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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と魔法少女  作者: 橋本 直
第十四章 『特殊な部隊』の暴走

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第50話 おはぎの前では策士も崩れる

 誠は、わざと肩に乗せられた女性の手を知らないふりをしている嵯峨に目を向けた。


「隊長、女将さんですよ。まあ、隊長はいつもクバルカ中佐があそこでは隊でもいくら飲んでも全部クバルカ中佐が払うってことになってますから来ること自体には問題ないんですけど……よく、女将さんもこんな映画に協力する気になりましたね?」


 詰め所の入口に立っていたのは、焼鳥屋『月島屋』の女将・家村春子だった。


 生活費月3万円の嵯峨は金欠を理由に最近店に顔を出せていない。だからこそ、春子がここまで来たのが意外だった 


「隊長、何度も言いますけど……女将さんが来てますよ。滅多に店に顔を出さない隊長あてに女将さんが来るなんてまったく隊長も隅に置けないですね!」 


 誠の声にすぐに嵯峨はその完全に作り切った表情でいじけたらしく振り向いたがそのよれよれの制服がすべてを台無しにしていた。そこには司法局実働部隊のたまり場、『月島屋』の女将の家村春子が立っていた。嵯峨はそれを見ると皺だらけの制服を手で伸ばして緩んだネクタイを締めなおし、髪を手で整える。その姿があまりにこっけいに見えて誠は笑いそうになった。自他ともに認める熟女マニアで40代から50代の体形の崩れていない美女にしか興味が無いと公言している嵯峨だが、40手前の春子の前ではそれなりの男であろうとする姿が誠にはあまりに滑稽に見えた。


 一方、誠の誘惑を諦めて画面に夢中なアンは嵯峨の一連の女ったらしを絵に描いたような行動には気づいていなかった。

挿絵(By みてみん)

「ごめんね、新さん。でも、本当に私が来ても良かったのかしら……一応部外者でしょ?小夏は魔法少女が出来るのがクバルカ中佐以外居ないからと言う理由で分かるんですけど。いつもお世話になってる私なんかが出ちゃって本当によろしいのかしら?」


 春子は戸惑った様子で周りを見回すが、いかにも客商売に慣れた春子のしぐさに誠も安堵の笑みを浮かべていた。


「確かに変な格好をさせられるのは少し恥ずかしいけど……新さんの顔を潰すわけにはいかないわよね……何せあれだけお世話になった新さんの顔を潰すような真似は私には出来ないし」 


 そう言いながら小夏の母である家村春子は手にした重箱を空席のランの席に置いた。


「ああ、春子さんならいつでも歓迎ですよ、特に俺が。それといつまでも新さんはやめてください。その名前で呼ばれると、義姉(ねえ)の顔が浮かぶんで。あの鬼に会うたびにぶちのめされて俺の策士としての未熟さを思い知らされる気分がしてうんざりするんですよ。それで……春子さんが手に持っているそれはなんです?」 


 嵯峨の前に置かれた重箱を春子は包んでいた風呂敷を開いていった。その藍染の留袖を動かす姿は誠には母親の薫のその姿を思い出させた。春子のそういう所作には、薫とは違うはずなのに、どこか家の匂いを思い出させるものがあった。


「いえね、手ぶらで来るのもなんだと思って……おはぎですわ。この頃寒いでしょ?前の吉原(きちはら)でそっち系のお店の女の子相手のお店をしてた時もその子がセクシービデオの女優にスカウトされた時にご苦労様ってことで撮影現場に行ってあげてそこでこれを配るとスタッフの人達とか結構喜んでくれたのよ。それにここの人はたくさんいるから新さんの為にたくさん作ったんです。さすがに整備の人とかの分には足りないかもしれないけど……若いからみんなたくさん食べるでしょうから」 


 春子は和服の襟を整えながらおくれ毛に軽く手をやるとそう言った。


「ああ、大歓迎ですよ。やっぱり春子さんもアメリアの奴に呼ばれたんですか?あの馬鹿、いったいどこまであの店に迷惑を掛ければ気が済むのやら。後で俺が強く言っておきます。任せてください」 


 そう言うといつもの死んだ目と違う生き生きとした表情を浮かべた嵯峨はそのまま春子の持っている大きな包みに手を伸ばした。春子が風呂敷をほどいて重箱の蓋を開くとこし餡と粒餡の二色に分けられたおはぎが顔をのぞかせた。


 重箱の蓋が開くと、甘い小豆の匂いが、油と機械の匂いの残る詰め所にふわりと広がった。


 嵯峨は迷うことなく粒餡を選んで掴むとスルメを噛んだまま、粒餡のおはぎを口に放り込んだ。飲み込むまでの一瞬だけ、嵯峨の顔からいつもの余裕が消えた。


「ええ、でも自主映画なんてなんだか学生時代みたいでわくわくしますわね。私は高校中退なんで、自主映画なんて出たこともないんですよ。アメリアさんが期待しているような演技なんてできないですよ……それでも良いのかしら?」 


 笑顔を浮かべながらおはぎを食べ始める嵯峨を春子は見やった。部隊のたまり場である『月島屋』では見られない浮かれたような春子に誠は少し心が動いた。

挿絵(By みてみん)

「ああ、誠君もアン君もどうぞ。アメリアさんのところにはもう持って行きましたからここにある分全部召し上がっていただいても結構なんですよ。さあ、遠慮なさらずに」 


 そんな春子の言葉にそれまで画面に張り付いていたアンが重箱に目を向けた。


「これが有名なおはぎですか。僕の国には無かったので……初めて食べます。黒くて不思議な形をしていますね」


 アンは珍しそうに初めて見るおはぎを手に取ると恐る恐る口に運ぼうとした。


「そうか、おはぎを食べるのは初めてなんだ。考えてみればクンサは公用語は日本語だけど日本文化圏じゃないから当然だよね。甘くておいしいよ」 


 誠はおはぎに手を伸ばした。アンは初めてのおはぎに恐る恐る手を伸ばして、誠の様子を見守りながら口に運んだ。


 ランの払いで隊員たちがよく飲み食いする焼鳥屋『月島屋』は、隊の胃袋を支える店で、春子はいつの間にか『みんなのお袋さん』になっていた。


「神前君もアン君もおいしい?アン君はアメリアさんがうちに自慢の女子高生にも負けない『男の娘』が来たからって写真を見せてもらったけど……本当にかわいいのね。私も吉原が長かったけどそう言うお店ならすぐにナンバーワンになれるぐらいのかわいさよね。見ててうっとりするくらい……ああ、あくまでアン君は武装警察官なんだものね。そんな私の居た業界に引き込むなんて……まだ私もあの頃の気質が抜けてないのかしら……」 


 笑いかける春子に誠は頭を掻きながら重箱の中を覗いた。どれもたっぷりの餡をまとった見事なおはぎで自然と誠の手はおはぎに伸びた。


「そうだ、お茶があると良いな。神前、アン。お前さん達も食べることだけじゃなくってもっと気を利かせたらどうなんだ?それじゃあいつまでたっても下士官どまりだぞ!お前さん達に残業手当が出るってことはそのくらいは気を使って動いてもそれが仕事だってことだ。俺みたいに士官になるとそれも出ない。出世するなんてつまらないことだけど、軍や警察は出世しない限り人間扱いされない世界なんだ。可愛けりゃすぐに金になる風俗やセクシービデオの世界とは違うんだよ」 


 二つ目のおはぎに手を伸ばそうとして嵯峨は不意に手を止めた。


「そうね、お茶が有るといいわね。いいわ、二人ともゆっくりしてていいわよ。私が好きで持って来たおはぎだもの。誠君。給湯室ってどこかしら?」 


 春子は軽く袖をまくるといつもの包み込むようなやわらかい視線で誠を見つめた。


「ああ、神前先輩。僕が案内してきますから!女将さん!こちらです!」 


 そう言って伸びをするとアンは自分より背の高い春子に向き直った。


「アン!春子さんに失礼の無いようにな!」


 嵯峨はアンの背中に向けていつもには無い安心しきった表情でそう言った。 


「本当にごめんなさいね。それじゃあ新さん、また」 


 春子はそう言ってアンに案内されて消えていった。


「隊長、無理しなくても良いですよ。隊長は生八つ橋以外の甘いものは食べられないのは僕も知ってるんですから……たぶん女将さんも知ってますよ、そのこと。そんなにまでして女将さんと仲良くなりたいんですか?隊長は40過ぎて初めて女はその本質が分かると常々言ってるじゃないですか?春子さんまだそんな年じゃないですよ?それともその年まで待つつもりですか?確かに隊長は不老不死だからそれまで待つというのならそれはそれで勝手ですけど」 


 三つ目のおはぎに手を伸ばそうとする嵯峨に誠が声をかけた。辛党で酒はいけても甘いものはからっきし駄目な嵯峨が安心したように手に付いたあんこをちかくのティッシュでぬぐった。


「おい、出てったのは……女将さんか?」 


 春子達と入れ違いに戻ってきたかなめが嵯峨の姿を見つけるとニヤニヤ笑いながら叔父である嵯峨に歩み寄っていった。


「おう、叔父貴も隅に置けねえな!あの『特殊な部隊』の男子隊員全員のお袋さんである女将さんにいつでも手を出してもいいよ認定されているなんて……どうせそのことで調子に乗っておはぎ食いすぎたんだろ?食いつけねえもの食うと腹壊すぞ。月3万円の小遣いで胃薬買ったらすぐ破産するんじゃねえか?」 


 かなめのタレ目の先、嵯峨の顔色は誠から見ても明らかに青ざめていた。


「隊長……無理しなくても……女将さんも分かってくれますって。たぶん隊長の為だけにこれを作ったわけじゃないと思いますよ……それにしても多いですね……少し多すぎるような気がしないでもないですけど」 

挿絵(By みてみん)

 そう言いながら甘いものに抵抗の無い大食漢の誠は笑顔のまま三つ目のおはぎを口に運んだ。


「で、どこまで進んだかな?」 


 そう言いながらかなめは誠の端末の画面に映し出されているリンとランの罵り合いに目を向けた。


 ほぼ18禁レベルの水着に近い鎧姿のリンと典型的な魔法少女のなかでも見た目通り少女と言うより『幼女』に近い姿のリンとランが相変わらず不毛な言い争いを続けていた。恐らくアメリアが先ほどのかえでの無理やりアドリブでポルノ展開に持って行こうとする時はストップをかけたのに、この子供の喧嘩レベルの幼稚な言い争いを止めないのはリンが性的知識ゼロのランに配慮して危ない発言をしないので、ほとんど幼女同士の口げんかみたいになっているになっている絵が後でランをからかう時に使えると踏んでいるからだろうということが誠にも分かった。


「あ、まだこの罵りあいの場面が続いてるんですか……ってこんなに長くやる必要あるんですか?確かに発言内容は放送可能なレベルですが『馬鹿』とか『ちび』とか気にする人は気にしますよ?それに時々明らかにお互い以外の隊の別の隊員の悪口も入ってますよね?さっきリンさんが言った『ガンマニア』と言う罵声は西園寺さんに向けたものですし、クバルカ中佐の『掃除もできねーのか』っていうのも主に西園寺さんに向けてのもの……と言うかさっきからこの二人お互いを罵りあうように装いながら少しづつ西園寺さんの個人情報を晒しているように聞こえてきたんですけど……気のせいでしょうか?」 


 誠は未だに同じ場面が続いているのとその二人のその場にいないいつも自分に迷惑をかけて来るかなめを陥れるためのうっぷん晴らしの場面だと誠は理解した。


 かなめは次第に苛立ったように画面を今にも銃を抜きそうな形相でにらみつけながら激しく人差し指で机を叩きながら黙り込んでいた。


 悪口を言うのがリンとかえでならばかなめはそのまま飛び出してすぐにでも制裁を加えに行くことだろう。ただ、その一人がかなめが絶対に頭が上がらないランである時点でかなめには何もできなかった。


 そんなリンとランはあらん限りの低次元の罵声にかなめの悪口を混ぜるという珍妙な言い争いの構図を画面いっぱいに繰り広げていた。


『このちび!餓鬼!単細胞!義理と人情の二ビットコンピュータ!やくざ!任侠崩れ!人殺し!それと射殺魔の上司!』 


『オメーだってただの機械人間じゃねーかよ!この変態!露出狂!食糞家!あと主君の姉の浪費癖をなんとかしろ!』 


 その会話は、完全に現実での立場を持ち込んだ個人攻撃に、かなめへの悪口を混ぜる奇妙な言葉遊びへと変わりつつあった。それはただの子供の喧嘩のようでありながら要するに二人にとってかなめはいじりがいのあるおもちゃなのだと誠には見えた。

挿絵(By みてみん)

「おい、こんなの部外者に見せる気か?うちの恥を世間様に晒してどうするんだ?アタシ達まで恥をかくことになるじゃねえか。特に食糞家はやりすぎだろ……まあアタシも食わせた事が有るから人のこと言えねえんだけどな。それと時々どう聞いてもアタシの悪口を二人が言っているように聞こえるのは気のせいか?気のせいだよな?」 


 画面を指差しながらかなめは怒りに打ち震えながら誠に尋ねてきた。怒りをぶつけに撮影現場に行けばランに返り討ちにされた上に後で査定で最悪また中尉に降格と言う運命がかなめを待ち受けている以上、八つ当たりの丁度いい相手である誠が手じかに居る状況はかなめにとっては悪くない状況だったが、誠にとっては最悪だった。


「いや、たぶんアドリブでどちらか本音を言っちゃって、それでエキサイトしてこうなったんじゃないですか?それにたぶん上映に耐えない部分は編集して使うんだと思いますよ。アメリアさんの事だからより迫力のある画が欲しいとか言ってるんでしょ?それとたぶんこれは後で二人の弱みとしてアメリアさんが自分の我儘を通す時の為に利用するために撮ってるんだと思いますよ?さすがのアメリアさんもこれを上映するつもりは無いでしょ?それと二人が時々相手の悪口では無い言葉を言うのはたぶんそう言う言葉が思いつかなかったんですよ!」 


 誠はこの状況下で監督のアメリアがストップをかけないのは半分以上はリンとランの本音を聞き出して後でそのことを利用して何か企んでいるんだろうと考えていた。


 アメリアならばかえでの暴走を予想したかなめがこの場面をなにがしかの手段で監視しようとするに違いないと読んでわざとこの展開を放置している可能性がある。誠はここでアメリアの恐ろしさも同時に思い知らされることになった。


「それを止めねえとは……アメリアの奴。アイツも一緒になって面白がってやがるな。アイツは面白ければすべてよしだからな。うちの恥くらいなんともねえんだろうよ……神前、ちょっと殴らせろ。なんかこの二人の会話にアタシの悪口が混じっているように聞こえて仕方ねえんだ。殴らせろ。その分そこにあるアタシのおはぎも食って良いから」 


 かなめは時々見せる悪い笑みを浮かべて誠に顔を近づけてきた。誠は思わず立ち上がって飛び退く。


「そんな無茶な理屈は無いですよ!文句があるなら渡辺大尉とクバルカ中佐に直接言ってくださいよ!それとおはぎはこんなにあるし、西園寺さんは甘いものは絶対食べないから僕がおはぎを食べても何の得にもならないじゃないですか!」


 誠は論理の破綻しているかなめの提案からなんとか逃げようと立ち上がって右手の拳を握りしめるかなめから距離を取った。


『カットー!二人ともこれは口げんかの企画じゃ無いですよ!』 


 さすがに方向性がずれてきたことに気づいたアメリアが止めにかかった。


「なんだよ、アメリア。ここで止めるんならさっさと止めろよ。それと今止めたら神前を殴る口実が無くなっちまうじゃねえか。それにしてもこんなもんを市役所の担当者に見せるのか?連中これを見てどんな反応すると思う?一部、うちの内情を知らねえと理解できねえ台詞が混じってたぞ。まあ、うちわネタで盛り上がる馬鹿と市役所の担当者が判断してくれれば次回の映画の話は無しになる。そうすればこんな面倒なことも豊川市役所も頼んでこなくなるのによう。アタシも来年もこんな面倒を押し付けられるのは御免だ。アメリアが全部ぶち壊してくれりゃあそれで良い」 


 そう言いながらかなめは気が済んだようにそのまま静かに大きく息をした。


 誠はかなめが誠を殴ることは止めたと判断して席に戻ると二つ目のおはぎを口に放り込んだ。


 画面の向こう側は打ち合わせに入ったようですぐに画面が闇に閉ざされた。


 端末からは何か争うような声が途切れ途切れに聞こえてきた。それがランとリンが口喧嘩だけでなく実力行使に移ろうとしているらしく、それを新藤とアメリアがなだめているものだとわかると誠も大きなため息をついた。


『ランちゃん、リンちゃん。落ち着いていきましょうね。これは映画だから。演技だから。現実とは関係ないから。確かにかなめちゃんの意外な一面が分かったのは私としてはおいしかったけど。それじゃあEの23番……スタート!』 


 ようやく落ち着いたようでアメリアの声がかかった。画面には青空が広がる町の公園の街灯の上に立ったランがゆっくりと顔を上げて微笑む光景が映された。

挿絵(By みてみん)

『これは……久々に暴れられそうだな』 


 そしてにんまりと笑うランにかなめが目を向けた。その目に光る殺意に満ちた爛々と光る瞳は見ていた誠も恐怖を覚えるほどのものだった。ランが言う50万人を槍で突き殺したという話もその眼力を見れば誠にも納得できるほどの迫力だった。


「怖えなこりゃ。ちびも拡大すると凄いことになるじゃねえか。この調子で遼南内戦でも大虐殺をやってのけたのか……姐御が得物の『方天画戟』で直接殺した数は50万人だって自分で言ってたが……確かにそんくらいの人間を殺してそうな顔だな。50万人の市民を平然と殺して回った本物の『真紅の粛清者』の迫力は実際に人殺しをしたことのねえ役者にゃ無理だな……アタシも同じ人殺しとしてこのくらいの演技をアメリアは求めてるわけか……アタシに出来っかなあ……」 


 かなめはおはぎに手に取ると誠に差し出してきた。


 誠はいかにも不器用なかなめらしい誠へのわびのつもりらしいおはぎを受け取ると二つ目のおはぎを飲み下した。


 そこでいつも通りアメリアに良いように使われている連絡係のパーラが部屋に入ってきた。


「はい、西園寺さん。出番よ……隊長?おはぎ食べてるんですか?隊長は生八つ橋以外の甘いものは食べられないって日頃から言ってるじゃないですか?大丈夫ですか?顔色悪いですよ」


 パーラは持ち前の心配性を発揮して、誠とかなめの騒動を黙って青ざめた表情で見つめながら口の中に残る甘さの不快感に耐えている嵯峨に声をかけた。 


「春子さんが作ったものだと思えばこれくらい平気だよ。それとなんか俺がここに居るとまずいことあるの?まだお茶、入れてもらってないだろ。かなめ坊も春子さんのお茶くらい飲んでいけばいいのに」 


 パーラの甘いものは食べないと公言している嵯峨がおはぎを食べたらしい様子を見る姿は不思議な生き物を見るような目をしていた。


「いいえそう言うわけでなく……餡が口についてますけど……大丈夫ですか?胃薬ならひよこちゃんに頼めば医務室に有ると思うんですけど」


 心配そうに嵯峨にそんなことをパーラが言うのは彼女が『特殊な部隊』の女子では珍しい常識人だからだと誠は思った。カウラ当たりなら自業自得だと黙って自分の業務に集中している事だろう。 


「本当?春子さんの前ではそれはちょっと恥ずかしいな。胃薬の方は大丈夫だ。日頃月3万円生活をしているからたまには糖分を取らないと当分が不足するからちょうどいいんだ」 


 パーラに言われて嵯峨は給湯室に行っている春子を意識して手で口を拭った。


「叔父貴の馬鹿が色気づきやがって。パーラ、分かったよ。出番ねえ……」


 かなめは明らかに気乗りしないと言うように立ち上がった。 


「ごめんなさいね!ああ、西園寺さんは出番なんですってね!頑張ってね!」 


 かなめが立ち上がろうとするとお盆を持った春子が現れた。


「しゃあねえなあ……行ってくるか!」


 春子にまで念を押されるとパーラの言葉なら無視するのがいつものことのかなめでも心を決めざるを得なかった。


 そんなかなめの視線の先では春子の手伝いをしていたアンが入ってきた。その手にはポットが握られていた。



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