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『地味だと追放された元プロ、限界突破の産廃ジョブで全ロール最強へ』  作者: 料理長


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種族を超えた合同クラフト


『白狐の羅針盤』が放つ眩い光の奔流が収まると、俺たちの視界には、世界樹の巨大な根から淡いエメラルドグリーンの光が降り注ぐ、美しき『空を抱く地下都市』の風景が広がっていた。


「…………なっ」


 石畳の上に降り立ったモチモチきなこもちは、目を見開いたまま完全に硬直していた。

 彼の視線の先には、高くそびえる世界樹の巨木と、それを囲むようにして築かれた純白と水晶の建造物群。そして、大気中に濃密に漂う、目視できるほどの純度の高い魔力の粒子があった。


「嘘、だろ……? おい、領主様。なんだここは。こんな異常な魔力濃度のエリア、今のEHOの全体マップのどこにも載ってねぇぞ……!」


 きなこもちは震える手で自身のシステムウィンドウを開こうとしたが、マップの座標は【Error - Unknown Area】の文字を吐き出すだけだ。


「言っただろ。ここは外部のプレイヤーには絶対に知られていない、神話の時代から続く絶対の安全圏サンクチュアリだ」


 俺は羅針盤をインベントリにしまい、ニヤリと笑った。


「アイズドさーん! きなこもちさーん!」


 広場の奥から、白銀の髪を揺らしてルナが駆け寄ってきた。その後ろからは、族長セレンと、俺が先ほど話をつけたフェネキア族の老職人が歩いてくる。


「おう、ルナ。待たせたな」

「お疲れ様です! わぁ、本当にきなこもちさんを連れてきちゃったんですね」

「ああ。だが、驚くのはこれからだぜ」


 俺はきなこもちの背中を叩き、老職人の前へと彼を押し出した。


「じいさん、連れてきたぜ。俺たちの街が誇る、最高の生産ガチ勢……最強のドワーフ職人だ」

「おお……!」


 老職人は、きなこもちの屈強な体躯と、その太い腕に刻まれた無数の鍛冶の痕跡を見て、感極まったように声を震わせた。


「まさか、この地下都市に再びドワーフの戦士を迎え入れる日が来るとは。……よくぞ来てくれた、誇り高き職人よ。わしはこの工房を束ねる長老の一人じゃ」


「あ、ああ。俺はモチモチきなこもちってもんだ。よろしく頼むぜ、長老さん」


 きなこもちは少し圧倒されながらも、ドワーフらしく豪快に笑って太い手を差し出した。

 NPCの老職人と、プレイヤーのドワーフ。数千年の時を超えて、二つの種族の職人が固い握手を交わした瞬間だった。


「さあ、積もる話は後だ。俺たちの時間は限られてる」


 俺が急かすと、老職人は深く頷いた。


「うむ。では、こちらへ。我らフェネキア族が代々守り抜いてきた神聖なる設備……『世界樹の炉』へと案内しよう」


 ***


 工房エリアのさらに最奥。

 厳重なクリスタルの扉の向こう側に、それは鎮座していた。


 巨大な世界樹の主根がドーム状に絡み合い、その中心に造られた祭壇のような巨大な炉。

 一般的な鍛冶炉のように石炭や薪を燃やすのではない。炉の底からは、世界樹が大地から吸い上げた純粋な『生命の魔力』が、青白いプラズマのような炎となって静かに燃え盛っていた。


「こ、これは……!!」


 きなこもちは炉の前に駆け寄り、システムパネルを展開した。


「おいおいおい、嘘だろ!? この炉の設備補正ステータス、バグってんじゃねえのか!? 『作製成功率+250%』!? 『魔力反発減衰・極』!? こんなイカれた設備、王都の最高級工房だって足元にも及ばねぇぞ!」


 きなこもちは興奮のあまり、顔を真っ赤にしてヨダレを垂らさんばかりの勢いで炉にすがりついた。

 無理もない。生産職のプレイヤーにとって、これほどのオーバースペックな設備を前にして平常心でいられるはずがないのだ。


「落ち着け、旦那。いくら設備が良くても、俺たちはレシピを知らない。どうやって素材を組み上げるかは、そのじいさんの伝承頼みだ」


 俺がそう言って釘を刺すと、きなこもちはハッとして老職人に向き直った。


「そうだったな。……長老さん、あんた、『忘却された世界樹の琥珀』の作り方を知ってるんだろ? 俺の工房じゃ、魔力結合の最終フェーズでどうしても反発して灰になっちまったんだ」


「うむ。お主の腕が悪いのではない。あれは、通常の魔力と熱で無理やり結合させようとすると、素材の持つ『星の記憶』が反発して自壊してしまう性質を持っているのじゃ」


 老職人は、俺たちが持ってきた『星天の脈石』や世界樹の枝、深海のレア宝石などの素材群を見つめながら、静かに語り始めた。


「素材同士が溶け合い、臨界点に達したその一瞬。……そこで、我らフェネキアに伝わる『古代の魔術式(星の言葉)』を詠唱し、魔力の波長を完全に同調チューニングさせなければならない。だが、その詠唱の最中は炉の温度が極端に不安定になる。それをドワーフの『極致の鍛冶スキル』で強引に抑え込まねば、やはり灰となってしまうのじゃ」


「なるほど……!」


 きなこもちの目が、職人としての凄まじい理解力で輝き始めた。


「要するに、あんたが魔術を唱えている間、俺がシステムのクラフトスキルである《絶対結合》と《精密魔力調整》を、コンマ一秒のズレもなく叩き込み続ければいいってことだな!?」

「如何にも。お主とわしの、一瞬の息の乱れも許されない、命懸けの共同作業じゃ」


 プレイヤーの持つ現代のシステム的技術スキルと、NPCが語り継いできた古代の伝承知識ロア

 普通にプレイしていれば絶対に交わることのない二つの要素が、今、この世界樹の炉の前で完全にリンクしたのだ。


「よし、役者は揃ったな」


 俺は一歩前に出て、右腕の機装に魔力を流し込んだ。


「――《機装変形:戦陣軍師タクティシャン》!」


 俺の手に魔導書が現れ、肩の傍らに回復と支援を司る光の妖精が顕現する。


「俺も裏方として、全力でサポートさせてもらうぜ。……《軍神の鼓舞》! さらには《思考加速の陣》!」


 俺が魔導書のページを乱暴に捲り、最高の支援バフを放つ。エメラルドグリーンの魔力陣が展開され、きなこもちと老職人の足元を明るく照らし出した。

 ステータスの向上、行動速度の極大化、そして集中力の限界突破。


「おお……! 身体が、羽のように軽い……! それに、魔力の流れが手を取るように分かるぞ!」


 きなこもちは己の両手を見つめ、驚愕の声を上げた。


「アイズドさん、私も何か手伝いますか!?」

「ルナはそこで見守っててくれ。不測の事態が起きたら、お前の反射神経で素材をキャッチしてくれりゃいい」


「おうし! これだけの最高のバフと、最高の設備、それに最高のアドバイザーが揃ってんだ! ここで失敗したら、俺は二度とハンマーを握らねぇ!」


 きなこもちは上着を脱ぎ捨て、太い腕に輝く生産用の特注ハンマーを構えた。


「行くぞ、長老さん! 合わせろ!」

「うむっ! 頼んだぞ、ドワーフの若き名工よ!」


 ゴォォォォォォォォッ!!!

 世界樹の炉の青白い炎が、きなこもちの操作によって一気に最大火力へと引き上げられた。

 俺たちが持ち込んだ莫大な量のレア素材たちが、次々と炉の中へと放り込まれていく。


 カンッ、カンッ、カーンッ!!

 きなこもちのハンマーが、凄まじい速度と正確さで炉の縁を叩き、システムのクラフトゲージを極限のスピードで押し上げていく。

 彼の視界には、俺たちには見えない複雑なミニゲームのポップアップが目まぐるしく展開されているはずだ。だが、彼はそのすべてをノータイムで処理し、『PERFECT』の判定を連続で弾き出していく。


「今じゃ! 魔力が臨界点に達する!」


 炉の中の素材がドロドロに溶け合い、赤黒い危険な光を放ち始めた瞬間、老職人が杖を高く掲げ、古代語の詠唱を開始した。


「――星の巡りよ、忘れられし大樹の息吹よ。我らが手に、その記憶を繋ぎ止めよ!」


 老職人の杖の先端から、金色の魔法の粒子が滝のように降り注ぎ、炉の中の素材へと干渉していく。

 その瞬間、システムと世界観が激しくぶつかり合うような、強烈な魔力の反発が発生した。

 バチバチッ! とプラズマのような火花が散り、炉全体が激しく振動する。


「させねぇよッ!! 《精密魔力調整・極》!!」


 きなこもちが、血走った目でシステムのスキルを叩き込む。

 彼はハンマーを振り下ろす力と角度をコンマ一秒の精度で調整し、老職人の魔法が完全に素材に馴染むまでの『隙間』を、力技で縫い止めていく。


「いける! きなこもちさん、頑張って!」


 後方で祈るように両手を握りしめるルナ。

 俺も魔導書に魔力を注ぎ込み、二人の集中力が途切れないようにMP回復のバフを限界まで回し続ける。


「おおおおおおおッ!!」


 種族の壁を越えた、現代のプレイヤーと古代のNPCによる、前代未聞の合同クラフト。

 二つの異なる力が、世界樹の炉という坩堝の中で、完璧なハーモニーを奏でながら融合していく。

 弾けそうになっていた真っ黒な素材の塊が、徐々にその色を変え、眩いエメラルドグリーンと黄金が入り混じった、神秘的な光を放ち始めたのだ。


「もう一息じゃ! 抑え込め、ドワーフの戦士よ!」

「言われなくても! 俺の全ステータス、全部持って行きやがれェェェッ!!」


 きなこもちが、渾身の力を込めた最後の一撃スキルを、炉の素材に向けて振り下ろした。

 その瞬間。

 地下都市の工房エリア全体を包み込むような、圧倒的で美しい閃光が爆発した。


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