表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と魔法少女  作者: 橋本 直
第十二章 『特殊な部隊』と誘惑

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/77

第41話 隠せない本音

「うるせえ外道!愛に決まりなんて無い!それにテメエも28でオメエが気がある神前の兄貴が24だ?大して変わらないじゃない!それに身分がどうのなんてここは東和だ!甲武じゃ無いんだ!甲武一の貴族がどれだけ偉いかアタシは知らないが、東和では東和の様式に従え!外道はアタシがここでいつでも外道扱いしても何にもできないよな!そりゃあここは、元地球人の権威がなきゃ生きていけない国じゃなくて、水と食い物と空気さえありゃ生きていける遼州人が住む東和共和国だ!そんなに神前の兄貴や西の兄貴に偉ぶりたいなら国へ帰れ!」 


 小夏のまっとうな言葉に頭をさすりながらかなめが視線を上げた。かなめのその目は明らかに泳いでいた。真っすぐに自分を見つめて来る小夏に対してそもそも真っすぐさとは無縁なかなめはしばらく反撃の言葉を選ぶのに躊躇しているように誠には見えた。


「はいはい、アタシは小夏みたいな小娘から見たらどう見ても外道ですよ。それより小夏、何馬鹿なこと言ってるんだ?アタシがあのオタクが好き?そ、そんなわけ無いだろうが!アタシが神前に対して接しているのはこいつが甲武じゃこの見てくれと安定した公務員の地位と一流大学を出ている学歴から考えたら24で童貞で彼女いない歴=年齢だってことに同情しているだけだ!それをかつて身体を売っていたアタシがタダで奉仕してやるのは愛とは言わねえ!妙な詮索をするんじゃねえ!それに西はどこまで行っても元地球人の甲武人だ。ひよこは東和人で遼州人だ。違うものを違うと言って何が悪い!」


 かなめは開き直るようにそう言い切ってくわえていた葉巻を乱暴に揉み消した。


「はいはい、貴族の暴論だって言いてえんだろ?良いじゃねえか。実際貴族様なんだから。それより小夏、何馬鹿なこと言ってるんだ?そこにどうしてアタシと神前の話が関係して来るんだ?全然違う話じゃねえか!西は気が利くから佐官は無理でも大尉くらいで退役するぐらいの技術将校になれる素材だ!これが甲武なら女が放っておくわけがねえ!それをうちの運航部のアメリアに洗脳されたせいで、地球人の遺伝子しか持ってねえはずなのに、脳内は遼州人の女みてえに自分を『西君にはもったいない』と声を掛けないものだから、整備班の野郎共のアイドルだったひよこに手を出した。そのトンビが油揚げ的な状況にアタシは整備班の童貞野郎たちを代弁して西を糾弾してやってるんだ!」 


 あまりにも空々しいかなめの否定と西を目の敵にする理由の強引な論理展開。声がひっくり返っての弁明。その姿に一同はただ、生暖かい視線を向けた。


「はい、はい、はい。ご馳走様ですねえ、外道。お母さん!お客さんだよ!西さんとひよこさん!西さんは地球人だけど19歳だからお金になるからってお酒を出しちゃだめよ!ひよこさんは二十歳過ぎてるから大丈夫だから!」 


 猫耳セーラー服にエプロンをつけた姿の小夏が厨房に消えていった。ひよこと西も愛想笑いを浮かべながら小夏に引っ張られて誠達の隣のテーブルに向かい合って座った。


「酒は……やめておけよ、西。お前は二十歳じゃない。東和の法律では二十歳まで酒は厳禁だ。しかも我々は武装警察官だ。市民の見本とならねばならない。甲武は身分制度で警察官が自分の裁量で何でもできる国なのは知っている。ただ、貴様はその身分と富がすべての甲武でも平民の農民の息子だ。甲武で許されなかったことがこの東和で許される訳ではない。分かるな?」 


 カウラが一語一語確かめるようにして口にするのを見た誠とかなめにいつもの説教が始まるものだと思い込んでうんざりした気分になった。しかし空だったはずの烏龍茶のコップになみなみと琥珀色の液体が満たされていた。それはかなめが小夏と言い争いをしている間にそちらに神経が行っていたかなめの手元の瓶から奪い取った瓶の中のラム酒だった。カウラは無言でそのコップを手に取った。そしてまたいつの間にか恋愛関係の説教をする勇気を得るためにいつの間にかかなめのラムを奪って飲み始めていた。その事実に誠もかなめも気付かずにいた。


 その事実に最初に気付いたのは空になったグラスにラムを注ごうとしたかなめだった。瓶のラム酒は半分近く減っていればいくら大雑把なかなめでもその事実に気付く。そしてその視線をカウラに向けた。


「おい!カウラ!人の酒を勝手に飲むんじゃねえ!それとオメエはこれをストレートで飲んだら死ぬぞ!」


 かなめは『近藤事件』でかなめのラムを奪って自分の前で醜態をさらして無理やり二人っきりになる時間を作り出そうとしたカウラの事を思い出し叫んだ。


 店内には焼き鳥の煙と客の笑い声が満ちていたが、その卓だけは次第に別の熱を帯び始めていた。


 そんなかなめを無視するようにカウラは一気にコップ一杯のラム酒を飲み干していた。何もできずに唖然としてその様子を見守る誠を差し置いて酒を盗まれたかなめは完全に怒りの矛先をカウラに向けていた。

挿絵(By みてみん)

「カウラ!また人の酒を盗みやがって!どうなっても知らねえからな!今日の帰りの運転……どうすんだよ?オメエがあの車を運転してきたんだろ?警察官が飲酒運転なんて洒落になんねえぞ!それこそそんなことをやったら叔父貴まで動員して揉み消すことになった島田がバイクの飲酒運転で二回捕まった時以来の話だ!ランの姐御はさすがに今回はキレるんじゃねえのか?」 


 そう叫ぶかなめをカウラはとろんとした目で見つめた。その様子に気づいてひよこと西もカウラに目を向けた。


「大丈夫なんですか?アメリアさんもそうですけど『ラスト・バタリオン』の人ってあんまり飲めないんじゃ……まあ、アメリアさんが意味不明なことを叫んで暴れまわるのは見慣れてるし、あの『近藤事件』の時の話も班長からあれはカウラさんの芝居だったと聞かされて安心して入るんですけど……今日は明らかに芝居が出来る量じゃないですよね?もうグラス一杯ラムのストレートを空けてますからね……僕は……いえ、なんでもないです」 


 そう言う西をカウラは完全に据わった眼でじっと見つめた。だが、すぐにその瞳はひよこのそれなりに膨らんだ胸へと集中していった。

挿絵(By みてみん)

「……なんで私は……こんな身体に生まれたんだ?あの生理的に受け付けない菰田の崇拝の対象になるくらいなら……パチンコで大勝ちして豊乳手術に手を染めるのも悪くないかもしれない……」 


 そう言って自信なさげにうつむくカウラ。すでに、普段のカウラなら絶対口にしない発言がラムによる酔いが回っているのだと誠達に印象付けた。誠もかなめもどう彼女が動くのかを戦慄しながら見つめていた。


「あら、西君。また来たの……ってかなめさん!誠君の次はカウラさんを標的にしたの?西園寺さんが酒を消費してくれるのはうちとしては助かるんだけど、その度に周りの人たちに迷惑をかけているという自覚は無いのかしら?西園寺さんも全く懲りないわね。それに今日はカウラさんの運転で来たんじゃないの。帰りはどうするのよ……運転代行でも呼ぶの?まあ、西園寺さんはお金持ちだから別にそんなことはどうでもいいんでしょうけど、あの車を大事にしているカウラさんがもし傷でもつけられたら悲しむわよ!」 


 春子が明らかにおかしいカウラを見るとすぐに威圧するようにかなめに目を向けた。


「アタシじゃねえよ!こいつが勝手に飲んだんだよ!今日はアタシのせいじゃねえ!アタシは無罪だ!コイツが勝手に飲んだ以上、アタシは一切無罪!当然運転代行を呼ぶとしてもコイツの金で払え!」 


 カウラは椅子に手をついたまま、ゆっくりと立ち上がった。


 その動きの時点で、すでに普段の彼女ではなかった。


 全員の視線を受けてカウラはよたよたと歩き出した。この状態は以前誠の前で見せた『芝居』なんかではなく完全に酔っぱらったアメリアが見せる完全なる酔っ払いのそれだった。


 カウラはそのまま春子が持っていた盆を引っ張って取り上げるとそのままよたよたとひよこと西のテーブルにやってきた。


「お待ち遠さまですね……おきゃくひゃん。突き出しですよ?」 

挿絵(By みてみん)

 そう言ってカウラはまるで小夏の下働きというような感じで震える手で二人の前に突き出しを置いた。


「……どうも……ありがとうございます……」 


 そう言ったひよこを今度は急に涙目で見つめるカウラがいた。


「どうも……ですか。すいましぇんねー。わたひは……」 


 そのまま数歩奥の座敷に向かう通路を歩いた後、そこに置かれていたスリッパに躓いて転んだ。思わず立ち上がった誠はカウラのところに駆け寄っていた。


「大丈夫ですか!カウラさん飲み過ぎです!あの酒は西園寺さんがサイボーグだから割らずに飲んでも平気な代物ですよ!生身の人が薄めずに飲んだら泥酔するっていつも言ってるじゃないですか!」 


「神前……このまま……」 


 そこまでカウラが言ったところでかなめが立ち上がった。誠は殺気を感じてそのままカウラを二階へあがる階段のところに座らせた。


「おい!神前、帰るぞ!このままアルコールのある環境にカウラを置いとくと本当に急性アルコール中毒で死ぬ可能性がある!撤収だ!急げ!」 


 そう言うとかなめは携帯端末をいじり始めた。


「でも運転は誰がやるんですか?僕も西園寺さんも飲んでますよ……運転代行のお金は西園寺さんはさっき出さないって言ってましたよね?僕が出すんですか?」 


 誠達が月島屋に来たのはカウラの運転する『スカイラインGTR』である。運転手が居なければ車は動かない。


「仕方ねえだろ!この状況にカウラを置いておくのは部下であるアタシには出来る話じゃねえ!アタシがなんとかする!だから今こうして運転代行を頼んでるんだろ?……はい、運転代行を頼みたいんですが……」 


 あっさりと帰ろうと言い出したかなめのおかげで惨事にならずに済んだということで女将の春子は胸をなでおろしていた。


「じゃあ……焼鳥盛り合わせ二つ!それに烏龍茶二つ!」


 とりあえず大ごとにならなかったことに安心してか、元気よく西が注文する。


 誠はただ呆然と彼等を眺めた後、カウラに目を向けた。彼女の目はじっと誠に向けられていた。エメラルドグリーンの瞳。そして流れるライトグリーンのポニーテールの髪に包まれた端正な顔立ちが静かな笑みを浮かべていた。


「おい!今日は平日だから意外と空きが多くてすぐに運転手が手配出来てもうすぐ到着するらしいから行くぞ!それとカウラはアタシが背負うからな。神前が背負っていいのは、勝手にその気になってる『許婚』どもだけで十分だ!」 


 有無を言わせぬ勢いで近づいてきたかなめはカウラを介抱している誠を引き剥がすと、無理やりカウラを背負った。


「なにするのら!はなすのら!」 


 カウラが子供のように暴れた。女性としては大柄なカウラだが、サイボーグであるかなめの腕力に逆らえずに抱え上げられた。

挿絵(By みてみん)

「じゃあ、女将さん!勘定はアメリアの奴につけといてくれよ!」 


 そう言うと、突き出しをつつきながら談笑しているひよこと西を一瞥してかなめはそのまま店を出て行った。誠は一瞬何が起きたのか分からないと言うように立ち尽くしていたがすぐにかなめのあとを追った。


 店の灯りを出ると、夜気は思った以上に冷たかった。


「別に急がなくても良いじゃないですか。それにカウラさんかなり飲んでるみたいですよ。すぐに動かして大丈夫なんですか?」 


 抗議するように話す誠を無視するようにかなめはカウラのスポーツカーが止まっている駐車場を目指した。


「こいつなら大丈夫だろ?生身の一般的な人間に近いとはいえ戦闘用の人造人間だ。頑丈にできてるはずだな」 


 かなめは、背中で駄々をこねるカウラを見ながら、投げやりにそう言った。


「うるはいのら!はなすのら!」 


 ばたばたと暴れてかなめの腕から降りたカウラはそのままよたよたと駐車場の中を歩き回った。


「まったく酔っ払いが……」 


 かなめはそう言うと頭を掻きながらカウラを見ていた。カウラはそのまま自分の愛車の『スカイラインGTR』の手前でうずくまるとゆっくりと体を揺らしながらうずくまった。


 その様子を半分呆れたのような、それでいてどこか羨ましいような顔をしながらかなめは見つめていた。


「酒に強いってのはあんまり自慢にならねえもんだな……アタシにはカウラみたいな真似は出来やしねえ。こいつもな、もう少しアタシのことを気にせずにいてくれると良いんだけどな……鈍い神前の野郎の心を開くことに関してはかえでなんて言う色情狂の敵じゃねえって言うのに……アタシの直属の上司で初めて人の心を持った上司が人造人間だったなんて……ずいぶんとまあ皮肉な話だな……」 

挿絵(By みてみん)

 ポツリとかなめがつぶやいた。


「え?聞こえなかったんですけど……」


 誠は聞き取れなかったかなめの言葉をもう一度繰り返してくれるようにそう言っていた。


「何でもねえよ!」


 誠を一瞥するとかなめは静かに夜寒の空を見上げた。12月の空はどこまでも寒く透明だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ