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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と魔法少女  作者: 橋本 直
第十章 『特殊な部隊』と立体化

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第34話 嫌な予感しかしない台本

 非番の朝の隊舎は、平日よりも妙に静かだった。


 その静けさの中で、機動部隊の詰め所だけはいつも通り書類と端末の光に占拠されている。


 そこへ私服姿で入り込んだ自分達が、場違いであることくらい誠にも分かっていた。

挿絵(By みてみん)

「なんだよカウラ!西園寺!神前!オメー等は今日は非番じゃねーのか?休日出勤だとか抜かしても部長権限で仕事をでっちあげるアメリアと違ってオメー等は副隊長であるアタシの直下の機動部隊の隊員だから代休はやらねーぞ。オメー等が勝手に出てきたんだということでいーんだな?そんな都合よくアタシはこれまで溜まってる書類の提出の期限の催促なんてしねーからな。あれは通常の勤務時間で処理しろ。アタシはそーできるように考えてオメー等には仕事を振ってるんだ。それが出来てるのがカウラだけってのは西園寺がサボってるからと神前はどんくさいからだ。別に隊舎に居るのはオメー等の自由だがそこんとこは覚えとけよ」 


 カウラの運転でかなめと誠は隊に到着するといつもの癖で司法局実働部隊機動部隊の詰め所にたどり着いていた。かなめの始末書に目を通していたランが、鋭い目つきで誠達を見つめてくるのを見て、誠は頭を掻いた。小学校低学年にしか見えないランが、決裁印を片手に書類をさばいている。しかも耳にはボールペン。それだけ見れば、ままごとの延長にしか見えない。だが、その判子一つで隊員の運命が軽く変わるのだから、笑うに笑えなかった。


「姐御、そんなこと言われねえでも分かってんよ。別に仕事の邪魔しに来たんじゃねえんだからいいだろ?アメリアのお守りだ。ランの姐御だってアイツが昨日の馬鹿騒ぎの結果自分の思う通りの映画を作っていいってことに決まったことは知ってるだろ?アイツはこういうイベント事の時はほっとくと何をするか分からねえ。暴走するアメリアがランの姐御に面倒かけるのも見てらんねえだろ?だから来たんだ。ランの姐御が、アメリアの妄想でどんな訳の分からねえ役を振られるかを防ぐのもアタシ達がここにいる目的の一つなんだ。感謝をされることはあってもそんな追い返すような口調で攻め立てられるいわれはないねえ」 


 そう言うとかなめは自分の席に座って机に足を投げ出した。


「知ってるよ。島田の馬鹿の脳は瞬発力型だから好きな機械関係以外のことでそれが機能するのは半日が限度なんてことはアイツの保護者のアタシが一番よく知ってる。結果、アメリアが好き勝手いいことになるのも最初から見えてたことだ。それでアメリアの奴が……送ってきたんだよなーこれを……アイツももう少し仕事の方にこの情熱を向けてくれるとアタシとしては助かるんだが。アイツ仕事中も趣味のエロゲとか部下にやらせる新作落語のネタとか考えてるからな。アイツが頭が良いのが知ってるが、仕事中は仕事のことを半分以上は考えるように伝えといてくれ。アタシは今回も頭を下げられりゃ協力くらいはするかもしれねーが、あくまで協力だ。積極的に動くつもりなんかねーからな。アタシが理想とする『魔法少女』の道は険しいんだ。一朝一夕に物語のようになる訳がねー!」 


 ランはそう言うと私服で席についている誠とカウラにデータを転送した。そこには昨日宣材向けにランのキャラデザインをした画像を加工したアイコンのファイルが送られてきた。


「いつの間に……あの人も仕事が早いと言うかなんと言うか……」 


 そのファイルを開くとそこにはかわいらしい絵文字が浮かんでいた。その書き方をのぞき見た誠はそれが台本であることがすぐに分かった。その付属フォルダーを開くと細かいキャラクターの設定、そして誠の描いた服飾デザインが並んでいた。


 その台本の冒頭の数行を読んで誠はどこかでこの物語と似たような物語をアメリアから読まされたことを思い出した。


「ああ、これってこの前アメリアさんが書いた同人エロゲの設定ですけど没にした奴ですね。確かに魔法少女が出てきますよ。寝かせてから出すって言ってたんですが……なるほど、これの設定だったんですか……。忘れてました。これだったんですね……」 


 誠は昨日キャラのデザインをしていて忘れていた以前アメリアに見せられた18歳以上対象のアドベンチャーゲームのプロットを思い出した。その言葉にカウラとかなめが反応して誠に生暖かい視線を向けてきた。


「なんだ、オメエは知ってるのか?話せよ。アタシが当てられそうな役が有ったら教えろ。つまらねえ役なら降りるから。アタシがその役を降りれば当然アメリアのことだからかえでやリンの妙な行動をさせる部分を丸々削ってヒロインが活躍する健全な作品に仕上がる。我ながら良いアイディアだ」 


 かなめはゆっくりと立ち上がって尋問するように誠の机に手をかけた。カウラは再びモニターの中の原稿に目を移した。

挿絵(By みてみん)

「知ってるって言うか……『一応感想を教えてね♪』って言われたんで。僕はちょっとオリジナル要素が強すぎて売れるかどうかって言ったらアメリアさんが自分で没にしたんですよ。そうだ、やっぱり先月見た奴ですよ。確かにあれは魔法少女ですね。ちょっとバトル系ですけど……でも、あの作品でかなめさんの役は途中でヒロイン陣営に裏切るんで意外とかえでさんやリンさんが振られそうな役との絡みは少ないですよ?たぶん二人は放っておいても勝手に暴走します……大丈夫……じゃないですよね?」 


 そんな誠とかなめのやり取りにいつの間にかカウラが立ち上がって誠の隣に来てモニターを覗き始めた。


「ああ、これなら私も『純粋な女性の意見も聞かせて』とアメリアが言うには全年齢版という奴を見せられた。これはどちらかというと魔法少女と言うより戦隊モノっぽい雰囲気だったような印象だった。私はパチンコでも、こういう系統の台の方が相性が良い……ああこの役を西園寺が……嫌がるだろうな、西園寺は」 


 かなめも誠とカウラが仲良く誠の端末の画面で見ているのと同じファイルを開くと思い切り嫌な顔をした。かなめもまた、なんやかんやで以前アメリアに無理やり見せられていたらしく自分の机に張り付いて難しい顔で腕組みをしていた。


「まあアタシはどうでもいいけどさ。神前のデザインした衣装はアタシとしては気に入ってるし、アイツはアタシには変なことはさせないつもりみたいだから。それより大変なのは西園寺だな……この格好をやるのか……まあ、SMクラブでもっと恥ずかしい格好でお客さんを虐めてたんだから平気かも知れねーがな」 


 ランはうなりをあげるかなめ達を無視して淡々と溜まった書類の整理の仕事を続けていた。


「でも配役まで書いてあるな。アタシが前見た時とちょっと違うぞ。アタシが神前に助けられて協力することになる敵の女騎士かよ……なんかありきたりだな。騎士って言えば茜……ああ、法術特捜は『特殊な部隊』じゃねえとか抜かしてアイツは逃げたんだな。まったく面倒ったらありゃしねえよ。茜の奴になんか弱みがあればそれをネタにゆすってアイツにこの役を押し付けて逃げるんだけどな……あの完璧超人の茜にはその親父の叔父貴と違ってまるで隙がねえんだ。見てろよ茜……そのうちオメエの弱点をなんとか探し出してやる」 


 かなめは不服そうにそう言って自分の不満を何の不手際も無い茜にぶつけながら端末を難しい表情で見つめていた。


「オメー等なあ……オメー等はアメリアの暴走を止めに来たんだろ?なんでその監視対象であるアメリアを放っておいていつものように詰め所に出てきてアメリアの送ってきた文章を夢中で読んでんだ?オメー等馬鹿か?いつもの習慣というものは人を馬鹿にするという典型だな。アイツがどこにいるかは知らねーが目的があの馬鹿の暴走を止めることならここじゃなくて運航部に行けよ。第二小隊の連中もオメエ等が来る直前にアメリアが『かえでちゃんもリンちゃんも準待機で暇してるんでしょ?』とか言って連れて行ったぞ。なんでもアメリアが言うにはあの連中の趣味を満たすには必要な行事らしーや。ただ、それならアンも連れていけって言ったらアメリアの奴はアタシにはそんな趣味はないんでとか言いやがった。趣味って何のことだ?アタシは今オメエ等の起こした色々な騒動の尻拭いの書類を作るという仕事をしているんだ。もう少し静かにしてくれよ」 


 たまりかねたようにランが口を挟んだ。


「出る時には私達にはここで待てとアメリアは言ったぞ。それなのにアメリアは日野達を連れて行った……それにしても遅いな、アメリア。アイツがここに居ろと言うから私達はここに居るわけだが……アメリアのことだ。どこかでつまらない理由で寄り道でもしているんだろうが……嫌な予感しかしないな」 


 カウラはじっとモニターを食い入るように見つめながら、今この瞬間にもアメリアとかえでとリンがろくでもないことを企てているだろうと考えているように誠には見えた。そして、今回のアメリアの狙いは誠をこき使うこととかなめに恥をかかせることであって自分は関係ないというカウラの少し冷たい一面を垣間見ることになった。


「何度も言わせるんじゃねーよ。折角静かで一人っきりで仕事がはかどるってことで仕事をしてりゃあオメエ等が来てぶつぶつぶつぶつ……さっきからオメー等うるせーよ。非番なんだからそのままおとなしくしてろよな。アメリアが待ってろと言うのなら黙って静かに待ってろ。ここは職場だ。遊びをする場所でも映画を作るためのスタジオでもねー。そこんところを考えて行動してくれ」 


 自分の作業を続けながらそう言ったランだが、その言葉は晴れ晴れとした表情で実働部隊詰め所のドアを開いたアメリアによって踏みにじられることは目に見えていた。


「皆さん!お元気そうですね!」 


 晴れやかなアメリアの言葉にランの表情が一気に曇った。


 そんなランの顔を見た瞬間、誠は嫌な予感しかしなかった。さらに笑顔満面のアメリアを見ると心が落ち込んでくる。


 アメリアが満面の笑みで帰ってくる時は、これまでの誠の経験上ろくなことが起きていない。


「そう言えば……日野達をどこに連れてった?準待機ってことは待機の一歩手前だ。その辺を理解して日野達を扱えよ……何かあって日野がすぐに出られないようじゃ何のための準待機か意味が分からなくなる」 


 準待機の日で本来は詰め所でじっとしているだけのはずのかえでの名前をランが面倒くさそうに口にする。その言葉に端末のモニターを食い入るように見ていたかなめが大きく肩を落とした。


「いや、アイツのことは忘れようぜ。アイツの日常のことを考えると性犯罪に巻き込まれることになる。面倒ごとに関わるのは御免だ」 


 そう言うかなめの声が震えていた。カウラと誠は生暖かい視線でかなめを見つめた。


「ああ、かえでちゃんとリンちゃんはサラ達と一緒にコスチュームを実際に作ってみてその見え方を考えるんだって。今回の作品は実写だから誠ちゃんの原画だけじゃ分からないこともあるからって。うちにはコントの仮装に使うための端切れが一杯あるから衣装の一つや二つすぐ作れる材料はあるし」 


 何気なく言ったアメリアの言葉に反応して台本を見ていたかなめが立ち上がった。


「どうしたんだ?西園寺は運航部の連中のところに顔を出すのか?それともこの自分の配役された神前がデザインしたキャラクターの衣装が気に食わないのか?それなら文句は神前に言え。日野少佐ではなく神前なら目の前に居るぞ。神前のデザインを立体化しているだけの日野少佐に言ってもらちが明かないだろう」 


 冷や汗を流さんばかりのかなめをカウラはニヤニヤしながら見上げた。


「カウラ。お前は良いよな、普通なキャラだし。神前が描いたどのデザインでも普段着しか着てねえじゃん、キャラクターデザイン画でもさっきの台本原案でも。アタシは……神前。オメエはアタシをそんな目で見ていたのか。『機械魔女キャプテンシルバー』って……メカなのか魔法使いなのかはっきりしろ!オメエもアメリアの趣味に合わせてキャラづくりばかりしてたらそんな思考になっちまったのか?まったく理解できねえな!アタシは銃が撃ちてえんだ!銃が撃てねえならこのキャラは降りる!」


 かなめは椅子に座り直すとそう言ってアメリアをにらみつけた。


「大丈夫よ!かなめちゃん!銃は撃たないけど鞭は使うから。好きでしょ?鞭?」


 一方のアメリアはかなめの脳内を読み切ったように糸目をさらに細めて笑っていた。

挿絵(By みてみん)

「……ああ、鞭を使う?ならいい。アタシは銃より鞭で雄豚共を支配することに最高の快楽を見出すんだ。鞭が武器なら受けてやってもいい」  


 かなめはそう言うと満足そうなアメリアを見上げていかにもサディスティックな悪人面で笑っていた。それはまさに『悪女』そのもので誠を恐怖させるレベルの怖さを持っていた。


 そんな状況の中、誠はかなめを無視して久しぶりに見る台本をひととおり読み終えた誠は、小さく息をついた。小夏がヒロインの魔法少女バトルもの。確かに誠の『萌え』に触れた作品であることは確かだった。機械帝国に滅ぼされようとする魔法の国の平和を取り戻すために戦う魔法少女役の小夏が活躍する話と言う設定はいかにもアメリアが喜びそうなものだった。


 そして小夏の憧れの大学生でなぜか彼女の家に下宿しているという神前寺誠二というのが誠の配役だった。アメリアは意地でも小夏とは恋愛関係になりそうにないということでそうキャスティングしたのが見え見えだった。彼の正体は滅ぼされた魔法の国のプリンスと言うと格好はいいが、アメリアが誠が読んでいる台本に手を入れてより受けるようにアメリアなりに考えるなら小夏達の身代わりにぼこぼこにされるかませ犬役でしかないのは間違いなかった。


「……まあ、そうなるだろうな。何しろアメリアさんだし」


 どうせ自分はそういう役回りだ。


 ヒロインにはなれず、主役にもなれず、誰かを引き立てるために一度は痛い目を見る。


 アメリアの台本では、だいたいそういう立場に落ち着く。


 それを今さら不満に思うほど、誠も青くはなかった。


 むしろアンとの男同士の愛に進展しないだけマシだった。


 アメリアはこれがあくまで市からの依頼での映画作成で『男の娘』を出すのは色々と市議会がうるさいと気を使ったのか一番映画に出たがっていたアンには役が無かった。


 問題はかなめとカウラの配役だった。


 カウラの役は魔法少女姉妹の小夏の姉で誠の恋人の役だった。誠の設定ではアメリアがこの役をやると言うことでデザインした原画を描いたのだが、隊に来て車を降りたときにかなめがアメリアの首を絞めていたことから見て無理やりかなめがその役からアメリアを外させたのだろうと言うことは予想がついた。


 そしてかなめ。彼女は敵機械帝国の尖兵の機械魔女と言う設定だった。しかも彼女はなぜか失敗を責められて破棄されたところを誠二に助けられるという無茶な展開が描かれていた。その唐突さにかなめは若干戸惑っていた。しかも初登場の時の衣装のデザインはかなりゴテゴテした服を着込むことになるのでかなめは明らかに嫌がっているのは今も画面を見て苦笑いを浮かべているのですぐにわかった。


「……ふざけんなよ……アメリア……アイツにはいつか後頭部でタバコを吸うにはアタシの銃を使うのが一番だと教えてやる」


 誠はかなめがこんな物騒なことをつぶやくのは自分の役の詳細を読み始めたからなのだろうと察した。しかし、嫌だ嫌だと言いながら、かなめが一番長く自分の配役のページを開いていることに、誠は気づいていた。


「そうだ普通が一番だぞ、カウラ。アタシは『魔法少女』ってやつはな……こういうのが『萌え』って言うのか?どー見ても戦闘に向いてるとは思えねーし、『魔法少女』のあのかわいらしさは表現できていねえ。これじゃあ海水浴に行く餓鬼そのものだ。戦う少女にしては迫力がねーな。アタシならこんな格好で戦場に出ろなんて言う司令官が居たらそいつの首をまず取るな。こんなんだったらオメー等が滅茶苦茶に貶したアタシの理想の『任侠魔法少女』の方がよっぽど戦うという雰囲気がある」 


 仕事が一段落したのか、端末に目をやるランがそう言うのも無理は無かった。彼女自身、誠の原画を見てライバルの魔法少女の役になることは覚悟していたようだった。しかし自分のどう見ても『少女』と言うより『幼女』にしか見えない体型を気にしているランにとっては、その心の傷に辛子を塗りこむような配役は不愉快以外の何者でもないのだろう。それに、映画と言えば任侠映画というランにとって、『萌え』としての衣装を理解すること自体が無理な話だった。


 魔法の国以前に機械帝国に侵略されて属国にされた国のお姫様というのがランの役だった。誠としては興味深いがランにとっては自分が姫様らしくないのを承知しているのでむずがゆい表情で時折かなめや誠、アメリアを眺めていた。

挿絵(By みてみん)

「おい、アメリア。アタシが『姫』?アタシは『汗血馬の騎手(のりて)』と恐れられた英雄だぞ?それが『姫』?アタシならむしろ勇者だろ。そんな事も分からねーのか?まったく理解できねーよ」


 今そんなことをランが言うというということはランにとっては衣装がどう見ても海水浴幼女なこと以上に『姫』と言う立場に立つことの違和感を感じているのだろうと誠は察した。


「じゃあ、とりあえずこの方向で行くからよろしく頼むわね」


 その時ようやく全員が台本を読み終えた様子を察したアメリアがけりがついたと言うように渋々首のジャックにコードを挿して作業を始めようとするかなめの肩を叩いて立ち去ろうとした。

挿絵(By みてみん)

「まあ……いいや。アタシはちょっと運航部の連中がかえでに触発されて神前のデザインレベルを超えた珍妙な衣装を用意してねえか監視して来るわ……アメリア!オメーも来い!」 


 そう言って部屋を出ようとするかなめの纏う殺気に、誠とカウラはただならぬものを感じて立ち上がり手を伸ばした。アメリアはにこやかな笑みでにらみつけてくるかなめの前で黙って立ち尽くしていた。



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