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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と魔法少女  作者: 橋本 直
第七章 『特殊な部隊』と選挙戦

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第24話 鉄火場となった『特殊な部隊』

「ああ、誠とかが仕事をしやすいようにお茶でも入れてくる人間がいるな。じゃあアタシが……やってやるよ……どーせ口が悪くて目つきも悪い、魔法少女失格みてーな魔法少女なんだろ?そんなどーでもいーキャラを演じることになるアタシにオメー等にしてやれることはこれくらいしかねーんだ。神前、仕事に集中しろ。菰田は電話をかけまくれ。まーアタシにできるのは、こうして部下の様子を見て回って、少しくらい力を貸してやることくらいなんだ。どーせ魔法少女としては噛ませ犬しか務まらねー役立たずにはこれくらいのことしか出来ねえもんな」 

挿絵(By みてみん)

 いつもなら怒鳴って終わりのはずのランが、自分で茶を入れに行こうとする。


 その不器用な気遣いが、誠には少し意外だった。


 ランはそう言って立ち上がろうとするかなめを押しとどめて、そのまま出て行こうとした。その明らかに不機嫌な様子にかなめは恐怖を感じてランの肩に手を伸ばした。


「ほー、アタシの代わりに茶を入れてくれるのか。出来た部下を持って幸せだな、アタシは。それにしてもでけー面してるな西園寺。悪いがアタシはさらに付け加えて気が短けーんだ。オメーさっき某コールセンターに違法なハッキング行為をしたな?コールセンター自体はその事実には気付かずにそのままオメーの言った通りの電話の文句を各地に電話しているみて―だが、さっき寄ったサラの選挙対策事務所の技術士官共にはその事実は丸見えだったんだ。このままその業務を押し続ければそのコールセンターの管理担当者もその要請がハッキングによるものだと気づくのは間違いない。また揉め事が一つ増えた訳だ。それもオメーの勝手な行動で。このまま往復びんた30発とボディーブロー30発で勘弁してやるけどいーか?……いつもの『(しつけ)』だ、分かってるな?この国のモデルにしている20世紀末日本の中小企業じゃ当たり前の話だ。こんなのはハラスメントとは呼ばねえ。分かってるな?」 


 ランはかなめの手を取ると思いもかけぬスピードでかなめの背後に周り首を締め上げる。物騒な言葉を吐きながらランの浮かべる笑みがその物騒な言葉と笑みに、騒ぎを見ていた誠は思わず身をすくませた。

挿絵(By みてみん)

「顔はやめて!アタシは女優よ!」 


 かなめはこの場ならギャグでどうにかなると考えたのか抵抗せずにそう叫んだ。


「お約束のギャグを言うんじゃねーよ!女優?オメーがいつ女優になったんだ?オメーの仕事はシュツルム・パンツァーのパイロットだ!それにあっさりと島田の配下の技術士官にそのハッキングを見抜かれるようなら公安機動隊の電子戦とサイボーグの戦闘能力のハイブリッド攻撃可能な人材というあそこの求めている人材像とも無縁な存在というわけだ!このままあの世に送ってやろーか?オメーが酒とたばこで無駄にしてる金を考えたらオメーの荘園の領民たちにはそのほーが幸せなのかもしれねーがな!」 


 そう言ってその場にかなめを引き倒したランだが、さすがにアメリアとカウラが彼女を引き剥がした。


「じゃあさっき言ってたアタシが茶を入れるという仕事の代わりをまずはやってくれ。とっとと頼むわ。丁度喉が渇いてるんだ。さすがにサイボーグだけあってオメーを組み伏せるにはアタシも多少苦労したんだ。苦労した上司には当然の報いとして茶の一杯もごちそうする……当然の話しだろーが」 


 そう倒れたかなめに言いつけるとランは誠の隣に座った。騒動が治まったのを知ってどたばたを観察していた隊員達もそれぞれの仕事に戻った。


 お茶を入れるために会議室を出て行ったかなめを見送るとランは好奇心満面の笑顔で絵に集中している誠に向って歩み寄ってきた。


 ランにいつも絞られているかなめが消えると会議室の空気がようやく少しだけ緩んだ。


 そこには見た目はどう見ても8歳の女児なのに、その目だけは現職の漫画家の作業をのぞきこむ同業者のように輝いていた。

挿絵(By みてみん) 

「でもすげーよな。本当に神前が描いてるんだな……すげー!おめーはうちみたいな武装警察よりもそっちの道の方が向いてるんじゃねーのか?なんでもオメーのお袋さんに聞いたところによるとギリギリまで理科大と武蔵美大を天秤にかけてたらしーじゃねーか。まー美大は専門の予備校に通ってデッサンとかの基礎を学ばねーと入れねーくらいの知識はアタシにも有るよ。でも、理系単科大学の最高峰と私立の有名美大を天秤にかけられるなんて随分と才能があるんじゃねーのか?」 


 気分を変えようとランは誠の絵に集中するさまを感動のまなざしで見つめている。


 からかわれているわけでも、無理やり描かされているわけでもない。ただ純粋に絵を面白がってのぞき込んでくるランの顔を見て、誠は少しだけ気が楽になった。


 誠はそんなランに見つめられながら今度は小夏の使い魔の小さな熊のデザインを始めていた。


「こんなの誰が考えたんだ?しかもマスコットが熊……アタシの知る限り使い魔ってのはフェレットとかちっこい生き物だろ?熊のちっこいのって……確かに遼南の地球人が来る前に居た遼州人以外の脊椎動物の代表が熊でその熊が地球とはけた違いにデカくて地球人達を驚かせたのが遼州人の留飲を下げたことで熊はこの東和でも人気があるのは分かるんだけどよー」 


 ランはそう言いながら後ろに立つアメリアに目を向けた。だが、ランは振り返ったことを若干後悔した。明らかな敵意を目に宿し、指を鳴らすアメリア。さすがのランもひるんだ様子で手にしたラフを落としてアメリアを見上げていた。


「あのー……そのなんだ……アメリア。目がこえーよ。オメーはそんなキャラだったのか?アタシが知ってるアメリアはもう少し間抜けだったぞ」


 アメリアの迫力に怯みつつランはそう言って一歩引きさがった。 

挿絵(By みてみん)

「中佐。ここでは私は『監督』とか『先生』と呼んでいただきたいですね。それと常に私に敬意を払うことがここでのルールです!この物語を仕切るのは私。そしてここは私の理想を実現するための選挙管理事務所。つまりここは私の城。中佐はそこに訪れてしまったただの偶然の訪問者に過ぎない……その事実……お分かりになっていただかないと困るんですよ。それが世の中の摂理というものです!」


 自信をもってランを威圧するアメリアの迫力に負けるランを目にして誠は思わず吹き出しかけた。 


「おっ……おう。そうなのか?ここはオメーの城なのか?確かに選挙戦ではその立候補者がそこの主なのはアタシにも分かる。ここのテーマはアメリアの発案によるものだから……まあ、アメリアが立候補者そのものでそれが一番偉いという理由も否定できねーのは事実だな……」 


 言い知れぬ迫力に気圧されたランが周りに助けを求めるように視線を走らせた。だが、この部屋にいるメンツは先月配属になったかえでとリン以外は夏と冬のフェスのアメリアによる大動員に引っかかって地獄を見た面々である。彼等がランに手を貸すことなどありえないことだった。


 明らかにランは戸惑っていた。いつも自身に満ちているアメリアだが、今日のそれはいつものそれを遥かに凌駕している。それは誠にとっては珍しくないがランには初めて見る本気のアメリアの顔を見たからだった。明らかに気圧されて落ち着かない様子で周りに助けを求めるように視線をさまよわせた。


「ちょっとクラウゼ中佐。見てくださいよ」 


 ようやくランを哀れに思ったのか、菰田はそう言うと会議室の中央の立体画像モニターを起動させた。そこには5台の戦闘マシンの図が示されていた。それぞれオリジナルカラーで塗装され、すばやく変形して合体する。


「ほう、これは島田君がサラに妥協したわね……兵器は構造が単純なのが良いんだってのが島田君の思想だから。島田君がバイクが昭和のバイクが好きなのは、下手な電子部品に頼らず機械動作で動く単純な構造だからだもの。単純な構造こそがベストと言うのが島田君の思想のはずよ。うちでもあの隊長の専用機の『武悪(ぶあく)』が来てからというものその文句がダダ洩れになってきてもううちも05式なんてシュツルム・パンツァーなんて止めてゲルパルトから最新鋭の飛行戦車を導入すれば整備班も全員楽になるとか言ってたもの。そもそも島田君は技術屋としてロボット兵器は可動部品が多すぎて戦闘には向かない役立たずという認識しかないんだから。そんな単純な構造の兵器こそすべての島田君がここまで派手な合体シーンを合理的に兵器として役に立つレベルを再現するという島田君のポリシーの上に展開できるようにするなんて……向こうも勝ちに来たわね」 


 誠も筆を止めて菰田の目の前の端末に投影されている島田企画の合体ロボットの変形合体シーンを見ていた。確かに、これまでの合体ロボットではどう考えても矛盾しているというかそんな設計をしたら装甲が薄くなるだろうとか、そもそもそんな板みたいな部品に動力系を仕込んだところで戦闘なんて不可能だろうというような所まで考え抜かれた完璧な現代の技術で矛盾なく合体変形が可能なロボット兵器が絶え間なく合体変形シーンを繰り返していた。


 島田は明らかに本気で整備班の総力を動員してファンタジー的要素の強い合体ロボをリアルの次元で表現してこれまでのアニメの合体変形ロボットの常識を打ち破ろうとしている。いくら彼女のサラにお願いされたこととはいえその拘りように誠は驚いていた。


 ふざけた選挙戦の一部でしかなかったはずなのに、その動画だけは本気だった。


 だからこそ誠も、絵で負けるわけにはいかないと思った。


 島田は勝負には必ず勝たねば意味がないと考える根っからのヤンキーである。誠は動画を何度も見るうちに、島田の本気を思い知った。ならば……尊敬する先輩である島田に対しての恩返しは全力で描いて、それを倒すことが最大の恩返しだ。誠はペンを走らせる手に力を込めた。

挿絵(By みてみん)

「妥協ねえ……そんなもの実際に合体ロボを作って戦場に送り出すわけじゃないんだから関係ないだろ?そもそもこの動画を見ても分かるが、変形・合体している時に攻撃を受けたらどうするつもりなんだ?反撃はおろか一番装甲が薄い部分に直撃を食らうことになる。というかこんなところにレールガンなどの高初速の質量弾の直撃を防げる装甲を設置したら重すぎて運用そのものが不可能だ。それにこれだけの装甲と合体変形に関わる無駄な部品の重量を考えてこの兵器は成立しているのか?そんな重量をもって現代の技術の重力制御式動力装置を導入すれば機動性は05式の比ではないほど目も当てられないものになるぞ。まったく理解不能な兵器だ」 


 真剣にそのメカを見つめているアメリアに冷めた視線のカウラがつぶやいた。そもそも合理的な思考の持ち主であるカウラには合体の意味そのものがわからなかった。アメリアや誠の『合体・変形はロマンだ!』と言い出して司法局の運用している05式の発売されたばかりのプラモデルの改造プランを立てる様子についていけない彼女にはまるで理解の出来ない映像だった。


 しかし、その割には最近のお気に入りのパチンコ台が完全に兵器としては破綻した設定の合体ロボットアニメを題材にしたものだということを指摘することは誠は控えてペンを走らせていた。



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