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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と魔法少女  作者: 橋本 直
第七章 『特殊な部隊』と選挙戦

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第25話 加熱する選挙戦

「リアリズムとロマンの融合は難しいものなのよねえ、そんなことも分からないなんてサラにしても島田君にしても所詮は『バカップル』と言うこと。サラも私のエロゲやコントのネタを見て散々勉強してきているはずなのに少しも成長の跡が見えない。まあ、あの二人に進歩なんて言うものを期待すること自体が間違ってることなんだけどね」


 日本アニメ全般に造詣の深いアメリアの言葉には深みがあった。誠も感心したようにうなずいた。ただ、エロゲとコントの知識だけで、どうやってロマンを感じさせる合体変形ロボを成立させるのかという点については、誠にはついていけなかった。

挿絵(By みてみん)

「サラは島田君の技術屋魂にメロメロだから島田君の『メカニズム重視の合体ロボット』で妥協した結果……正直、華があるロボになったかというと合体部分がやたらと剛性を考えて厚みがありすぎたり、変形部分も度重なる変形を前提にする『リアル』の常識に囚われている島田君にはスリムなデザインなんかできなかった」


 アメリアは画面の中で動き回る確かにどこか野暮ったい雰囲気のロボを見つめながらそんなことをつぶやきつつ笑っていた。誠も確かに時々リアルな世界観が売りのロボットモノアニメがあまりも武骨な主役ロボゆえに人気が出ず『伝説の作品』とネットで騒がれているのは知っていたのでアメリアの言うことにも一理あるように感じられた。


「でも人気アニメの合体変形ロボってほとんどもし作ることは出来たとしても5分と戦闘に耐えられない代物ばかりなのは戦争をやったことがある軍人なら当たり前の話だもの。でも視聴者はかっこよければそれでいいわけだし、実際にそんなものに乗って自分が戦うことなんか考えてない!所詮技術屋の考えた剛性が勝って画面映えが死ぬという典型例ね!所詮島田君に出来ることはその程度!」


 アメリアは自信ありげな笑みを浮かべて一同を見回した。


「でも、それを言うなら私のアイディア以外の魔法少女も同じ。法術……魔法とよく似ているわね。例えば誠ちゃんの干渉空間はよく魔法少女ならバトル系ならシールドに、ラブコメファンタジー路線なら跳んで来たお茶碗を跳ね返したりするわけだけど、誠ちゃんも最初は一回その準備をしようとしただけで半日は寝込むようなことになった。もしそれを映画でやったら魔法少女がライバルと戦えるようになるまでに修行の時代が無茶苦茶長くなっちゃうわよね。つまり魔法少女の場合誠ちゃんのリアルを省いたら登場した時は少女だったのに魔法が使えるようになった時には少女と言うよりお姉さんになっちゃうという矛盾があるわけよ。たとえば……」 


「はい!お茶!」 

挿絵(By みてみん)

 長々とロマンとリアルの調整の難しさについての演説を始めようとするアメリアの後頭部にかなめが明らかにわざとこれ以上のへ理屈は聞きたくないという態度でポットをぶつけた。カウラの車での寮から隊への通勤の時に聞いても居ないのにその時のアニメの設定についてかなめに長々と演説をしてかなめをうんざりさせているアメリアの日常を知っている誠はそれをちらりと一瞥した後、小夏の演じる魔法少女のスカートのデザインをどうするか何度か描き直す作業を続けていた。


 あからさまなかなめの嫌がらせに振り向いたアメリアだが、かなめはまるで知らないと言うように手を振るとテーブルにポットと急須などのお茶セットを置いた。


「まったく……痛いじゃないの!本当にかなめちゃんはガサツなんだから!とりあえず私は良いからこの選挙戦のカギを握るキャラクターデザインを担当している神前(しんぜん)先生に入れてあげて!今回の選挙も島田君のメカの構造にこだわる系のコアなロボットファンの心を誠ちゃんのセクシーな魔法少女キャラ群で奪い取ってこそ意味があるものなのよ!そんなことも分からないの?本当にあなたは電子デバイスの塊の脳がそのチタンの頭蓋骨に入っているのかしら?それにポットと茶筒を用意するだけじゃなくって実際にお茶を入れるくらい甲武一のお姫様でもそれくらいできるでしょ?以前は一人暮らしして自炊してたくらいなんだから……ってほとんど外食だったとか屁理屈を言うんでしょ?確かに寮で生活するようになってからいかにかなめちゃんが家事に向かないかはうんざりするほどわかってるから」 


 アメリアの視線の先には首をひねりながら小夏の役の魔法少女の服装を考えている誠がいた。スカートの白と青のコントラストは良いとしてそうなると杖の先に何かアクセントになるものが欲しい。誠はそんなことを考えながらこれまで見てきた数々の魔法少女アニメのヒロインたちを回想して悩んでいた。


「神前、これはアメリアのおふざけなんだからそんなに根つめるなよ。アレだろアメリア。とりあえずキャラの画像を作ってそれで広報活動をして、その意見を反映させて本格的な設定を作るんだろ?アタシも時々ネットで嫌でもアニメの企画ができるとキャラクターの活躍する一枚絵とか見ることになるけど、その第一報とかは線画だけのキャラクターの絵だったりとかそんなに力を入れて作ってるような絵にはお目にかかったことは少ないぞ。まあ、企画がデカくて相当金がかかってる大手のプロダクションが有名アニメ監督とかの大ヒットしないと会社がつぶれそうな企画なら別だけど、ワンクールで終わるような深夜アニメのキャラのデザインなんてこれなら神前の方が上手いってのばかりだ。その神前が描いてるんだ。それだけで十分じゃねえか。それ以上の何を望むよ?」 


 そう言ったかなめの手をアメリアは握り締めた。


「かなめちゃんもよく見てるわね。でも私の中では、これは大手アニメプロダクションが社運を賭けて作る一大企画なのよ!有名監督と作画監督を呼んで、二クールやって、その後は劇場版、さらに第二期……そういう長期展開で収益を見込めるコンテンツを目指してるの!だから、とりあえず魅力的なキャラをネットに上げて支持を集めるそれが目的!その為には安易な妥協は許されないの!作画崩壊なんてもってのほか!それに今回は私と『釣り部』にそっちの方に顔が利く人がいるからその人のコネで実写でやるから作画崩壊は起きないけど」 


 そのまま号泣しそうなアメリアにくっつかれてかなめは気味悪そうな表情を浮かべる。カウラは黙ってお茶セットで茶を入れ始めた。


「それにしてもさっきのかえでちゃんの何気ない言葉は良いヒントになったわ。『エロチックな敵キャラ』……確かに魅力的ね。これはお子様時間の為の子供向け作品にしろって言われてるわけじゃないんだから、ちょいエロくらいだったら市の担当者も許してくれるわよね?それに男の子向けの特撮モノの敵の女幹部とかにはよく元セクシービデオの女優さんとかが『脱がない』初めてのテレビドラマのレギュラーとかでお色気を振りまくようなキャラを演じるのはよくある話だし。ああ、たぶんあれはその女優さんの脱いでる時を知ってるお父さん層の視聴者の心を掴むための制作側の意図が見え見えなんだけどね」


 アメリアの業界事情にも通じている的確な指摘に誠は心の中で『それを言ったらお終いなんじゃないですか?』と言うツッコミを入れていた。

挿絵(By みてみん)

「誠ちゃん、かえでちゃんとリンちゃんのデザイン変更!かえでちゃんは鎧をへそ出しにしてリンちゃんのビキニアーマーはもっときわどいのに変更して!あの二人ならもっと過激なデザインを要求して来るでしょうけど、二人の要求にそのまんま応えちゃうとそもそも映画倫理的にアウトな可能性が高いからその辺は誠ちゃんの手加減で何とかしてよね♪」


 アメリアは選挙戦に勝つための必勝の策を誠に授けた。誠は元落語家で何人か今でもお茶の間に出てくるタレントとは遊びに行く中だというアメリアならではの業界の裏事情に通じた情報分析とその結果導かれた恥ずかしい絵を描かされるという事実に愕然としていた。


「アメリアさん。でも、このキャラ設定を見ると日野少佐の役って男性か女性か明らかにしないキャラなんですよね?へそなんて出したら当然上半身のかなりの部分が見えてきますからいくら日野少佐のシックスパックの腹筋が立派でもその細さとあの大きな胸から女性だって一発でバレますよ。それにリンさんのビキニアーマーはアメリアさんのラフの時点ですでにかなりきわどいので……これ以上やったら市の担当者から怒られます……それでもやるんですか?」


 誠はなんとか余計な作業を増やすまいと抵抗した。

挿絵(By みてみん)

「やるのよ!すべては勝利のため!選挙の時点でサラの合体ロボに負けちゃったら元も子もないもの!かえでちゃんが女性とバレる?別にいいじゃない。何か問題でもあるの?原作者の私が言ってるんだから別に問題はない。元々かえでちゃんは男でも女でもいける口……ああ、男は誠ちゃん以外は性玩具というのがかえでちゃんの思想だったわね。それにリンちゃんのは本当に大事な部分が隠れればそれで問題ないから。別に日曜の朝のお子様視聴者狙いのアニメを作ってるわけじゃないんだから昼の時間帯のテレビで出せるレベルのギリギリだったら何の問題も無し!さすがに深夜帯狙いのモザイクが必要なレベルになるとさすがにまずいけど」


 またもや難しい注文を出して来るアメリアに誠は苦笑いで返しつつペンタブを動かし続けた。


「そのギリギリのレベルを極めればあのリンちゃんの引き締まった身体を見れば市の担当者に向かって『これは芸術です!』と言えば分かってくれるわよ♪地方公務員の芸術理解なんて、その程度のものよ。『芸術』と言われれば途端に黙り込む。だって、あの人達、芸術なんて中学校の美術の授業で止まってるもの。だから、かえでちゃんに教えられた西洋美術の芸術論を展開すればあっという間に『私にはわかりませんけどこれは芸術なんですね』で納得してくれるわ。だから問題なし!」


 アメリアの言葉に迷いは無かった。誠は仕方なく、せっかく色まで指定し終えたかえでとリンのキャラの原画に手を伸ばした。


「でもすげーよな。本当によく考えてるよこれ。でもまあ……アタシは……日野と渡辺のをもっと目立つのに変えるんだろ?そうすると地味になるな。アタシとしては『魔法少女』とは『少女』であることが売りである以上、もうちょっとかわいいのがいいけどな……それかいっそのことアタシの理想通り『着流しの下に白い晒を巻いてビシッと決めて足は雪駄で白鞘を手にしたいかにも任侠な新感覚魔法少女』ってのを……お願いできねーかな?アタシはいつもそう変身するべく日夜練習を続けてるんだから」


 その存在自体がすでに『魔法少女』なランなので、常にランが変身したらどうなるかは頭にあったのですぐに描き上げることが出来たが、その当人であるランの理想とする『魔法少女』像は、どう考えても『魔法少女』ではなかった。


 誠には、それはやくざ映画の最後、敵の組事務所に一人で斬り込む渡世人にしか思えなかった。その驚愕すべきランの秘密の特訓の成果が現れた時に見せられることになる現実に驚かされてそれまで走っていたペンタブが止まった。 


「違います!というかランちゃんの理想の『魔法少女』は『魔法少女』とは呼びません!それは『健さん』と呼ぶ……というか、要するにランちゃんは『唐獅子牡丹』をやりたいんでしょ?それこそ暴力団対策が叫ばれている世の中で市の担当者の許可なんか絶対出ません!」 


 ランの言葉にかなめから離れたアメリアが叫んだ。突然のことにランは驚いたように目を剥いた。


「じゃあ、ランちゃんが言う通り『かわいいは正義』ということでデザインしたとしましょう。これは昔からよく言われる格言ですが、本当にそうでしょうか?かわいい萌え一辺倒の世の中。それでいいのかと私は非常に疑問です!かわいさ。これはキャラクターの個性として重要なファクターであることは間違いないです。私も認めます。ですが、すべてのキャラがかわいければよいか?その意見に私はあえてノー!!と言いたいんです!クバルカ中佐の売りは何ですか?かわいさですか?中佐は副隊長としてそのプリティーさで隊を率いてきたんですか?違いますよね?その力強さ!まさに『人類最強』という勇猛果敢な姿こそがクバルカ中佐の魅力なんです!そこには下手な衣装のかわいらしさなんてほとんど意味はありません!ただ、中佐の強さをそのまま作品の中に投入すると『この娘が居れば全部解決しちゃうじゃん』と観客が思うので、強さに関してはかなーりデチューンを施すことになりますが、強さこそが中佐の売りなんです!でも『唐獅子牡丹』や『網走番外地』のような強さは今のご時世許されないんです!ランちゃんも自重してください!」 

挿絵(By みてみん)

 こぶしを振りかざし熱く語ろうとするアメリアに部屋中の隊員が『またか』と言う顔をしていた。


「まったく世知辛いご時世だなー。敵の理不尽に耐えて、耐えて、耐え抜いて、耐え抜くことも限界に達したところで颯爽と白鞘を抜いてバッサリ!それが爽快なんじゃねーのか?それが法律一つで駄目なのか?アメリア……その目!そんな日野を見るような目でアタシを見るな!まーいーや。なんとなくお前の哲学はわかったけどよー、それよりなんでアタシはワルそのものなんだ?小夏の格好はどう見てもかわいらしいドレスだって言うのに。それと……」 


 ランが自分が書かれているアメリア直筆の設定画を手に取っていた。だが、アメリアは首を振りながらランの肩に手を伸ばし、中腰になって同じ目線で彼女を認めながらこう言った。


「これはセクシーな小悪魔と言うキャラだからですよ。わかりますよね?小悪魔チックで油断するといつ寝首を掻かれるか分からない油断ならない強力なライバル!良い感じでしょ?」 


 思い切りためながらつぶやいたアメリアの言葉にランは頬を赤らめた。


「ふーんそんなもんか……セクシーなら仕方が無いな。セクシーなら。うん」 


 ランのその反応にかなめは机を叩いて笑い出した。さすがのランも今度はただ口を尖らせてすねて見せる程度のことしかできなかった。


 その頃、誠はかえでとリンの衣装の変更をアメリアの方針に変更する作業を終えて、アメリアのデザインした怪物のような女キャラクターに手を付けようとした。


「あの、アメリアさん。この女性怪人、名前がローズクイーンってベタじゃないですか?見た目が薔薇っぽいから見た感じそう言う名前なんだろうなあとは思いますけど……それにクイーンって続くとこれまでそう言うキャラ居たんじゃないかって検索する観客が出てきてもおかしくないですよ。実際、僕だってすべての女怪人が出て来る物語を知っている訳じゃないんですから。たぶんこういう名前のこんなキャラはこれまで誰かが考えていますよ」 


 誠がそう言いながら差し出したのは両手が刺付きの蔓になっている女性怪人の設定画だった。


「そのキャラはあえてベタで行ったのよ。その落差が良い感じなの!それにそのキャラは東和共和国の商標登録でも取ってるの?取ってるんなら仕方ないけどそうじゃないんなら別に私がどう扱おうが私の勝手よ!」 


 ついていけないというようにカウラはアメリアの奇想天外な意見を聞きながら静かに自分の分のお茶をすすった。かなめとランはとりあえず席に座ってお茶を飲みながら誠とアメリアの会話を聞くことにした。


「でも良いんですか?月島屋にはお世話になっているのは認めますけど……これって女将さんの春子さんですよね、演じる人は?これ色は付けますけどほとんど裸の女性に頭が薔薇の花になってて棘だらけの手足が弦状になっているだけじゃないですか?こんな人前に出るのがはばかられるレベルではリンさんのビキニアーマーに匹敵するような恥ずかしい役を常識のある春子さんが受けてくれると思います?」 


 誠は涼やかな表情と胸などを刺付きの薔薇の蔓で覆っただけの胸のあたりまで露出した姿の女性の描かれた紙をアメリアに差し出した。


「すげーな、神前。さっきから雑談しながらペンタブを動かしてるだけなのにどんどん隣のアメリアの下手な絵が漫画家の絵みたいになってるぞ!まー、日頃の報告書もこんなペースで作ってくれるとアタシとしては楽なんだが……それはそれとしてよくそんな雑談しながら絵が描けるな」 


 感心したように声を上げたのはランだった。だが、アメリアはすぐにそれを手に取り真剣な目で絵を見つめていた。カウラの隣で黙っているのに飽きてアメリアの後ろに来たかなめがイラストを見てにやりと笑った。


「神前の言う通りだぞ。胸とか露出が多すぎだろ?春子さんはかえでやリンのような露出狂じゃねえんだから。これじゃあ春子さん受けないんじゃねえの?」 


 そう言ってかなめは誠の頭を叩いた。その手を振り払って誠は次のキャラを描き始めた。


「確かにこれはやりすぎだな……日野と渡辺は私が見ても分かるほどの変態だから問題ないだろうが、女将さんにこんなものを頼むというのはアメリアは女将さんも変態だと思っているのか?」 


 ランの手に握られた描きかけの女性怪人の絵をつい見に立ち上がったカウラも大きくため息をついた。


「これで行きましょう!あの人も元風俗嬢。男に裸を見られることくらいなんでも無いわよ!それにカラーリングとか合成とかで性的に見えるような部分を排除すれば何の問題も無し!とりあえず今は選挙戦で勝つために男性票を集めることが優先!選挙で負けたら何にもならないの!多少過激な企画を立てて、実際の放映の時はやたら大人しいアニメや特撮なんてよくある話よ!」 


 カウラの言葉をさえぎってアメリアが叫んだ。アメリアはその絵を複写して、パーラ経由でサラ陣営にも流した。


 いつもはふざけてばかりに見えるアメリアが、この時だけは本気で誠の手元を見ていた。


 票を取るための絵を描けるのは、自分しかいないのだと誠にも分かった。


 もう企画そのものを止める段階ではない。


 ならせめて、自分の担当する絵だけは負けたくない。


 誠はそう思ってペンを握り直した。


「とりあえず軍にはこれを流して宣伝材料にすれば結構票が稼げそうね。サラは女性キャラが苦手だから男ばかりでむさくるしい相手陣営の造形の崩れたサラが描ける量産型イケメンやちょっとどこかで見たことがあるようなヒロインキャラなんかは目じゃないわ!東和の各部隊の票はこちらが稼げるはずよ!あとは……」 


 アメリアはかなめに向き直った。そしてそのまままじまじとかなめを見つめた。その雰囲気にいたたまれないようにかなめは周りを見回した。だが、かなめの周りには彼女を見るものはほとんどいなかった。それどころか一部の彼女の視線に気がついたものは『がんばれ!』と言うような熱い視線を送ってきた。


「当然……そうだろうな……アメリアとのこれまでの付き合いであんなに『カモにしてくれ』と言っている女を見逃すわけが無い」


 もう呆れるを通り越して傍観者に徹することを決めたようなカウラの言葉が部屋に響いた。


 ただ一人かなめだけが、アメリアの視線に含まれた企みの色に気づいていなかった。


 誠は内心で、合掌した。


 いつもアメリアと同じように騒いでいるかなめが標的にされないわけはない。だが、かなめにはその気配を察する繊細さは無かった。



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