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第12話 モザイクという壁

「島田君。レースなんていう見れば分かるつまらない物より、もっと華のある芸術的で見るものによって見方の変わる心が豊かになるものを映画にしたらどうだろうか?ここは自由の国東和だよ。レースドキュメント映画なら甲武でも作れる。ここは甲武では絶対に検閲に引っかかって作れない自由な発想の美しい映画を作るべきだと僕は思うんだ。あの国の間違った検閲制度に異議を申し立て、芝居小屋や寄席にまで警察官や憲兵を常駐させるような異常な状況から解放するための一歩を僕はここから踏み出したいんだよ!」


 かえではさわやかな笑顔を浮かべてそう言い放った。

挿絵(By みてみん)

「かえで、最初に言っとくけどポルノ禁止な。少なくとも『市の行事』ではな。あと物語上必要だからという理由による過激すぎる性表現はアウトだ。子どもも来る。それと何度も説明しているが確かにこの国の映画館には甲武みたいに警官は常駐してはいねえけどこの国のポルノや性表現にも規制は有るからな。この国は甲武よりはるかに自由だってことを売りにしてるがその自由にも限界があることをいい加減分かれ。オメエも何回千要県警に連れて行かれて公然猥褻や露出行為でランの姐御に何度迷惑を掛ければ理解できるんだ?オメエの学習能力はオメエが否定した島田並みだな。東和に来たばかりのかえでには分からねえかもしれねえが……それ以前の問題か」


 島田を鼻で笑おうとして口を開いたかえでに向けて姉のかなめが冷たく言い放った。その言葉にかえでは明らかにショックを受けたように愛する姉の顔を穴があくまで見つめた。かえでの今の顔はいつもの男女誰をも虜にする余裕と洗練された美しさを秘めたものではなく理想の『自由の国』が、音を立てて崩れた顔だった。


「そんな!この国は自由の国ですよ!それに僕もこの国に何件もポルノ映画館が有ることくらい知っています!甲武の様にキスすら上映することが禁じられている性表現規制の厳しい国と違って、ここは自由の国のはずだ!この僕の美しい肢体を多くの人に見てもらいたい!愛と性の入り乱れた淫靡な世界の中で乱れる僕の姿を多くの人に見てもらいたい!そんな思いがなぜこの自由の国東和では許されないと言うのですか!お姉さまおかしいですよ!」

挿絵(By みてみん)

 かえではそう言うと自分の豊かな胸を自ら誇らしげに胸を張ってみせた。


「だから何度言わせると分かるんだオメエは!これは市の行事でそもそもポルノは禁止だ!何度も言うがこれは市の行事だ。この国のどこの自治体がポルノ映画を作るんだ?なあ、かえで。そんなこの東和に一つでもそんな自治体があるのならその自治体の名前を教えてくれ?それと今回の作品は餓鬼も見るんだ。この国のポルノ映画館は18歳未満は立ち入り禁止だ。そんな事も知らねえのか?」


 かなめはタバコを指で弾き、灰皿に落としてから続けた。


「それと、甲武でオメエみてえなエロい好き者が私的に作ってる『ブルーフィルム』という規制もなにもねえ好き勝手に裸を撮りまくっている私的な映像じゃねえからお前自慢の身体を生かしたエロいポルノを作っても、オメエが一番見せたい場所にはモザイクが入るからな。オメエの大好きなおっぴろげなんてできねえからな。東和が自由の国でも常識のある国なんだ。オメエみてえにエロの常識がぶっ飛んでる奴には理解できねえかもしれねえがな」


 妹の趣味を知り尽くしている姉の言葉にかえでは声を失っていた。


「かえで様。この国のアダルトビデオでも女性のその一番誇るべき美しい秘部にはモザイクと言う無粋なものが掛けられております。私が研究した限り、それが無い映像の販売や上映は禁止されております。この国は自由を看板にしているだけの無粋な国です。この国は自由とは名ばかりです。最も美しい部分にモザイクをかける。……理解不能です」


 ショックを受けているかえでにリンが助け舟の様にそうささやいた。


「そんな……僕とリンや家臣達との行為を映した動画は『許婚』である神前曹長に渡してあるが、神前曹長、本当なのかい?この国の市販されているセクシービデオにはモザイクなどと言う無粋なものが入っているとは?僕の行為の最も重要な部分を撮影したアレにはモザイクなどと言う無粋なものは入れていないはずだ……男女の愛とはその瞬間にこそ美しさのすべてが詰まっているというのにそれを見えないようにしなければいけないというようなまるで甲武の集会には必ず警官や憲兵隊の常駐を求めるような検閲制度がこの国でも行われているのかい?」

挿絵(By みてみん)

 誠は、いま最悪の方向に話が向かっているのを理解した。いきなり一番関わりたくない場面の中心人物に仕立て上げられて誠は動揺していた。誠もかえでがその存在を合法だと信じて疑わないいかがわしい動画を誠は違法だと分かっていながらその男の本能といかにも嬉しそうに笑顔で手渡して来るかえでの魅力に負けて受け取っていた。そしてこれは『許婚』である以上いずれは実物を見るのだからと自分に言い聞かせてそれを鑑賞していた。


 ただし、そんなことがバレれば『純情硬派』を売りにしている島田に何をされるか分からないし、誠とカウラが親しいことに目を付けて事あるごとに嫌がらせをしてくる管理部の先輩であり副寮長の菰田邦弘曹長にバレればどんな嫌がらせが待ち受けているか予想もつかない。


 だからこそ、他人に広げる気は一切なかったし、今もその事実を自慢げに語るかえでを見る誠の顔色は誰が見ても分かるほどに明らかに青ざめていた。


 背中に、冷汗が一本、落ちた。


 そして当然、島田が食いついた。

挿絵(By みてみん)

「おい、神前!テメエは日野少佐の無修正動画を持ってるのか!なんて不埒な野郎だ!それでも男か!俺にも見せろ!……いや、勉強だ勉強!俺はサラ一筋だ!それに俺はサラとの結婚は俺が30歳になった日だと決めている!ただ……その日に備えてだ……その……」


 『純情硬派』を売りにしているヤンキーである島田は誠の住む寮の寮長である。その目の前で誠は秘密がバレたことに焦っていた。


「あのですね……これは……『許婚』としての……」


 必死になって言い訳を考える誠だが、口下手な誠に良い言い逃れの言葉など出てくるわけが無かった。

挿絵(By みてみん)

「島田准尉?なぜ、君に僕の美しい秘部を見せる必要があるのかな?あの映像は僕が認めた神前曹長の為だけに撮り下ろした代物だよ?君のような下品な人間の目に触れて良いものではないことは君の貧弱な脳では理解できないのかな?そもそも君は僕の『許婚』ではない。しかも、君の姿と知性は僕の美的センスとは相いれない存在だ。そんな人物に僕の愛の行為や最高の瞬間を見られたいとは思わないな。神前曹長はいずれ妻との行為としてこれをじかに見ることができるということで見るのは自由だが、神前曹長以外にはあの動画は見られたくない。僕の美しい秘部は芸術品なんだ。しかもその所有者である僕はそれを見る人間を選ぶんだよ。君のような頭の軽い人間に口先で褒められたところで何の感情の沸き上がりも感じないね。ただ汚らわしいと思うだけだ」


 誠の代わりに反論してくれたかえでだが、その論点はどこかズレていた。空気が逸れたのを、嵯峨だけが嫌そうに戻した。


「あのさあ、俺もモザイクは邪魔だなあとは思ってるけど、今回の作る映画とはその話題は関係ないじゃん。もう一度出発点に戻ろうよ。後ろ暗い金の話とか常識外れのポルノ映画とかまず問題外じゃん。そんなの作る訳にはいかないの。ちゃんとした映画を作ろうよ。前回はストーリーが無かったのが不評の原因らしいんだ。レースもポルノもストーリーなんてはっきり言って見ていて邪魔じゃん?俺はこれまで見ててレースは結果がすべてだしポルノはエロいかどうかしか興味がわかなかったし。だから、物語のしっかりした奴を作りたいという思いだけは一応は持ちたいのよ。まあ、俺達はプロじゃないから……ああ、アメリアと言うセミプロが居たか。でもまあ金を取れるものを作れとは言わないけどそれなりに老若男女納得できるような物語を作って欲しいみたいだよ、市役所の人達は」


 そんな何気ない嵯峨の言葉に誠はこの人物がこの『特殊な部隊』の隊長で本当に良かったと心底思える瞬間が初めて来たと感動した。


「それにさあ、そんな具体的なこと考えなくても良いんじゃないかと思うんだよな。島田がレースが好きで、かえでが露出狂なのは良く分かったけど、そんなこと分かっても俺嬉しくないから。どうせこういう時は仕切りたがる隊員がうちに一名いるのは俺も隊長として十分わかってるんだ。アイツならどんな注文にも対応できると俺は買ってるんだ。だから俺もこうなるだろうなあと思って最初から用意しといたの」


 そう言うと嵯峨はランの前の書類の束を指さした。


 ランはすぐにその紙の束を受け取ると全員にそれを渡した。


「それって私のことですか?私がシナリオ書きたいんですけど!レースでもポルノでも何でも来いだったけどどっちも没なんでしょ?それで希望ジャンルですか?私の希望も入れて良いんですか!」 


 そう言ってアメリアは会議机を強くたたいて立ち上がった。


「オメエに任せたらどうせ一人で1時間みっちり古典落語の大ネタをやるとか言うのになるだろうが!それじゃあまだレースで裏金の存在がバレた方がマシだ!まあ、ポルノは問題外だが」 


 そう言ってかなめはアメリアの頭をはたいた。カウラはこめかみに指を当てて、できるだけ他人を装うように立ち尽くしている。


「まあね、私も社会適応訓練時代に『圓生百選』に出会って以来落語についてはそれなりに学んで来たし、二年間しか落語の修業はしてないから『芝濱(しばはま)』とか『死神』とかの大ネタをやるとなるといくらIQ250で『圓生百選』を一回聞いたら口調だけは真似できると言っても真似は真似。自分なりにかみ砕いて演じて見せるにはもう一回師匠の所に行って教えを請わなきゃならないし……それはそれで面倒な話だし……」


 自分のやる出し物まで決めていたアメリアはかなめにあっさり否定されると残念そうにうなだれた。


「それにどうせ他にやりたい奴なんて居ねえからアメリアが撮影とかを仕切るんだろ?じゃあ、そこで好き勝手すれば良いじゃねえか……って言ってもアタシに面倒な役を振るなよ。アタシは『女王様』役以外は御免だ。アタシは天性のサディストだからマゾを虐めるシーン以外は自信が持てねえ」 


 かなめはそう言ってため息をついた。


「まあな。アメリアは去年の実績もあるしな。あの俺も見ていてうんざりした作品に一応コントビデオとか作ってた実績もあるし、その腕前を見せて頂戴よ。どうせ素人の演技だ。お前さんの特殊技術で鑑賞にたえるものにしてくれねえと俺の面子(めんつ)がねえからな……まあ俺はプライドゼロだからどうでもいいけど。市役所相手に一年間俺達が下に見られるのはお前さん達は嫌だろ?」 


 そう言うと嵯峨は出て行けというように左手を振った。


「希望ジャンル……何でも良いんですか?ポルノでなければ……というかポルノが見たいような……」


 レースのドキュメンタリーを諦めた島田が嵯峨に質問した。


「そう、なんでもオーケー。でもやっぱりポルノは厳禁。その他性表現が過激すぎる物語も厳禁。当然子供が見ても大丈夫なモノ限定と言うのがつくけどね。なんと言っても市からのお願いだから。その辺はお前達の常識に期待しているよ……ってそれが一番お前さん達には期待しちゃいけないところなのかもしれないけどね。まあ関係ないか、俺には。結果的に節分の儀式の後に2時間映画を流せばそれで俺達の市からの依頼は終了。簡単な話でしょ?どうせ島田の違法に稼いだ金とアメリアのあまり表ざたにできないコネクションが有るんだからこの市の親子連れをまあ時間の無駄じゃなかったなくらいの感想を持たせて帰すくらいの作品を市は期待しているらしいのよ。まあ、その程度ってのが一番難しいってのは俺も一応文化人と呼ばれる人種の人間だからよく分かってるつもりだけど」


 嵯峨は島田なら暴力表現オンリーのヤンキー映画とか言い出すに決まっていると決め付けるようにそう言った。


 誠はとりあえずポルノ男優になることだけは避けられたと言うことに安堵の表情を浮かべて立ち上がった。



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