第30話 飲めない人が無理に飲むと
「仕方ねーな。カウラ!水だ!飲ませて薄めろ!それと氷持ってこい!頭を冷やして冷静にしねーとコイツはまた脱ぐぞ!コイツのデカすぎるアレを見るのはアタシはもうたくさんだ!それよりコイツは今そんなことを言ってられないほどかなりヤバい状態だぞ!今吐いたら窒息する!カウラ!ちゃんと見ておけ!それが上官の務めだ!」
そうランに言われてカウラは図書室を飛び出していった。アメリアはすぐさま携帯端末で救急車の手配をしていた。
「まったく西園寺!餓鬼かオメーは!何度同じことをすれば気が済むんだ?そのうち神前の馬鹿は本当に死ぬぞ!神前の野郎も何度救急車の世話になれば気が済むんだよ。まったく、こういうところだけ大学生気分が抜けねーのにも困ったもんだ」
ランは慣れた調子でお猪口を片手にかなめを怒鳴りつけた。
「心配しすぎだよ。こいつはいつだって救急隊に声を掛けられただけでそのまま救急車を帰らせる程度で済んでるじゃないですか。実際、病院に行くまでになったことは一度しかないし。それにこいつが脱いでデカいアレを見られるのは女としては役得だな……かえで、お前好みの無修正だぞ?オメエは神前の以外は『見るに堪えない粗末なモノ』と見下してるよな?役得だ、見てけ」
かなめは言い訳がましくそう言って、うつろな目付きの誠に目を向けた。
「馬鹿!変態!恥知らず!」
軽口を叩こうとしたかなめの頬を叩いたのは真剣な顔のアメリアだった。
「本当にアンタと誠ちゃんじゃあ体のつくりが違うの分からないの?こんなに飲んだら普通は死んじゃうのよ!アンタ本当に誠ちゃんを殺す気?……まあ、私も誠ちゃんのでかいアレを見るのは嫌いかと言われるとどっちかと言うと嬉しいような……」
アメリアはかなめの手からほとんど酒の残っていないラム酒の瓶を取り上げた。
「このくらいで死ぬかよ……ただいつもみたいに脱いで……そしたらコイツご自慢のでっかいアレが見られるんだぜ。女としては見たいだろ?まあ、かえでとリンとアンは見たがってるみたいだがな」
そう言ったかなめだが、さすがに本気のアメリアの気迫に押されるようにしてそのまま座り込んだ。
「らいりょうぶれすよ!」
むっくりと誠が起き上がった。その瞳は完全に壊れた状態であることを示していた。
「ぜんぜん大丈夫には見えねーけど……またいつもみたいに脱ぐのか?アタシはスケベな西園寺と違ってオメーの汚ねえアレは見たかーねーけど」
ランがよたよたと座り込む誠を助け起こした。だが、誠の視界には彼女の姿は映っていなかった。誠はふらふらと体勢を立て直しながら立ち上がる。そしてかなめとアメリアに向かってゆっくりと近づき始めた。
「何?私にアレを見せたいの?ちゃんと見てあげる♪」
アメリアは大人の余裕でよたよたと近づいてくる誠を待ち受けた。
「さいおんじしゃん!」
突然目の前に立つふらふらの誠に魅入られてかなめはむきになって睨み返した。
「は?なんだよ。アレを見せるのか?しっかり見てやるから安心しろ」
そして突然誠の手はかなめの胸をわしづかみにした。かなめはその出来事に言葉を失う。
「このおっぱい、僕を誘惑するらめに、おっきくらったって、アメリアらんが……」
誠の言葉に自分の胸を揉む誠よりも先にかなめは視線を隣のアメリアに向けた。明らかに心当たりがあると言うようにアメリアは目を逸らした。
「らから!今!あの……」
「煮え切らねえ奴だな……脱ぐなら早く脱げよ。アタシとしてはそっちに興味が有るんだから……でも簡単に見る方法はオメエを気絶させて脱がせた方が!」
そう言って延髄斬りを繰り出すかなめだが、いつものパターンに誠はすでに対処の方法を覚えていた。加減したかなめの左足の蹴りを受け流すと、今度はアメリアの方に歩み寄った。
「おお、今度はアメリアか……」
かなめは先ほどまで自分の胸を触っていた誠の手の感触を確かめるように一度触れてみた後、アメリアに近づいていくねじのとんだ誠を見つめていた。
「何かしら?私はかまわないわよ、かなめちゃんみたいに心が狭くないから」
アメリアの発言に部屋中の男性隊員が期待を寄せたぎらぎらとしたまなざしを向ける。それに心震えたと言うようにアメリアは誠の前に座った。
「あめりあらん!」
完全にアルコールに支配された誠を余裕を持った表情でアメリアは見つめた。だが、誠は手を伸ばすこともせず、途中でもんどりうって仰向けに倒れこんだ。
「大丈夫?誠ちゃん。私の前で脱ぎたいの。じゃあ脱いでいいわよ。見てあげる。自慢のアレを」
拍子抜けしたアメリアが手を貸した。だが、その光景を見ている隊員達はわざとアメリアが誠の手を自分の胸のところに当てようとしているのを見て呆れていた。
「らいりょうぶれす!僕はへいきらのれす!」
そう言うとアメリアを振りほどいて誠は立ち上がった。だが、アメリアは名残惜しそうに誠の手を握り締めていた。全男性隊員の視線に殺意がこもっているのを見てランですらはらはらしながら状況を見守っていた。
「ぜんぜん大丈夫に見えないんだけど……部屋で休んだほうがいいんじゃないの?そして部屋でじっくり見せてね、アレを」
アメリアは嬉しそうにそう言うと誠の手を取った。
「こいつ……部屋に連れ込むつもりだよ。そのまま寝技に持ち込むつもりか?なんて言う奴だ」
かなめに図星を指されてアメリアが怯んだ。だが、誠はふらふらと部屋を出て行こうとした。
「どこ行くのよ!誠ちゃん」
「ああ、カウラひゃんにあいさつしないと……こうへいらないれひょ」
かなめとアメリアは顔を見合わせた。こんなに泥酔していても三人の上官に気を使っている誠に、それまで敵意に染められていた周りから一斉にもう酔った状態でまで隊の『問題児女子三名』に気を遣う誠に同情の視線が注がれることとなった。
「なんだ、『許婚』である僕の事は放置か……今日こそ神前曹長の童貞が奪えると期待していたのに」
かえでは自分が誠に無視されたことに不服そうにそう愚痴を言った。
「かえで様。誠様は素面の時に真剣な表情でかえで様に迫りたいと深層心理で思っているのです。その辺は医師資格を持つ私が言うのですから間違いありません。酔った勢いで記憶も残さないような行為など意味が有りません。お二人にはその場の雰囲気にふさわしい交わりが必要かと思います」
リンはそう言ってかえでを慰めた。
「なるほど、そうなのか。良く気が付くな……かわいいよ、リン……」
かえではそう言うとリンを強く抱きしめた。
「かえで様……」
リンはかえでの手を自分のスカートの下へ導こうとする。
「ここで発情するんじゃねー!」
そんな二人の頭を叩いたのは純情なランだった。
「それにしても……神前。一々いつも護衛している女全員にあいさつする気だよ……苦労してんだな。なんだかアタシは泣けてくるよ、ここまで来ると……」
ランはそう言いながら他人事のように誠達を見つめていた。
「おい!上官だろ?介抱ぐらいしろよ」
かなめの言葉にランは首を振ると騒動から巻き込まれまいとランのお酌係に身をやつしたパーラの酌で注がれたお猪口の酒を飲み干した。
「大丈夫なんじゃねーのか?いつもはオメー等にKOされて言えなかった神前の本音も聞きてーしな」
明らかに他人を装うランにかなめは頭を抱えて自分の行為を悔いた。
「それにちゃんとテメーの尻はテメーで拭けよ。知らねーぞ、あいつカウラにも同じことするつもりだぞ。そうなりゃこういうことに免疫のねーカウラだ……まあアタシはかまわねーけどな……カウラにはギャンブル依存症という致命的な欠点があるがアメリアや西園寺や日野や渡辺に比べたらはるかにマシにアタシには見える」
ランの言葉にかなめとアメリアは目を見合わせて立ち上がった。
「カウラひゃん!」
そんな誠の声にかなめとアメリア、そして野次馬達は階段を駆け下りた。壁際に水を入れた瓶を持ったカウラを追い詰めて立つ誠。その姿を見て飛び掛ろうとするかなめをランが引っ張った。
「野暮なことすんな」
そう言うと先頭に立ち階段に伏せてランは二人を見つめた。アメリアもその意図を悟って静かに伏せていた。
「なんのつもりだ?神前。私もクバルカ中佐と一緒で貴様の裸には興味が無い」
カウラは冷たい調子で言った。だが、かなめもアメリアもその声が僅かに震えていることに気がついていた。完全に傍観者スタンスのサラがアメリアの顔を覗き込んだ。
「どうですか、クラウゼ少佐。このまま神前君はがんばれますかね」
「いやー無理でしょう。彼はどこまで言っても根性無しですから。根性があれば……」
ルカの言葉に思い出されたさまざまな自分の誘いのフラグをへし折ってきた誠の態度にアメリアはこぶしを握り締めた。
「僕は……僕は……」
「僕がどうしたんだ?飲むか?水」
そう言うとカウラは誠の頭から氷水を無表情のままでかけた。野次馬達の目の前には、誠でなく自分達を見つめているカウラの冷たい視線が見えた。
「つっ!つっ!つっ!冷たい!」
思わず誠は、カウラの身体から手を離した。同情と自責の念がその場を支配した。思わず自分達の想像した破廉恥な場面に照れながら野次馬達は立ち上がった。
「アメリアと西園寺。いい加減こういうつまらないことを仕組むの止めてくれないか?貴様等は男性経験が豊富ということでその事実を私に見せつけたいらしいが…私には不要だ。このような遊びで神前を弄ぶのは止めた方がいい」
かなめ達と違って下心の無いカウラは真顔でそう言った。
「そうだ!止めろっての!」
自分が攻撃対象になると悟って立ち去ろうとするかなめとアメリアの手を掴んで拘束するルカと菰田。かなめとアメリアが振り返った先では彼女達を見て囁きあう隊員の顔が見えた。かなめもその攻め立てるような視線に動くことが出来ずに立ち往生していた。
「なにするのよ!菰田君!」
「離せ!」
ばたばた足を持ち上げられて長身のアメリアは暴れた。カウラは二人を簡単に許すつもりは無いというように仁王立ちした。
「わかったから!今度から誠ちゃんで遊ぶの止めるから!」
「無理に脱がすのは止める!だから離せってーの!」
かなめの懇願にかなめを押さえていた菰田は、その手を離した。カウラはそれだけではなくそのままかなめ達のところまで歩いてきた後、野次馬組を睨みつけた。
「まったくオメー等がはっきりしないのがいけねーんだ……って、寝てやがるぞ、あいつ」
そんなランの言葉にかなめとカウラは誠に目をやった。誠は酒に飲まれて倒れこんだまま寝息を立てていた。
「風邪引くからな、そのままにしておいたら。アメリア、カウラ、西園寺。こいつの体を拭いて部屋に放りこんでこい。それとあくまでつまらねーことはするなよ。コイツが自分から脱いだんならそれはこいつが馬鹿だからで済むが強制的に脱がすのはわいせつ行為だからな。それは完全なパワハラだ。そんな行為をする部下を上司として放っておくわけにはいかねー。確かに首にするのはもったいないけど隊員の査定は二次審査はアタシがやってるし最終審査の隊長はただ判子を押すだけだから……来季の昇給と夏季賞与が減っても文句は言えねーわけだ」
頭を掻きながらランはそのまま呆れたような顔をして特級酒を求めて図書館へと帰って行った。
「結局これか……何かというと『査定』の一言でアタシ等が言うこと聞くと思ってやがるんだ!あの餓鬼は‼上等じゃねえか!やれるもんならやってみろ!」
かなめはそう叫ぶと、苦笑いを浮かべるカウラに目をやった。
「私は困るな。西園寺のように荘園からの収入で生活費のほとんどをあてがっている訳ではない」
カウラは冷たくそう言い放つ。
「そうねえ、私もかなめちゃんみたいな甲武の殿上貴族じゃないから。給料と『ラスト・バタリオン』に与えられるゲルパルトの国家補償だけで生きている身だもの。その給料が減るのは痛いからかなめちゃんには賛成できないわね。ここは黙って誠ちゃんを部屋まで運びましょう」
カウラとアメリアの同調が得られないと知ったかなめはがっくりとうなだれて誠の頭を持ち上げた。カウラは腰、アメリアは足首を持ち上げてそのまま誠の部屋を目指す。
その様子を、かえでとリンは指をくわえて見守り、一人未成年と言うことで酒を飲まされなかった素面のアンは静かに見守っていた。
誠にとって幸運だったのはこの危険な『18禁小隊』の面々が誠を見つめながらその脳内で望んでやまない欲望を実行に移さなかったことだけだと言えた。




