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失業した軍師、産廃ジョブで世界の余白を攻略する 〜古代変形機装は、使い手の頭がおかしいほど強くなる〜  作者: 三元豚


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受け止める盾


 霧の第一波は、門前の石畳を埋めるように押し寄せてきた。


 白錆の盾兵、湖畔の亡騎士、白骨の猟犬、霧弓兵。さっきまで湖畔で相手をしていた連中と同系統だが、数が違う。霧そのものが兵を吐き出しているようだった。しかも連中は、俺たちではなく白亜の門を狙っている。


 つまり、倒すことよりも、門へ到達させないことが優先になる。


 面倒だ。


 だが、やること自体は分かりやすい。


「ルナ、弓兵の射線を見るな。霧の切れ目を見ろ。ガウェインの背後へ抜ける矢だけ落とせ」


「はい」


「俺は左を流す。右は……」


 言いかけたところで、隣の巨漢が一歩前へ出た。


 ガウェイン。


 キャメロットの門番。太陽を鋳造したような重鎧をまとい、身の丈を超える大剣を構える男。


 彼は迫る亡兵の群れを前に、まるで揺れなかった。


「右も左もない」


 ガウェインは低く言った。


「門前に来るものは、すべて私が受ける」


「全部受けたら、普通は死ぬぞ」


「普通の盾ならな」


 言い終えるより早く、亡騎士の群れが突っ込んだ。


 ガウェインは大剣を横へ構える。剣で斬るのではない。剣を盾として使う構えだった。太陽光が刃の継ぎ目を走り、白金の防壁が彼の前に広がる。


 亡騎士たちの槍と剣が、そこへ殺到した。


 金属音。


 衝撃。


 熱。


 だが、ガウェインは一歩も下がらない。


 おかしい。


 人間が立っているというより、そこに壁がある。亡兵たちはガウェインを押しているのではない。城門に剣を叩きつけているだけだ。彼の背後には門があり、その門の向こうにはキャメロットがある。だから彼は下がらない。下がるという選択肢そのものが、存在していない。


 受け止める盾。


 俺が受け流す盾なら、こいつは受け止める盾だ。


 しかも、ただ硬いだけではない。


 敵の攻撃が大剣と鎧に触れるたび、太陽光がわずかに強まる。受けた衝撃を熱へ変え、熱を次の防御へ回している。守るほど硬くなる。殴られるほど門になる。メインタンクとしては理想的で、相手にする側としては最悪だ。


「化け物かよ」


「何か言ったか」


「褒めた」


「嘘をつけ」


「半分は本当だ」


 ガウェインは返事をせず、大剣を押し返した。


 それだけで亡騎士が三体まとめて吹き飛ぶ。ダメージ表示は大きくない。むしろ、押し戻しと位置取りに特化した動きだ。彼は敵を倒すのではなく、門前から剥がしている。


 倒すことより、通さないことを優先している。


 なるほど。


 戦い方に性格が出すぎている。


ーーーーー


 俺はガウェインの左側に入った。


 正面は彼が受ける。なら、俺がやるべきことは正面の敵を殴ることではない。横へ回り込む白骨の猟犬、霧の中から抜けようとする盾兵、ガウェインの防壁を避けて門へ向かう敵の進路を流すことだ。


 白骨の猟犬が三体、低く走る。


 速い。


 だが、レベル七十の今なら見える。少し前なら一体ずつ処理するだけで手間取っていただろう。今は違う。牙の角度、跳躍のタイミング、霧に隠れる癖。全部が視界の奥で線になる。


 俺は盾装を偽装の内側で展開し、盾面を斜めに構えた。


 一体目の牙を流す。


 二体目の肩を押す。


 三体目の進路へ、一体目をぶつける。


 白骨の猟犬が絡み、足が止まったところへルナが入る。白銀は細い。外から見れば、剣の反射が一瞬だけ白く見えた程度だ。だが、その細い光が核を断ち、猟犬たちは霧の粒になって崩れた。


「左、抜けます」


 ルナの声。


 霧の中から盾兵が二体、門の縁を狙っていた。俺は前へ出ようとして、ガウェインの動きと噛み合わないことに気づく。彼は正面の防御線を広げている。そこへ俺が飛び込むと、ガウェインの押し返しに巻き込まれる。


 合わせろ。


 俺は自分に言い聞かせる。


 白騎士団時代の癖で、全体を自分の盤面として見ようとするな。ここには、俺とは違う盾がいる。ガウェインは俺の駒ではない。門を背負った、別の中心だ。


「ガウェイン、左を一拍だけ空けろ」


「命令するな」


「提案だ。聞かないと門の左縁を噛まれる」


 ガウェインは一瞬だけ俺を睨んだ。


 だが、次の瞬間、大剣の角度をわずかに変えた。防壁の左端が、半歩だけ空く。


 それで十分。


 俺はそこへ滑り込むように入り、盾兵の進路へ盾を置く。受け止めない。ガウェインの防壁へ向かう力を、横へ逃がす。盾兵の身体が斜めにずれ、門ではなくガウェインの大剣側へ流れる。


 ガウェインが、その流れを受け取った。


 太陽の大剣が、盾兵二体をまとめて押し返す。


 言葉はない。


 だが、噛み合った。


 少しだけ。


「今の、よかったです」


 ルナが短く言う。


「監査報告どうも」


「ガウェインさんも、少し合わせてくれました」


「本人に言うと怒りそうだから、心の中で感謝しておく」


「聞こえているぞ」


 ガウェインが低く言った。


「なら、感謝している」


「軽い」


「重くすると荷物になる」


「貴様、本当に口が減らんな」


「減ったら死ぬ仕様なんだ」


 ガウェインは鼻を鳴らした。


 怒っているのか呆れているのか、微妙な音だった。


ーーーーー


 第二波は、霧弓兵が混ざった。


 門前の正面戦闘に意識を向けさせてから、霧の奥から射線を通してくる。しかも狙いは俺たちではない。門の蝶番、開閉機構、石壁の補修跡。白亜の壁の弱い場所を狙っている。


 普通の魔物ではない。


 いや、魔物というより、門を破るために残された怨念のような行動パターンだ。


「弓、三。右上、左奥、湖側」


 俺が言うと、ルナが頷く。


「右上から落とします」


「白銀は短く」


「はい」


 ルナは走った。


 白銀を強く出せば、霧弓兵ごと霧を裂けるだろう。だが、それは目立ちすぎるし、この城壁が白銀にどう反応するか分からない。だから彼女は足で距離を詰める。剣士として走り、最後の一瞬だけ白銀を通す。


 右上の霧弓兵が矢を放つより早く、ルナの剣が弓の弦を断った。


 弓兵が崩れる。


 だが、左奥の射線が通る。


 俺は盾で防ごうとして、間に合わないと判断した。矢は俺ではなく門の蝶番へ向かっている。俺が動いても届かない。


 ガウェインが動いた。


 あの巨体で、信じられないほど速く。


 彼は大剣を片手で振り上げ、矢の軌道へ刃を置いた。矢が大剣に当たり、太陽光に焼かれて消える。直後、正面の亡騎士が彼の隙を狙って突っ込む。


 ガウェインは避けない。


 重鎧で受ける。


 槍が鎧に当たり、火花が散る。HPが削れた様子は見えない。いや、削れているのかもしれないが、表情には出ない。こいつは本当に、痛みを門の一部として処理しているのか。


「無茶するな」


「門を傷つけるより安い」


「自分の身体を費用計上するな。後方担当が聞いたら怒るぞ」


 ガウェインの眉がわずかに動いた。


「……後方担当か」


「いるんだろ。こういう国には、前線の無茶を帳簿に書かされる苦労人が」


「いる」


「やっぱりな」


「今の発言は、そいつに言うな。長い説教になる」


「経験者の顔だな」


「経験しかない」


 ガウェインは短く言い、亡騎士を押し返した。


 その一言だけで、門の内側にいるであろう人物の苦労が少し見えた。少なくとも、ガウェインの無茶を叱る人間はいるらしい。


 すぐに出てこない方がいい。


 たぶん、その人間が出てきたら事情説明と説教と書類確認が同時に始まる。俺の勘がそう言っている。


 ルナが戻ってくる。


「弓、二体処理しました。湖側が残っています」


「俺が行く」


「待て」


 ガウェインが止めた。


「湖側へ寄るな。あちらは霧が深い。門前の光から離れれば、足場を失う」


「じゃあ、どうする」


「私が射線を受ける」


「だから自分の身体を経費にするな」


「門より安い」


「この国、予算編成が終わってる」


 文句を言いながら、俺は別の手を探した。


 湖側の霧弓兵は、こちらからは見えにくい。白銀で線を出せば見えるが、ルナを前に出しすぎることになる。ガウェインが受ければ防げるが、今後の継戦を考えると負担が大きい。なら、敵に射たせない。


「ルナ、湖面に白銀を落とせるか。敵じゃなく、水面の手前」


「反射を使うんですね」


「察しがよくて助かる」


 ルナは剣を下げ、白銀を足元へ細く通した。


 湖面の手前、霧の薄い場所に白い線が走る。その光は水面に反射し、霧の中へ細く跳ねた。湖側の弓兵が、一瞬だけその光に反応する。狙いが門から光へずれる。


 矢が放たれる。


 門ではなく、湖面の白銀反射へ向かって。


 外れ。


 その瞬間、ガウェインが大剣を振った。


 太陽光の斬撃が、弓兵のいる霧を焼き払う。弓兵は霧ごと消えた。


 ガウェインがこちらを見る。


「今のは」


「誘導だ」


「小細工だな」


「褒め言葉として受け取る」


「褒めてはいない」


「そういうことにしておいてくれ。俺は繊細なんだ」


「嘘をつけ」


「半分は本当だ」


 ガウェインはほんのわずかに鼻を鳴らした。


 少なくとも、敵意は少しだけ薄れている。


 まだ信用ではない。


 だが、門前で並ぶには、それくらいで十分だった。


ーーーーー


 第三波は、霧が騎士の形を取った。


 これまでの亡兵とは違う。鎧の輪郭がはっきりしている。剣も盾も古びてはいるが、姿勢が崩れていない。胸には割れた円卓紋。頭上の表示は、歪んでいた。


 《霧縫いの円卓残影》


 ガウェインの空気が変わった。


 さっきまでの怒りとは別の、もっと深いものが彼の肩に落ちる。


「ガウェイン」


 俺は短く呼ぶ。


「あれは何だ」


「……円卓の残り火だ」


「敵なのか」


「今はな」


 今は。


 その言葉が重かった。


 霧縫いの円卓残影は、ゆっくり剣を構えた。数は三体。どれも動きに無駄がない。明らかにさっきまでの雑兵とは格が違う。


 ルナが息を整える。


「来ます」


「ああ」


 最初の一体が踏み込んだ。


 速い。


 しかも、狙いはガウェインではなく、俺だった。門前防衛の中で、俺がいちばん崩しやすい場所だと見たのだろう。正しい判断だ。嫌になるくらい正しい。


 俺は盾を構える。


 剣が来る。


 見た目は正面斬り。だが、霧の判定が半拍遅れる。さらに、剣の影がもう一つ右側に走る。二重どころか三重の軌道。初見殺しにもほどがある。


 受けるな。


 見るな。


 足を見る。


 俺は相手の剣ではなく、踏み込みの膝を見た。膝の向き。爪先。重心。そこから本命の軌道を読む。盾を少しだけ下げ、斜め上へ滑らせる。


 金属音。


 受け流し成功。


 だが、霧の残刃が肩をかすめる。HPが削れる。痛い。普通に痛い。元円卓っぽい残影、雑に強い。


「アイズドさん」


「いける。たぶん」


「たぶんですか」


「確定で言うと、世界がそれを外しに来る」


 ルナが残影の背後へ回ろうとする。


 だが、別の残影がそれを阻む。剣が赤みのない白い霧をまとい、ルナの白銀へぶつかった。白銀が弾かれる。レベル差というより、質の問題だ。円卓の残影は、キャメロットの封印領域に深く結びついている。単純な敵ではない。


 ガウェインが動いた。


「退け」


 大剣が振るわれる。


 太陽光が門前を裂き、三体の残影を同時に押し返した。倒しはしない。押し返しただけ。だが、それだけで戦線が戻る。


 ガウェインは残影を見据えたまま、低く言った。


「名は呼ぶな」


「誰の」


「彼らの」


 俺は息を呑む。


 名前があるのか。


 この残影たちには、かつて名前があった。


 円卓の騎士だった者たち。


 そして今は、霧に縫われた残影として門を襲っている。


 淀みではない。


 過去を勝手に着る異質さとは違う。


 これは、この国の中に残された痛みだ。


「倒していいのか」


 ルナが小さく聞いた。


 ガウェインは答えない。


 その沈黙が、答えだった。


 倒したくない。


 だが、通すわけにはいかない。


 実に嫌な戦闘だ。ゲームの敵は倒しやすいように敵でいてほしい。元知り合いの残影とか、そういう情緒を戦闘ギミックに混ぜるな。胃に来る。


 俺は盾を構え直す。


「ガウェイン、倒すんじゃなく押し戻すことはできるか」


「できる。だが、長くは保たん」


「長く保たせる必要はない。門から離せばいい」


「何をする」


「霧の縫い目を切る」


 俺はルナを見る。


「白銀で本体を斬るな。霧と鎧を繋いでる線だけを見る」


「はい」


「俺は動きを止める。ガウェイン、押し返す準備」


「貴様に指揮される覚えはない」


「俺も指揮するつもりはない。手順の共有だ」


 ガウェインは一瞬黙り、それから短く言った。


「……一拍だけ止める」


「十分だ」


 残影が再び来る。


 俺は正面の一体へ踏み込んだ。怖い。やはり怖い。だが、ここで下がれば門に近づく。盾を出し、相手の剣を受け流す。黒鉄を細く通す。拒絶ではなく、距離。剣と盾の間に、ごく薄い隙間を作る。


 残影の動きが一瞬だけ鈍る。


 ガウェインの太陽光が、その横から重なる。熱で焼くのではなく、押す。かつての仲間だったかもしれない相手を、斬らずに押し返す。


 その瞬間、ルナが白銀を通した。


 霧と鎧の間にある、細い縫い目。


 彼女の剣が、それだけを切る。


 残影の輪郭がほどけた。


 騎士の形が崩れ、白い霧へ戻っていく。消える寸前、その鎧の胸に刻まれた円卓紋が一瞬だけ光った。


 ガウェインは何も言わなかった。


 ただ、大剣の柄を強く握った。


 残り二体。


 同じ手順で押し戻す。


 俺が流し、ガウェインが押し、ルナが縫い目を切る。三人の動きは、ぎこちない。呼吸も合いきっていない。だが、目的は同じだ。


 門を守る。


 名を呼ばず、残影を戻す。


 三体目が霧へほどけた時、門前にようやく静けさが戻った。


ーーーーー


 霧は引いていった。


 白亜の門前には、焦げた石畳と、砕けた白錆の欠片だけが残っている。ガウェインの日輪防壁も消え、太陽鎧の光は少しだけ弱まっていた。


 俺も、ようやく盾を下ろした。


 HPはかなり削れている。ポーションを飲みたい。だが、この空気で飲むと妙に情けない気がする。いや、情けなくても飲むべきだ。生き残るための回復を見栄で遅らせるやつは、だいたい床を舐める。俺はポーションを飲んだ。


 苦い。


 現実でもゲームでも、回復薬はもう少し味に気を遣うべきだと思う。


 ルナも軽く息を吐いた。


「終わりましたか」


「第一営業日は終了、くらいだろうな」


「営業日?」


「門番業務だ。きっと残業がある」


 ガウェインがこちらを見た。


「貴様は本当に、緊張感を削る」


「削らないと、こっちの精神が削れる」


「……先ほどの戦い」


 ガウェインは言葉を探すように少し黙った。


「貴様らは、彼らの名を問わなかった」


「呼ぶなと言われたからな」


「理由も聞かずにか」


「戦闘中に理由を聞くと、だいたい死ぬ」


 ガウェインは目を伏せた。


「彼らは円卓だった。王を信じ、キャメロットを守り、そして王に殺された者たちだ」


 ルナが小さく息を呑む。


 俺も、すぐには返せなかった。


 王に殺された。


 アーサーが言わなかった部分。


 アーサーが「何人かはいる」と薄く伸ばした言葉の裏側。


 そこにあったのは、円卓の死体だった。


「アーサーが、殺したのか」


 俺は確認した。


 ガウェインの目が鋭くなる。


 だが、否定はしなかった。


「王は、王でなくなった」


 ガウェインは低く言った。


「モルガン様がいなければ、この城はとうに滅びていた。疑似太陽も、結界も、民の避難区画も、すべてあの方が維持している」


 アーサーの言葉が、また一つ反転した。


 偽りの光。


 民を惑わせる魔女の太陽。


 そう言っていたものを、ガウェインは命綱だと言った。


 俺は記録板を開く。


 《ガウェイン証言》


 《モルガンは疑似太陽、結界、避難区画を維持》


 《円卓の多くはアーサーに殺害された可能性》


 《アーサーの王命とガウェイン証言が大きく矛盾》


 《王命の正当性に重大な疑義》


 記録を書いた瞬間、クエスト表示が揺れた。


 《特殊クエスト:白亜の王命》


 《派生記録を取得》


 《王命の正当性に疑義が発生》


 《目標:モルガンを討伐せよ》


 《注意:目標の再確認が推奨されます》


「ようやくシステムも疑い始めたか」


 俺は呟いた。


「遅い。詐欺広告ならもう消費者庁が動いてる」


「何の話だ」


「こっちの話だ」


 ガウェインは疲れたように息を吐いた。


「貴様らを信用したわけではない」


「ああ。何度も聞いた」


「だが、門を守ったことは事実だ」


「臨時バイト代は?」


「話を聞く機会をやると言った」


「ブラックだな」


「文句は生き残ってから言えと言ったはずだ」


「生き残ったから言ってる」


 ガウェインは一瞬だけ、本当に一瞬だけ、口元を歪めた。


 笑ったのかもしれない。


 すぐに無骨な顔へ戻ったが。


 その時、門の内側から鐘の音が響いた。


 一度。


 二度。


 その後、門の小窓が開き、若いドラゴニュートの衛兵が顔を出した。角はまだ短く、鎧も簡素だ。だが、表情は必死だった。


「ガウェイン卿! 内側への被害は軽微です。西側補修班が到着しました」


「分かった。霧門の状態は」


「安定しています。ただし、外部者の件について、記録室から確認命令が来ています」


 若い衛兵は、ちらりと俺たちを見る。


 その視線には警戒と好奇心が混ざっていた。


「アグラヴェイン卿より、王印持ちの外部者を外門詰所へ移し、事情を確認せよとのことです」


 アグラヴェイン。


 名前だけは、アーサーから聞いている。


 キャメロット参謀。


 おそらく、後方担当で、ガウェインの無茶を説教する苦労人。


 そして、今の一言だけでだいたい分かった。


 この国にも、書類と記録で地獄を支えている人間がいる。


 ガウェインは深く息を吐いた。


「……早いな」


 俺は思わず言った。


「嫌そうだな」


「嫌ではない」


「なら、その顔は何だ」


「長い説明が始まる顔だ」


「経験者の顔だな」


「経験しかない」


 若い衛兵は困ったように続ける。


「それと、アグラヴェイン卿から伝言です。門前をこれ以上壊すな、修繕費と人員配置が私の胃に来る、とのことです」


 俺は少しだけ黙った。


 それから、ガウェインを見る。


「その人、俺と話が合いそうで嫌だな」


「おそらく合う」


「最悪だ」


 ガウェインは大剣を背負い直した。


「外部者。貴様らを城内へ入れる。客人としてではない。監視対象としてだ」


「待遇が渋いな」


「斬られないだけ感謝しろ」


「それはそう」


 俺は素直に頷いた。


 ルナも剣を収める。


 白亜の門が、ゆっくりと開き始めた。


 その向こうから、街の音が漏れてくる。


 人の声。金属を叩く音。車輪の軋み。獣の低い鳴き声。


 キャメロットは、まだ生きている。


 だが、門前に残った焦げ跡と霧の残骸が、その命がどれだけ細い線で繋がっているかを教えていた。


 俺は記録板を閉じ、歩き出した。


 王命の正しさは、崩れ始めている。


 モルガン討伐という目標も、もうそのまま飲み込むには危うすぎる。


 だが、答えはまだ出ていない。


 次に待っているのは、戦闘ではなく事情聴取。


 そしてたぶん、書類と胃痛の匂いがする参謀だ。


「最高のクソゲーは、戦闘の次に行政手続きを挟んでくるのか」


 俺が呟くと、ルナが少しだけ笑った。


「でも、少し進みました」


「ああ」


 俺は白亜の門の内側を見た。


「少なくとも、王様の話だけを信じる段階は終わったな」


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