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『地味だと追放された元プロ、限界突破の産廃ジョブで全ロール最強へ』  作者: 料理長


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特異点と騎士の誓い


「――というわけさ。君たちが目指すべき『極光の氷原』の最深部に眠る古代遺跡。あそこはプレイヤーたちの間じゃ、近づくだけで即死魔法が発動する『バグエリア』として恐れられている」


 俺が両手で頬をむにむにと引っ張ってやると、モフモフの魔術師マーリンは涙目で頷きながら、もごもごと口を動かした。


「ほ、ほうひゃ(そうさ)! でもひっはい(実際)はバグなんかじゃない。『星天の脈石』と『忘却された世界樹の琥珀』……その二つの鍵を持った者だけが、結界を通過できる仕様になっているんだよ!」

「なるほどな。で、俺たちがその二つを持って行けば、神話の試練への扉が開くってわけだ」


 俺はマーリンの頬から手を離し、腕を組んだ。


「ただし、一つだけ厄介な条件がある」


 マーリンは短い前足でぷにぷにになった頬をさすりながら、真剣なビー玉のような瞳で俺を見上げた。


「あの遺跡は、極めて強力な防衛機構が働いていてね……鍵を持った者を含めて、最大で『四人』までしか中に入れないんだ」


「……四人、だと?」


 俺は眉をひそめ、舌打ちをした。


 完全没入型VRMMO『エターナル・ホライゾン・オンライン(EHO)』において、神話級のボスが待ち受けるような高難易度ダンジョンは、タンク2、ヒーラー2、アタッカー4で構成される『八人のフルパーティ』で挑むのが絶対の常識セオリーだ。

 それが、たったの四人ライトパーティ制限。

 いくら俺のレベルが狂王アーサーの討伐で76まで上がり、ルナがモルガンの遺産を受け継いだ最強のアタッカーとはいえ、未知のボスを相手に四人制限というのはあまりにも手札が少なすぎる。


(俺とルナの二人だけで行くべきか? いや、ギミックによっては物理的に人数が足りなくて詰む可能性もある。かといって、その辺の野良プレイヤーを連れて行くわけにもいかねぇし……)


 俺が腕を組んで思考の迷宮に沈み込んでいると。


「よーしよしよし、マーリンさん、お仕置きが終わってよかったですねー」


 俺の足元で、ルナがマーリンの白い毛並みをワシャワシャと撫で回しながら、のんきな声を上げた。


「ルナ。お前、四人制限って聞いてビビってねぇのか」

「え? 全然」


 ルナはサファイアブルーの瞳をパチパチと瞬かせ、不思議そうに小首を傾げた。


「だって、私たちにはすごく頼もしい仲間がいるじゃないですか」


「仲間……?」

「別に私たち二人だけで行くのもいいですけど、たぶん、あのお二人なら快く協力してくれますよ? お願いしてみましょうよ!」


 ルナが視線を向けた先。

 そこには、フェネキア族が用意してくれた酒と肉を囲み、避難してきた住民たちと談笑している真紅の騎士モードレッドと、漆黒の巨漢ガウェインの姿があった。


「――――」


 俺はハッとした。

 そうだ。俺は無意識のうちに、「システム的なプレイヤーのパーティ」だけで完結させようとしていたのだ。だが、彼らはもうただのNPCではない。俺たちと共に狂王アーサーと死闘を繰り広げ、絶望の底から生還した、誰よりも頼りになる『最強の戦士たち』だ。

 それに、レベル90をゆうに超える彼らのステータスは、どんなトッププレイヤーよりも遥かに心強い。


「……お前は本当に、大事なことをサラッと言う天才だな」


 俺はルナの頭を軽くポンと叩き、口角を吊り上げた。


「ありがとうよ。最高の助っ人を勧誘してくる」

「はいっ! いってらっしゃい!」


 ルナにマーリンを預け、俺は広場の喧騒を抜け、モードレッドとガウェインの元へと歩み寄った。


「よお、二人とも。宴の最中に悪いが、少し話がある」


 俺が声をかけると、ジョッキを傾けていた二人は即座に表情を引き締め、立ち上がった。


「どうした、アイズド。何か問題でも起きたか?」

 モードレッドが真紅の甲冑を微かに鳴らして問う。


「いや、問題ってほどじゃない。ただ……俺たちはこれから、レベル90の上限解放の試練を突破するために、『極光の氷原』の最深部にある古代遺跡へ向かわなきゃならない。そこで、あんたたちの力を借りたいんだ」


 俺は単刀直入に要件を伝えた。


「ダンジョンには四人までしか入れない。俺とルナだけじゃ、どうしても手数が足りねぇ。……一緒に来てくれないか」


 俺の頼みを聞いて、モードレッドとガウェインは互いに顔を見合わせた。

 そして――迷うことなく、同時に深く頷いた。


「……当たり前だ。何を今更、他人行儀なことを言っている」


 モードレッドが、不敵に笑って腕を組んだ。


「我らがお前たちの力になるのは、契約でも義務でもない。ここに連れられてきたあの時から……いや、母上の最期の願いを共に背負ったあの時から、我らはお前を命を懸けるに足る恩人であり、尊敬すべき戦士だと思っているのだ」


「モードレッドの言う通りだ」


 ガウェインもまた、漆黒の胸当てをドンッと強く叩き、力強く宣言した。


「我ら円卓の残党、今や護るべき国は失われたが……誇りは失っていない。お前たちが望むのならば、この大剣、地獄の底まで喜んでお供しよう!」


 彼らの瞳には、微塵の迷いもない。

 プログラムされたNPCの台詞ではない。過酷な死線を共に乗り越え、絶望を分かち合ったからこそ生まれる、純粋な武人としての信頼と忠誠の光が宿っていた。


「……お前ら」


 俺は思わず言葉を詰まらせ、そして、深く息を吐き出して笑みをこぼした。

 プロ時代、誰にも理解されなかった『見えざる土台』の価値を、この世界の住人たちは誰よりも正当に評価し、背中を預けてくれる。


「ありがとよ。頼りにしてるぜ」


「さっそく準備を整えよう! ガウェイン、剣の刃こぼれはないな?」

「抜かりはない! いかなるバケモノが相手であろうと、一刀両断にしてくれるわ!」


 気炎を上げる二人の円卓の騎士。

 レベル90をゆうに超える規格外のNPC二人。

 これ以上ない、最強で最狂の四人パーティ(ライトパーティ)がここに完成した。


「よし。これで役者は揃ったな」


 俺は振り返り、俺たちのやり取りを見て嬉しそうに微笑んでいるルナに向かってサムズアップを作った。


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