ってもマスコットですから。マスコットが活躍したら魔法少女モノじゃなくってマスコットモノになっちゃいますから。いや、最初からその方向で映画を撮ればお子様でも楽しめて僕たちも安心できる作品が出来たのは間違いないけど』


 誠は地球ではマスコットを主人公にした3Dアニメが主流なのを知っていたのでそうツッコミを入れた。


『そう言う物なのか?マスコットが活躍した方がよりリアリティーが有るような気がするんだが。魔法など馬鹿げている。そんな現代科学で説明不可能なものは法術だけで十分だ』


 何も知らないカウラに向けて誠は自信を持ってそう言っていた。


「なるほど!アタシに本気を出させたいわけだな!良いだろう!アタシの本気を見せてやろーじゃねーか!」 


 ランもまた力の限り自分の身長を超える鎌を振りかざした。二人の得物が激突し、強烈な光があたりを覆った。


 次の瞬間、ランの背後から黒い雷が小夏に向けて放たれる。


「ブラッディーサンダー!」


 ランの叫びとともに上下左右に揺れながら雷は小夏を目指した。


「シールド!」


 小夏の叫びで開かれた魔法陣に雷は吸い込まれて消える。


「やるじゃねーか!だが、これはどうだ!」


 今度はランは両腕に鉄の球のようなものを発生させて小夏に投げつけた。


 球はまた揺らぎながら一気に加速すると、途中で複数に割れて全方位から小夏に襲い掛かった。


「そんなもの!聖なる風よ!」


 小夏の叫びと同時に一陣の風が明らかに過剰な質量を持って細かく砕けた玉のかけらを次々と跳ね飛ばしていく。


「なるほどねえ、飛び道具は効かねー訳だ。なら肉弾戦だ!」


 ランはそう言うと鎌を手に上空から一気に小夏に襲い掛かった。


「それならこちらも!」


 小夏はそう言うと杖を手に一直線にランに向かって突き進んだ。


 ランの鎌と小夏の杖が触れた瞬間、巨大な爆発が二人を覆った。


「なに?なにが起きたの!」 


 上空でまぶしさに小夏は目をつぶってしまった。


「小夏!」 


 思わずグリンが叫んだ。そしてかなめは強力そうなこぶしを握り締めて笑みを浮かべた。


 三人に見守られる中、強烈な光がいくつもの稲妻であたりを染めながら次第に薄くなっていく様子が見て取れた。


「やるもんだな…………今日はここまでだ。次の戦いでは貴様は地獄に落ちることになる。覚えておけ!」 

挿絵(By みてみん)

 肩で息をして小夏の桃色に輝く杖に受け止められた鎌をランは手馴れたように腰の鞘に収めた。その赤いドレスはぼろぼろに破れ、頬にはいくつもの傷が見て取れた。


「ランちゃんもね……」 


 同じく小夏も魔法少女の衣装をぼろぼろにしながら杖を掲げた。そのまま息を整えながら二人は上空で見詰め合った。


 小夏はランの健闘を称えつつもその表情には悔しさの色をにじみだしていた。



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