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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と魔法少女  作者: 橋本 直
第三十三章 着々と罠を仕込む『女関白』

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第54話 間食禁止令と昼の詰め所

 甘ったるい匂いがまだ部屋に残っていた。


 誠も、重箱の空きと湯飲みの並ぶ机を見ながら、技術部に回せば一瞬で片づいた量だと思っていた。


「島田と言えば、おはぎがあれだけ有るんだから技術部の連中にも分けてやれば良いのに。なにもアメリアがそんな無理して食べなくてもあの食欲魔人の巣窟に分け与えればあっという間になくなるぞ」


 カウラの言葉を聞いて、誠も部屋にあふれかえるおはぎを見てこの寮ならば若い男性ばかりの整備班に行けば一瞬で無くなる量だとは思っていた。


「島田も島田だ。健康診断で糖尿病の疑いが出たのは大野だけだろ?」

挿絵(By みてみん)

 いつも『技術部の主君にして男子下士官寮の王』として男子の部下に不条理を押し付ける島田にさすがのカウラも嫌な顔をしていた。

 

「確かに大野は見ていても糖尿病になって少しもおかしくない体形だ。だから大野の間食を止めさせること自体には、私は文句は無い」


 誠も野球部のかなめ曰く『万年急造キャッチャー』である大野の体形には自分はランのパワハラに近いランニング強制のおかげで肥満とは無縁なこともあってカウラの言う言葉には納得できた。

 

「ただ、他の隊員までなんで間食禁止なんだ?この前も島田はその間食のできない部下達の前でサラと一緒にプリンを食っていた。要するにアイツは自分の権力を見せつけたいだけなんじゃないのか?まったくヤンキーの権力志向もいい加減にしてもらいたいものだ。そんな事で機体の整備に落ち度があったら迷惑を被るのは私達だ」 


 画面を見ながらカウラがそう言って苦笑いを浮かべた。そんな彼女にアメリアは首を振った。


「まあね、大人が嫌いだとか言いつつ保守系の政権党の議員になりたがるのがヤンキーの思考の限界だから。島田君も自分が権力を握るまでは散々逆らうけど権力を握っちゃえば好き勝手やりたがるのがヤンキーの本能って奴よ。大野君の減量月間が発動してからは技術部は勤務時間中の間食禁止令が出てそれで暇があるとひたすら筋トレを強制している。でもそんなことは不死人の島田君だからできる話で、同じことが生体代謝機能が地球人と大差のない不死人じゃない整備班のメンバーが島田君の無理について行けるわけないじゃないの。まったく自分が強いとなると弱い人間にはいくらでも威張るのはヤンキーの特徴よね。それでいて『俺は弱い奴には手を上げない』とか言うんだけど、その威嚇するような視線で自分より弱い相手を見つめながらそんなことを言っても説得力ゼロよ」


 アメリアもまたカウラと同じく島田のヤンキー思考をこき下ろした。確かに島田が『不死身のヤンキー』と名乗って自分より階級が下で自分に逆らうことのない部下達の前では常に威張り散らし、誠自身も島田から『舎弟』扱いされているのでそれは嫌というほど分かっていた。そして腕力では手も足も出ないサイボーグのかなめ、中佐の階級とその反撃の嫌がらせゆえに苦手なアメリア、そして何を考えているのかよくわからないのでどう接して良いのか理解できないカウラの言うことには素直に聞くのは誠からしても『権威に屈しないヤンキー』を名乗る資格が島田にあるのか疑問だった。


「それにしても、いつここまで台本を仕上げたんですか?かなりアレですけどちゃんと筋だけは通ってますけど……確かにここまでの内容もとても人に見せられたものではないのは事実ですけど。それよりこれって以前渡された内容とはだいぶ違うような気がするんですけど……確かにアレにはいくつかの物語上の破綻が見られたんで、このままじゃダメかなあとは思ってそこがなおっているのはいいんですけどね。でも、それ以上に余計変な方向に向かってません?というか、かえでさんとリンさんと西園寺さんのアドリブがちょっと見ていて危険すぎますよ?あれじゃあどう見てもポルノにしかならないじゃないですか?市の予算でポルノを撮ったらさすがにまずいでしょ……」 

挿絵(By みてみん)

 誠は渡されていた台本とかなり違う台詞や演技を思い出してアメリアを見つめた。


「ああ、姉弟子の放送作家の人に再度赤を入れてもらったものを昨日の晩に新藤さんと小夏ちゃんと一緒に煮詰めたから。まあ小夏ちゃんは注文つけるだけつけたらとっとと寝ちゃったけどね。それとかえでちゃんとリンちゃんの演技はアレはあの二人のアドリブなんだけど……いくら指導してもあの二人にやらせるとああなっちゃうのよ。あの二人本当にセクシー女優に転職した方が良いと思うわよ。私の姉弟子に放送作家はそう言うところにも顔が利くからいっそのこと素人女優として紹介して紹介料を間で取ろうかしら?だから私が悪いわけじゃなくてあの二人とかなめちゃんが勝手に暴走している訳であって私が台本に書いたわけじゃ無いわよ。それとかなめちゃんが目覚めちゃったのは不可抗力と言うことで。リンちゃんもこれまで責められてばかりだったからたまには責めてみるのも良いんじゃないかしら?」 


 そう言いながら笑っているアメリアに疲労の色は見えなかった。


 元々戦闘用に遺伝子を操作して作られたアメリア達の体力は普通の人間のそれとは明らかに違った。事実スポーツ選手で活躍している彼女達の同胞は男女の区別のないカテゴリーのスポーツで記録を次々と書き換えていた。


「お待たせしました!ご注文のうどんです!他の人はおはぎでお腹いっぱいなんですよね?もう一度買い出しに行くなんて僕は御免ですよ!」 

挿絵(By みてみん)

 西とひよこが再び入ってきた。二人はそのままビニール袋をアンに差し出した。


「ご苦労様です。僕は食べ盛りだからいくらでも食べられるんですよ……夜間中学でも中学校に不登校で通えなかった叔母さん達が僕がいくらでも夜食を食べるのを羨ましがりますけど、僕はいくら食べても太らない質なんで」 


 そう言ってアンは西が持ってきたぶっかけうどんに手を伸ばした。


「アン君よく食べるわね。うちのところじゃ育ち盛りの小夏ちゃんだけよ、弁当頼んだの。新藤さんなんかサイボーグで元々少食だからおはぎを三個食べたらそれだけで十分だってひたすらかえでちゃん達の暴走エロシーンをAIでどうにか市の人達の目をごまかすために台詞とか演技とかの修正で手いっぱい。さすが専門家よね。少しの妥協も許さないなんて。まあ、映像作家も当然発注元があるわけだからそこの依頼に沿わないような映像はすべてAIで編集して市の担当者の絵を作るなんて簡単だって言ってたわよ」 


 そう言いながらアメリアはうどんのふたを開けて中から汁を取り出しているアンを驚いたように見つめていた。

挿絵(By みてみん)

「まあ、僕の体質云々は別として、食べるものは食べられるうちに食べるのが戦場での鉄則です。無理をしてでも食べないと次に食料にありつけるのはいつのことになるか分からないですから……皆さんも食べ物がいつでもあるなんて考えているのは僕から見たら甘すぎるように思いますよ。クラウゼ中佐も食べますか?無理しても食料がある時には腹に入れる。それが軍や警察官の任務の一つだと僕は思うんですけど」 


 その一言だけで、詰め所のぬるい昼休みの空気が少しだけ引き締まったように誠には感じられた。アンは素早く割り箸を口でくわえて割り、そのまま汁と麺をなじませていた。


「えーと、まあなんと言うか……遠慮しとくわ……アン君の言うことは正論だけどそんなことは戦闘が常に続いている状況の中での話よ。私もそんな環境に居たことがあるから分かるけどその主義を貫いてるといくら太りにくい『ラスト・バタリオン』の私でもいつの間にかデブデブになっちゃうわよ」 


 愛想笑いを浮かべながらアメリアは答えた。誠もカウラもそれに付き合うように湯飲みやカップに手を伸ばした。


「しかし、さっきはあのおはぎが全部なくなるとは思わなかったんですが……あの量、明らかに整備班の面々が全員少しずつ食べることを前提にした量でしたよね?それが一気になくなる……少し信じられないんですけど」 


 西が感心したように三段の重箱のすべてに詰まっていたおはぎを食べつくした人々を見つめていた。


「ほとんど明石中佐が食べたんだ。あの人の胃袋はブラックホールにでも繋がってるのかな?いくらあの体形でも信じられないよ」


 誠は自分では大食漢のつもりでいたが、明石の食べっぷりにはただひたすら頭を下げるしかなかった。あの巨体に見合った食べっぷりだった、と言えばそれまでだが、それでも限度があると誠は思った。


「そうですか。確かに僕が配属された時はまだクバルカ中佐じゃなくて明石中佐が機動部隊の隊長をしていて……その時も凄い量を食べてましたから。まあ、そうじゃなきゃあの身体は維持できないんでしょうね」


 西はそう言って笑いかけてきた。誠も身長だけでなくその鋼の筋肉に覆われた明石の巨漢ならどんなフードファイターにも立ち向かえるだろうと想像がついた。


「西、そこの弁当。ハンガーで待っている整備班の連中が居るんじゃないのか?連中は今の我々と違って飢えている。早く届けてやれ。島田の支配から脱出できるのは食事時間ぐらいなんだ。その程度の気を遣えないと意味が無いぞ」 


 そんなカウラの言葉にひよこと西は気がついたというように詰め所の入口に向かった。


「それじゃあ……アメリアさん、用があったら呼んでくださいね。整備班は島田先輩がへそを曲げてますけど別に協力したくないわけじゃ無いんで。そのへんは分かっていてくださいますよね?」


 気遣いの人である西はそう言ってアメリアに笑いかけた。 


「ああ、そこらへんは新藤さんの裁量なんで。まあ、台本的には後半、整備班の皆には『雑魚役』で協力してもらえればいいだけだから。それまでに島田君の機嫌が直ってると良いんだけど……まあ、島田君もサラに見せ場があるっていうことで最初に協力しないと言い切った時の面子(めんつ)が保てないからツッパてるのよ。まあ、そこがヤンキーらしい思考でそこまでが島田君の限界なんでしょうけど」 


 アメリアの言葉を聞くと西が愛想笑いを浮かべて背を向ける。そんな西に一同はやる気のない手を振った。


「それじゃあ、私も戻ろうかな。あっちのおはぎももうなくなったことでしょうし」 


 そう言ってアメリアは手に痛いキャラクターの描かれたアメリア以外は使いたくないようなカップを持って立ち上がった。


「なんだ、貴様は甘い物から逃げていたのか?ぜいたくな悩みだな。いつもは糖分が足りないと文句ばかり言っていると言うのに」


 カウラはあきれ果てたと言うようにアメリアに向けてそう言った。


「時と場合ってものが有るわよ。私だってたぶん数時間後にはまた甘いものが食べたくなっておはぎが恋しくなるわ。でも今は駄目。見るのも嫌」

挿絵(By みてみん)

 うんざりした様子でアメリアはそう言った。


「まあ、なんだ。その数時間の間おはぎで補給した糖分を使ってがんばってくれ」 


 カウラは複雑な表情を浮かべた。誠もまたさわやかに手を振るアメリアをぼんやりと眺めながらカップのそこに沈んだ茶葉の濃いお茶を飲みこんだ。



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