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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と魔法少女  作者: 橋本 直
第十四章 『特殊な部隊』の暴走

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第47話 戦争映画脳と魔法少女

 それから三十分間の時間が過ぎた。端末のファンの音とキーボードの打鍵音だけが続く、妙に平穏な時間だった。


 誠はかなめの助言通り今はフリーパスでパスワードなしで閲覧可能な同盟厚生局の極秘資料を参考に茜から頼まれた法術犯罪のプロファイリングの作業を続けていた。カウラはいつも通り勤務時間中はとりあえず備え付けの端末の画面の前に黙って座っている。ただ、誠が時々ちらりと見るとそれが最近ネットで通販のポイントが稼げるかなり違法スレスレのパチンコアプリであることはいつものことなので黙っていた。


 そんな中、急にかなめが立ち上がり、髪を掻きむしって誠をにらみつけた。

挿絵(By みてみん)

「うわー!退屈だー!退屈だ!神前、首絞めさせろ!かえでというアタシの趣味に合わせた責めを求めて来るマゾがいねえと刺激が足りねえ!神前!オメエで良い!ちょっと首ぐらい絞めさせろ!」


 誠もかなめが時々こう言って叫んで暴れまわるのは聞いてはいたが、その実物を目撃するのは初めての経験だった。これがいわゆる『いつものかなめ』であることは間違いないらしく、カウラは目の前の12連荘を続けるパチンコアプリの画面から視線を一切外そうとしていない。


「午前中に銃の整備は終わっちまった!菰田の野郎はターゲットを買う予算がねえからアタシが自前で弾は用意するからと言っても射撃訓練すらさせてくれねえ!アタシは武装警察の隊員だぞ!それが常に戦闘に備えて何が悪い!だからオメエを虐めることでアタシはその鬱憤を晴らす!アタシはプロの『女王様』だからタダで調教してやる!感謝しろ!」


 かなめは誠に向けて相変わらず無茶な要求を突き付けてきた。


「僕はかえでさんみたいにマゾじゃありません!それにその理屈そもそもおかしくないですか?なぜ僕が虐められて喜ぶかえでさんやリンさんのような性格であることを前提にして西園寺さんは話をしているんですか?僕をマゾ認定するのは止めてください!西園寺さんのお店に通ってた高給取りのマゾのおじさんとは僕は違います!」 


 そんな誠の言い訳を全く聞かないかなめは、立ち上がると誠の反論などまるで無視してそのまま誠の後ろに回りこみ首に腕を回し込んで極めた。意外にも事務仕事の得意なかなめが手持ち無沙汰なのは分かるが、急にそんなことをされて誠はじたばたと暴れるしかなかった。


「なに!なにすんですか!離してくださいよ!死んだらどうするつもりです!いくらマゾのかえでさんの『許婚』だからって僕までマゾにしないでください!離してくださいよ!本当に死んじゃいますよ!これ完全にパワハラですよ!パワハラはその権化のクバルカ中佐が居るんですからこれ以上の暴力はただの犯罪ですよ!」 


 誠は冗談とは言えサイボーグの怪力で首の頸動脈を圧迫されて失神しそうになりながらそう叫んだ。

挿絵(By みてみん)

「つまんねえ!つまんねえよ!ああ、かえでが居なかった頃は退屈しのぎは銃で済んでたが、アイツが来てから虐められて喜ぶマゾを見るとゾクゾクして興奮が止まらなくなる『女王様』としての本能が目覚めちまったんだ!」


 相変わらず暴走を続けるかなめに誠はその内容のあまりの酷さに抵抗する気分にすらならなくなっていた。その間もカウラはもうすでに20連荘を達成していた。


「今でもアタシの端末に『虐めてくれ』と懇願してくれる一流企業の役員共や実業家が何人もいるんだぞ?神前もそんな男の前でボンテージ姿でアタシを仁王立ちさせるような恥ずかしい思いをさせたくねえだろ?オメエがアタシに気があるのは分かってるんだ!アタシで童貞を喪失したいという願いはその顔を見ればアタシにも分かる!そんなオメエの望みをかなえるためにも……神前!なんとかしろ!」 


 叫ぶかなめを背に感じながらカウラに目をやるが、明らかに面倒以外の何者でもないかなめを押し付けられるのを恐れて視線を合わせようとしてくれない。かなめが意味不明なことを叫んで暴れまわるのは誠が『特殊な部隊』に着任する前から日常茶飯事だったということは先輩の島田から聞いていたのでかなめの横柄な態度を誠に取ることなどはカウラにとっては別に珍しいことではないのだろう。


「そんなにすることが無いのならアメリアさん達のところに行けば良いじゃないですか!いくら虐めてもただ喜んでくれるかえでさんもあっちに居ますよ?僕はマゾじゃないから虐められるのは好きじゃありません!それと茜さんから頼まれた仕事はまだまだあるんでそちらをしないといけないんで!」 


 誠がそういうとかなめは気が付いたように誠から手を離した。


「そうか、あっちを見られるようにすればいいんだな?じゃあちょっと待てよ……どうせ自分の天職はポルノ女優でこの国には規制があって自慢の自分の大事な部分にモザイクがかかるのが嫌だから都内に出かけるたびにセクシー女優のスカウトに引っかかってもそれを理由に断ってるアイツがどんな馬鹿な行動をしているかしっかり見てやろう。そしてそのことをネタに散々アイツに言葉責めをしてやる参考にすることにする!」 


 そういうとかなめは首の根元からコードを取り出して誠の端末に差し込んだ。誠の端末の画面が報告書から見慣れない画面に切り替わった。


「あっ!報告書消えちゃいましたよ!どうしてくれるんですか!自動保存が……頼むから生きててくれ……!西園寺さん!僕が何をしていたか見てなかったんですか!僕は仕事をしていたんですよ!なんで西園寺さんの端末でそれをやらないんですか!これもまた西園寺さんが『女王様』だから僕を虐めて良いと認識しているってことなんですか?正直迷惑ですよ!」 


 かなめの乱暴な操作で真っ白になった画面を見て誠はあっけにとられていた。


「ああ、後でアタシがやってやるよ……アタシはサイボーグだ。あんなもんの照合なんて、オメエが三日かかる分でも十分で終わらせてやる。……東和のシステムは面倒だがな。何でも『アナログ式量子コンピュータ』に合わせてアナログ式にするもんだから甲武のデジタル式のシステムの変換に時間がかかるんだ。その間は待ってるだけだから安心しろ。オメエの撮影の時間で終わる……」 


 何度かかなめが瞬きする間にすさまじい勢いで画面が転換されていった。


「これで……行けるはず!」 


 そんな掛け声をかけたかなめの前にカウラの顔があった。


「映ったぞ。さすが西園寺はこういう仕事は早いんだな」


 カウラが珍しくかなめを褒めたその視線の前には子犬ほどの大きさのどう見ても熊と思われる動物が映っていた。


 モニターに大きく映されるのは小熊のマスコットである。当然デザインしたのは誠だった。


『すみません!本当に僕こんなことに巻き込んでしまって……』 


 どうやらアンの声をサンプリングしたと思われる少年の声で話す小熊が画面の中で小夏に謝っていた。アメリアもなんやかんや言いながらアンには気を使っていると感じて少し安心した。


 ただ、その周りに広がる光景は魔法少女物語の展開としてはかなり斜め上を行っていた。


 周りの電柱は倒れ、木々は裂け、家は倒壊した惨状。どう見ても常識的な魔法少女の戦いのそれとは桁違いの破壊が行われたことを示していた。割れた窓ガラスが日差しを鈍く返し、吹き飛んだ塀の向こうに黒く焦げた土が見えていた。

挿絵(By みてみん)

「おい、なんでこうなったんだ?魔法少女ってこんな過激な始まり方をする物語ばかりなのか?アタシはアニメはあんまり見た事ねえから知らねえけど……下手な戦争映画より燃える映画じゃねえか?当然民間人を無差別に射殺したり上官を撃ち殺す話も出て来るんだろうな?そうじゃねえとアタシは満足しねえぞ!」 


 あまりアニメを見ないかなめが尋ねてくる。かなめは完全に戦争映画と魔法少女アニメを同列に語っていることに誠はため息をついた。甲武にはテレビは無いのでアニメと言えば映画館で数百年前のアニメ創世記の白黒アニメを見るしかないのは誠も知っていた。ただ、甲武四大公家筆頭ということもあって自分の家には東和製のブラウン管テレビがあり、そこから星間通信の高いネット料金を払って東和の動画サイトで配信している戦争映画をかなめが好んで見ていることは誠も知っていた。


「そんなわけないじゃないですか!なんで魔法少女が無関係な民間人を魔法で吹き飛ばさなきゃいけないんですか!普通の魔法少女モノはまさに少女を対象としていますからそれはそれは平和な導入で明るい物語が展開するはずです!それを……アメリアさんが歪んでるだけですよ!この導入部は!でもまあ、こういう展開の魔法少女モノは無いことは無いですけどね……ただ、魔法少女モノに上官殺しのシーンとかは無いんで。西園寺さんの期待には答えられそうにはありません」


 この荒れ果てた荒野が広がっている画面を見て、誠はアメリアはかなりの『上級者』、いわゆる『マニア』向けにこの作品を作ろうとしていることだけは分かった。


『気にしないで大丈夫だよ!』 


 目の前の惨状を見ても一切気にせず画面の中の小夏はクマのぬいぐるみのようなマスコットキャラクターに向けて能天気にそう言った。

挿絵(By みてみん)

「少しは気にしろ!爆撃でもあったのか?これは戦争モノか?上官は誰だ?即座に殺せよ!それならそれで楽しめるが……というか、アタシとしてはそっちの方が好みだ。甲武でも、東和に来てからも、戦争映画はたくさん見た。甲武の映画館で平民や下級士族相手に作ってる戦争映画は全部軍政策の国策宣伝映画しかねえからな。東和で見られる往年の地球の戦争映画は戦争をリアルに描いてる。これもそういうリアルな戦争映画になるんだな?魔法を使った戦争映画……やっぱりアメリアも戦闘用人造人間『ラスト・バタリオン』なんだな。その本能が目覚めた訳だ。戦争を離れてひと時も生きられない生まれながらの戦闘ジャンキー。なるほど、アイツとアタシの話が合うのもこの絵を見ればなんとなくわかる」 


 小夏の台詞にかなめがツッコんだがそれ以上にかなめの戦闘狂ぶりが明らかになる言葉に誠は頭が痛くなる想いだった。


「上官殺し……良い上官は殺しちゃだめですよ。悪い上官を殺すのはお勧めですが。でも良い上官ほど早く死んでしまうんですよね……』


 誠が思わず生温かい目を彼女に向けるとかなめの後ろには仕事をサボってのぞきに来たアンの姿がそこにあった。


 アンがしんみりと言うその言葉の不穏さに誠は背筋に氷を入れられたような気分になった。


 そんな戦争ジャンキーのかなめとアンはこの映画がそのまま戦争映画になることを希望していたことは明らかだった。


『それより世界の平和がかかっているんでしょ?やるよ!私は』 


 小夏は周囲の被害甚大な状況を無視して明るく叫んだ。


「世界の平和の前にこの状況どうにかしろ!警察を呼べ!いや、軍隊……違うな、うちの出番じゃねえか?こういう時は。うちは軍事警察だからな。05式の出番だぞ!行け!神前!そして悪の根源をすべて破壊しろ!甲一種出動の機会だ!『光の(つるぎ)』の使用もアタシが許すぞ!」 


 そう言ってかなめは手近な誠の頭を叩いた。誠は叩かれたところを抑えながら仕方なく画面を見つめた。かなめはどうやら現実とフィクションの区別があまりつかない人種の人間らしい。誠はその破壊シーンに満面の笑みを浮かべるかなめを見て、そんなことを考えていた。


『ありがとうございます。ですが、僕の与える力は三人分あるんです。だから……』 


 画面の中でアンの声で語る魔法熊の言葉に小夏はにっこりとほほ笑んだ。


『じゃあ……そうだ!隣のおねえちゃんに頼みに行こう!サラお姉ちゃんならきっと君の言うことを聞いて協力してくれるよ!』 


 そう言って小熊を抱えると小夏は走り出した。半分町が焦土と化しあちこちにクレーターのある状況を後ろに見ながら彼女は走り続けた。


「おい!この状況は無視か?いいのか?ほっといて!器物破損どころかこれは騒乱罪クラスの被害だぞ!建物とか倒れてるじゃねえか!下敷きになった人間の救助とかしねえのかよ!魔法少女は正義の味方じゃねえのか?被害者は見捨てるのか?だがそれが良い、アタシの好きなアメリカ軍の暴虐を描いた映画ではアタシの好きなセリフがある『逃げる奴はベトコンだ!逃げない奴は訓練されたベトコンだ!』ってな!戦争は何をやってもOKなんだ!壊せ!破壊しろ!これはフィクションだろ?だったら好き勝手に暴れろ!」 


 再びかなめの右手が誠の頭に振り下ろされようとするが、察した誠はそれをかわした。かなめの言葉を聞いてかなめにも半分は戦争が大好きな地球人の血が流れているんだということを純血の遼州人で戦争なんかには関わることも嫌いな誠には嫌になるほど理解できた。


 画面の中では走っていく小夏の後姿があった。同時にパトカーのサイレンが響き渡った。その画面を見ながらアンが大きくうなずいてみせた。誠は一体なんで彼がうなずくのか首をひねりながら再び画面に目を移した。


 すぐに計ったように場面が切り替わった。次のカットはやはり誠の実家の一部屋だった。主に剣道の大会で役員の人などを泊めていた客間の一つ。そこに小夏と奇妙な小熊もどきを正座して見つめているのは小夏の家の隣に住んでいる女子大生役のサラだった。


『そうなんだ……大変だったのね、グリン君……』 


 サラはそういうと省略された小熊の説明に納得しているようにうなずいた。


「いや、大変とかそういう問題は良いから。さっきの破壊された町だけでも十分大変なことだから。それとアレはあれで終わりなのか?もっと魔法の威力とか殺戮シーンとかが見たかったのに」 


 魔法少女的な語りのシーンに戻ったことが不満そうにかなめが握りこぶしを振り上げるのを誠は察知してかわしにかかるが、今度はそのままフェイント気味に軌道を変えてこぶしが曲がってきた。そのまま顔面にぶち当たり、誠は椅子ごと後ろに倒れた。


「おう、大丈夫か?」 


 かなめは何事も無かったかのように誠を見下ろす。仕方なく誠は今後は避けないことを決めて立ち上がった。


『分かったわ!お姉ちゃんも助けてあげる!二人でその機械帝国を倒しましょう!』 


 そう言って隣に住んでいる女子大生役のサラが手を差し出した。その上に小夏が、そしてグリンと名乗った小熊が手を重ねた。


「そう言えばさっき三人そろわないといけないとか言っていたような……一人足りなくないか?アメリアの奴、誰かを配役するのを忘れたんじゃないのか?もう一人の魔法少女候補……そう言えばアンの衣装のデザインが無かったな。アメリアの奴、アンを配役しようとして忘れたな……間抜けな奴め」 


 小夏とサラとグリンの会話を聞いてカウラが首をかしげた。


「いえ!こういう展開がいいんです!明らかに最初の設定と矛盾した展開!これぞ上級者向け!どう考えても前後で矛盾している設定!いいなあ、萌えるなあ……」 


 そう言って画面にくっついて見入っている誠にかなめが生暖かい視線を送っていた。このいかにも設定が矛盾しているアニメではよくある展開に今度は戦闘シーンにしか興味のないかなめが冷たい視線を誠に浴びせていた。


『じゃあ行きます!』 


 小熊は立ち上がると回りに魔方陣を展開した。三角の光の頂点にそれぞれ小夏とサラが引き込まれ光に包まれていった。


『念じてください。救いたい世界のことを!思ってください。守りたい人々のことを』 


 そんな小熊の言葉に誘われるようにして画面が光の中で回転する小夏の姿を捉えた。はじけるようにあまりにもお金持ち私立中学生姿だった小夏の服が消えていった。


「あのさあ、神前。なんで魔法少女はいつもこういう時に裸になるんだ?それに服が消えるって……元に戻る時困るだろ?裸だと」 


 画面に集中していた誠の頭を軽く小突きながらかなめが尋ねてきた。しかし誠はかなめのツッコミに一々返事をするのも面倒なので、画面に集中して上の空で頷くだけだった。


『カラード、サラード、イラード……力よ!集え!』 


 小夏は魔法少女のお約束のキラキラ背景の中でくるくる回りながらまるで包み込むような光に包まれていく。光はただ明るいだけではなく、薄い膜のように小夏の体を撫でるように包んでいた。


「呪文か……法術はその点呪文なんていらねえから便利だよな。それより、神前。さっきのアタシの質問を無視しやがったな。生意気に」

挿絵(By みてみん)

 かなめは不満そうに画面を見つめつつそうつぶやいた。小夏の叫び声に誠はさらに画面へ顔を突き出した。そしてさすがに無視するのも限界に来た誠はかなめの質問にはそのままの格好で答えた。


「それは視聴者サービスって言うか……なんとなくかわいらしいと言うか……」 


 これ以上かなめを無視し続けると何をされるか分からないので、誠はかなめに対する恐怖からそう答えた。


「少女の裸が見たいとは……このロリコンめ!オメエはかえでやリンに『裸を見たい』と言えば今すぐにでも見られる境遇だもんな。ただ、その後変態行為の果てにどんなことになるかはアタシにも想像がつかねえが。それとも20代より性犯罪対象になる年齢の裸が見たいのか?それでも警察官か?この変態!」 


 かなめがそう言って誠をはたいた目の前で、今度は白いニーソックスとメタリックな靴が小夏のか細い足を包んだ。


「これは魔法少女モノのお約束なんです!違います!誰が裸を見たいって……!この裸は歌舞伎のミエみたいなものです!伝統芸能です!」


 必死になって誠をロリコン認定して来るかなめへ新分をしている誠を他所に、画面中ではそのまま腰に広がった白い布のようなものは光を振りまきながら小夏の下半身を覆い、赤い飾りの入ったロングスカートに変わった。


「あれ?神前の絵と比べるとかなり飾りが少なくないか?もっと神前の絵だとチャラチャラしか飾りがついてたじゃねえか……アレはどうしたんだ?」 


 そんなかなめの突っ込みを無視して誠は画面をじっと見つめていた。そのまま上半身を光が包むと胸のあたりでリボンのようなものが浮かび、それを中心にぴっちりと体を包むアンダーウェアに小夏が覆われた。そして次の瞬間には目の前に浮かんだ杖を手にした小夏がくるくるとバトンの要領でこれを回すと、清潔感のある白に赤い刺繍に飾られたワンピースをまとってポーズをとっていた。


「いい加減無視すんなよな……このポーズの意味はなんなんだ?こんなポーズの何が楽しいんだ?もっとエロいポーズならかえでじゃなくてもアタシでもしてやってもいいぞ?」 


 かなめの我慢が限界に来たのを察知した誠は仕方なく答えることにした。


「お約束です!昔からそうなってるんです!これは上級者向けも一般少女向けも変わりません!」 


 力強くこぶしを掲げてそう叫ぶ誠にかなめは思わず一歩引いた。続いて画面の中では今度はサラの変身が行われていた。同じように服がはじけて代わりに青を基調としたドレスとカマのような先を持った杖を振ってサラは同じくポーズをとった。


「なんだよ、サラには変身呪文は無しか?アメリアの奴は自分の部下に目立つことをさせたくねえんだな。女の嫉妬は醜いな」 


 カット替わりの度にかなめは一々誠に質問してきた。


「おかしいですね、アメリアさんの台本では変身呪文は二人とも無かったはずですが……」 


 かなめは後でアメリアに何か質問されて答えられないと何をされるか分からないのでアメリアが手渡した台本は細かいところまで読み込んで記憶していた。


「アタシの聞きてえのはそっちじゃねえ!オメエのツッコミどころはわけわかんねえよ!」 


 呆れたようにそういうとかなめも画面を見つめた。魔方陣が消え、それぞれのコスチュームを身にまとった二人がその自分の姿を確認するように見つめていた。


「さあ、戦闘態勢は整ったわけだ……さあ『戦争だ!』」


 かなめのどこまでも魔法少女に戦争をさせたい脳に誠は言葉が無かった。



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