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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と魔法少女  作者: 橋本 直
第八章 『特殊な部隊』と脱線

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第28話 酒とすれ違い

 隊の『選挙事務所』の撤収を済ませたアメリア達は、『会議室』、『図書館』、『資料室』などと美化して呼ばれることが多い司法局実働部隊男子下士官寮の壁を三つぶち抜いて作られた部屋に集合していた。


 真新しいここ東和では珍しいブラウン管では無い超巨大薄型モニターが汚いシミだらけの寮の壁と不釣合いな清潔感をかもしだしていた。


 周りには通信端末やゲーム機、そして卑猥な漫画やヌード写真集が転がっている。


 この部屋はアメリアの寮への引越しによりさらにカオスの度合いが高まっていた。


 以前は男子寮らしい男性向けのエロ関係の雑多なものの集積所だったこの部屋は、アメリアが持ち込んだ大量の乙女ゲームや女性向け18禁同人誌のせいで、ついには彼女の部下である運航部の女性隊員まで、アメリアに小銭を払ってそれを借りに通うようになった。


 それでも時々見回りに来るランがそれに何も言わなかったことで調子に乗ったアメリアはより小遣い稼ぎを効率よくするためにさらにコレクションを増やし、女性向けのあまり人には言えないような物まで運び込むので、格納スペースが足りなくなったため、寮長の島田の提案で拡張工事により広さが倍になった。


 その結果、今度は男性隊員のゲーマー達が、自室には置けないような大スクリーンでゲームをしたいと言い出したためそれを寮生の募金で購入すると言う循環を経て司法局実働部隊の行きつけの焼鳥屋『月島屋』と並ぶ『特殊な部隊』の隊員達にとっての私生活における一大拠点に成長していた。


「カウラ、最近この部屋について騒がないのね。前は『風紀を乱す』とか『貴様等には恥の感覚は無いのか』とかいろいろ言ってたのに。かえでちゃんが来てからあの子好みの過激な同人誌の割合が増えてるのに……うちにもいるのよ『かえでちゃんとお付き合いしたい』とか言ってる女子が。まあ、私が『かえでちゃんは誠ちゃんのものだから』の一言で抑えてるけど……かえでちゃん。あの子達とかえでちゃん好みの変態プレイ抜きでデートくらいならしてあげてくれないかしら?まあ、それよりかえでちゃんがその子達を通じて売ってもらってる『薄い本』のお金が結構おいしいから別にどうでもいいんだけどね。それよりその子達が欲しいって言って来るかえでちゃんの好みの本って結構プレミアモノが多くて結構な出費になるのよ。かえでちゃんの好みはうるさいから結構以前に出た伝説の一冊とかをネットオークションで探すのに手間がかかると言ったらいい金額で手数料をくれるから私としてはうれしいんだけど」 


 部屋に入るとすぐに端末を占領してゲームを始めようとしたところをルカに止められて不機嫌そうにしていたアメリアがそう言いながら端末の電源を落した。カウラは最初のうちは野球部のミーティングをここでやろうとするアメリアやかなめを露骨に軽蔑するような目で見ていたが、今では慣れたというようにたまに山から崩れてきた女性向け18禁同人誌の山やゲームカセットを表情も変えずに元に戻すくらいのことは平気でするようになっていた。


 だが、この部屋に慣れていない住人も居た。


 この部屋に入るのが今日が初めてと言う日野かえで少佐と渡辺リン大尉だった。二人ともアメリアから誠もうんざりするような過激表現で絶対商業ベースに乗ったらアウトになるような同人誌ばかりをアメリアとやり取りしている現場を機動部隊の詰め所で目撃している誠だが、二人がこのアメリアのそのかえでやリン向け同人誌の山を見て感心したような表情を浮かべている様をこうして目にすると少しばかりアメリアの神経を疑いたくなってきた。

挿絵(By みてみん)

「クラウゼ中佐。確かに彼女達が『私はこういう本が好きなんです』と言って持ってきてくれる本が嬉しいのは確かだが、この部屋がその出所だったんだね?それにしてもこの部屋にはいくつこういうものがあるんだ?君から購入した過激と銘打った薄い漫画もそうだが、こう言う物にもやはりあの無粋なモザイクとか黒い塗りつぶしが入っているのか?まったく東和と言うのは自由なようで自由では無いんだな……自由とはなんだか疑いたくなってくるな」 


 そう言ってかえではアメリアに手にした人妻もののハーレムエロゲームのパッケージを見せた。家宰のリンは照れながらちらちらとヌード写真が開かれたままになっている週刊誌に視線を向けた。そこにはきっちりと修正が施されていた。その様子にかえではがっかりと肩を落とすがそんなかえでを慰めるようにリンはその肩に手を乗せた。


「しょうがないじゃないの。法律は法律。かえでちゃんも軍人なんだから規則で決まっていることは守るのが当然ということくらい分かるでしょ?東和には貴族のサロンのような治外法権の特権階級だけに与えられた世界なんて無いみたいよ……ああ、もしかしたらお金持ちの間にはそう言う秘密の会合があるかも知れないし、かえでちゃんがこのままセレブの人達とお付き合いして信用を得られればそんなところにもお呼ばれかもしれないけど。まあそんな都市伝説的サロンなんて私みたいな一公務員とは無縁だけど長く東和に居ればかえでちゃんやリンちゃんの美貌ならそのうちお声がかかるかも知れないわよ?それよりかえでちゃん、その『クラウゼ中佐』っていう呼び方なんとかならないの?仕事が終わったんだからアメリアでいいわよ」 


 そう言いながらアメリアはパーラから渡された書類を並べた。


「そうか、じゃあ僕のこともかえでと呼び捨ててもらった方が気が楽なんだ。ちゃんづけは……ちょっと……」 


 そう言いながらかなめを見つめるかえでにかなめは身をそらした。


「ああ、お袋を思い出すのか。まあ、あの生き物の前じゃあの26歳の娘の居るアラフィフおやじの叔父貴も『新ちゃん』扱いだからな。あれはランの姐御と並ぶ宇宙最強の生き物だ。あの生き物には誰一人逆らうことは許されねえ。そう言うアタシも甲武陸軍の訓練を終えて非正規部隊の隊員として甲武を出られると聞いて一番に喜ばしかったのはあの生き物と長く会わずに済むってのも理由にあったくらいだからな」 


 そう言いながらすでにかなめの手にはラム酒の瓶が握られていた。誠は珍しく母の事を思い出し動揺して引きつるかなめの表情を見逃さなかった。噂に聞く西園寺康子。かなめとかえでの母にして部隊長嵯峨惟基特務大佐の戸籍上は姉、血縁では叔母に当たる人物である。薙刀の名手として知られ、あの嵯峨惟基を『稀代の奸雄』と呼ばれるまで鍛え上げた女傑だった。甲武でもその政治の裏で暗躍して糸を引き時には平然と法術を使って見せるその強さゆえに『甲武の鬼姫』と聞けば誰もが震え上がる女性だった。


「かなめちゃん!いきなりラムなんか飲み始めて!何持ち込んでるのよ!ここには真面目にサラとの選挙戦に勝つための作戦会議をする為に集まったの!いきなり酒なんてあんまりでしょ!集まる趣旨が変わってきちゃうじゃないの!いきなりは駄目よ!もう少し策を練ってからにしましょう!」 


 アメリアの言葉にかなめはムキになったように瓶のふたを取るとラム酒をラッパ飲みした。


「どうせまともな会議なんてする気はねえんだろ?それにあちらは今はサラ達は月島屋でどんちゃん騒ぎしているみたいだぞ。アタシの脳内のネット回線で連中の動きを傍受しているが、島田の奴がいつも通り酒を頼んだのがきっかけで収拾がつかなくなったらしい……というかあの頭の中身が鶏並みで、集中力もせいぜい鶏程度しか続かない島田にそんなに長時間にわたる票集め工作を指示し続ける事なんてできると思ってたのか?島田の馬鹿を買いかぶるのもいい加減にしろよ」 


 そう言うとかなめは珍しく自分から立ち上がって通信端末のところまで行くと襟元のジャックから通信ケーブルを端末に差し込んでモニターを起動させた。そこには時間を逆算するとまだ三十分も経っていないだろうというのに真っ赤な顔のサラにズボンを下ろされかけている西の姿があった。

挿絵(By みてみん)

「現在こんな感じ。それでもこの連中に勝つための会議とかやる必要あるのか?そんなの無駄無駄!相手がこんだけ油断してるんだったらこっちもそれ相応に油断してやんなきゃ不公平だろうが。それにしても……やばいな誠。脱ぎキャラがお前以外にも出てきたぞ。でも大丈夫だ、オメエのアレは西の三倍の長さと太さが有る。自信を持て!」 


 ニヤニヤ笑いながらかなめは誠に飛びついてヘッドロックをかけた。130キロ近いサイボーグの体に体当たりを食らって誠は倒れこんだ。


「西園寺……苦手だという割にまた通信傍受か。後で違法通信傍受の始末書を書け。任務での傍受は職務権限だが今貴様がやっているのは単なるプライバシーの侵害だ。これがクバルカ中佐の耳に入ればろくなことにならない」

 

 カウラは彼女らしい堅苦しい理屈をこねてそれを見ながら苦虫を噛み潰すような表情でわざとらしくいつもは手も出さないゲームのパッケージを手にとって眺めていた。かなめはもうすでにアメリアの言うような選挙対策会議なんかはするつもりはまるでないようでサイボーグの機能を利用してわざと肝臓の代謝を落として酔っぱらっていた。


 誠が何とかかなめを引き離して座りなおすとかえでがいつ火がつくかわからないと言うような殺気を込めた視線を送ってきた。『厚生局違法法術研究事件』やカウラの誕生日兼クリスマスパーティーと常に愛するかなめと『許婚』である誠から遠ざけられていると感じているかえでにとってその二人がいかにも仲良くしているのは自分だけがのけ者にされているようで不愉快なのだろうと誠はかえでの白いこめかみに青筋が立つのが見えるような気がしていた。誠は反射的に、ドアまでの距離を測った。


「なるほどねえ。かなめちゃんにしては良いことを言うじゃないの。どうせ相手は島田君だった。本気になるだけ私が馬鹿だったわ。これまでの選挙対策ももしかしたら島田君を完全に買いかぶっていただけなのかも。あっちが動いていないならこちらから何かを仕掛けるわけには行かないわね。ここはフェアプレー精神で行きましょう!というわけで方針変更!飲み会開始!」 


 あっさりとそう言ったアメリアだが、この部屋に居る誰もがこのままでアメリアが終わらないと言うことは分かっていた。


「おい、アタシのせいか?選挙に負けた時はアタシが煽ったからだなんて後で文句言ってきてもアタシは逃げるからな!まあ、アタシは飲むけどオメエ等は作戦会議とかやればいいじゃん。そうすれば勝利が近づくぞ?アメリアは意地でも『魔法少女』の物語が作りてえんだろ?だったら今のうちに動けば勝てるんじゃねえか?」 


 明らかに泥酔へと向かうようなペースでかなめはラム酒の瓶を空けようとしていた。だが、アメリアはただ微笑みながらその濃紺の長い髪を軽くかきあげて入り口の扉を見つめていた。

挿絵(By みてみん)

「あちらが動かないなら、こちらも動かない。それも策よ。それに島田君がああなったと言うことは私の予想は合ってたってこと。サラが島田君に泣きつくのは最初から計算通り。最初は島田君が本気を出すのも計算通り。そして今こうして島田君の集中力が切れるのも私の計算通り。だったら次は……ぜんぶ私の手のひらの上でサラは踊っているのよ。隊長も敵を追い詰める時はこんな気分だったのね……参考になるわ♪」


 アメリアは余裕を込めてそう言った。


「なんだよそりゃ?策になってねえじゃねえか。それは『無策』って言う策だ。策じゃねえ。それと島田をオメエがどう見てるか知らねえがアイツは結構やるとなったらやる男だぞ。今は休憩しているだけで、アイツは不死人だから、アタシ等が宴会を始めてオメエが酒でぶっ倒れている間に動き出して一気に挽回策を情報士官を叩き起こして命じることだってあり得るぞ?アタシとしてはあの不死身のヤンキーは殴っても殴っても立ち上がってくる面倒な奴だから敵には回したくない男を敵に回したんだ。それを覚悟しておけよ」


 かなめはアメリアの言葉に納得できないような顔でラム酒を飲んでいた。


「かなめちゃん、まあそれは冗談。でもかえでちゃんの協力でほぼこちらの勝利が決まったんですもの、今更動く必要なんてないわ」


 アメリアはあっさりとそう言うとリンと運航部の女子達が運んできた缶ビールを飲んだ。


「かえでの協力?なんだ?金でも配ったのか?日野家と言えば『金』だからな……オメエは嵯峨家の持ってる証券会社や信託銀行の金を好きに動かせる立場にある。その金を使ったか?何もそこまでやる必要あるのかよ……市の予算なんてどうせ数十万だろ?もうすでにこの人数を動員して選挙活動した時点で人件費だけでその金なんて外注してたら消えるぞ」


 不思議がるかなめにアメリアはいやらしい笑みを浮かべた。


「かえでちゃんが誠ちゃんに夜のお供用に毎週あげてる『許婚の真実』と銘打った動画を、うちの陣営に投票してくれた男性の中から抽選で三十名にプレゼントすると宣伝したのよ。当然、修正付きのデモ動画を付けて。そしたら野郎共の食いつきの良いことときたら……当然そんなのは噓なんだけどね。あんな無修正のエロ動画を配ってるとなったら犯罪でしょ?だから餌としてばらまいたわけ。中々に気の利いた策でしょ?びっくりした?本編は出してないわよ。あくまで『釣り餌』。男ならあの導入部を見てついうちの陣営に投票しちゃうように細工したプログラムが組み込まれているわけ。それをクリックすると急に画面が誠ちゃんのデザインしたかえでちゃんの凛々しいイラストが見られる……合法だし、ちゃんと素敵な門外不出の設定資料が見られるんだから騙された男性諸氏には感謝してもらわないと」


 アメリアのあまりの突然の策に一番驚いたのは誠だった。


「あれを出したんですか!修正付きとは言えアレはハードすぎますよ!あんなプレイ市販されてるAVでも無いような内容ですよ!アレを出したんですか!」


 誠は驚愕するしかなかった。そしてあの内容が修正付きとは言えネットでばらまかれてそれを誠が所持していることが公にされたことにあっけにとられていた。そしてそのプレイ内容のあまりに過激なことを知っている誠は修正付きとは言えそれがネットに流れたことに衝撃を受けていた。

挿絵(By みてみん)

「おい、神前。日野少佐からそんなものを毎週貰ってるのか?俺にも見せろよ……ただとは言わないから」


 動揺する誠に菰田が言い寄ってくる。


「なんで貴様なんぞのような汚らわしい男に僕達の美しい裸体が淫靡に乱れる姿を見られなければならないんだ?それにアメリアも言ったように今回のは釣りだ。僕の『許婚』として僕が認めた誠君以外の男は修正動画の導入部なら15秒分だけ投票バナーをクリックすれば見られるからそちらで満足していろ!まったく汚らわしい!」


 菰田は古参の隊員からだけでは無く、設立されたばかりの第二小隊のかえでからも嫌われていた。かえではすげなくそう言うと静かに自分用に持って来たワインを優雅にワイングラスまで用意してリンに注がせて飲んでいた。


「まあね。全編を見た私の感想から言うとかえでちゃんの画像はちょっと過激すぎるから修正が入った状態でも菰田君には刺激が強すぎるかも。それに今この場所に入りたくてしょうがない人がもうすぐ来るでしょうから。その人にかえでちゃんの無修正動画なんて見せるわけにはいかないものねえ」


 アメリアは余裕の笑みを浮かべてビールを手に『図書館』の出入り口に目をやった。 


「はあ?なんだそりゃ?」 


 かなめの言葉を聞くと誰もが同じ思いだった。アメリアが嵯峨に次ぐ食えない人物であることは司法局実働部隊の隊員なら誰もが知っていた。この場の全員の意識がアメリアが見つめているドアに集中した。


 ドアが少しだけ開いていた。そしてその真ん中くらいに何かが動いているのが見えた。


「ほら、あの姿かたちを見ればそれが誰かはこの場にいる全員が分かるわよね?今この場所に入りたくてしょうがない人……いつもは『仕事が人間形成の手段なんだ!』とか言いながら実は寂しがり屋で仲間外れにされるとすぐむくれて暴れまわるあの人よ♪」


 アメリアはドアの向こうにいる人物が誰だか分かっているようにそう言った。


「なんですか?もしかして……」 

挿絵(By みてみん)

 そう言いながらリンが扉を開いた。



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