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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と魔法少女  作者: 橋本 直
第九章 『特殊な部隊』と嫌な予感

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第31話 飲み過ぎた朝の風景

 耳をつんざく叫び声で誠は跳ね起きた。……次の瞬間、腹に蹴りが突き刺さり、悶絶する。とりあえず身の危険を感じて目を開き周りを見回そうとするが首が酔いのせいであまりよく回らなかった。

挿絵(By みてみん)

「大丈夫?誠ちゃん?こんな季節にそんな格好で寝たら風邪ひくけど……普段ランちゃんにあれだけ鍛えられてるんだからエアコンで暖房かけて布団被って寝れば平気だわよね?」 


 二日酔いでぼけた目の焦点を合わせると目の前に寝巻き姿のアメリアが居た。ハッとして誠は起き上がった。まず自分が全裸であること、そして二回目の蹴りを繰り出そうとしている黒いスポーツブラにパンティーだけのかなめの姿を見て誠はかなめの加虐的なまさに『女王様』の本能に対する怯えを感じてとびおきるとそのまま部屋から飛び出した。


 廊下で鉢合わせたのは菰田だった。菰田は呆れたように口をあけたまま全裸の誠を見つめる。誠は股間を隠しながら部屋を確認した。中にいるのはアメリアとかなめだが、そこは確かに自分の部屋である。飛び込んで布団に飛び込んで頭から布団をかぶって羞恥心に震える誠だが、そこには寝巻き姿のアメリアと下着同然の姿のかなめが居る事実が変わるわけではない。


「あのなあ、神前。野郎ばかりの男子寮だ。確かに今はクラウゼ中佐や西園寺大尉、そしてあのカウラ・ベルガーさんまで……」 


 部屋に飛び込んでいった誠を追って副寮長の職分を遂行しようと菰田はアメリアとかなめの冷ややかな目を無視して誠への説教を始めようとした。


「私のことを呼んだか?」 


 聞きなれた声に反応して布団から顔を出すとそこにはいつも寝巻き代わりにジャージを着ているカウラが入ってきたところだった。


「アメリア、オメエの神前の起こし方が悪いんだよ!耳元で叫べば起きるなんてオメエはホントこういう時は小学生的な発想をするんだな。アタシだったらそのまま頭をぶん回して起こせば騒ぎになんねえ。神前はなかなか起きねえのは確かだけど頭をぶん回せばさすがに起きる。アタシも時々コイツが寝過ごしそうなときはそうして起こしてる」 


 かなめの言う通り元々一度寝るとなかなか起きない誠が部屋の鍵を何度替えても島田に合い鍵を作らせていつもより少しでも起きるタイミングが遅れるとかなめが乱入してきて誠の頭を抱えて振り回して起きるのはいつものことだった。


「なによ!誠ちゃん思い切り蹴飛ばしてたのはかなめちゃんでしょ!それでも起きなかったんだから単純な方法に頼ったのよ……ああ、その蹴りに手加減があったのがまずかったのね?かなめちゃんらしく次は思い切り蹴飛ばせば起きるわよ」 


 アメリアは下着姿を隠そうともしないかなめに向ってそう叫んだ。


「馬鹿野郎!無茶言うんじゃねえ!アタシが思い切り蹴ったらコイツの足は砕けるぞ!『特殊な部隊』の野球部の監督として大黒柱の左腕をそんなつまらねえことで故障させられるか!」 


 布団から顔を出して周りを見回すだけの誠の部屋の中では暴れているアメリアとかなめの声が響いていた。

挿絵(By みてみん)

「おい、全裸王子。ちょっと耳を貸せ!」 


 そのまま誠の顔に口を近づける副寮長の菰田をカウラが押しとどめた。


『菰田先輩……僕を『全裸王子』扱いですか?菰田先輩にまでこんな扱いを受けるいわれはないんだけどな……』


 誠は何かというと『先任下士官』や『先輩』や『副寮長』などの肩書をかさに着て誠に向けて威張り散らす菰田にはうんざりしていた。


「菰田……貴様にはアンと同じような趣味があったのか……しかし、アンの女装は普通に美少女と呼ばれるレベルだが、貴様のそれは公害レベルだぞ」 


 そう言ってカウラが菰田に冷たい視線を投げた。カウラのファンクラブ『ヒンヌー教』の教祖である菰田がカウラに彼等の歪んだ願望である『軽蔑の視線を浴びせられながら罵声を浴びる』という最高の環境に菰田は酔っていた。


「そ、そうですね。神前!全裸で廊下を歩くのは感心しないぞ!では!」 


 菰田はさわやかな笑顔を残して去っていった。ただその変わり身の早さに呆然とする誠も、すぐに自分が全裸であることを思い出して布団の中に入り込んだまま動くことが出来ずにいた。


「神前……貴様は酒が入るとすぐ脱ぐくせに……」 


 そう言ってカウラはベッドの誠の顔の脇に静かに腰かけた。そんな二人の目の前ではじりじりと間合いを縮めるピンク色のネグリジェ姿のアメリアと黒の下着姿でファイティングポーズをとるかなめがいた。


「いい加減にしろ!人の部屋で暴れるんじゃない!それと西園寺!全裸で歩き回るのを止めたのは進歩とは言えるがその恰好は下手な下着よりたちが悪い!ここが元々男子寮だということを思い出せ!」 


 カウラの言葉にアメリアとかなめはようやく手を下ろした。


「ああーかったりい。まあいいや、アタシは部屋に戻るわ」 


 そう言うとかなめはそのまま少し暴れてすっきりしたとでもいうように部屋を出て行った。


「良いんですか?全裸の次は下着姿……というかあんなにエロティックな黒い下着は下手な全裸よりよっぽど寮の風紀を乱しますよ」 


 布団を背負ったままカウラを避けてベットから降りて箪笥から取り出したパンツをすばやく履いて一息ついた誠がカウラに尋ねた。


「ああ、あいつはいつも朝起きるとあの格好でシャワーに行くからな……西園寺としては進歩したということなんだろうな。あの露出狂の日野を露出狂に仕立て上げた張本人である西園寺にその気が無いと考える方が不自然だ」 


 カウラの言葉に誠は言葉を失った。この寮には50人以上の男性隊員が暮らしている。そこにほぼ裸の美女が現れたら……しかし、考えてみればこの寮に軍用義体のサイボーグであるかなめをどうこうできる度胸のある隊員などいるはずもなく、できる限り彼女を避けて動いている諸先輩の苦労に誠は心の中で謝罪した。


「それよりなんで……って僕がなぜ全裸か……はいつものことだからいいんですけど、なんでお三方が僕の部屋に……」 


「そんなことは重要なことじゃないの!ついに我々は勝利したのよ!」 

挿絵(By みてみん)

 ネグリジェ姿のままアメリアは高らかにそう宣言すると携帯端末を高く掲げた。カウラと誠は何のことかわからず呆然と目の前で今にも踊りだしそうな様子のアメリアを眺めていた。


「勝ったって……何がです?アメリアさんはなんか勝負なんかしてたんですか?フィギュアの限定品の抽選に当たったとか?」 


 誠の記憶には昨日『図書館』で馬鹿騒ぎをした記憶しかなかった。勝利と言う文字はその事実からは一言も出てきそうになかった。


「誠ちゃん、ボケたの?昨日あんだけ騒いだのは何のためだか忘れたわけ?すべては選挙の為だったんだけど相手がやる気がないならこっちも手加減してあげなきゃってことでああなったんじゃないの!最初のあそこにみんなが集まった理由を忘れるなんてボケるにはまだ早いわよ?」


 誠の間抜けな質問にアメリアは呆れてそう言った。カウラもようやくジーンズと現在放映中の深夜枠の魔法少女のTシャツを着た誠の肩に手を乗せた。


「こいつのわがままが通ったってことだ……まあ、魔法少女になろうが合体ロボになろうが大の大人が真面目に取り組むテーマとは言えないだろうがな」 


 カウラはあきれ果てたように誠に向けてそう言った。


「わがままなんて言わないの!これは夢よ!ドリームよ!これで私の映画監督デビューが自分の完全原案、完全脚本で実現するの!当然これの台本とかは落語家時代の姉弟子だった放送作家の人にも見てもらう予定だから、うまく行けばそのまま脚本家デビューも夢じゃないかも♪」 


 そう言ってアメリアは大きく天に両手を広げ自分の紺色の携帯端末をかざしてみせた。まだ誠は訳がわからず二枚目のシャツのボタンをはめるながら得意満面のアメリアを眺めていた。


「そうですか、アメリアさん転職するんですね?ちょっと寂しくなるなあ……。それに夢って……?なんです?それとなんで僕をじっと見ているんですか?そのアメリアさんがエンタメ系の脚本家になるのと僕と何か関係あるんですか?」


 誠は相変わらずアメリアのテンションについて行けず寝ぼけたままそう答えた。 


「アメリアの馬鹿は放っておけ。そんなに簡単にアニメや特撮の脚本家になれるのなら東和中が脚本家だらけになる。アメリアに絡んでも特は何一つないぞ。神前、いい加減目を覚ませ。アメリアのペースに巻き込まれたら終わりだ」 


 カウラに言われて誠はようやく思い出した。アメリアのオリジナル魔法少女映画化計画に巻き込まれてキャラクターの絵を描きなぐった昨日を。そして合体ロボ推進派のサラと島田の連合と支持層を求めてあちらこちらのサーバーに進入を繰り返した菰田達の戦いを。


「アレって本当だった……でも島田先輩、そう簡単には引かないと思うんですけど……あの人の喧嘩の持ち味は相手が殴りつかれるまで殴らせてからの反撃でケリをつけるってやり方ですよ。今回だってこっちが油断して飲み会を始めたら実は不死人だからすぐに酔いがさめる島田先輩が彼女のサラの為に色々動いたりしそうじゃないですか?」 


 誠はあの馬鹿騒ぎの結果、アメリアの魔法少女案がサラの合体ロボ案に勝利したらしいことを思い出し、サラの為なら命も捨てかねない自称『彼氏』の島田の執念がそう簡単に消えるものとは考えられずに首をひねった。


「お前はまだまだだな。島田の奴はヤンキーだから極端に飽きっぽいんだ。ヤンキーは仕事にしてもスポーツにしても何をしても長続きしないだろ?アイツが長続きをするのは機械を弄る事だけだ。だから整備班長になれたんだ。それにサラに神前の描いた絵を見せたらはじめは色々文句を垂れていたみたいだが……私が見てもサラの絵が素人の絵で神前の絵がプロと見まがうようなレベルなことくらいすぐにわかる」 


 そう言いながらカウラはアメリアの端末を奪い取って誠に見えるようにして画面を開く。そこには島田の『飽きたからよろしく!』という言葉が踊っていた。


「こんな一言ですべてを放り投げるとは……島田先輩って本当に飽きっぽいんですね。あの人もよく大学を出てからずっと東和陸軍からこの『特殊な部隊』まで退職せずに続けてきましたね。でもなんで僕はかなめさんに蹴られたんですか?」 


 そう言ったとたんアメリアの目が輝いた。同時にカウラの顔に影が差した。


「さっきかなめちゃんが言ってたじゃないの。寝ぼけて誠ちゃんが上に載って来たかなめちゃんの胸を掴もうとしたからに決まってるじゃない!」

挿絵(By みてみん)

 アメリアの絶叫で誠は寝ぼけていたとはいえ、とんでもないことをしていた自分に後悔していた。 


 誠はもはやアメリアやカウラにこのような扱いを受けることは慣れていたのでいつも通り二人の見ている前でタンスからシャツとズボンとセーターを取り出すとそれを着込んだ。


「そんなことよりだ!神前!貴様が今日の朝食当番だろ!さっさと行け!」 


 カウラが顔を真っ赤にして突然そう言うと服を着終えた誠はそのままアメリアとカウラに部屋を乗っ取られて追い出された。


「なんで……ここ僕の部屋なんですよ……それに食事当番は二人とも免除だから気楽でいいですね……これはこれで大変なんですから」 


 そう言いながら未練タラタラで自分の部屋の扉から目を放すとそこには島田がいた。日差しの当たらない寮の廊下は暗く誠からは島田の表情がよく見えなかった。


「おはようございます?」 


 誠は恐る恐る切り出した。誠達の東塔ではなく西塔の住人島田が目の前にいるのには訳があるに違いないと誠は思った。島田はこの寮の寮長である。お調子者だが締めるところは締めてかかる島田がこの状況をどう考えるか、誠はそれを考えると頭の中が真っ白になった。


「大変だな。お前も……」 


 島田の顔は同情に染まっていた。そのまま大きくため息をついてくるりと方向を変え、そのまま廊下を階段へと向かう。誠はとりあえず怒鳴られることも無かったということで彼の後ろについて行った。


「ああ、アメリアさんが勝ったそうですね、今度の自主制作映画の件」 


 そう言った誠にまったく無関心というように島田が階段を下りていった。

挿絵(By みてみん)

「なあに、サラには初めだけ俺の『(おとこ)』を見せられれば俺にとってはこの勝負はどうでもよかったの。執念深さじゃアメリアさんに軍配が上がるのは見えてたからな……俺もやっててだんだん飽きてきたわ。それにこれ以上メーカーに借りを作るのは嫌だしな。俺達はお客さんだぜ、一声かけて反応なければ後は取引無しってことで話をすればそれ以上の面倒ごとは御免だ」 


 サラのわがままに振り回されたことを後悔しながら島田は階段を降りていった。そこに香ばしい匂いが漂ってくるのに誠は気づいた。


「あの、朝食の準備。僕が当番でしたよね?先にやってくれているですか?誰です?」 


 誠の問いかけの言葉に島田が照れれたように頭を掻いた。


「おはよう!神前君!」 


 廊下をエプロン姿で駆け出してきたのはサラだった。


「島田先輩、隅には置けないですね!今日はサラさんの手料理ですか……意外とサラさんは料理は上手いですからね。島田先輩も週に何回かはお弁当作ってもらっていて羨ましいですよ」 


 島田は誠に冷やかされて咳払いをしながら一階の食堂へと向かった。誠も日ごろさんざんからかわれている島田に逆襲しようと彼に抱きついているサラを見ながらその後に続いた。


「班長!お先いただいてます!」 


「班長!サラさんの目玉焼き最高です!」 


「班長!味噌汁の出汁が効いてて……、この味は神前の馬鹿には真似できないっす!」 


 入り口にたどり着いた島田に整備班員達が生暖かい視線と冷やかす言葉を繰り出してきた。彼は入り口の隣、かえでが趣味の狩猟で仕留めてきたと言う山鳥の剥製の隣に置かれていた竹刀を握り締めるとそのまま部下達の頭を叩いて回る。叩かれても整備班員はニヤニヤした顔で島田を見あげるばかり。他の部署の隊員も食事を続ける振りをしながら顔を真っ赤にして竹刀を振り回す島田を面白そうに眺めていた。


「島田先輩大変ですねえ」 


 とりあえず整備班の隊員を全員竹刀で叩き終えた島田の肩に、誠は手を伸ばした。誠だが、振り向いた島田の殺気だった目に思わずのけぞった。


「正人……こんな急に来て料理を作るなんて……迷惑だった?昨日は私の我儘に無理して付き合ってくれたお礼のつもりなんだけど……」 


 サラは島田を見つめて瞳に涙を浮かべていれば完璧だろうという姿でエプロンを手に持って見上げた。


「そ……んなこと無い……よ?」 


 そこまで言いかけた島田だが、思わず噴出した整備班員に手に取ったアルミの灰皿を投げつけた。見つめあう二人がいつもの『青春ごっこ』を始めるのを見て彼女いない歴=年齢の誠はうんざりした顔で隅っこのテーブルに腰を下ろした。


『……この寮、酔って脱ぐ男より、こういうのの方がよっぽど公害だろ?ここの寮生の70%は彼女いない歴=寿命で一生を終えるんだぞ。だったら島田先輩のやってることの方が僕が酔うと脱ぐ方がよっぽど無害だ』


 誠も島田の自分だけは彼女が居ても構わないという選民思想にうんざりしながら、『特殊な部隊』の男子全員の総意ってこんな感じだろうな、と考えていた。


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