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第15話 魔法少女の定義

「それは決まってるじゃない!魔法少女モノよ!他に何が考えられるって言うの?うちは法術なんて言う魔法みたいなものを扱う正義の部隊。この遼州人と言う地球人からすれば魔法使いの様に見える世界である遼州圏の人々の暮らしを守る部隊なのよ!当然その撮る映画が魔法少女モノでなくて何になるのよ!」 

挿絵(By みてみん)

 アメリアは高らかに叫ぶとなぜか誠を指さした。


『あのー、アメリアさん?なんで僕を指さすんですか?』


 誠は『魔法少女』と言う誠の得意分野に関してアメリアが自分を指さす意味が分からずにいた。『魔法少女』という言葉を聞いて黙ってうなずいていたランもアメリアの指さした先が自分ではなく誠だということに驚いたように口にしたお茶を吐いた。誠は、指先の向きだけで胃が縮む感覚を覚えた。


「あのー、アメリアさんの言うことは間違ってはいないと思うんですけど、なんで僕を指差して言うんですか?僕は法術と言う魔法みたいなものは使えますけど、少女では無いんですけど。それにうちには史上存在した数ある『魔法少女アニメ』のどのキャラクターも瞬殺する『人外魔法少女』認定確実のクバルカ中佐が居るんですよ?それを差し置いて男の僕がなんで魔法少女をしなきゃならないんですか?いつも思うんですけど、アメリアさんの提案ってどこかズレてるような気がするんですけど、それって僕の気のせいですか?皆さんどう思います?」 


 アメリアの得意げな顔を見ながら誠は恐る恐るそう反論した。


「アメリア。オメー日本語わかってんのか?それともオメーの国ゲルパルトの一応公用語になっているがほとんどの国民が話せねードイツ語では『少女』になんか別の意味でもあるのか?アタシが明法大の夜学で第二外国語として習った限りではそんな意味ねーけどな。それに法術はアニメの魔法みたいに便利なもんじゃねー。結構制限を受ける厳しい鍛錬の上に成り立つ術だ。地球人は法術を魔法と呼んでるが、それは便宜上そう呼んでるだけであってアメリアの脳内の魔法とは趣旨が違う。そのくらい考えろ。それに『魔法少女』が主人公なら当然アタシが主人公だろ?オメーは確かにアタシと同じ階級は中佐だが、軍では先に中佐に着任した人間が偉いってのが常識なんだ。となると『魔法少女』は当然オメーが尊重すべきアタシが演じるべきヒロインと言うことになる。そのくらいの世渡り上手はいい加減覚えたほーがいいぞ」 


 淡々と呆れた表情でランがツッコミを入れた。そのランの顔には明らかにヒロインの『魔法少女』に自分が選ばれず、アメリア得意のお笑いネタとして少女でない誠が主人公に選ばれたことに対する怒りの表情が見て取れた。


「ああ、それじゃあアメリアは『神前が主役の魔法少女』と」 


 かなめは明らかに誠への嫌がらせの為にそう筆でメモした。こういう誠への嫌がらせに関しては日頃喧嘩ばかりのアメリアともかなめの意見が合うのはいつものことだった。


『あのー、西園寺さんもアメリアさんも僕を女装させて全豊川市民の前に晒し者にするのがそんなに楽しいんですか?』


 誠はそんな言葉をアメリアとかなめにぶつけたかったがそんなことを言えば二人の思うつぼだと思い直してあくまで穏やかに話を進める方向に考え直した。


「あの、西園寺さん?なんでアメリアさんの妙な提案に納得してるんです?根本的におかしくないですか?なんで僕が主役なんです?魔法少女物の主人公は小学校高学年から中学生の女の子と相場が決まってるんですよ?それを二十代中盤の男がやるって、それって一体何が狙いなんですか?アメリアさん、西園寺さん、聞かせてください。僕に恥をかかせるのがそんなに楽しいんですか?」 


 誠も魔法少女アニメには造詣が深いのでかなめの蛇ののたくったような独特の筆文字を後で解析することを思い出して憂鬱になりながらそうつぶやいた。


「神前。アメリアの性格をまだ理解していないのか?そもそもアメリアに世間の一般常識が通用すると思うか?アメリアは貴様を上回るオタクだ。アメリアには既存のオタクの喜びそうな定番の展開など頭には無い。アメリアには人の意表をついて面白がると言う思考回路しか無いんだ。確かに神前は少女じゃない。しかもどうやってもアンの様に女装さえすれば元から女性的な顔つきだから少女のように見える見込みもない。たぶんアメリアはそれを狙っているんだ。これは完全なアメリアの貴様に対する嫌がらせで、アメリアにとってはそれが娯楽の一つなんだ。諦めろ」


 カウラはさすがにやる気がなさそうにつぶやくかなめを制した。


「そう言えばランちゃん、何が気になるのかしら?そんなに『魔法少女』になりたいの?確かにいつも勤務時間中に無駄に詰将棋ばかりしていて全員が帰った後で射撃場で一人で必死に『魔法少女』のようにフリフリドレスの戦闘コスチュームに変身できるか色々試しているのは私も知っているのよ。分かったかしら?それに私は誠ちゃんを指さして『魔法少女モノがやりたい』と言っただけよ。私の指はたまたま誠ちゃんを指していただけで、この国には何かを言うたびにそのリアクションまで制限を加えるような法律でもあるのかしら?」

挿絵(By みてみん)

「……あれは訓練だ。訓練!魔法のステッキやコンパクトは置いてない!」


 いかにも自分の秘密が『特殊な部隊』では一番知られてはいけないアメリアにバレていたことを知ったランが焦る様を一瞥した後、誠は視線をアメリアに向けた。


「アメリアさん……なんで僕をまた見るんですか?そんなに僕を虐めて楽しいんですか?クバルカ中佐からここはハラスメントの地獄だとは聞かされていますがここまで来るともうハラスメントを超えて芸能事務所の域に達してますよ。僕は芸人じゃないんでそんな格好はしたくないです……それと夕方に残業している時にクバルカ中佐が突然姿を消すのは……そんなことをしてたんですか?みんな知ってたんですか?……あれ、僕だけ知らなかったやつですか?色々あるんですねー……『特殊な部隊』の特殊ルールって……」


 誠は無駄だと思いながらも『面白ければそれでよし』が信条のアメリアに向けてそう言ってみた。そしてそれとなくこの『特殊な部隊』に最初に誠を連れてきたランの秘密をそれとなく刺激してみた。

 

「それに法術とアニメの魔法が違うことは私も百も承知してるわよ。でも、これは映画でしょ?フィクションでしょ?だったらリアルに法術を再現する必要なんて無いじゃないの。別にランちゃんや誠ちゃんやかえでちゃんがどんな力を使おうが『これはフィクションであり現実の『特殊な部隊』とは何の関係もありません』と言えばランちゃんのこれまで私達にも隠している壮絶な法術を映画で披露しても何の問題も無い……私は何か間違っていることを言ったかしら?」


 唯一この中で誠が魔法少女をやることに反対してくれたランに向けてアメリアが不思議な生き物を見るような視線を送った。 

挿絵(By みてみん)

「そんな小理屈たててるんじゃねー!『魔法少女』は純粋な少女が厳しい現実と魔法で向き合うからこその『魔法少女』なんだ!ああ、確かにオメー等もほとんどは多分知ってると思うがアタシは真の『魔法少女』になるべく修行を欠かしたことがねー!だけどそれのどこが悪いんだ?誰にも迷惑かけてねーぞ?それに地球人は法術師を『魔法使い』と呼んでる。だったら地球人の妄想に過ぎなかった『魔法少女』としてアタシが地球人たちの前に君臨してやって何が悪い!そもそも最初の問題として神前は少女じゃねーよな!それにフリフリ衣装を着た野郎なんてうちではアン一人で十分だ!それと言っとくけど絶対にアンは出すんじゃねーぞ!アイツの魔法少女姿はアタシが軽く想像しただけでも似合いすぎてうちの評判がさらに悪くなって、そっちの趣味のある人間が隊の外の工場の前をうろついて治安が悪くなる!アタシとしてはそっちが心配だ。これ以上うちの部隊に『男の()』を増やしてテメエは何がしてーんだ!確かにアンなら見た目は少女で通用するが神前はどう見ても男にしか見えねー!どうせ魔法少女にするならアンにしろ!なあ、アン。オメーも魔法少女やりてーよな?」 


 そう言いながらランは同情するような、呆れているような視線を誠に送った。そしてすぐさまアンに視線を向けた。ただ、戦場しか知らないアンに『魔法少女』が何を意味するかは分かる訳も無く、アンはただ笑顔でランを見つめ返すだけだった。


「アン君は魔法少女の意味を良く分かって無いみたいね。一方の誠ちゃんは良く分かっているみたい。『特殊な部隊』の魔法少女の第一人者である誠ちゃんが魔法少女を演じるのは当然すぎる話なんじゃない?じゃあ魔法少女に詳しい人が魔法少女をやるって方が正しいわよ。かわいくお化粧しようよ!そうすれば誠ちゃんも少女っぽく見えるかもよ。確かにデカくてマッチョだけどよくコミケの会場とかでそう言うコスプレして笑いを取ってる人がいるじゃない。そんな感じよ!」 

挿絵(By みてみん)

 そう言ってサラは手を打った。


「女装か。面白れえな。アンは女装が自然すぎて面白くねえんだよ。女子高生の群れにいつもの格好のアンを混じらせても別に何の面白みもねえし、誰が見ても全員女子って結論がでてつまらねえ。だからこの中で島田と並んで女装が不自然な神前を女装させるのが面白れえんじゃねえか。それにうちにはすでに常に男装している神前より一歳年上のかえでが居るんだ。アイツは面はイケメンの中性的ホストで通用するがあのデカい胸はどう見ても女にしか見えねえ。まあ、その面に引き付けられて私生活ではセレブの女共が次々とかえでの餌食になってるらしいがな。今更二十代男子の魔法少女の一人や二人増えたところで世の中変わるもんじゃねえだろ?」


 完全に誠を女装させる気満々でかなめがそう付け加える。 


「わかってるじゃないかなめちゃん!それが私の目論見なの!キモさと面白さの融合はお笑いの鉄則よ!女装筋肉系魔法少女?そんなのこれまでいたのは魔法少女に造詣の深い誠ちゃんも知ってるわよね?それに対して女装がまるで似合わない誠ちゃんの女装による究極の違和感満点の魔法少女!これは新しいわ!」


 笑いにはうるさいアメリアが強気にそう言い放った。 


「全力でお断りします!笑いものにされるのはもうこりごりです!どんだけこの部隊に入ってから僕はひどい目を見れば気が済むんですか?皆さんは?確かにそんな魔法少女が一人もいないのは確かですけど、それは単に需要が無いだけです!というか魔法少女が好きな僕でさえそんな魔法少女は見たくも無いです!遠慮します!他を当たってください!」 


 さすがに自分を置いて盛り上がっている一同に、誠は危機を感じてそう言った。


「えー!つまんない!ここは笑いを取れるおいしいポジションだと理解してもっとポジティブに受け止めてもらわないとこちらとしても困るじゃないの。まるでハラスメントをしているような気分になって感じ悪いわよ!誠ちゃん!上官命令!ちゃんと魔法少女を演じなさい!フリフリドレスでちゃんとパンチラシーンも入れるつもりだから!」 


 明らかに自分の身を守るためだけに発せられたアメリアの言葉に誠は心が折れた。


「確かにキモイ神前も見てみてー気もしねえでもねーが……ただこれで『(おとこ)』への道ははるかに遠いものになるな。それまでの恋愛禁止ルールも続くことになる……もうすでにグループ系アイドル歌手レベルだな」 


 ランは明らかに悪意に満ちた視線を誠に向けてきた。


「……と言う意見があるわけだが」 


 かなめは完全に他人を装っていた。かなめは天性のサディストとして誠が困り果てる様を見るのを満面の笑みで見守っていた。


「見たいわけではないが……もしかしたらそれも面白そうだな。私は魔法少女物語についてはあまり知らないが、ファンタジーにおける男性の魔法使いのようなものなのだろ?だったらファンタジーの世界に居て許される存在が『魔法少女』の活躍する世界に居ても何一つ不自然なことは無い」 


 事態を完全に間違った方向で理解しているらしいカウラは好奇心をその視線に乗せていた。


 誠はただ呆然と議事を見ていた。誠は完全に包囲されていた。


「おふざけはこれくらいにしてだ。やめろよな。こいつも嫌がってるだろ。それにだ。かえでの男装やアンの女装は見るに堪えるが、神前の女装は見ていて気持ちが悪くなる。観客を気持ち悪くしたら去年の退屈な映画の上を行く最低映画が出来上がるぞ。それでも良いんだな?アメリア」 


 そう言ってくれたかなめに誠はまるで救世主が出たとでも言うように感謝の視線を送った。


「それにだ。あれほど血涙を流して『魔法少女』になりたいと言っているランの姐御を差し置いて神前が魔法少女するのは隊の序列を乱すんじゃねえのか?実際ちっちゃいし、地球じゃあ法術を『魔法』と呼んでるらしいから、本当に魔法使えるってことになるし。いつもアメリアも『ランちゃん萌えー』とか言ってるだろ?それで決まりで良いじゃねえか?」 


 かなめはそう言うとランを指差した。


「やっぱりかなめちゃんもそう思うんだ。私もランちゃんは魔法少女以外の何物でもないと前々から思ってたのよ♪」 


 そう言うアメリアは自分の発言に場が盛り上がったのを喜んでいるような表情で誠を見つめた。


「誠ちゃん本気にしないでよ!誠ちゃんがヒロインなんて……冗談に決まってるでしょ?かなめちゃんが言うように誠ちゃんを女装させたらかえでちゃんの意見に有ったポルノより有害な放送事故が出来上がるわよ。それは避けないと」 


 ようやく諦めたような顔のアメリアを見て、誠は安心したように一息ついた。誠は助かったような気がしていたが、アメリアの糸目の奥にはどんな機会を利用しても誠の女装姿が見たいという欲望が見て取れたのでアンケートの結果次第では自分が女装『魔法少女』になる可能性は消えていないことを再確認した。

挿絵(By みてみん)

「なるほどねえ……とりあえず意見はこんなものかね。でもまあ、ランの姐御の魔法少女……見てみたい気もしないでもないけど……姐御はどっちかというと主人公と言うより敵キャラが途中から寝返る敵魔法少女が似合うような……ああ、これは神前に教えてもらったコレクションからの抜粋だ!気にするんじゃねえ!」 


 そう言うとかなめは一同を見渡した。


「良いんじゃねーの?さっきの西園寺の言葉はきっちりアタシの脳に刻まれてるけどな」 


 ランはそう言うと目の前のプリントを手に取った。


「隊員の端末に転送するのか?いーんだな?このこっ恥ずかしいデータを副隊長であるアタシの名義で全体に配布しても。後悔は出来ねーかんな」 


 そう言いながらランは手にした嵯峨から全隊員に配るようにと渡されたプリントをカウラに見せ付けた。


「ああ、わかってるよ。とりあえずアンケートは周知はネット、回答は紙を使った方が良いよな。あの『駄目人間』は自分がやったことが無駄になったと知るとすぐいじけてタバコを吸って仕事をサボるからな」


 かなめは親族ともあって嵯峨の性格を知り尽くしていた。 


「そうね、自分の作ったアンケート用紙を捨てられたら隊長泣いちゃうから」 


 かなめの言葉にアメリアがうなずいた。


「隊長はそう言うところで変に気が回るからな。まったく世話の焼ける性格の隊長さんだぜ」 


 ランがそう言いながらここにいる全員にプリントを配った。


「じゃあ、神前。お前がこいつを配れ」 


 そう言ってランはプリントの束を誠に渡した。


「そうだよね!誠ちゃんが一番階級下だし、年下だし……」 


「そうは見えないがな」 


 かなめはいたずらっぽい視線をサラに送る。そんなかなめの言葉にサラは口を尖らせた。


「ひどいよかなめちゃん!私のほうが誠ちゃんよりお姉さんなんだぞ!」


「なにもサラの事を言ったわけじゃ無いわよ!じゃあ気分を変えてみんなで配りましょう!投票集計はデータの方が楽だけどこの仕事をしないことで有名な隊長が作った投票用紙を使わないと隊長が泣いちゃうから」 


 口を尖らせるサラを無視してアメリアは誠の手を取って立ち上がった。それに対抗するようにカウラとかなめも立ち上がった。


「おう、全員にデータは転送したぜ。配って来いよ」 


 かなめの声を聞くとはじかれるようにアメリアが誠の手を引っ張って部屋を出ようとした。


「慌てるなよ。それよりどこから配る?」 


「決まってるじゃないの!人数の一番多い技術部整備班……島田君のところから行くわよ」 


 アメリアはそう言ってコンピュータルームを後にする。誠はその手に引きずられて寒い廊下に引き出された。かなめとカウラもいつものように誠の後ろに続く。そのまま実働部隊の詰め所で茶をすすっている明石を無視してそのまま島田麾下の技術部員がたむろしているハンガーに向かった。誠は『女装』という単語が頭から離れないまま、ハンガーの方角を見て青ざめた。



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