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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と魔法少女  作者: 橋本 直
第七章 『特殊な部隊』と選挙戦

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第23話 人気同人絵師、意地を見せる

「アメリアさん。当然他のキャラクターの設定もできているんでしょうね!まあ、アメリアさんのことだから、ライバル魔法少女はクバルカ中佐で、敵から味方に寝返る男前キャラが西園寺さん、敵の首領が日野少佐あたりなんでしょうけど、だからこそ!資料全部ください!」 


 さっきまで自分が魔法少女にされるかもしれないという悪夢に青ざめていたはずなのに、キャラ設定とラフの話が出た瞬間、誠の意識は完全にそちらへ持っていかれていた。3人のうちの一人がまるで待っていたかのように宿直室から持ってきた誠専用の漫画執筆用のセットを準備した。

挿絵(By みてみん)

「当然よ!キャラは誠ちゃんが指定した以外も端役までばっちり設定ができてるわよ。あちらがインフラ面で圧倒しようとするならこちらはソフト面で相手を凌駕すれば良いだけのことだわ!要は発想の転換よ!あちらにはメインの絵師は誠ちゃんのアシスタントをいつもお願いしているサラしかいないもの!背景や男性キャラの透過素材しか任せてもらえなかったアシスタントは、アシスタントらしく分際をわきまえてほしいものね!」 

挿絵(By みてみん)

 そう言ってアメリアは高笑いした。こういうお祭りごとが大好きなかなめはすでに机の上にあったかなめは、机の上に積まれていた機密書類の写しを見つけると、さっそくそれを眺め始めた。


「仮題『魔法少女隊マジカルなっちゃん』?戦隊モノなのか魔法少女ものなのかはっきりしろよ。神前に妥協したのか?媚びたのか?気が有るのか?まったくどいつもこいつも色気づきやがって……」 


 かなめは題名の中途半端な魔法少女ぶりに呆れてそうつぶやいていた。


「だってせっかく誠ちゃんに協力をお願いするんだもの……少しは妥協してあげないと♪それとサラの陣営を切り崩すためにこちらも最終決戦には巨大ロボットまで出す予定よ……これで相手の一部の本気のロボット好きもこちらに寝返るかも知れないし。私は最終的に勝つ為ならどんな妥協もするわ!」


 アメリアはそう言って笑った。かなめは黙って設定資料を読み進めた。だがすぐに開いたページで手を止めて凍てつく視線でアメリアを見つめた。


「おい、アメリア。なんだこれは」 


 機械でできた鞭を持ったおどろおどろしい姿の女性のラフ画像をかなめはアメリアに見せ付けた。


「ああ、それはかなめちゃんの役だから。当然最後は誠ちゃんと恋に落ちてかばって死ぬ予定なんだけど……」 


 何事もないように言うアメリアにかなめはさらに苛立ちはじめた。

挿絵(By みてみん)

「おい、なんでアタシがこいつと恋に落ちるんだ?それに死ぬって!アタシは噛ませ犬かなにかか?噛ませ犬はランの姐御だろ?あの人顔が噛ませ犬してるから」 


 かなめは自分がこれまでの出動で噛ませ犬役になっていることを自覚しているのでいつもよりも激しく激高した。


「よく分かったわね。それにいつもの出動でかなめちゃんの行動を見ていると噛ませ犬はかなめちゃんの十八番じゃない。死に行く気高き騎士キャプテンシルバーの魂がヒロインなっちゃんの魂に乗り移り……」 


「お姉様が死ぬのか!そのようなもの認めるわけには行かない!」 


 背後で机を叩く音がしてアメリアとかなめも振り返った。


 そこにはかえでとリンが立っていた。その背後にはいかにも借りてきた猫のような居づらい雰囲気をまとわせているいかにも嫌そうな顔をした日頃アメリアのパーラの扱いの酷さでパーラに同情していた運航部の女子隊員達が控えていた。かえではそのままアメリアの前に立つとかなめの姿が描かれたラフを見てすぐに本を閉じた。どうやら大勢はアメリアとサラの二強対決に決まったと見極めてベルばらの選挙事務所を畳んでこちらにやって来たらしい。当然アメリアへの意趣返しを考えているパーラはサラの陣営に行ったらしくその姿は無かった。


「あのー、かえでちゃん。これはお話だから……」 


 かえではなだめようとするアメリアの襟首をつかんで引き寄せた。かえではそのまま頬を赤らめてアメリアの耳元でささやいた。

挿絵(By みてみん)

「この衣装。作ってくれないか?僕も着たいんだ。凛々しい僕の面立ちならきっと映えると思うんだが、クラウゼ中佐、どうだろうか?それとできればもう少し露出の多い衣装の方が良いな。僕の妖艶さを引き出すようなエロチックな衣装であることがこの物語のカギだと思うんだが……中々僕も考えているだろ?」 


 その突然の言葉に再びかなめが凍りついた。誠はただそんな後ろの騒動を一瞥すると小夏が演じることになるヒロインの杖のデザインがひらめいてそのままペンを走らせた。


「かえでちゃん!ありがとう!」 


 濡れた視線でかえでを見つめていたアメリアがそう叫んでがっちりとかえでの手を握り締めた。


「その思い受け止めたわ!でも今回は二時間までって決まってるし……かえでちゃんの出番はあまり出番作れそうにないわね。でも誠ちゃんにはもっと露出の多い衣装にするように頼んでおくわね!それとリンちゃんのは当然ビキニアーマーでセクシーなのにする予定よ!安心して!」 


 まるで、もうシリーズ化が決定したかのような勢いで、アメリアはそう叫んだ。


「おい!今回ってことは二回目もあるのか?」 


「当然シリーズ化よ!そうすれば来年もこんな馬鹿騒ぎをする必要なんてないじゃないの!」


 かなめが呆れながらはき捨てるように口走った。そんなかなめを無視してアメリアはヒロイン、デザインを始めている誠の手元を覗き込んだ。その誠の意識はすでにひらめきの中にあった。次第にその輪郭を見せつつあるキャラットなっちゃんの姿にアメリアは満面の笑みを浮かべた。


「やっぱり誠ちゃんね。仕事が早くて助かるわ。選挙戦は時間との戦い。一刻も早く仕上げてちょうだいね♪」 


 てきぱきとアメリアが提示したキャラのラフを仕上げていく誠の姿を見てアメリアは感心したようにそう言った。


「クラウゼ中佐!」 


 叫んだのは菰田だった。アメリアは呼ばれてそのまま奥のモニターを監視している菰田の隣に行った。


「予想通り来ましたよ!向こうにも西と言う気の利く人間がいるんですよ。当然アメリアさんのようにソフトで支持者を固めようなんて考えて来ると思っていましたが思った通りです。それにしてもサラさんの陣営の合体ロボの変形シーンの動画……ここまでリアルに仕上げるとは……こりゃあメカニカルのアドバイスを島田がしてますね。それにこの動きの滑らかさはプロの仕事ですよ。島田の野郎の現役のヤンキー時代の仲間に漫画家のアシスタントをしていた奴がいたとか聞いてますから、そいつのコネを使ってアニメスタジオとかに外注したんですね。これは相手もプロを動員してきましたよ……相手もプロを導入してきた……こっちがプロを動員して悪い理由はなくなりましたね?」 


 菰田はそう言って頭を掻いた。アメリアは渋い表情で画像の中で激しく動き回るメカの動画を見つめていた。


「ソフト面の勝負?良いじゃないの、受けて立つわ!向こうがプロの動画作家を動員するならこちらも誠ちゃんのデザインを元にアニメーションをエロゲのライバル会社で、キャラのアニメーションが売りの会社に外注を出せば対応可能だわ!そんな馬鹿の一つ覚えのメカだけで勝てると思っていたら大間違いと言いたいところだけど……あちらには情報将校共がいるからねえ。それにああ見えてサラは誠ちゃんの原画づくりのアシスタントをしていて結構かわいい衣装のデザインとか得意だから。敵キャラに悲劇のヒロインで主人公を庇って自爆するような美女が出てきたら一大事よ」 


「あちらのデザイン担当はサラさんですか。確かに僕のアシスタントをいつもお願いしてるんでかなり僕の絵柄は盗まれてると思いますよ。あの人ああ見えて結構器用なんでいつも色々お願いしているんで」 


 下書きの仕上げに入りながら誠が口を開いた。そこに描かれた魔法少女の絵にカウラは釘付けになっていた。アメリアのデザインに比べて垢抜けてそれでいてかわいらしい小夏の衣装にかなめと誠の押さえ役という立場も忘れてカウラは惹きつけられていた。


 普段ならこういう騒ぎには眉をひそめるだけのカウラだったが、紙の上で形になっていく少女の姿には、つい視線を奪われていた。


「でもまあ、合体ロボだとパイロットのユニフォーム姿とかしか見るとこねえんじゃないのか?合体ロボの主役はなんと言ってもロボだからな。パイロットなんて添え物だ。そんなキャラのデザインなんてどうでもいいだろ?合体ロボはロボのデザインと暑苦しい熱血展開。あれ、見ていてイヤになるんだよな。戦争はそんなに精神論で勝てるもんじゃねえよ。精神論で戦争が勝てるんなら20年前の戦争で甲武は勝ってたはずだ」 


 そう言ったかなめの顔を見てアメリアは呆れたように首を振った。


「あなたは何も知らないのね。設定によっては悲劇のサイボーグレディーとか機械化された女性敵幹部とか情報戦に特化したメカオペレーターとかいろいろ登場人物のバリエーションが……」 


 アメリアはとりあえずロボット物に出てきそうな女性キャラを羅列しながらそう言った。


「おい、アメリア。もしサラが勝った場合にオメエの書く台本で出てくるのは全部アタシに役が振られそうなキャラばかりじゃねえか!アタシをおもちゃにするのがそんなに楽しいか?言ってみろ、怒らねえから!神前の次のターゲットはアタシなんだな?アタシをおもちゃにして楽しみたいんだな?」 


 かなめはそう言ってアメリアの襟首をつかみ上げた。


「え?気のせいじゃないの?今言ったのは私が合体ロボ物語を書いた場合に登場しそうな思いついたキャラを上げただけよ。それにアタシの頭ではこっちの作品の構想は全部できているんだから。あと、付け加えておくとかなめちゃんをおもちゃにするのは本当に楽しい。いじっていてこんなに楽しいことは無いわ。『女王様』としてドMをおもちゃにすることに慣れてるかなめちゃんならわかるでしょ?くだらないことを言うと予想通りの反応で怒って見せて私の予想通りにドツボにはまる。見ててこんなに楽しいおもちゃは他に無いわ♪」 


 得意げに胸を張るアメリアにかなめは頭を抱えた。


「まあそれはいい……それよりオメエのことだからもうすでに設定とかキャスティングとか済ませてそうだな、教えろよ……それとさっきのは却下な。悲劇のヒロインなんかやらねえからな!アタシは『戦う女』なんだ。戦いの中で悲劇的最期を遂げるのは仕方がねえが、オメエのさっきの案の中にはかえでの言ってたマリー・アントワネット系のアタシの嫌いなキャラも混じってた。そんなの意地でも受けねえ!」 


 かなめは半分あきらめながらつぶやいた。だが、アメリアはかなめの手を払いのけて襟の辺りを直すと再び誠の隣に立った。


「やっぱりいつ見ても仕事が早いわよねえ。この杖、やっぱり色は金色なの?」 


 アメリアは会議机の中央に箱ごと並んでいたドリンク剤のふたをひねると誠の隣に置いた。夏コミの時と同じく誠はその瓶を右手に取るとそのまま利き手の左手で作業を続けながら空いた右手でドリンク剤を飲み干した。


「ちょっと敵役の少女と絡めたデザインにしたいですから。魔法少女モノは敵と味方のキャラにある程度規則性がある方が見ていて何か魔法にリアリティーがあるように感じられていいんですよね……当然こちらの小さい子の武器の鎌は渋い銀色でまとめるつもりですよ。どうせクバルカ中佐がやるんでしょ?この子。それなりに似合うコスチュームで日頃クバルカ中佐の語る『理想の魔法少女』に近い形に仕上げるつもりですよ。まあ、あの人そのことについては直接聞いたら僕はその場で中佐に殺されるんで隊長辺りから間接的に聞いた話からの推測になりますけど」 


 ドリンク剤を飲み干すと、誠は手前に置かれたアメリアのラフの一番上にあった少女の絵を指差した。

 

「ああ、ランちゃんのキャラはしっかり作ってね。あの人は人生のすべてを『魔法少女と呼ばれること』に賭けてる人だから。適当に描いたら本当に次の瞬間には誠ちゃんはこの世の人ではなくなっているわね。でも、ランちゃんの目つきの悪さと言い口の悪さと言いどちらもライバルキャラには最適よね。まるで魔法少女のライバル魔法少女になるために生まれたような存在よね……まあ、本人が『変身の出来ねー魔法少女は魔法少女じゃねー』という定義から自分では魔法少女であることを拒否しているけど、変身しない魔法少女なんてアニメでもいっぱいいるじゃない。その点ではすでにランちゃんは魔法少女と言ってもいいような気がしないでもないんだけど……カウラちゃんもそう思うでしょ?」 


 アメリアに同意を求められたカウラは理解できないというように首をひねった。誠の作業している隣ではかえでとリンがアメリアの作ったキャラクターの設定を面白そうに眺めていた。


「言うけどさあ、ランの姐御は完全にサラ陣営だ。そのサラの案が負けたとしてあの餓鬼が役を受けると思うのか?どうせアタシと同じ噛ませ犬だろ?姐御は見た目が噛ませ犬なのはかなり気にしてるからな。それに看板にしている『人類最強』のキャラ以外やらねえんじゃねえのか?いっそのことランの姐御をヒロインにしたらどうだ?姐御はリアル『魔法少女』だし。ランの姐御はアタシが知ってるどの魔法少女よりもガチンコ勝負したら強い。ただ変身が出来ねえだけ。別に変身なんて戦闘じゃ意味のねえよ嘘じゃねえか。ならすでに生きている魔法少女としてランの姐御を売り出すプロジェクトにまでこの映画を大きくするってのもアリかも知れねえな……そっちの方が面白え」 


 散々アメリアの書いたキャラクターの設定資料を見ながら笑っていたかなめが急にまじめそうな顔を作ってアメリアを見つめた。


「変身しない魔法少女なんて駄目よ!そんなのは魔法少女漫画が生まれた古典の話でしょ?かわいらしい衣装があってこその魔法少女!これだけは譲れないわ!それにランちゃんが受けるかどうかなら、大丈夫だと思うわよ。ああ見えてランちゃんは部下思いだから。それに『義理と人情の間で悩むのが人生』がランちゃんの座右の銘でしょ?だったら仕事の義理で与えられた役、そして情として自分を慕う部下達の頼み。この二つの条件があるのにランちゃんが断ると思う?まあ、ランちゃんのことだから隊で一番魔法少女に近いのは自分だから自分を主役にしろとか言い出しそうだけど、ランちゃんはあくまで引き立て役に徹してもらわないと。あの顔はどう見てもヒロインにしてはガラが悪すぎるもの。ランちゃんはあくまで敵キャラ萌えのコアなオタクたちの心をわしづかみにしてもらうことに徹してもらわないと!」 


 アメリアは断言口調でそう答えた。


「部下思い?まあな……姐御は義理がたいのが売りだからな。『義理と人情の2ビットコンピュータ』の考えなんざ手に取るようにわかる」


 そう言うとかなめは腹を抱えて笑い始めた。タレ目の端から涙を流し、今にもテーブルを殴りつけそうなかなめの勢いに作業を続けていた誠も手を止めた。


「あのちびさあ……見た目は確かに餓鬼だけどさ。クソ生意気で目つきが悪くて手が早くて……それでいて趣味はカラオケと将棋と任侠映画の鑑賞言う中身は完全にオヤジ!あんな奴が画面に出ても画面が汚れるだけだって……」 


 腹を抱えて床を見ながら笑い続けるかなめが目の前に新しい人物の細い足を見つけて笑いを止めた。


 その瞬間、部屋の温度が一段下がった。最悪の訪問者がここを訪れようとしている事実だけは全員が共有していた。


 かなめは静かに視線を上げていく、明らかに華奢でそれほど長くない足。


 だが、その細い腰回りを見れば、それも当然だった。


 さらに視線を上げていくと、かなめはすぐに、鋭い殺意を帯びたつり目と幼い顔立ちに行き当たった。


 その場の誰もが笑っていた。

挿絵(By みてみん)

 だからこそ、次の瞬間に空気が凍りついたのが、余計にはっきり分かった。



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