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『地味だと追放された元プロ、限界突破の産廃ジョブで全ロール最強へ』  作者: 料理長


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極光の氷原と拒絶の結界


 種族の壁を越えた歓喜の宴から数時間後。

 俺たちはフェネキア族の長老やセレン、そして俺の無茶振りに完璧に応えてくれた最高のドワーフ職人・モチモチきなこもちに見送られ、『空を抱く地下都市』を後にした。


 向かう先は、このEHOにおける最北の辺境――『極光の氷原』の最深部。

 俺とルナ、そして真紅の騎士モードレッドと漆黒の巨漢ガウェイン。

 二人の開拓者と二人の円卓の騎士からなる、システムと種族の常識を超脱した四人の特異点ライトパーティは、猛吹雪の吹き荒れる雪原を、マウントに乗ってひたすらに北へと突き進んでいた。


「……あれが、今のキャメロットか」


 道中、ガウェインがマウントの手綱を引き、低く呻くような声を漏らした。

 彼が視線を向けた東の果て。

 かつて彼らが護り抜いた白亜の幻城があった場所は、今もなお、禍々しい赤黒い炎と黒煙に包まれていた。

 雪と氷の世界に反するように、マグマが噴き出し、極光の空を毒々しく焦がしている。そして、その業火の中心には、天を突く漆黒の双角を持った規格外の巨体が、まるで世界の王であるかのように鎮座していた。


 神話の厄災。レベル121の暴力の化身、憤怒の竜。

 距離が離れていても、その姿を見るだけで仮想肉体の肌が粟立ち、息が詰まりそうになる。

 システムが定めた「絶対に越えられない壁」。今の俺たちが束になっても、コンマ一秒で塵にされるだけの絶望的なステータス差がそこにはあった。


「……待っていろ、バケモノめ」


 真紅の甲冑を纏ったモードレッドが、燃え盛る故郷と竜のシルエットを睨み据え、ギリッと奥歯を噛み締めた。


「母上の命を奪い、民を焼き尽くしたその罪。……いつか必ず、この手で八つ裂きにしてくれる」

「ああ。我ら円卓の騎士の誇りにかけて。必ずや、あの竜の首を落としてみせよう」


 ガウェインもまた、背中の大剣の柄を強く握りしめ、静かに、だが決して揺るがない誓いを口にした。


 その二人の横顔を見て、ルナも白銀の片手剣にそっと手を添え、力強く頷いている。


「その『いつか』を、最短で手繰り寄せるための今日の試練だ。行くぞ、お前ら」


 俺の言葉に、三人が同時に頷いた。

 絶望的な蹂躙を味わったからこそ、俺たちの胸には恐怖よりも強い、抗い難い闘志が燃え上がっていた。


 俺たちは再び雪原を駆け出し、やがて、荒れ狂う猛吹雪の向こう側に、巨大な氷の壁と、それに埋もれるようにして作られた『古代遺跡の入り口』を視界に捉えた。

 周囲の気温が、一段と下がる。単なる環境エフェクトではない、システムそのものが発する強烈な『拒絶』のプレッシャーだ。


「ここですね。ネットの掲示板で『バグエリア』って呼ばれてる場所……」


 ルナが警戒しながら周囲を見回す。


「ああ。不用意に近づいたカンストプレイヤーたちが、軒並み99999の固定ダメージを受けて即死したっていう、理不尽極まりないデッドラインだ」


 俺はマウントから降り、遺跡の入り口へと数歩近づいた。


 目に見えない透明な壁が、そこには確かに存在していた。

 俺の軍師としての直感が、これ以上一歩でも踏み出せば、問答無用でシステムから消去ロストされると警告を鳴らしている。

 レベル80という「完成された器」を拒絶し、真の深淵への挑戦権を持たない者を排除するための絶対的な防衛機構。


「アイズド。本当に大丈夫なのだろうな? 我々まで灰にされるのは御免だぞ」


 モードレッドが、少しだけ不安そうに聞いてくる。


「安心しろ。……クソAIの性格の悪さには辟易するが、あいつは絶対に『解法クリア』の存在しない理不尽は用意しない」


 俺はインベントリを開き、二つのアイテムを取り出した。

 一つは、グレイム領の東採掘場でゴミのように拾い集めた『星天の脈石』。

 そしてもう一つが――種族の壁を越え、きなこもちとフェネキア族の長老が文字通り魂を削って生み出した奇跡の結晶、『忘却された世界樹の琥珀』だ。


 二つのアイテムを両手に持ち、俺はゆっくりと、不可視の即死結界へと近づいた。

 一歩、また一歩。

 99999ダメージの判定ラインを踏み越えた、その瞬間。


 キィィィィィン……ッ。

 俺の手に握られていた『星天の脈石』と『琥珀』が、淡い黄金色の光を放ち、共鳴するように震え始めた。

 直後、俺の目の前を塞いでいた強烈な『拒絶』のプレッシャーが、まるでモーゼの十戒のようにスゥッと左右に割れ、安全な道が切り拓かれたのだ。


「開いた! やりましたよ、アイズドさん!」

「見事だ。神話のアイテムが、真に深淵への鍵であったか」


 ルナが歓声を上げ、ガウェインが深く感嘆の息を吐く。


「さあ、お出迎えは上々だ。行くぞ、お前ら」


 俺は不敵に口角を吊り上げ、仲間たちを振り返った。


「ここから先は、マニュアルも攻略サイトも存在しない。誰も見たことのない、完全未踏の領域だ。……俺たちの『見えざる土台』で、レベル90の扉をぶち開けてやる!」


 俺たちは顔を見合わせ、力強く頷き合うと、即死結界の奥にぽっかりと口を開ける暗い遺跡の入り口へと、一歩を踏み出した。

 そして、重厚な石の扉が閉ざされ、四人の姿は完全に遺跡の内部へと消えていった。


 ***


 ……だが。

 彼らは知る由もなかった。

 その極めて隠密に行われたはずの「バグエリア突破」の一部始終が、最悪な形であっさりと『世界中に生中継されていた』ということに。


『――えー、ブルブル。クソ寒いです。皆さんこんにちは、底辺這いずり回り系配信者のピエロです! 今日はですね、あの有名な極光の氷原の即死バグエリアに、装備全裸でどこまで近づけるかチキンレースをやってみたいと思いまーす!』


 アイズドたちが遺跡に侵入した場所から、雪山の稜線を一つ隔てた少し離れた場所。

 防寒着も着ずにパンツ一丁で震えながら、空中にカメラ機能のシステムウィンドウを展開して自撮り生配信を行っている一人のプレイヤーがいた。


『いやー、マジでここヤバいですね。さっきもあそこの見えない壁に足の指が触れた瞬間、99999ダメージで吹き飛んでる奴がいましたよ。……ん? コメントが急に早くなったな。なんだ? 「後ろ見ろ」? 後ろ?』


 底辺配信者の男が、カメラを向けたまま後ろを振り返る。

 彼の自撮りカメラの端、猛吹雪の向こう側にある即死結界の前に、四つの影が偶然、バッチリと映り込んでいたのだ。


『え……? なんだあいつら。おいおい、あんなとこに行ったら即死――って、ええええええええっ!?』


 配信者の男が、素っ頓狂な悲鳴を上げた。

 画面の向こう側。漆黒の重鎧を着た男と、蒼色の軽装鎧に白銀の髪の少女。そして、その背後を歩く真紅の甲冑の小柄な騎士と、漆黒の巨漢の騎士。

 四人の影は、アイテムのようなものを掲げると、即死結界を難なくすり抜け、そのまま遺跡の中へと入っていったのだ。


『えっ? ちょ、今の何!? 即死せずに中に入っていったんだけど!? これ放送事故!?』


 男が慌ててカメラを遺跡の方へ向けるが、アイズドたちの姿はすでに扉の奥へと消えた後だった。

 しかし、その生配信の映像は、リアルタイムで視聴していた数百人のリスナーの目に、確かに焼き付いていた。

 そして、数分と経たないうちに、EHOの巨大匿名コミュニティに一つのスレッドが乱立し、すさまじい勢いで拡散され始めたのである。


【EHO】極光の氷原・即死バグエリアを突破した謎のパーティが現れた件【速報】


1:名無しの開拓者

さっきピエロの生配信見てた奴いる!?

マジで即死結界を歩いて通り抜けてった4人組がいたぞ!!


15:名無しの開拓者

見た見たwww

バグか? それとも運営のデバッグ用アカウント?


23:名無しの開拓者

いや、違う! 動画の切り抜きを拡大してみたけど、前を歩いてた重装騎士と白銀の髪の女は、頭上にプレイヤーネームがあった!

ただの一般プレイヤーだぞ!


42:名無しの開拓者

マジかよ……じゃあ後ろを歩いてたあの赤い甲冑と、バカでかい大剣持った黒い騎士は?

あいつら、プレイヤーのギルドマークも名前も表示されてなかったぞ!


58:名無しの開拓者

ってことはNPCか?

でも、あんなド派手なNPC、このゲームで今まで一度も遭遇報告が上がってないぞ。

EHOの全エリアのデータベースを漁ったが、該当するグラフィックのNPCは一人もいない。


71:名無しの開拓者

完全に未知のNPCってことかよ……。

もしかして、最近ワールドアナウンスで流れた『七つの竜種』とか『匿名の開拓者』って、この連中のことじゃねぇのか!?


95:名無しの開拓者

おいおいおい、鳥肌立ってきた。

つまりあのバグエリア、実は『隠しダンジョン』の入り口だったってことだろ?

そして、あの正体不明のプレイヤー二人は、今まで誰も見つけたことがない超絶レアなNPCを連れて、その隠しダンジョンの『入室条件』を満たしたってわけだ!


120:名無しの開拓者

間違いない。今世界で一番バズってる『憤怒の竜』の弱体化アイテムか、あるいは俺たちのレベルキャップを解放する『上限解放クエスト』が、あの遺跡の奥にあるんだ!


145:名無しの開拓者

特定班、急げ!! 氷原のあの遺跡の入り口に集合しろ!

あの正体不明のプレイヤーたちが中から出てきたら、何がなんでも情報を吐かせるぞ!

あの未知のNPCの出現条件も、即死結界の突破方法も、すべて奴らが握ってる!


200:名無しの開拓者

祭りの始まりだあああああッ!!


 神話の深淵へと足を踏み入れた、無名の開拓者たちと未知の騎士たち。

 その彼らの背中を、ネットの海という巨大な嵐の目が、猛烈な勢いで呑み込もうと渦巻き始めていた。

 世界の裏側で静かに進行していたはずの「最高の遊戯」は、今、数千万人の欲望と憶測が入り乱れる狂乱のステージへと引き摺り出されようとしていた。

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