第27話 大票田の行方
「それにしてもあちらに島田君が居るのは痛いわね……意外と彼は厄介よ。なんと言っても彼は技術部部長代理。菱川重工との付き合いも長いわ。それに技術提携しているメーカーの営業とも付き合いがある。彼の顔の広さは一種の脅威だわ。菱川重工とその傘下の下請け企業の従業員は合わせて約20万」
アメリアの言葉に誠は思わずペンタブを止めた。
「20万ですか?東和国防軍で最大規模の東和陸軍だって全隊員数30万ですよ!全員がこんな馬鹿なことに協力するわけじゃないんだから勝てっこないじゃないですか!」
自分の情熱が徒労に終わるかも知れないことに驚愕する誠だが、アメリアは冷静に情勢を分析していた。
「そうね、確かに数だけはそう。さらに同業他社で菱川に友好的な会社の従業員も含めたらそれ以上の数になるわ。この票田をいかに切り崩すかが勝利の鍵ね……ランちゃんは取締役は押さえているというけど、現場の意見というものは企業では結構意味を持つのよ。大企業は特にそう。大企業には必ずと言って良いほど労働組合がある。島田君と近しい営業クラスは管理職じゃないから当然、労働組合の組合員。島田君は気づかないけど隣で参謀を気どっていて労働組合の結成が西園寺内閣の成立でようやく認められた甲武出身の西君がその仕組みを利用しないわけがないわ」
冷静に情勢を読むアメリアの言葉だが、自分が追い込まれていることを悟った誠はその言葉に再びペンタブを手に取ると業務に集中しようとした。
「そうなると全東和の労働組合を敵に回すことになる……そうなると労働組合の中でも最強の勢力を誇る国の機関や地方自治体の職員を仕切る官公労連が敵に回るわね……その数20万。しかも結束は固い……敵に回すには怖い相手だわ……私は労働組合結成の権利の無い軍や警察しか知り合いがいないから妨害をかけるにも限度があるもの……難しい勝負だわ」
アメリアが独り言のようにつぶやいた。カウラとかえでの顔色が変わった。
あくまで自分の裸体が公衆の面前で晒されることにしか興味が無いかえでとリンが顔色を変えるのを見て誠もまた作業を止めてアメリアを見上げて自分なりの意見を言おうとした。
「島田先輩ですよね、問題は。納品で付き合いのある菱川重工を押さえるつもりですよ。でも菱川グループの入社すること自体が難しい会社の優秀な会社員がさすがにこんな遊びに全従業員が付き合うなんてことは無いでしょ?閑職に飛ばされた暇人が数人手伝って終わりじゃないですか?それに労働組合だってこんなつまらないことで組織力を利用するなんてことはしないでしょ?それほど選挙に……ああ、この東和共和国は国政選挙の投票率も5パーセント行けば総務省が大喜びするほど政治に無関心な遼州人の国だし、こういう『組織票』って案外、刺さるんですね?いつも同じ人がいつも同じ政党にしか投票しない。だから常に保革半数の取ったり取られたりの政権が400年間続いている……そっちの現実の方がこんなお遊びよりもよっぽど脅威なんじゃないですか」
そんな作業の合間に退屈まぎれに吐きだした誠の言葉にアメリアが呆れたような顔をしていた。
「菱川本体は別に気にしてないわよ。島田君がお願いしても島田君の知り合い以外はたぶんほとんど無視して来るでしょうね。まあ、島田君と仲がいい係長クラスの労働組合員は島田君の押しに負けて労働組合の幹部にこのことを教えるでしょうし、菱川の票田そのものも厄介だけど、怖いのは『労組ルート』で官公労連まで延焼することよ。労組は3か月前の衆議院選挙で会合とかをやってかなり綿密に連絡を取り合ってるから菱川の労組が属する『全工業労働者連合』と官公庁や地方自治体の職員の属する『公務員労連』がそれとなく前の選挙のねぎらいもかねて世間話ついでに広めてくれって島田君に菱川の労組の幹部に言われたら『公務員労連』の幹部が面白がってそれに乗っかって……官公庁は私の票田なの。そこを奪われたら勝機は無いわ!」
アメリアは爪を噛みながらそうつぶやいた。『菱川重工豊川工場労働組合』の支部長は『特殊な部隊』の保有するシュツルム・パンツァー05式のアクチュエーター開発を行っていた主任だと以前島田との雑談で聞いたことがあった。当然、労組専任になるまでは頻繁に島田とやり取りをしていたのは間違いないし、その時の恩義でアメリアの予測通り『労組ルート』での多数派工作を島田が思いついても不思議なことは一つも無い。
表情が硬くなるアメリアは島田の他の地盤を探そうと天井を見上げてため息をついた。
「まあ、そちらの方は島田君の動き次第ということであの馬鹿な島田君がその事実に気付かなければ何にも起きないけど、あの島田君陣営でも気が利く西君やすぐにその事実に気付いて島田君に告げ口してきそうなのは菱川グループの下請けの中小企業の方よ。中小企業には普通は労働組合なんて存在しないけど、経営者が独裁者を気どってるから島田君が受発注の権限を握ってる消耗部品を製造して中堅メーカー辺りは、島田君の機嫌次第で仕事が回ってくるかが決まるから間違いなく強制的に島田君の言うことを聞くわ。当然、そんな情報や根回しをしてやる、とその独裁者社長が言ってきたら島田君がそれに食いつかないわけはないもの。それを島田君が気まぐれなのは相手も知ってるでしょうからその場は誤魔化せても、菱川グループ労組が動くとなれば顔色をうかがって、結局はびくびくしながら投票に協力してくるでしょうから。そもそも菱川重工本体の従業員数は1万人ちょっとよ。その他は非正規雇用の有期作業員と残りが下請けの中小企業になるわけ。資金繰りの苦しい中小企業は次の受注がかかってるから相手の係長クラスの組合から圧力をかけられた受発注担当者の機嫌を取るために命がけで投票して来るからかなりまずいことになりそうよね。しょうがないわよ。それにあちらが軍と警察だけに限定していた範囲を広げるならこちらも攻勢をかけましょう!」
アメリアは笑顔で菰田の耳元に何かを囁いた。
「マジですか?どこに攻めるんです?労組やうちが発注を出してる中小メーカーの票はほとんど島田の野郎に握られてるんですよ?さらに労組関係となると官公庁にまで島田の影響力は及んでいると考えるのが普通ですよ。そうなると……工業系以外の企業ですか?そんな人員うちには居ませんよ。それにあと票田としてカウントできると考えられるのは農協や漁協ですが、漁協はもうすでに『釣り部』経由でかなりの票は固めてますよ。まあ、関係する人間の数が島田の抑えてる人間の数が少なすぎてあっちとは比べ物にならないんでどうしようもないですけど。数を稼ごうとすれば農協……あそこに手を出すのは手間ですよ」
苦笑いを浮かべながら菰田はそうつぶやいた。今後投票してくることが予想される工業系企業の労組をバックボーンとした票の数を考えれば敗北は誰から見ても明らかだった。
しかし、アメリアには余裕のある表情があった。
「大マジよ!選挙なんて言うものはどんな手段を使っても一票でも多く票を取った方が勝ち!これって間違ってる?それが民主主義でしょ?どんな手段を取ってもうちが選挙で勝てば民主的な平和な解決策を示したヒロインとしてアタシは称賛されるわけ。分かった?」
菰田の顔色が変わったのを見て誠はそちらに目を向けた。そんな彼の視線を意識しているようにわざと懐からディスクを取り出したアメリアは菰田にそれを手渡した。
「なんだそれは?アメリア……貴様のことだ。選挙で勝つためには違法な手段の一つや二つ平気でやりかねない。どんな手段で手に入れたデータだ?答えろ」
場に流されるままのカウラが菰田が端末に挿入するディスクを見つめた。そのディスクのデータがすぐにモニターに映し出された。そこには数知れぬ携帯端末のアドレスが並んでいた。カウラはそれを見てさらに頭を抱えた。
「それって……」
誠はそのディスクにアメリアの悪意を感じてその中身を知りたくなった。
「ちょっとした魔法で手に入れた同志達の端末のアドレスよ……同志だもの。投票する機会からのけ者にされていた人たちの自分達にも投票権があると教えてあげることが悪いことなの?投票率低い国だし、こういう『組織票』って案外、効くわね。地方自治体に至っては立候補者が足りなくて地方議会の議員が常に足りない。そんなこの国の状況に危機感を募らせている私の同志に私の志に同調する機会を与えてあげただけよ!しかも彼等のほとんどの職業が『ニート』!だから島田君の影響下の労組がいくら騒ごうがこの票田だけはどうすることもできない!これこそが私の独占票田だわ!」
『ニート』票。
何事も無いように答えるアメリアに誠は開いた口がふさがらなかった。非合法活動のにおいがぷんぷんする個人データにしか見えなかった。こういうことなら技術部の情報士官達の真骨頂が見れるのだが、さすがの彼等もこんなことではハッキング活動をするほど汚くは無かった。
「どうやって集めた?オメーの同人ゲーム買ってる顧客の個人情報でも収集したのか?それは場合によっては刑事事件モノだぞ!これはあくまでアタシ等の市への協力行事の一環だ。捜査や軍事行動じゃねーんだ。無茶をして千要警察の取り調べを受けるのはアタシも御免だからな!」
ようやく気が済んだと言うようにこの『選挙事務所』に戻ってきていたランが厳しい顔でアメリアをにらみつけた。
「ランちゃんそんなに怖い顔しないでくださいよ。合法的な資料ですよ。私のサイトのメールマガジン登録者のデータですから。これもメールマガジンの一部のサービスってことで!たぶん私的なメールマガジンの発行者としては私はテレビに出てくるレベルの芸能人を覗けば五本の指に入るくらいなんじゃないかしら?もちろん登録時に『告知に使う』って同意も取ってるわ。解除もできるしね。そのアンケ―ド欄に職業を書くところがあるんだけどやっぱりほとんどが『ニート』だった。この国の『ニート』の女王として、彼女・彼等の先頭に立って戦うのが私の役目よ!他にもまあ、アタシの知り合いにもテレビに出てる中堅芸人は結構いるし、彼等には時々会ってて色々アタシの趣味に関することでファンにアプローチしてくれるように私の方が先輩後輩の序列を理由に圧力をかけてるのは事実だけど……そんなことは刑事事件にはならないわよね?」
それでも一応は個人データの流用をしてはならないと言う法律がある。そして芸歴が自分より下で今でもアメリアの言うことなら何でも聞くからと有名人のその知名度を生かしてその所属事務所を通さずに動くことは明らかにその有名人とアメリアによる暴走としか言えない。それを思い出して誠はため息をつくしかなかった。さらにアメリアの趣味の一つにゲーム攻略があった。女性向けだけでなく男性向けのデータも集めたその膨大な攻略法の記されたページはその筋の人間なら一度は目にしたことがある程の人気サイトになっていた。アメリアならばそのサイトの知名度を生かしての広告宣伝行動にすら平然と手を染めかねないことは容易に想像がついた。そしてその登録者の職業はほとんどが『ニート』だった。
そしてアメリアは隠し球はそれだけではないと言うように携帯端末から電話をかけた。
「今度は電話か?何をする気だ?どう見ても貴様の行動は全ての法律を鑑みてグレーゾーンと言わざるを得ない。我々が司法局と言う遼州圏の司法執行機関を統括する組織の従事者であることを思い出すべきだな」
カウラはそう言って誠を見つめた。
「あ、私よ。例のプロジェクトが発動したわ。今こそ中佐への忠誠を見せる時よ。情報の提供頼むわね」
そう言うとアメリアはすぐに通信を切った。
「誰にかけていた?」
嫌な予感がするという表情でカウラはアメリアに尋ねた。
「あの『ランちゃん親衛隊長』の小夏ちゃんよ。彼女のSNSって結構人気が有るのよね。その媒体を使って宣伝してもらおうって話。宣伝媒体を増やすのも勝利への不可欠な条件だわ!小夏ちゃんは焼鳥屋の娘だけあって鶏の処理方法については色々知ってるでしょ?小夏ちゃんはお店の宣伝もかねておいしい鶏肉の料理法のアカウントでフォロアーをたんまり抱えているのよ。主な層はいわゆる主婦層やおひとり様女子で食に興味のある女子層に働きかけようというわけ。この層は公的組織には所属してないから島田君も手が届かないでしょ?相手の手の届かない票を掘り起こす。選挙の必勝法よ!」
カウラの問いに即答するアメリアに誠は感心するより他になかった。小夏はランの手下となっていた。その上下関係をアメリアは上手く利用するつもりだった。
サラは『人間皆友達』と言うおめでたいキャラである。だが、ランの名前をちらつかせてアメリアが小夏にアプローチをかけて寝返らせたと言う光景を想像しまった誠は、ただこの状況を見なかったことにしようと目の前の絵に没頭することにした。
「勝てるわね。所詮、島田君がどうこうできるのは会社とか組合とか社会的世間体だけで規定される世界の話だけだもの。今回の投票は個人の意思で出来る。となればより個人の自由意思が働くと考えるべき。ソフト面でも上を行ったし、その守備範囲でも島田君を超えた。もうすでに負けようが無いわ!」
勝利を確信しているアメリアは満足げにうなずくとそう言った。
「まあ勝つだろうな。勝ってもまったく自慢にはならないが。そもそもこんなことは本務の片手間にする事だ。こんな選挙事務所の真似事のようなことをしてまで勝つ必要を私は感じない」
余裕の表情を浮かべるアメリアをカウラはあきれ果てたという感じで眺めていた。
そんな二人をしり目に菰田はキーボードを叩いていた。
「菱川重工……なんとか陥落だけは防ぎましたよ。あっちはあっちで05式の宣伝で神前の野郎を使ってる手前、神前が絵師だと知るとこちらにも遠慮があるんで下請けに圧力をかけるのはやめるそうです」
そう言って菰田は伸びをした。勝利が見えてきたことに誠は喜んでいいやら悲しんでいいやら複雑な表情を浮かべていた。
「よし!勝った!菱川が動かないんなら他のメーカーも動かないわよ!島田君、残念だったわね!」
アメリアが勝利を確信したように叫んだ。
「さっきから気になってたんだが……物語はどんななんだ?選挙戦よりそちらの方が重要だと思うんだが……目的は選挙に勝つことではなく映画を作ることのはずだったのだが……」
カウラはアメリアが描いたキャラクターの設定資料の束をサラの隣の机から取り上げた。そして一枚目のページをめくった。
「南條小夏。南條家の姉妹の妹。中学2年生」
そのページに書かれた文字をカウラは棒読みした。
「そうよやっぱり魔法少女は中学生じゃないと!」
カウラの言葉にアメリアは胸を張って答える。そんなアメリアを完全に無視してカウラはさらに読み進めた。
「魔法の森の平和を守る為にやってきたグリンに選ばれて魔法少女になる……魔法の森って、ありきたり過ぎないか?もっと具体的な何かを暗示させるような名称の方が良いと思うんだが。私が読んでいるファンタジー作品だと古代ルーン神話などから名前を引いてくることが多いぞ」
そこでカウラはアメリアをかわいそうなものを見るような視線で眺めた。だが、そのような視線で見られることに慣れているアメリアはまったく動じる様子が無かった。
「おてんばで正義感が強い元気な女の子……まあアレも女の子だな。背と胸が小さいことを気にしている」
ここまでカウラが読んだところで会議室の空気が緊張した。だが、カウラはさすがにこれに突っ込むことはしなかった。しかし、胸を気にしていると言うことを自ら認めるほどカウラは愚かではなかった。
「勉強は最悪。かなりのどじっ娘。変身魔法の呪文はグリン……グリン?ああこの絵か。魔法熊?熊ってなんだ?まあいいか、が『念じればかなうよ』と言ったのに変身呪文を創作して勝手に唱える。しかも記憶力が無いので毎回違う……なんだそりゃ?」
喫煙所から帰って来たかなめはカウラから台本を奪って目の前にかざすと設定欄を見て呆れたようにそうつぶやいた。
「そうでしょ?やっぱりヒロインはドジっ子じゃないと」
アメリアはそうはっきりと断言した。
「別にドジっ子じゃなくてもいいんじゃね?それに戦うんだろ?ドジに戦場に居られても邪魔なだけだ」
戦闘経験の豊富なかなめからすればドジっ子の戦士など役立たず以外の何物でもなかった。
「かなめちゃんはあまりに現実的ね。これはフィクション。お話よ。面白ければそれでいいの。あれでしょ、かなめちゃんがかえでちゃんを責める時も自分が気持ちよくなるように誘導するんでしょ?それと同じ」
かなめの言葉にアメリアはそう反撃した。
「アタシは……確かにアイツにはアタシを気持ちよくするように強要してるな。まあ仕方が無いか」
二人のこの奇妙な会話に誠はただ笑いをこらえるのに必死だった。だがその我慢もすぐに必要が無くなった。
「よう!元気してたか?」
突然会議室の扉が開き、入ってきたのは嵯峨だった。雪駄の間抜けな足音が会議室にこだまする。
「隊長、なんですか?今手が離せないんで、仕事が有るんなら後にしてください!」
菰田の作業を注視していたアメリアが顔をあげた。嵯峨は頭を掻きながらそれを無視すると義娘のかえでなどを眺めながら誠に歩み寄った。
「やっぱり、お前はたいしたもんだなあ……神前の絵はいつものアメリアが無理やり描かせてる卑猥な画像と違ってこうして一般にお見せできるのを描かせても一流だな。なんで美大を目指さなかったの?やっぱり理系の方が就職に有利だとか考えてた?だとしたらご愁傷様だな。うちみたいなところしか引き受け先がなかったんだから」
誠の書き上げたイラストを嵯峨はしみじみと見つめた。
「叔父貴がなんで居るんだ?そんなに暇なのか?隣のハンガーの奥に封印されている『全自動温泉卵製造器』としてしか役に立たないシュツルム・パンツァーの調整とか仕事はいくらでもあるだろうに」
かなめはつっけんどんにこの歓迎されざる客にそうツッコんだ。
「仲間はずれかよ、傷つくなあ。一応、俺はここの隊長だぜ。もうちょっと敬意を持ってもらいたいもんだけどな。それにその機体『武悪』は後は置いとくだけ。あんなの役に立たないって甲武の泉州コロニーに打電したら、まあそうでしょうねとあっさりした返答だよ。アイツ等もアレが使い物にならないのは知ってたんだ。まったくひどい話だよ」
嵯峨はそう言いながらふらふらと端末を操作している菰田の方に歩いていった。
「あちらはサラが空回りしていたけどこっちはかなり組織的みたいだねえ。神前が絵を描いて、それをルカが加工して、菰田がネットに上げる。普段の仕事でもこういうチームワークで効率よく仕事をしてくれると助かるんだけどね。お前さん達『俺が俺が』って自分ばかり良い目を見ようと必死だからそう言う意欲が少ない神前がおいしい思いをするんだ。その辺分かってくれると嬉しいな」
そう言うとアメリアが立ちはだかって見えないようにしている端末のモニターを、背伸びをして覗き込もうとした。
「一応秘密ですから。敵に寝返る可能性のある人物にはお見せできません!」
アメリアに睨みつけられて肩を落す嵯峨はそのまま会議室の出口へと歩いていった。
「ああ、そうだ。一応これは本職じゃないから、あと30分で全員撤収な。役所も最近じゃ労働時間管理にはうるさいんだ。その辺のことも考えておくように。ほら、窓の外を見てごらんよ。もうこんなに暗いの。冬は暗くなるのが早いな。というわけでよろしく♪」
そう言い残して嵯峨は出て行った。誠がその言葉に気がついたように見上げれば窓の外はすでに闇に包まれていた。
「え、五時半?うそでしょ?」
アメリアの言葉に全員が時計に目をやった。
「省エネ大臣の高梨参事が警告に来ないうちってことですかね。あの人が来てからさらに経費関係の無駄遣いは厳しく取り締まられるようになりましたから」
手だけはすばやくタイピングを続けながら菰田がつぶやいた。誠もこれが明らかに仕事の範囲を逸脱しているものだということは分かっていた。もうそろそろ配属6ヶ月を過ぎて、おそらくこの馬鹿騒ぎは嵯峨と言う中央から白い目で見られている危険人物が隊長をやっているから許されるのだろうとは理解していた。おかげで司法局実働部隊の評価が中央では著しく低いことの理由もみてとれた。
「じゃあ誠ちゃんとカウラとルカは撤収準備をお願い。ちょっと片付け終わったら付き合ってくれるかしら」
「アタシはどうすんだ?仲間外れかよ。覚えてろよ。そんなこと言うとオメエの映画の出演を拒否するからな!」
タバコから戻ってきたかなめが不機嫌そうに叫んだ。同じように菰田が手を止めてアメリアを見上げ、かえでとリンがつまらなそうな視線をアメリアに投げた。
「もう!いいわよ!みんな最後までやりたいんでしょ!じゃあ来たい人は着替え終わったら駐車場に集合!続いての活動は下士官寮でと言うことでいいわね!」
そんなアメリアの言葉に、全員が納得したように片づけを始めた誠はデザイン途中のキャラクターの絵をどうしようか悩みながらペンタブを片付けていた。
「途中みたいだが良いのか?」
カウラはそう言うと、誠の描きかけの絵を手に取った。何枚かの絵を眺めていたカウラの目がエメラルドグリーンの髪の女性の姿を前にして止まった。
「これは私だな」
そう言いながらカウラは複雑そうな笑みを浮かべた。『南條家長女』と誠の説明書きが入ったその絵の女性の胸は明らかにカウラのそれに似て平原だった。
カウラはそんな誠の反応を見ても無言で紙を戻し、咳払いだけした。
「神前……まあ良いか」
以前のカウラには聞かれなかったような明るい調子の声がしたのを確認すると誠は肩をなでおろした。




