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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と魔法少女  作者: 橋本 直
第十四章 『特殊な部隊』の暴走

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第51話 お茶の香りと和む時間

「すみませんねえ。何から何まで……神前、アン。春子さんにはいつも月島屋で世話になってる上にこんな心遣いまでしてもらってるんだ。感謝しろよ」 


 嵯峨の言葉に、にこやかな笑顔を返すと春子は湯のみを並べていった。


「じゃあ行ってきまーす」 


 やる気の無い声を上げてかなめはそのまま部屋を出て行った。


「ああ、かなめさんは出番?本当に大変ねえ……でもかなめさんなら美人さんだからきっと映えるわよ」 


 湯飲みにお茶を春子は注ぎながらカウラに尋ねた。こうして誰かがお茶を入れてくれるだけで、この騒がしい詰め所が少しだけまともな場所に見えるのだから不思議だった。


「まあそんなものですか……まあ格好が格好なので……西園寺本人も相当嫌がってます」 


 これまで黙ってパチンコアプリに集中し、誠やかなめや嵯峨の騒動を無視しきっていたカウラは、苦笑いを浮かべながらようやく連荘が終わったようでようやく立ち上がる。カウラは自分の椅子を静かに引きずり、誠の端末の前へと寄せてきた。

挿絵(By みてみん)

「それにしても便利ですね、東和は。こんなものを簡単に作れるなんて。僕の国には銃と大砲しかありませんでしたから。でも、内戦も終わった今は違うと思います。平和になればクンサもきっと東和みたいに豊かになれますよね」 


 アンは感心しながら画面を指差した。休憩を取っているようでおはぎを食べているアメリアと小夏の姿が映されていた。その様子を興味深そうに誠の端末の画面に映された画面を春子がのぞきこんできた。


 おはぎを食べているアメリア達の横にはあの映像撮影用カプセルが当然のようにそこに鎮座していた。


「新さん、さっきアメリアさんの所におじゃました時も見ましたけど、地球ではこんな機械を使って撮影するんですか……お高いんでしょ?」


 春子は嵯峨に画面に映っている見慣れないカプセルを指さしてそう言った。


「ああ、あの簡易型のバーチャル映像作成システムのことですか?普通は手が出るレンタル料じゃ無いがアメリアのコネがありましてね。あいつは映画関係とかに知り合いが居るらしいから。なんでも落語家の弟子時代の姉弟子が結局落語家が続かずに放送作家になったらしくて、その人のコネで借りてきたらしいんですよ」 


 春子が置いた自分の湯飲みを手に取ると静かに茶を啜りながら嵯峨が答えた。湯気と一緒に立ちのぼった青い香りが、詰め所の油と紙の匂いを一瞬だけ押しのけた。


「そうなんですか……。それにしてもこのお茶、良い香りですね。どこのですか?」 

挿絵(By みてみん)

 自分の濃い緑色の湯飲みを手に取ったアンが誠に尋ねた。


「確かこれは……」 


 誠はいつもより濃い茶の香りに少し心動かされた。いつもはアンが何にも考えずにやたらと渋いお茶を飲まされてばかりなので、お茶の淹れ方を知っている春子のお茶の香りはいつものそれとは格段に格調高く感じられた。


「遼帝国の東海よ。遼帝国出身の新さんはあそこのお茶が好きだから」 


 誠をさえぎるようにして春子が答えた。アンは分かったような分からないようなあいまいな笑みを浮かべながら頷くと茶を啜り始めた。


「東海って遼帝国産なんですか。隊長のコネか何かで、箱ごと貰ってきたやつでしたよね。分けても余って、月島屋にまで持っていったやつでしたよね?隊員で分けても多すぎて月島屋にまでもっていったんですよね……」 


 そんな誠の言葉に嵯峨は表情を曇らせた。


「ここのはサラちゃんはアメリアさんから『お茶はケチるな』とか言われているらしくてやたら濃いのを煎れるからすぐ使い切っちゃって……今煎れてるは私が持ってきたんだけど……新さん、まずかったかしら?」 


 春子の言葉が誠に追い討ちをかける。誠は少しへこみながら美少女キャラが書かれたマグカップに入ったお茶を啜りつつ、画面が切り替わった自分の端末に目を移した。


 まず、画像に先ほどのランの右の握りこぶしが掲げられた場面が転換して夜のような光景になった。懐中電灯を照らしながら山道を歩くサラと小夏が見えた。

挿絵(By みてみん)

『魔法を使っちゃ駄目なの?』 


 肩に乗った手のひらサイズの小熊のグリンに小夏が尋ねた。


『だーめ!勝負を決めるのは魔法の力だけじゃないんだ。瞬間的な判断力や機転、他にも動物的勘や忍耐力。まだまだ魔法以外に学ばなければならないことが一杯あるんだよ』 


『うーん。アタシは難しいことは分からないけど……』 


 そう言って小夏は苦笑いを浮かべた。『難しいことは分からない』と言う小夏の言葉に画面の前に居る誠に向けてカウラが大きくうなずいていた。


『つまり私達自身が強くならなきゃ駄目ってことね』 


『そう言うこと。それにこの森の波動は僕が居た魔法の森の波動と似ているんだ。きっと修行には最適の場所だよ!』 


 そう言いながら二人は山道を進んだ。そして画面が切り替わり、夜中だと言うのにサングラスをかけた大男が映し出された。その唐突な登場に誠は驚かされると同時に、こんなことにまでランやアメリアの我儘に突き合せれる大男の正体に同情した。


「あ、明石中佐ですね。あの人来てるんですか?もしかしてアメリアさんがこの役の為だけに本局から呼び出したんですか?迷惑な話だなあ……まあ、どうせ婚約中の明石中佐の弱みをアメリアさんが握って脅して連れてきたんでしょうけど……アメリアさんならそれくらいのことはやりかねないし、人が良い明石中佐なら断れないのは間違いないのは分かるんですけど」 


 蛍光オレンジのベストに手に猟銃を持った明石清海中佐の姿がアップで映った。


「さすがのアメリアも本局から呼び出すような無謀はしない。何でも管理部の提出資料の確認に来たらしいんだがアメリアに捕まってな……まあ、弱みを握っているのは事実らしい。ただそちらの主犯は西園寺だ。アイツは来期の野球部のレギュラーメンバー不在の際の正捕手としてなんとしても明石中佐を確保したいらしい。どちらにしろ神前が言う通り明石中佐にとって迷惑なことに違いはないがな」 


 カウラの言葉に納得しながら誠は画面の中の明石を見ていた。


『この気配……』 


 そう明石が言うとすぐに画面は広場に出た小夏とサラのアップにさし代わった。


『じゃあいいかい。まず目を閉じてごらん』 


 グリンの言葉で小夏とサラは目を閉じた。小夏の視界のイメージ。真っ暗な世界。


『君達には見えるはずだよ、この森の姿が。そして生き物達の波動が!』 


 その言葉が終わると小夏の視界を表現していた真っ暗な画面が白く光り始めた。光の渦は木の形、草の形、鳥の形、獣達の形。さまざまに変化を遂げながら中心で微笑む全裸の小夏の心のイメージを取り巻くように流れていった。


『余計なものが削ぎ落ちた、心の姿……そう!そうすれば分かるはずだよ。そしてそうすれば生き物達の力が君達に注がれるんだ』 


 グリンの言葉とともに小夏の姿はさまざまな森の生き物達に取り巻かれるようにして森の上空へと飛び立っていった。急に暗雲が空に立ち込めた。


『見つけたぞ!熊っころとおまけ共!』 

挿絵(By みてみん)

 突然響いたのはかなめの声だった。現実に引き戻された小夏とサラはもみの木の巨木の上に立つ女性の影に目を向けた。それはランではなく胸の膨らみを強調するような衣装を纏った新たな機械魔女の姿だった。


 木の枝に立って唇を舐め上げるタレ目の女幹部の表情が拡大されていた。他でもないかなめがその役だった。その手に持った鞭の扱い方はまさに現役の『女王様』らしく手慣れたものだった。


「やっぱり鞭ですか、武器は。デザインしておいてなんですが、西園寺さんに鞭は似合いすぎますね。さすが現役の『女王様』。いつもあれでかえでさん達をいたぶっているんですね。僕はかえでさんと違ってマゾじゃないのでぶたれるのは嫌ですが」 


 誠は興奮気味に画面に吸いつけられた。カウラは誠の上昇していくテンションについていけないというように誠の顔を見つめた。


「おい、あいつ嫌だとか言ってた割にはノリが良いな。やっぱり鞭で敵を倒せると言う設定が気に入ってるんだろうな。本当に根っからのサディストなんだな、かなめ坊は。我が姪ながら恐ろしい奴だ」 


 そう言って嵯峨は茶をすすった。春子は空になった嵯峨の湯飲みに緑茶を注ぎながら様子を伺っていた。


「西園寺さんはお祭り好きですからねえ。きっとお祭り気分で演技してるのよ」 


 そう言って春子は微笑んだ。だが、誠は狂気をたたえたタレ目で小夏達を見下ろしているかなめから離れなかった。いつも射撃レンジで銃を取ったときの近づきがたいかなめの姿を髣髴とさせて背筋に寒いものが走った。


『貴様達などメイリーン様の手を煩わせるまでも無い!行くぞ』 


 そう言って鞭を掲げてかなめは飛び降りた。小夏とサラがその鞭に弾き飛ばされた。


『小夏!』 


 何とか鞭をかわしたグリンがバリアのようなものを展開した。その中で小夏は足に怪我を負いながら立ち上がろうとした。


『結界……愚かだな!その程度の魔力でこのキャプテンシルバーの鞭を防ぎきれると思ったのか!』 


 そう言ってキャプテンシルバーことかなめは鞭を振り下ろした。


「こいつ実は好きなんだな。こういうの。そのまま特撮モノのアクションスタントのオーディションにでも出ればいいのに。パチンコの台には特撮物をテーマにしたものもあるからな。その中当たりは大体、敵の女幹部を倒す場面になる。西園寺はその女幹部に最適な雰囲気をしているな。今このタイミングでリーチがかかるのが定番だな、うん」 


 カウラはそう言いながらおはぎを口に運んだ。誠は画面の前で手に汗握って画面に集中しているアンに苦笑いを浮かべながら茶をすすった。


「西園寺さんらしいというか……衣装以外は普通にいつもの西園寺さんしてますね」 


 誠はそう言いながら再び画面に目をやった。


『小夏、サラ!願って!』 


 絶え間なく振り下ろされるキャプテンシルバーの鞭を受けながらグリンは必死になって叫んだ。


『何を願うのよ!小夏。逃げましょうよ!』 


 サラがそう言ってよろよろと立って、鞭を振るうキャプテンシルバーをにらみつけている小夏の手をとった。


『逃げないよ、私は!』 


 そう言うと手を天にかざした。彼女の手が輝き魔法の杖が現れる。高らかなファンファーレと共に小夏の体が光りだした。


『森の精霊、生き物の息吹。私に……力を!』 


 その叫び声と共に小夏の全身が光り始めた。そのまま来ていたTシャツが消え去り、素肌を晒した小夏が画面の中でくるくると回った。


「あのさあ、神前。なんでこういう時ってくるくる回るの?俺んちテレビは電気止められてるから見れないんだけど、茜の部下のラーナがこういうのが好きでアイツの寮にテレビを見るために出かけていくと時々やっててずっと不思議だったんだ」 


 嵯峨が誠の耳元でささやいた。驚いて飛びのいた誠は珍しく純粋に疑問を持っている顔をしている嵯峨を見つめた。そして嵯峨がボロアパートの電気を止められているからと言って色々理屈をつけて娘で頭の上がらない茜の家ではなくラーナの家に上がり込んでテレビを見せてもらうということ自体に既に情けなさを感じていた。


「そのー、まあお約束と言うか、視聴者サービスと言うか……」 


 かなめと同じ質問をしてくると言うことはやはり嵯峨も甲武育ちなんだと誠はしみじみと感じていた。


「なるほどねえ……これがサービスになるんだ。俺も会議の際にはくるくる回れば上の覚えもめでたくなるかね?神前みたいなやつが喜ぶんだろ?400年間アニメの流行がほとんど変わってないこの東和ならその時には魔法少女アニメ好きだったお偉いさんもいると思うんだ。そうすればきっと俺のことを魔法少女だと勘違いしてくれるに違いない。実際、俺は魔法によく似た法術を使えるから説得力は十分だし」 


 そう言って嵯峨は口の中の餡の甘みを消そうと茶を啜ってそのままぐちゅぐちゅと口をすすいだ。


「隊長……下品なことは止めてくださいよ」 


 カウラはそう言いながら苦笑した。


「すいません。根が下品なもので」 


 謝る嵯峨。彼を見て春子は自然と微笑んでいた。画面の中ではかなめの鞭に次々とシールドのようなものを展開して攻撃を防ぎ続ける小夏の姿があった。


『小夏!守ってばかりじゃ勝てないわよ!』 


『お姉ちゃん!そんなこと言っても!』 


 いつの間にか変身した姿で手に鎌を持ってサラは宙に浮いた。質問したいことがいくらでもあると言うような顔で誠を見つめているカウラにどう説明したら良いかを考えながら画面に目を移した。


 そこには火炎の玉を目の前に展開する小夏の姿が写っていた。


『森、木々、命のすべて!私に力を貸して!』 


 そう叫ぶと小夏が杖を振り下ろした。小夏の杖から何度か変則的に曲がって飛ぶ火の玉が放たれた。そしてその周囲の空間がそれ自体が燃えているように画面を赤く染めた。


『なんだと!これは……うわー!』 


 そう叫んでキャプテンシルバーことかなめはその火炎を受け止めるべく鞭を握って結界を張るが、勢いに負けて吹き飛ばされて崖へ追い詰められた。


『こんな……こんな筈では……私ともあろうものが……』 


 あちこちコスチュームがちぎれて非常に際どい子供には見せられないような姿を晒した。それにあわせて画面に夢中のアンはさらに近づいた。


『私が……負ける……?そんなことは有ってはならない!有ってはならないんだ!』 


 アップにされたかなめの姿を良く見ると腕やふくらはぎから機械の様な色を放つ内部構造が見えた。


『そこまでだ!機械帝国の手先め!』 


 突然かなめのわき腹のむき出しの機械の部分に明石が猟銃を突きつけた。あまりに唐突な登場に誠は目を覆った。


「これもアメリアの狙いか?」 


 再び口におはぎを持っていきながら嵯峨が誠に尋ねてきた。誠はさすがにこの展開はないだろうと思ってただ苦笑いを浮かべるだけだった。そんな状況を知らないだろうかなめことキャプテンシルバーは静かに手にしていた鞭を投げ捨てた。


『おじさん!危ないよ!その人から離れて!』 


 そこに小夏が現れた。彼女がかなめに止めを刺そうとしていると思ってかえでとリンは手を握り締めて画面を見つめた。


『安心しろ!機械帝国の手先程度に怯む私では無い!それとこいつはこの世界を崩壊に導く機械だ!今すぐ壊してしまわなければこの世界もいずれコイツの手先に征服されてしまう!』 


 そう言って明石は猟銃の引き金に指をかけた。だが、小夏から放たれた小さな火の玉に銃を取り落とした。


『キャプテンシルバー。本当にそれで良いの?世界を機械で埋め尽くして……それが願いなの?』 


 歩み寄る小夏にキャプテンシルバーは再び鞭を取ろうと立ち上がろうとするが、腕や足から機械音がするばかりで体を動かせずにいた。


『小夏!近づいたら!』 


 サラの制止を無視して歩いていく小夏。かなめの腕や足から煙が上がった。


『大丈夫、あなたを壊したりしないわ』 


 そう言うと小夏の両手に暖かいクリーム色の球体が浮かんだ。それはゆらゆらとゆれて要の壊れた体を修復していった。


「便利だねえ。俺も魔法を使えないかな?法術はこんなに都合よく発動してはくれないからな。折角の力があっても不便なだけだよ。まあ、ラン並みの使い手だとあのくらいの事は出来るかもしれないがね」 


 そう言いながら嵯峨は明らかに無理をしておはぎを口にねじりこんだ。

挿絵(By みてみん)

『情けを……貴様……敵に情けをかけたつもりか?』 


 キャプテンシルバーは悔しそうに唇を噛んだ。なぜか出てきた猟師っぽい明石が再び銃を手にしてキャプテンシルバーに向けた。


『この借りはいつか返すぞ!』 


 そう言ってかなめ演じるキャプテンシルバーは消えた。そのまま森に残された小夏と明石は顔を見合わせていた。



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